インフィニット・ストラトス~君が描いた未来の世界は~   作:ロシアよ永遠に

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第51話『雲耀VS流星群』

圧倒的な攻撃力による怒濤の攻めに、キリトは咄嗟に切り札を切った。

漆黒と黄金の刃をそれぞれ手にし、薙ぎ払われた斬艦刀を、刃と刃に咬ませるように堰き止める。

だが二刀の防御を以てしても完全に衝撃は殺しきれず、ジワリジワリとだが身体が押されている。

しかし、星薙ぎの太刀を最小限のダメージで防ぐことには成功した。そして、刃の速度を落とし込むことにより、数多の粉塵を止めるということにも。

チャンスとばかりに刃と刃の接点を支点にして身体を倒立させると、そのまま再び斬艦刀の刃の腹に飛び乗る。切り札を切ったからには、ここから攻めの姿勢に入る。道という名の刀身を駆けながら、自身の攻めの手を考案するが、やはり初手と同じくして刀身の向きを変えるゼンガー。そして再び飛び退くのかと予測するゼンガーを余所に、キリトは横ではなく、上に飛び上がった。黒のコートをはためかせ、その刃を突き立てんとする狙いだろう。

しかしゼンガーの斬り返しは速かった。刀身を縦に構えると、切り上げるように空中にいるキリトへと振り上げたのだ。

だがキリトとて負けては居ない。

再び両手の剣をクロスさせると、迫りくる斬艦刀に咬ませる。そしてそのままスライドするように刃を滑り降り、ゼンガーへと一直線に迫る!

 

「ぬぅっ!」

 

しかしゼンガーとてこのまま敵の間合いに入るつもりなど毛頭無い。振りあげた斬艦刀をその勢いのまま真上を通過し、背負い投げるかのようにキリトごとリングに叩き付ける。

再びリングを、いやコロッセウムを揺るがすような轟音が鳴り響くとともに、砕け散ったリングの石片が宙に舞上げられた。

 

「…やはり二刀を操るだけの技量を持ち合わせているか。」

 

手数が多くなることで戦力が単純に増えるかと言えばそうではない。両の手それぞれの剣を的確に扱いきれなければ、二刀の強みを活かせない。

だが目の前のキリトは、この防御と攻撃の逸らし方だけで、その技量の高さを物語るものとなっている。

現にゼンガーの斬艦刀。先程のその重厚な振り下ろしを、二振りの剣によって見事に防いでいるのだから。

 

「修練という名目でこの大会に参加したが、その意義は十二分に存在したようだ。貴様ほどの剣士が存在しようとはな。」

 

「お褒めに預かり光栄至極…とでも言えばいいか?アンタこそこれ程の腕があるんなら、修練だけじゃ勿体ない。この世界、修練以外にもっと楽しめば良いんじゃないか?」

 

「無論、今のこの時を楽しんでいる。如何に何を楽しむかという意味では、その感じ方は千差万別だろう?」

 

「確かに、な!」

 

踏ん張る四肢に力を込め、そのバネを使って斬艦刀を勢いよく競り返した。ゼンガーとて、決して力を抜いたわけではない。だが単純な攻撃力そのものには軍配が上がっても、キリトの技量の高さや仮想世界における身体の使い方は、ゼンガーを上回っているようにも見えた。

 

「やっぱりゲームは…楽しまなきゃ損だよな!」

 

「ふっ…!ならば俺は貴様を倒し、次なる強者と相見え、その楽しみを享受するとしよう!」

 

「冗談!勝ち進むのはこっちさ。決勝で戦いたい奴もいるからな!」

 

「その意気や良し!ならば我が斬艦刀にて、黒の剣士の相手を仕る!我が太刀筋、しかと受け止めよ!」

 

「上等だ…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前で繰り広げられるのは、巨大な刃と二刀の剣の激しい応酬。

金属音が

粉砕音が

風切り音が

そしてそのやりとりの度に巻き起こる歓声が、その戦闘の激しさを物語るには容易な物だった。

力では劣るキリトがそれをカバーすべく、手数と技量、そして長いVRでの経験値を活かして、一撃必殺と言わんばかりのゼンガーの剣戟を避け、そして時には防いでいく。

その高レベルのやりとりに、コロッセウムのボルテージは最高潮に達していた。

だが、キリトを応援する者にとっては、その表情に陰りを見せ始める。

未だキリトはゼンガーに一太刀も入れられていない。寧ろ、防戦に傾いている戦況では、防御ダメージが蓄積しており、現に凡そ30%のHPが削られている。

試合時間も無限では無い。制限時間10分。その間に決着がつかなければ、残りHP残量の割合が多い方に軍配が上がる。

 

