インフィニット・ストラトス~君が描いた未来の世界は~   作:ロシアよ永遠に

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ようやく…ようやくこの時を書けた。
告白シーンなんて初めてだから、ベタすぎにならないように気を付けるのは難産でした。
少し短めで駆け足ですが、どうぞ!


第55話『courage』

『続く準決勝第二試合、キリト選手とMr.ブシドー選手の試合は20分後に執り行います。各選手は五分前に各コーナー控室にて待機してください。』

 

先程の試合後にそんなアナウンスがコロッセウムに鳴り響く中、イチカはそんなものが耳に入らないとばかりにやや急ぎ足で目的地に向かっていた。廊下ですれ違う人々からは、賞賛や激励の声を多々掛けられるも、今のイチカはそれの一つ一つに対して丁寧に応じられるほど余裕はない。

向かう先はただ一つ。

約束を果たす為に。

 

「「あ。」」

 

しかしその約束を果たす相手は、向こうからも向かってきていた。丁度各コーナー控室から中間点。円形のコロッセウムのロビーにて、目的の少女と鉢合わせた。

 

「………。」

 

「………。」

 

言葉が出てこない。

意気揚々と彼女に会うために急ぎ足で着たというのに、いざ目の前にしてみれば言葉に詰まってしまい、嫌な沈黙が生まれてしまう。

それは向こうも同じのようで、手を後ろで組んでモジモジと、顔を赤らめながら視線を逸らして、何処か居心地悪そうにしている。

ど、どうすれば…。

思い悩むが、時間は刻一刻と過ぎていくし、人が集まるこの場所の、それもど真ん中で突っ立っていれば、徐々に視線を集めてきてしまう。

このままでは余計に空気は重くなってくる一方だ。

 

(えぇい!ままよ!)

 

兎にも角にも、思いを伝える為には人目に付きすぎる。

意を決したイチカは一歩踏み出すと、目の前の少女の手を取る。

 

「場所、変えようぜ。ここじゃ流石に目立ちすぎる。」

 

「あ、う、うん。そう、だね。」

 

突如手を取られ、顔を更に赤らめる。

身体が上気する。

胸がドキドキする。

緊張で気絶しそうだ。

 

でも、

 

確かに感じるのは、心が満たされていく感覚。

 

そして得も知れぬ幸福感と充足感が確かにそこにはあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コロッセウムから出て、歩くこと数分。

 

緑豊かな公園エリアへと足を踏み入れた。

普段ならデートスポットとして賑わうこの場所だが、近くのコロッセウムで統一トーナメントという一大イベントが催されているため人影はまばらであり、居るとすればNPCの出店店員くらいだ。

だがそんなものは今の2人には取るに足らない存在。

今、2人は先程の準決勝と同じ、若しくはそれ以上の大勝負を迎えようとしているのだから。

 

「………。」

 

「………。」

 

だがやはり言葉が出てこない。

2人揃ってこれが初恋。

そして初めての告白。

緊張するなと言う方がおかしいのだ。

たなびく風と、少し離れたコロッセウムの喧騒。そして空を舞う鳥のさえずりだけが場を支配している。

手を繋いだまま2人並んで立ち尽くして居た最中、片方が口を開く。

 

「イチカ。」

 

ユウキだった。

視線を合わせないまま同じ景色を眺めているが、その声色はいつもの活発さはなりを潜め、何処か艶めかしくも大人びた、そんな雰囲気を滲ませている。

 

「イチカが勝ったんだよ。ボク…キミの言葉を待ってる…。だからさ

 

 

 

イチカの気持ち、聞きたいな。」

 

チラリと横目で見れば、その頬を朱に染め、不動で自身の言葉を待つ少女がいる。

そうだ、意を決して気持ちを伝えるための1つの節目として彼女と戦い、そして勝った。

負けた彼女が、こうして自身の言葉を、気持ちを伝えてくれるのを待っててくれている。

自身よりも年下の少女が、だ。

ここで年上としての矜持を見せずして、何が大和男児か!

箒がここに居たならそう言ってきそうだ。

だが確かにその言葉は尤もたるものだ。

よしっ!と心で意気込み、大きく息を吸い込む。

緊張していた気持ちが、幾何か楽になった。

今なら、

今ならきっと、

自身の気持ちを素直に伝えられる。

 

「ユウキ。」

 

ようやっと1つの言葉を、

愛しい少女の名を口にすることが出来た。

 

「なぁに?」

 

そんな返事も、こんな状況になっていればとても魅力的に映ってしまうが、煩悩は後で爆発させる(意味深)として、まさに明鏡止水のハイパーモードの如く心を落ち着かせる。

 

「その…自分、不器用ですから。ロマンチックな言葉とか、甘い言葉とか思い浮かばないんだ。」

 

「いいよ。そのままの、イチカの真っ直ぐな気持ちを、ボクにぶつけて欲しい。」

 

イチカの言葉に、ユウキは優しく包み込むように促してくれる。

そんな彼女の優しさが、イチカの気持ちを瞬時加速(イグニッション・ブースト)してくれる。

 

「やっぱり、ユウキの言ったとおり、ぶつかってみなくちゃわからなかったよ。」

 

何が?と尋ねるユウキにイチカは言葉を続ける。

 

「最初のデュエルの時、ユウキのことは強い女の子だって印象だった。

でも、一緒に冒険して、ボスを倒して、マドカと街を回って、剣士の碑にいって。ユウキがいきなりログアウトしたとき、心にぽっかり穴が空いたような気分だった。

でも病院に会いに行って、一緒に学校に行ってさ。やっぱり一緒に居るのが段々と当たり前みたいで、もっと一緒に居たいって欲望が出てきてたんだ。

で、今日のデュエルで気持ちが決定的になったよ。

 

 

 

俺にとってユウキは、紺野木綿季はずっと一緒に居たい、大切な女の子なんだって。」

 

気付けば、まるで決壊したダムのように次から次へと言葉を紡いでいた。

そうだ、この気持ちに隔たりや迷いなんてあるものか。

そう意を決したイチカは、ユウキに向き直り、その言葉を出した。

 

「ぶつかることで、俺自身の気持ちがわかるって言うのも変かも知れないけど、それでもさっきの戦いは確かにこの気持ちを打ち立ててくれた。

 

だから…

 

木綿季。

 

俺はお前が好きだ!これからも、ずっと、ずっと、俺と一緒に居てほしい!

