インフィニット・ストラトス~君が描いた未来の世界は~   作:ロシアよ永遠に

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令和、あけましておめでとうございます(今更)
2カ月ほど開きましたが、何とか前編完成に至りました。


第53話『絶えぬ刃・前編』

「「おぉぉぉっ!!!」」

 

声高らかに雄叫びをあげながら、互いに己の得物を突き出して突貫する。が、互いに半身を逸らした体勢で突き出したため、見事にすれ違うように交錯した。

お互い、考えることは同じかと、視界の端を過る相手の切っ先を見送り、交差した瞬間に顔を見合わせて笑みを零し合う。

イチカがブレーキと同時に振り返るも、その視線の先にユウキは居ない。

 

「…上か!」

 

雪華を振りあげれば、確かな手応えと共に甲高い音がユウキのマクアフィテルによる刺突を弾き飛ばす。

だがユウキとて一発弾かれた程度でひるむものでもない。すかさずその刃を引き、再び突く、突く、突く!その速度は、OSSに11連撃の刺突を仕込めるほどの物であるため、並の速度ではない。

しかし、イチカも伊達に旧SAOを生き延びた訳ではない。自身の手足のようにその白銀の刃で次々といなし、ダメージを負うことなく捌く。

5発目を捌いたとき、マクアフィテルのその刃がソードスキルの光を帯びて輝き始める。大きく振りかぶった腕、その陰から振り下ろされたのは単発で垂直に剣を振るうソードスキルのバーチカル。システムアシストによって上乗せされた力強い一撃が迫るが、イチカは至極冷静だった。意図してか否かは解らないが、ユウキと同じく、雪華の刃にソードスキルの光を纏わせたその一閃は、彼女とは対と言わんばかりに下から斬り上げる。互いの得物がぶつかり、そして弾かれるが、ユウキと違ってイチカのソードスキルは終わっていない。斬り上げた刃を返し、

すかさず斬り下ろす。弾かれた勢いでのディレイで直撃するかと思いきや、翅による微調整でギリギリ紙一重で回避。どうにか避けた事で肝を冷やすユウキだったが、ソードスキルの光を放ちながら目の前に迫る白銀の刃に目を見開く。繰り上げと斬り下ろし、そして最後に突きを放つカタナソードスキル『緋扇』である。結果的にバーチカル単発だったので残りの2発を攻撃に移せたのは僥倖で、2発目で防御を崩すことで最後の突きを命中させられる。

 

 

そう確信していた。

 

しかし、

 

ギィン!という甲高い音が、その確信を覆した事を無理矢理認識させる。

次の瞬間、得物を思い切り弾かれ、胴体をガラ空きにさせられたのは自身だとイチカは気付く。

 

ヤバい!

そう確信したときにユウキは、既にソードスキルの光をマクアフィテルに纏わせていた。

このままではヴォーパル・ストライクの一撃がクリティカル判定で打ち込まれ、大きくHPを削られてしまうのは明白だ。

 

(ヤバい!防げ…!じゃないと…!)

 

頭では身体に動かせと命令しても、それを実行するまでのプロセスによるタイムラグが阻んでくる。頭の回転が出来ても、仮想世界といえどもそれは現実と変わりない。

しかし、

 

鈍い音と衝撃によって、迫り来る切っ先を大きく跳ね上げられた。

 

「…………!」

 

正直、間に合うと思いもしなかった。だが、跳ね上げられている右手の刃が間に合わないならと左手に持つ『ソレ』を振りあげれば、何のことかものの見事に防ぐことが出来た。

防がれたことに目を丸くしていたのはユウキも弾かれた事による反動を利用して距離をとる。

彼女が見据えるイチカの左手、そこに握られるのは雪華と同じく白銀の鞘。細長く、そして反ったその身によってユウキのヴォーパル・ストライクは弾かれたのだ。

 

「………ふ…ふふっ!」

 

ポカンとしていたユウキがその表情を崩し、クスクスと笑い出した。コロコロ変わるその表情に、今度はイチカがポカンとする番である。

 

「何か、おかしなとこでもあったか?」

 

「あ、違うんだよイチカ。その、何だか最初に戦ったときと似たようなシチュエーションだからさ。ちょっとおかしくなって。」

 