「攻めあぐねているな。」

 

「あぁ。…やっぱりあのリーチと一発の重さが足枷になってる感じかな。」

 

観客席最前列で観戦していたオウカとイチカは、2人の試合の行く末を見守っている。

 

「だが、何とかなると信じているのだろう?」

 

何処か確信めいたように口許を釣り上げながら、隣で視線を逸らさずに試合の行方を見守る弟に、オウカは尋ねる。

そして、

 

「あぁ。…じゃなきゃ、あの2年をフロントランナーとして生き残れるはずもないさ。」

 

即答、そして力強いその言葉が、何よりもキリトの勝利を信じさせるに値する物だった。

試合残り時間3分。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

威圧感と共に剛風を乗せて巨剣が振るわれる。

それを躱し、防ぐ。

大振りだが鋭いその剣戟に目が慣れてきた。

少しずつ、少しずつゼンガーの剣戟、その間隙を見極める。

だが同時に、じっくりと見極める事は制限時間が許してくれず、それが少なからず焦燥感を湧かせてくる。

 

(ソードスキルを使うか…?いや、下手に使って防がれたら、その後の硬直を狙われる。)

 

使えるとしたら、確実に直撃させることが大前提だ。だがソードスキルの火力や手数に頼らなければ、逆転が難しいだろう。どちらにしても大きなリスクを孕んでいるこの現状に、もどかしさが湧き上がる。

 

「…迷ってる暇はない…!」

 

「む…!」

 

意を決したキリトが、斬艦刀を弾くように切り上げる。勿論、重量の影響で弾くことはなかったが、逆にノックバックこ勢いを利用して距離を取る。

突然間合いを開いたことで、ゼンガーが訝しげに様子を窺う。それもそのはず、自ら自身の射程距離外に行くと言うことは、斬艦刀に有利な間合いへと変わると言うことなのだ。だがあえてその選択をする意図が、ゼンガーには読めずに居た。

右手のユナイティウォークスを弓を引き絞るように後方へ柄を突き出す。その漆黒の刀身が、ソードスキルの光を宿した刹那、突進型片手直剣ソードスキルである『ヴォーパル・ストライク』のシステムアシストにより、一筋の光を残して音速に迫る速度へと達する。

 

「ぬぉっ!?」

 

よもやあの間合いを瞬間的に詰め、突進の一撃を穿ってくるなどとは思いもしなかったらしく、ゼンガーはその目を見開く。だが彼も剣術においては素人ではない、寧ろ達人の域に達している人物だ。おいそれとやられるものではなく、斬艦刀の刃でヴォーパル・ストライクの軌道を何とか逸らす。しかし今一歩キリトに軍配が上がったようで、ゼンガーの頬に一筋の赤いダメージエフェクトが灯る。この場に来て、掠めたとは言えゼンガーが初めて手傷を負った。

しかし、直撃でなかったことが不幸中の幸いか。ヴォーパル・ストライクによるノックバックが発生しなかったのだ。

ヴォーパル・ストライクは、直撃すればノックバックと共に大きなダメージを与えられる。しかし、外したり、ノックバックが発生しなかった場合、上位ソードスキル故にその大きな硬直(ディレイ)が発生してしまう。ノックバックが発生すればそれを十分カバーできるのだが、逆にそう出なかった場合に大きな隙が生まれてしまう。

そこをゼンガーは狙い、結果として背後に位置が移ったキリトに斬艦刀をお見舞いすべく、その身を翻す。

だが、彼の目に飛び込んできたのは、『左手のエクスキャリバーが纏うソードスキルの光』だった。

そう、キリトにはそれをカバーする秘策があった。

スペルブラストと同じく、システム外スキルである『スキルコネクト』。左右に持つ片手剣、それぞれのソードスキルをシビアなタイミングで交互に使うものだ。

 

「おぉぉっ!!」

 

ヴォーパル・ストライクのブレーキで踏ん張り、その屈んだ低姿勢から、銀のライトエフェクトを纏った切り上げがゼンガーに迫りくる。

ゼンガーの振りの速さにはある程度慣れてきた。未だ彼は振りかぶりのモーションに掛かった所だ。

このタイミングなら直撃させられる!

そう踏んだキリトはスキルコネクトで意表を突き、更にゼンガーの対応できない速さで斬り返す!この大一番で小回りが利くが、そこそこ大きなダメージを見込める斬り上げ型のソードスキル『レディアント・アーク』で勝負に出た。

 

 

 

だが、

 

 

甲高い金属音と共に、キリトは宙を舞った。

 

 

 

「なん…っ…!?」

 

何が起こったのか解らず、軽いパニックに陥る。

あのタイミングなら斬り込めた、なのに何故今自分は宙を舞っている?

