インフィニット・ストラトス~君が描いた未来の世界は~ 作:ロシアよ永遠に
ユグドラシルシティ、その一角に、まるでそびえ立つかの如く設置された円形のコロセウム型施設。普段はそこまで賑わわない、それこそ個人的なデュエルを行うために、その雰囲気作りとしてここを選ぶプレイヤーがチラホラいる程度であり、古代ローマのコロッセオを彷彿させるその形状に魅せられてやってくる人もまた、多くはないが存在した。
だが今現在のこの場所は、まるでお祭り騒ぎのように人々の喧噪に包まれていた。NPCによる露店があちらこちらに設けられ、行き交う人々を魅了していく。また、これから行われるそのイベントにおいて、誰が勝ち進むかを予想するトトカルチョを取り仕切るプレイヤーがチラホラ見受けられた。
日曜日 ALO統一デュエルトーナメント
その熱戦に次ぐ熱戦が、今始まろうとしていた。
甲高い金属同士がぶつかり合う音に、観客の誰しもが歓声を上げる。普段なら耳を塞ぎたくなるような音だが、目の前の熱戦に誰しもが夢中なので、気にする者は誰もいない。
「…鼠のように逃げおおせるか、この場で死ぬか、どちらか選べぇぇぇぃ!!!」
筋骨隆々とした浅黒い肌の男性プレイヤー。その手に持つ禍々しい巨大な斧から繰り出される斬撃は、恐らくまともに当たれば一撃でやられるという印象を与えるに相応しい。
だが、
「うるさいな、オルガ達の応援が聞こえないじゃないか。」
相対する小柄な少年は、人の胴はありそうなほどに巨大な鉄のメイスを振るい、斧による斬撃を易々といなす。
斧と、そしてメイス。片手では扱いきれないだろうその武器を、それぞれ片手で振るいながら、何合も武器を打ち合わせる。
巨大な武器を軽々と扱いながら、それでいて高度な応酬を繰り広げる両名に、観衆は大きな声を張り上げる。
「おぉっ!すっごい熱戦だね!」
始まった予選に、ユウキは観客席で目を輝かせて観戦しながら歓喜の声を上げる。目の前では魔法など用いず、かといってソードスキルを扱うこともなく、ただただ無骨に己の技量のみを競い合っている。現実の武闘大会とそう変わらないかもしれないが、それでもハイレベルな戦いは、仮想世界と言えども人々を惹きつけるものがあった。
「えっと…ギルド『鉄華団』のミカと、ギルド『天上軍』のバルバドスか。余り聞かない名前だな。」
「私も聞かないなぁ。…もしかして最近始めたプレイヤーなのかしら?」
大会参加者の名簿に目を通しながら、キリトは顎に手を当てて思案する。あれだけの実力の持ち主なら、ある程度は名が通っているだろうが…。
「オレっちの網によると、アーちゃんの言うとおり、どっちもギルドとして活動し始めたのはつい最近らしいヨ。プレイヤー個人としても日が浅いみたいダ。」
キリトとアスナの疑問に応ずる形でキリトの隣に座ったのが、旧友で、現在はケットシーでALOをプレイしているアルゴだ。彼女の手には、恐らく露店販売していたであろうホットドッグと、紙コップに入れられた炭酸飲料的な何かだ。
「「「アルゴ」」さん!」
「ヤ!久しぶりだナ。」
人懐っこい笑みを浮かべながら、既知の仲であるキリト、アスナ、イチカと挨拶を交わす。
そんな中で1人知らないユウキは、誰?と言わんばかりに首をかしげた。
「あぁ。ユウキは知らなかったな。コイツはアルゴ。結構名の通った情報屋だ。」
ヨロシク、と、アルゴはユウキに、初見の者から見れば愛想良く、既知の者から見ればこの上なく胡散臭い笑顔を向ける。
「よ、ヨロシクお願いします。アルゴさん。」
「あ~堅い、堅いよ絶剣さん。もっとこう…フランクに接して良いんだヨ?ゲーム内で年上や年下もそんなに関係ないんだからサ?」
「う、うん、わかった。ボクのこともその…ユウキでいいから。絶剣って…少し恥ずかしいんだよね…。」
「おーらいおーらい、じゃあユウちゃんデ。」
「オッケー!」
社交性溢れる2人はすぐに打ち解け、砕けた口調になる。こればかりは元々コミュ障だったキリトにとって持ち得ない能力であり、少し憧れてたりする。
「まぁオレっちとしちゃ、ユウちゃんに畏まられるのは、正直申し訳ないやら恐れ多いやらって感じなんだヨ。」
「へ?ボク、アルゴさんに何かしたかな?初対面の筈…だよね?」
「いやいや、初対面には違いないヨ。でも、ユウちゃんには間接的にコレをしこたま稼がせて貰ったからネ。」
にんまりと、人差し指と親指を繋げて輪を作る、所謂『銭』のサインを見せるアルゴ。益々彼女の意図が読めないユウキは首を傾げるばかりである。
「お金が、どうかしたの?」
「ん?いやぁね、ユウちゃんと『刀を使うとある男性インププレイヤー』との関係についての情報を求める声が相次いでネ。その提供代をこっちの言い値を冗談で多めに吹っ掛けたら、二つ返事で買い取ってくれたのサ。」