 

 

 

 

 

 

 

 

静寂が再び公園を支配した。

自身の、思いの丈を叫び、それが幾重にも山彦のように木霊しているとも感じる。

ユウキの返事がない。

そんなに時間は経っていないはずが、数倍、数十倍の遅さにイチカは感じられた。

 

「ホントに、ボクで良いの?」

 

ようやく振り向いてくれた彼女は、口許は笑いながらも、その眉をハの字にし、嬉しいながらも悲しみに耐えているようだった。

 

「ボク、もうすぐ居なくなるよ?悲しい思いをするよ?」

 

やはりと言うべきか、ユウキの気持ちの恐らく最後の隔たりは、現実の身体を蝕むHIVの存在か。

彼女の迫り来る命の限界が、告白を受け入れられない痼りとなっている。

だが、今のイチカはもう止まらない。

 

「前にも言ったろ?俺がずっと一緒に居てやる。俺が沢山の思い出を一緒に作ってやる。もし最期の刻が来たら、俺が一番泣いてやる。ってさ。その時が来るのは、正直嫌だ。けど、それでも俺はユウキといたい。たとえ僅かでも、一分一秒でも、俺はお前の恋人として居たいんだ。」

 

「ホントに…良いの?」

 

「良くなきゃ、告白なんてするかよ。ユウキって女の子が好きだから、俺は言ったんだ。そこに健康だとか病気だとか、そんなモンは必要ないさ。」

 

その言葉に、ユウキはもう限界だった。

その真紅の眼に涙を一杯に溜め、子供のように泣きじゃくりだした。まるで箍が外れたか、もしくは張り詰めたものが切れたかのように。

 

「う…うぇぇぇ……!!ボク…ボク…!!

 

辛かったよぉ…!!

 

イチカが好きで…!

 

でも!病気だからダメだって思ってっ…!」

 

震える声で彼女は続けた。

共に過ごす内に、ダメな気持ちよりも好きな気持ちが大きくなってきたこと。

好きな気持ちを抑える内にどうしたら良いか解らなかったこと。

ユウキの葛藤が、涙と共に言葉としてイチカの心に突き刺さってくる。

 

「でもっ…明日奈に励まされてっ…!

 

イチカと向き合ってっ…!

 

やっぱりボクはイチカのこと、諦められなかったっ…!」

 

人を想う心に隔たりは要らない。

明日菜がそう教えてくれた。

病気を差し引いてもイチカの存在はユウキの中で大きくて。

意を決して、伝えたい想いを燻ったまま日々を過ごしていた。

 

「だから…ボク…!イチカのこと、好きなままで、諦めなくて良かったよぉ…!」

 

気付けばユウキは、勢いよくイチカに抱き着いていた。

いきなりのことにイチカは若干驚くが、直ぐに彼女を優しく抱き締める。

涙を流し、鼻を鳴らし、待ちに待ったその時を迎えた。

イチカと同じくして、ユウキの心を縛るものは、最早瓦解した。

大好きな人に抱き着き、想いの総てをぶちまける。

2人の想いを隔てるものは、最早存在しない。

 

「ユウキ、愛してる。」

 

「ボクも…イチカを愛してるよ…。」

 

改めて紡ぐ2人の気持ち。

どちらからともなく目を閉じ、ゆっくりと互いの唇を近付ける。

一度は事故とはいえ、唇を重ねた仲だ。

しかし今度は違う。

互いの意思で、

恋人として、

情愛を込めて、

2人はその唇を重ねたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐすっ。良かったわねユウキ。」

 

「ようやくくっついたか。やれやれだな。」

 

「オット!これは号外として売りに出さなきゃナ。タイトルは『絶剣と絶刀の絶愛』ってのが良さげだネ。」

 

「くっ…我が弟の事だけに祝いたい!祝いたいが、なんだ!?この得も知れぬ敗北感は…!」

 

「知らぬがブリュンヒルデという奴…と思う。」

 

「SAOの時から思ってたけどよぅ。ホモじゃなくて良かったぜ。いつ俺の尻が狙われるかと…。」

 

「アンタ馬っ鹿ねぇ。どっちかと言えば、手を出すならアンタよりキリトにするわよイチカも。」

 

「そ、そうですよ!キリト×イチカは、そこそこ話題だったんですから!」

 

「お前ら…いくら恋人出来ないからって、文字通り腐ってきてるのか?」

 

「お兄ちゃん×一夏君……うぇへへ…アリかなぁ…!」

 

「ちょっ…リーファ!アンタまでそっちに逝ってどうするの!?」

 

「その気持ち…まさしく愛だ!!」

 

甘い空気を滲ませる2人を見守っていた面々は、最早混沌としていたのは、本人達以外は与り知らぬ所である。




サブタイは『勇気』と言う意味です。
告白する勇気、そしてSAO第二期OP2の曲名。
1つの節目としてこの言葉をチョイスしました。

円夏が一夏を呼ぶ時の呼び方は?今後の小説に反映されます。

  • にいに。
  • お兄ちゃん。
  • 兄さん。
  • 兄貴。
  • 一夏。

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