 

「キリト!下から来るぞ!!」

 

「!!!!」

 

咄嗟のイチカの声で我を取り戻すと、翅を制御して下から来るであろう剣戟に備え、両手の剣を交差させてクロス・ブロックする。

次の瞬間、

ソードスキルの光を纏った斬艦刀により、今まで一番と思わせるほどの強い衝撃が剣を通じて伝わった。

 

「…我が斬艦刀の雷光斬りを防ぐか。」

 

両断できず、どこか口惜しげに大きく吹き飛ぶキリトを見やるゼンガー。

斬艦刀を用いて彼が得意とする剣技で、彼のOSSである『雷光斬り』。横への薙ぎ払いで浮き上げ、そして高速の斬り返しと踏み込みで下から両断する連撃だ。レディアント・アークを横への薙ぎ払いで弾き、下からの斬り上げで仕留めるつもりが、物の見事に防がれたのだ。

 

「くそ…っ!何て威力だ!」

 

対し吹き飛ばされたキリトも、何とか体勢を立て直して着地しながらも、ゼンガーの一撃の重さに改めて歯噛みする。ガードしたと言えども、元々3割ほど減っていた体力ゲージは、グリーンからイエローへと変色させていた。今まで直撃こそしなかったが、やはり直撃していれば敗北必至。

 

「だったら…」

 

「ならば…」

 

「切り札を切るしかない…!」

 

「我が奥義にて、この勝負…決着としよう!」

 

片や相手の技量を

片や相手の力を

それぞれが(おのの)き、そして賞賛するからこそ。

自身が持つ最大を以てして、目の前の最大を斬り捨てる。

 

「征くぞ、キリト…!我が斬艦刀の一太刀を以て、貴様との戦いに終止符を討つ!」

 

「後がないんだ…!だったら受けて立つぜ!コイツで…勝ちをもぎ取るだけだ!」

 

「その意気や良し!ならば敢えて言おう!」

 

声高々に、そしてその巨大な斬艦刀を正眼に構え、そして天高くに突き上げる。

 

「我が名はゼンガー!貴様を断つ(つるぎ)なり!」

 

気迫

システム上、そのような現象やステータスは存在し得ないのだが、目の前の漢から放たれる威圧のそれは、まさしくそうとしか言えない物だった。

 

「推して…参る!そして受けよ!我が乾坤一擲の一撃を!」

 

瞬間、ヒビがあちこちに入ったリングを踏み抜かんばかりに強く蹴り出す。

 

「吠えろ!斬艦刀!届け!雲耀の速さまで!!」

 

その強靭なまでのバネを使い、彼は跳躍する。

翅を使い、

ブーストを掛け、

何処までも、

高く…

高く!

 

「はぁぁぁぁぁ!!!」

 

もはや観客席やキリト自身からも、ゼンガーは黒い点になるかという位までの、それこそ制限高度限界ギリギリまで彼は跳躍していた。

そして翅を消す。

浮遊能力としての翅を消す=自由落下を始まりだ。

だがゼンガーはそれを剣術に活かす。

総ては雲耀…稲妻という光の速さに達するために!

 

斬艦刀の圧倒的な重さにより更に加速しながら重力に引かれ、ぐんぐん迫るのはリングに佇む黒の剣士。

この圧倒的な速度と斬艦刀の重量、そこに更にゼンガーの振りの速さを加えることで、もはや何物にも防ぐことは敵わない、正しく示現流の信念である『一の太刀を疑わず、二の太刀要らず』そのものの一撃となり得る。

もはやこれを防ぐことは敵わない。この一撃ならば防御を貫き、キリトを仕留められるという確信があった。 

 

「チェェェェストォォォォォォォォッ!!!!」

 

彼のその雄叫びは、勝利の咆吼のようにも聞こえた。

 

 

 

 

「あれを防御してもやられる…防げないな。」

 

もはや逃げ場はない。だったら、

 

「迎え撃つまでだ!」

 

迫りくる巨大な太刀。それを待ち受けるのかと思いきや、逆に彼はその翅を展開して、あろうことか斬艦刀へと跳躍したのだ。

もはや自殺行為に等しい、誰しもキリトは勝負を諦めたのかと思った時、彼の両手に持つ二振りの片手直剣にソードスキルの青い光が宿る。彼にとって二刀流の始まりであり、そして今となっては必殺のOSS。

 

「スターバースト…ストリーム!!!」

 