24層の小島でも、初手の攻防の終止符を打ったのは、雪華の攻撃をかち上げ、ガラ空きになった所にヴォーパル・ストライク。それをイチカがまさかの鞘で防ぐという流れだった。奇しくもそのパターンの再来に、確かに思い返してみればとイチカも口許を綻ばせる。

 

「あれからまだ10日そこそこの日にちしか経ってないのに、随分昔のことのように感じるな。」

 

「そうだね。…でもやっぱり日常を過ごしながらも、ボクは今この時を心の何処かで待ち遠しくしてたんだ。…だから、その間の日々は、長くて、輝いてて……ん~…まぁ上手く言えないけど…。でも、イチカや皆と過ごしたこの日々は、それだけ満ち足りていた物だったって言うのは、ハッキリ言えるよ。」

 

「…そうだな。俺も、今この時を何処かで心待ちにしてたんだろうな。」

 

キリトにも言われたからか、恐らく今となって欲しくなったのは切欠。彼女に対する思いを伝える、何かしらの状況を無意識に欲していたというのもあるのかも知れない。

 

「だからボクは。」

 

「だから俺は。」

 

「「一分一秒、一瞬でもこの時を楽しんでいたい!」」

 

瞬間、2人はシステムアシストを全開にして踏み込み、互いの刃と刃をぶつけ合う。

ユウキはその圧倒的な反応速度と剣戟を。

イチカは雪華とその鞘による手数と、剣術で。

やはり最初の戦いのようにその見る者を惹きつける剣による応酬は、場の雰囲気を最高潮に引き立てるスパイスとなっていく。

目で追うことは難しく、他のプレイヤーからはただただひたすらにとんでもない速度で斬り合っているとしか見えないほどに、2人のデュエルは激しいものだった。

 

「やれやれ、私の弟とユウキはゲームの中で常日頃あそこまで動いているのか?…正直末恐ろしいな。」

 

「いや、あんたがそれを言うのかよオウカ。」

 

「だがキリト、お前も気付いているだろう?私と戦ったときよりも、今のユウキの速さは上回っている、と。」

 

2人の戦いの行く末を観客席から見守る面々の中、オウカの受け答えにキリトは押し黙る。彼女の言い分も尤もだ。ほんの少し、僅かではあるが、ユウキの速さはオウカとの戦いより上がっている。装備や熟練度の変更などはない。だが現に目の前の彼女は確実にギアが上がっている。

 

「互いが互いを…高めあってる、の?」

 

「多分な。相手が一歩前へ行くなら自分は更に一歩前へ。そしてその逆もまた、だ。」

 

文字通り互いを高め合う好敵手(ライバル)。かつてSAOで、キリトと彼が互いに競い、そしてアインクラッドの高みを目指していたように。

今現在、絶の名をもつ2人の剣士が、互いをぶつけ合って次の次元へと上り詰めていく。

好いた相手が、もしかしたら恋人兼ライバルなどという複雑な立ち位置になりそうなのは想像に難くないが。

 

(高め遭う存在…ライバル…強敵(とも)?)

 

そして約一名、世紀末的な連鎖を起こしている少女がいたことに誰も気付かずに居た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何故だろう、

身体が思った以上に軽い。

寧ろ自身の身体(アバター)じゃないと思うくらいに。

いや違う。

どんどん身体が軽くなり、そして頭の中がクリアになってくる。

相手の剣閃が読める。

そして次の動きを予測させる。

だがそれは相手も同じらしく、

避けて、

弾いて、

防いで、

その応酬の繰り返し。クリーンヒットなど無く、じわりじわりとHPを互いに削り合う。

端から見ればつまらない試合と見えるかも知れない。だが当の本人達にはこの上なく昂揚する一時だ。

 

((まだだ!))

 

再び2人の剣は交錯し、甲高い音と共に火花を散らす。

 

((まだ(ボク)は、総てを出し切っていない!!))