「言い値って…どれくらいなんだよ。」
多少なりとも興味をもったキリトが、怖ず怖ずといった様子で尋ねる。隣に座るアスナも同じく気になるのか、耳を傾けていたりする。
「まぁ10万ユルドをPON!とくれたヨ。」
「「「ジ、10万ユルド!?!?」」」
たかだかユウキとそのプレイヤーとの関係を知りたいだけに、10万ユルドもの大金を即決で払うとは、何処の物好きなのか。
「でもネ。オレっちはこの情報でALOが面白おかしくなるなら、タダでも喜んで提供したヨ。」
「ちょっと待てアルゴ。」
ここに来て、ニコニコと自身の武勇伝を語るアルゴに、イチカが少々ドスの効いた声で静止させる。
「お前の言う、『刀を使うとある男性インププレイヤー』って……。」
「おっと、ここから先は有料だよイッくん。それに、別にイッくんだなんて、オレっちは一言も言ってないゾ?…もしかして心当たりでもあったりしたのかナ?ン?ン?」
「………。」
斬りたい。
目の前の鼠なのに猫耳のコイツを途轍もなく斬りたい。
ニヤニヤと、正しくしてやったりと言わんばかりのアルゴに対し、そんな衝動がイチカの中で芽生える。
今ならあの極限状態で使用できた無現も容易く放てる。そんな気がする。
「と、ところでさ!そのユウキの情報を買ったって人って、どんな人だったのかな?」
イチカが腰に携えた雪華に手を掛ける。そんな修羅場と化しかけたこの場の雰囲気を変えようと、アスナは少し話題を変えてみた。確かにアルゴの言いようも気にはなるが、アスナの言うことも気になる。
「そりゃ依頼人の情報を買うと言うことだヨ、アーちゃん。占めて1000ユルドだネ。」
「守銭奴め…。」
「キー坊だけ、次から割増料金ナ。」
「え!?あ!いや!何も言ってねぇ!」
口が滑るとはこのことか、どうやらケットシーの種族特性を差し引いても、アルゴは情報屋らしく耳も利くようだ。思わぬ反撃に、キリトは慌てて自身の呟きを訂正する。
そんな自身の恋人を見て苦笑いしながらも、アスナは、しっかりと1000ユルドをアルゴに支払う。これで空気が変わるならお安いものだ。
「毎度!…んじゃあそのプレイヤーなんだけど…お!」
いざその情報が語られようとした瞬間、アルゴが何かを見つけたらしく、視線をコロッセオのステージへと向ける。その動きに釣られてか、その場にいた面々も彼女の視線の先へと目を向ける。
『Aブロック第一試合最終戦!先ずは青コーナー。種族はサラマンダーより出場!その独特のヘアスタイルから付けられた二つ名は【赤いサボテンダー】。キバーオーウ!!!』
なんでや!!という抗議の声を上げながら、石畳のステージへと上るのは、サラマンダーらしい赤を基調とした装備に身を包んだ赤いトゲトゲヘアーの男だ。実況の紹介に得心がいかないのか、その表情はとても不機嫌だ。
「アイツ…どこかで見たことあるんだよな~。」
「キリト君も?…実は私もなんだよね。…誰だったかしら?イチカ君は?」
「俺もどこかで見覚えがあるようなないような……あれ?ん~……。」
うんうんと腕を組んだり、額に指をあてて思い出そうとする3人。
知った人なのかと思いながらも、そんなに影の薄い人なのかと納得するユウキ。
そして、そんな悩む3人に呆れた目で見つめるアルゴ。
「おいおい。3人共アイツを忘れるなんてサアイツは…お!」
哀れキバオウ。アルゴが説明を始めようとした矢先、目的のプレイヤーが入場してきたためにそれは中断させられる。
『続きまして赤コーナー!何とこのALOを始めたのは数日前!しかしその実力は未知数!黒衣の軽装に身を包むは、スプリガンの女性プレイヤー!!』
「アレがユウちゃんの情報を買ったプレイヤー…」
「お、おいおい…あのスプリガンプレイヤーは……」
腰まで伸びた艶やかな髪と、装備の上からもわかるすらりとした身体。そして凜々しくも鋭いその眼差し。
『オウーカーー!!』
「オウカじゃないか!」「オウカだヨ。」
円夏が一夏を呼ぶ時の呼び方は?今後の小説に反映されます。
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にいに。
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お兄ちゃん。
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兄さん。
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兄貴。
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一夏。