高速…否、神速で迫るその巨大な太刀に、真っ向から刃を克ち当てる。

瞬間、高周波の音がコロッセウムを支配、一部を残して観客の誰しもが耳を防いでその音波を防ぐ。

だが当の2人にそんな物を気にする余裕はない。

スターバースト・ストリームを当てたとは言え、斬艦刀を止めるには至っていない。象に挑む子蟻のような感覚に陥るが、だがキリトは構わず二の太刀を撃ち込む。が、金属音だけで効果が無い様子だ。

 

「もっとだ!もっと速く!!」

 

ゼンガーと同じように、速さを求めて必死に光を纏った剣を振るう。その速度はもはや音速の領域に達し、多方向からの青い光の軌跡が、まるで流星群のように錯覚できる。

 

「まだだ!まだまだぁ!!」

 

しかしタイムリミットが迫ってきている。

キリトの背中に迫るのは、コロッセウムのリング。

叩き付けられれば、目の前の斬艦刀で真っ二つ。その前に、『彼の狙い』を見事に的中させなければならない。

 

「ぅぉおおおおぉぉ!!!」

 

もはや我武者羅に、一心不乱に剣を振るう。

斬り、

そして払い、

自身が挑み、そして再現したスターバースト・ストリームの16連撃。

その15撃目が、斬艦刀に吸い込まれる。

残るは一撃。

これで狙い通りにならないなら、ソードスキル後の硬直によって斬られる。

文字通り後が無い。

一縷の望みを掛けて、

そして全力の力を込めてその一撃を斬艦刀に撃ち込む。

…これで切り札を切った。

何も変わらないなら…そこまでだ。

ゆっくりと迫る斬艦刀を目の前に、キリトはその目を閉じた。

あとはなるようになれ、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピシリ…

そんな何かが欠ける音が静寂に響く。

 

「ぬっ…!これは、まさか…!」

 

声を先に挙げたのはゼンガーだった。

自身の持つ斬艦刀。そこから発せられる音に耳を疑ったのだ。

それはとても小さな罅。それが斬艦刀の刃に走っていた。

そしてそれは徐々に木々が枝を伸ばすかのように広げ、刀身全体へと広がっていく。

 

「…やった、か。」

 

目の前で砕け散る斬艦刀に、やり遂げたのと、ホッとした表情で見遣るキリト。

彼が狙ったのは『アーム・ブラスト』。

武器の構成上で脆い部分にソードスキルを当てて、武器破壊を行うシステム外スキルだ。

 

「よもや、斬艦刀が折られるなどとは。」

 

目の前でポリゴン片となった自身の愛剣を見つめながら、ゼンガーはポツリと呟いた。

雲耀の太刀の下、勝利を確信していた結果の敗北。それが何より信じられなかった。

 

「………。」

 

武器を失ったとは言え、未だ諦めずに向かってくることを警戒し、キリトは再び剣を構える。あれほどの攻撃力を持つプレイヤーだ。素手でも脅威となり得る可能性が高い。

 

「…そう身構えるな。」

 

そんなキリトに待ったを掛けたのは、他の誰でも無いゼンガーだ。

 

「審判!!!」

 

『は、はい!』

 

コロッセウムを揺るがすような大音量の声に、思わず審判もビクリと身体を震わせる。

 

「俺はここで降りる!リザインだ!!」

 

へ?と思わず聞き返したくなるような言葉に、審判も一瞬思考が停止する。だが、プレイヤーからリザイン宣告が出た以上、試合を終了させなければならないわけで、

 

「え、えと!ゼンガー選手のリザイン宣言により、勝者はキリト選手!!!!」

 

途端、会場がざわめき始める。何せ、ゼンガーのHPゲージは9割、キリトは4割。優位なのは前者であるにもかかわらずリザインをしたことに、誰しもがどよめきを隠せない。

 

「俺が持つ得物は斬艦刀の一振りのみ。それを壊された以上、戦いを続けることは出来ん。それだけのことだ。」

 

それに、とゼンガーは言葉を繋げる。

 

「我が信念とも言える斬艦刀を叩き折ったのだ。それ即ち俺を斬ったも同じこと。ならば勝者は決まっている。」

 

踵を返すゼンガーに拍手はごくごく小さな物だった。

だがキリトは心中、目の前から去る漢に最大限の賞賛を送っていた。

一本気で、そして何処までも潔く感じたゼンガー。

あんなプレイヤーがいるALOは、まだまだ素晴らしい物になるだろうと確信しながら。




リング「もうあかん…試合毎にワイ壊されすぎや…」

円夏が一夏を呼ぶ時の呼び方は?今後の小説に反映されます。

  • にいに。
  • お兄ちゃん。
  • 兄さん。
  • 兄貴。
  • 一夏。

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