 

そう思い、先に動いたのはユウキだ。マクアフィテルに携えていない左手を固く握り込むと、プレートアーマーで防護されていないイチカの腹部にめり込ませる。よもや今まで使ってこなかった体術で攻撃してこようなどと想像だにしなかったイチカは不意を突かれ、蹌踉めきと共に目を丸くする。

元々キリトと同じく、避けて当てるを念頭に置くために盾を装備しないスタイルのユウキなので、こういった芸当が可能なのだが、実際に使用したのは今回初だ。

ダメージは皆無に近いにせよ、よろけをとったのは大きい。ここで一撃を与えられたなら、それは大きなアドバンテージとなる。

 

「てやぁぁぁぁっ!!!」

 

ここぞとばかりに、再びヴォーパルストライクを発動。今度ばかりは当てる、当てられる。そう確信できるタイミング。

突き出したマクアフィテルの切っ先が、俯くイチカの額に向かい、そして吸い込まれていく。

 

万事休す

 

2人を包む爆炎を目にして、その言葉が誰の脳裏にも過った。

 

 

 

 

 

 

爆炎の後に漂うのは灰色の厚い煙霧。2人の姿を遮り、あの一撃のあとどうなったのかが解らない状況がコロッセウムを包み込む。

誰しもがイチカのHPを確認しようと顔を上げたとき、その濃密な煙霧から空中に飛び出したものが目にとまった。

細長く、そして太陽の光に反射して輝くもの。

それがイチカの雪華と判断したのは、その切っ先がリングに突き立ったときだった。

 

 

 

一撃の手応えはあった。

しかしヴォーパルストライクの一撃が、イチカのアバターに突き刺さった感触はない。

そして爆発の際、僅かに聞こえた金属音。

ユウキの脳内で、現状に対しての疑問が飛び交う中、ぞくりと背筋に突き刺さるような悪寒が迸った。

視界を遮る煙霧。ユウキはその悪寒のまま、バックステップを踏んで距離をとる判断を下した。

先のイチカとシロの試合を見ていたなら、この悪寒の正体を打ち立てて直ぐに対処できていただろう。

だが生憎と彼女は、その試合を見ることが出来なかった。

それによって一瞬、ただ一瞬、判断が遅れてしまう。

それが手痛い一撃を受けることになった。

 

「ぎっ!?」

 

右脇腹に、鋭い痛みに似た感覚が走る。

ダメージを受けた?

だがイチカの動きが解らない以上、視界を遮ったまま居るのは得策ではない。

ダメージによる痛みを我慢しながら、着地と同時に再度後方へステップを踏むと、その濃密な煙からようやく抜け出すことが出来た。

 

「………っ!」

 

さっきの痛みは、やはりイチカによる何らかの攻撃だったのだろう。現にダメージを受けたとされる右脇腹には、赤々としたダメージエフェクトがその光を帯びており、さらに視線を移せば2割ほど減少していたHPが更に1割程減っていた。

少し視線をずらせば、リングに突き刺さったイチカの愛刀である雪華。

やはりヴォーパルストライクの一撃は防がれていたのだ。

だがあのタイミングで防ぐことが出来たというのは、ユウキにとって信じがたい事実だが、現に目の前で防がれたともなれば認めざるを得ない。

しかしそうなれば、どうやって1割程のダメージを雪華無しで与えることができたのか。その答えは、煙霧の晴れた中に居たイチカ、彼の突き出した手刀が物語っていた。

 

「体術…スキル?」

 

「ご明察、だな。」

 

刀スキルと、それによる居合ばかりに気を取られていたために、体術スキルに関しては盲点だった。ユウキにしてみれば、シロとの試合を見ていない為に、イチカの手刀…それによる体術ソードスキルのエンブレイザーは初見であったため、その目には驚きを隠せない。

 

「咄嗟に防がれたのにも驚いたけどさ、まさかこんな隠し球があったなんて思いもしなかったよ。」

 

「武器が壊れたり、弾かれたりしたときの緊急用に、旧SAOの時から取得してたんだよ。…あくまでも緊急用なんだけどな。シロとの試合じゃ、自分から使っちまったよ。」

 

シロとの試合で使用していたのは、気絶していたユウキにとって寝耳に水だが、しかしそれによってイチカの新しい一面として驚くことが出来たので、内心で良しとしておくことにした。

ともあれ

イチカと雪華との距離はそこそこ開いているため、直ぐに拾うことはないと予想できるが、かといって主武装を手放した彼に対しての優位性が確立できたかと言えばそうではなくなった。体術スキルを会得しているだけあって、リーチや攻撃力こそこちらに分があったとしても、懐に飛び込まれれば手痛い一撃を食らうのは目に見えている。

対しイチカも内心では少なからずの焦燥感を抱いていた。やはり主武装を弾かれてしまっては、戦力的に大きく低下している。体術スキルも、エンブレイザーを取得しているとは言え、そこまでスキルレベルを上げているわけでもなく、かといって体術を嗜んでいる訳でもない。現実の技量が大きく反映されるこのALOでその意味合いはとても大きく、彼の体術の強みはほぼソードスキル頼りのものだ。巧みな剣術を扱うユウキに通じるかと言えばイエスだが、慣れられたらそこでお終いだろう。

互いが互いを警戒し、にらみ合いが続く。今の所、イチカの方がHPゲージの割合としては勝っている状態。このままタイムアップになれば、彼が決勝へ進むことが出来る。

しかし当の2人はそんなことで納得できるものではない。望むべくは互いに全力でぶつかり合い、その上での完全決着だ。逃げ勝ちなど到底認められない。

2人の答えとそのタイミングが一致したのか、再三同時に互いの距離を詰める。リーチが長いのはユウキ。一足早く自身の射程圏内にイチカを収めた彼女は、先手必勝と引き絞っていたマクアフィテルをイチカ目がけて突きを放つ。

しかしイチカもそれを予見していなかったわけではない。身を屈んで躱すと、眼前にはユウキのがら空きの懐。…のはずが、迫り来るのはユウキの膝蹴り。クロスカウンターを入れようと振りかぶった拳を咄嗟に引き、突き出される彼女の膝を支点にハンドスプリングの要領で顔面への膝直撃を免れる。

まさか躱されるとは想わなかったユウキは急ぎ振り返って反撃体勢を整えるも、頬を走る痛みに顔をしかめる。イチカは飛び退き際にピックを展開し、それを投げ付けたものが頬を掠めたのだ。しかし、ダメージそのものは頬を掠めた程度なのでそれ程まで受けていない。このまま怯まずに押し込む。着地したタイミング…所謂、着地取りを狙い、マクアフィテルを振り下ろす。が、その刃はイチカが両手に構えたピックを交差させ、物の見事に受け止めた。

 

「…ピックって、投擲用じゃなかったっけ?」

 

「別にこういう使い方が出来ないわけじゃない、だろ?」

 

何とも型破りなピックの使用法だが、出来てしまっているのだから仕方ない。何にせよ、リーチはそれ程無いにしても、イチカに武器が出来たのは、ユウキにとって意外で、そして嬉しい誤算だ。

そう口許を緩めていると、イチカは身体を反転させ、背をユウキの懐に潜り込ませる。何をする気なのかと疑問符を浮かべた瞬間、ユウキの視界はその一瞬で物の見事に天地が反転した。何が起こったのか、何をされたのかを把握できないまま、ユウキは背中を強かにリングに打ち付けられる。意もせぬ衝撃と痛みに顔を顰めるが、その集中のブレの暇を縫うようにイチカはピックを振り下ろす。かろうじて首を捻ることでその鋭利な先端が突き刺さるのを避ける事は出来たのは不幸中の幸いとするべきか、警戒してユウキは一旦距離を取る。

 

『イチカ選手!ピックや体術スキルによるトリッキーな戦闘のみならず、見事なまでの一本背負いでユウキ選手の体勢を崩しましたぁ!!しかし、ユウキ選手も伊達ではないその実力!見事なまでの判断力と反射神経でイチカ選手の追い打ちを避け、距離を取ることに成功!手に汗握る攻防が絶え間なく続いています!!』

 

成る程、さっきのは柔道の一本背負いによる物だったのかとユウキは得心する。

逆にイチカにしてみれば、現実で楯無に稽古を付けて貰ったときの経験が生きたのだと内心安堵する。よもやこのような形でとは思いもしなかったが、何にせよ一つの手札になったことには変わりない。

だが2人はここで臆する程、この戦いに掛けた思いは小さくない。

片や片手直剣を、

片や両手にピックを、

それぞれの得物が、甲高い金属音を響かせ、その剣戟の重さを物語らせる。

残り時間は5分…

2人の戦いは、ようやく折り返し地点を迎えたのだった。

円夏が一夏を呼ぶ時の呼び方は?今後の小説に反映されます。

  • にいに。
  • お兄ちゃん。
  • 兄さん。
  • 兄貴。
  • 一夏。

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