インフィニット・ストラトス~君が描いた未来の世界は~ 作:ロシアよ永遠に
「ファッ!?」
20時。
何かのスイッチが入ったようにバチッと目を覚ましたユウキは、ガバッと立ち上がる。
しまった、思わず寝てしまっていた!
今日はシオンと飛行訓練するつもりだったのに!
「お、起きたか?」
「イチカ…?」
部屋の入り口から入ってきたのはイチカだ。
その両手で大きめのお盆を持っており、ほわほわと白い湯気が立ちこめている。
「よく寝てたな。連戦がよっぽど響いたのか?」
「え…あ、うん。…ちょっと疲れてた、かな。」
「その分だと腹も減ってるだろ?つまめるものでよかったら作ったから、食べてから訓練に行こう。」
そして、漂うのは腹を刺激する芳醇な香り。
寝起きにも関わらず、その香りはユウキの腹の虫を覚醒させるには十分すぎるもので、
クゥゥゥ~…
という可愛らしい音が
「あ………。」
シオンである。
まさか腹の虫が鳴るなどと思わなかったのか、すかさずお腹を押さえるも時は既に遅し。
羞恥に頬を染める。
「あ、これは違うんです…その…えっと……。」
いくら取り繕っても、鳴ってしまったのは事実。あたふたとしている分、尚のことだ。
「少し多めに作っておいたから、シオンも食べたら良い。」
「そ、そんな、私は卑しん坊じゃ…あむぅっ!?」
言い逃れは聞かない、と言わんばかりに、ユウキはイチカの持つ盆の皿にのっていた唐揚げ的な何かを放り込む。
出来たてホヤホヤのそれを放り込まれたシオンは思わず噛んでしまい、その熱さでのたうち回る。
「に、にゃにふるんへふかー!」
「どう?イチカの料理、美味しいでしょ?」
涙目になりながら、口腔内で冷めてきた料理を咀嚼し、ゴクリと飲み込む。
…美味しい。
からっと揚げられたスパイシーな衣。
それを噛み破れば、中には鳥形モンスターの肉という設定であろうものが、衣によって閉じ込められた油を口の中に弾けさせる。
システム的なものとは言え、美味しいものは美味しいのだから困ったものだ。
「っ…まぁまぁですね。」
「素直じゃないなぁ。」
ここで美味しいと言ってしまっては負けな気がする。それでもシオンは目の前に置かれた唐揚げ擬き、それに手を伸ばして口に運んだ。
「あ、味はともかく…もぐ……今は長靴一杯…んぐ、食べたいので。」
「正直にに美味しいって言えば良いのに…もぐ。ん~、美味しい!」
本当に幸せそうな顔で食べるユウキの表情は、料理人冥利に尽きると言うものだ。
目の前で我先にと食べ勧める年頃の少女2人。色気よりも食い気とはよく言ったもので、次々と口に運ばれる唐揚げ擬きは、見る見るうちにその数を減らして、ものの数分できれいさっぱりなくなってしまった。
「美味しかった~…!ご馳走様!」
「…悪くは、なかったです。」
「はい、お粗末様。」
空っぽになった皿を引き、洗い場へと持って行くイチカを横目で追いながら、ユウキは話を切り出す。
「じゃあシオン、イチカが戻ってきたら飛行訓練に行こうか。」
「はい、よろしくお願いします。」
「そんなに畏まらなくてもいいよ?もっとフランクにいかなきゃ!」
「フランク、と言われましても、これが素ですので。」
そう言われちゃぐうの音も出ない。
ともあれ、ここで無理に話し方を修整するように言って雰囲気を悪くするのもどうかと思うので、ユウキはここで引き下がっておく。
「お待たせ。…じゃあ、行くとするか。」
「オッケー!」
「解りました。」
宿屋を抜け、ロンバールの転移門へ足を運び、アルヴヘイムのフィールドへと繰り出す。
途中、恋人らしくユウキはイチカの手を握ろうと手を伸ばすが、恥ずかしさが勝るのか、それを成就するには至らずに居た。そんなユウキに、イチカと、そしてシオンですら首を傾げていたのは全くの余談だったりする。
「ふぎゅっ!?」
気の抜けた声と共に、シオンは草原に見事なヘッドスライディング。もうもうと土煙をあげて小さな体躯を、その中に消した。
あれから30分。
周囲の草原には、数メートルの堀が何本も作られ、端から見れば何事かと思うような光景へと変貌していた。
「…おかしいですね。…イメージは出来ているはずなのに。やはり空気抵抗と、それによる速度低下の計算式を…」
頭に土を被りながら、座ってブツブツと何かを計算し始める。
端から見ているイチカと共に、並列飛行していたユウキもライディングしてその様子に顔を引きつらせる。
「なんかさ、シオンてインテリなのかな?」
「だよな。…というか、理論で飛行方法を組み立てるって、どことなくセシリアと似通ってるんだよな。」
「そうなの?」
「おう、もっともISの飛行方法のコツを聞いた時には反重力力翼だの流動派干渉だの、聞いただけで頭が痛くなる説明だったけど。」
「うわぁ…。」
「でもなぁ。セシリアも言ってたけど、イメージは飽くまでもイメージだから、自分に合う飛び方を見つけるのが向上の近道なんだよ。」
イチカやユウキがALOでの飛び方をISでイメージするように、逆もまた然り。
ALOでも、自身に合うイメージというものは如何にスムーズに飛べるかを左右するものだ。
だからといって、何処かの誰かみたいに、擬音のみのイメージというのも考え物だが。
「思ったんだけど、シオンの理論的な飛行方法って、何か合ってない気がするよね。」
「ユウキもそう思ったか?俺もなんだよなぁ。」
初動の跳躍まではまぁ問題ない。高所からのスタートもあって、高度は十分。十分なのだが、そこからは飛行と言うには程遠く、例えるなら折り方を間違えた紙飛行機の様に、ひょろひょろと風に煽られるかのような軌道のまま、軌道が上昇することもなく草原にダイブしていた。
それが一度や二度ではなく、十回近くなのだから、これは今の飛ぶイメージがシオンに合っていないと考えるのが自然だろう。
「お~い!シオ~ン!」
「やはり風力と、それによる翅によって生成される力場を……何でしょうか?」
「理詰めにするのも良いけどさ。別の飛び方も試してみるのはどうかな?」
「別の、飛び方ですか?しかし、飛行における力場の計算を完成させなければ、安定した飛行は…。」
「いや、それだとALOプレイヤー皆が皆インテリ揃いになってしまうんじゃないか?少なくとも俺やユウキは違うからな?」
「それはまぁ…そうでしょうけれど…。」
「だからさ、俺達の飛び方も聞いてみて、その上で飛びやすいイメージを固めてみたらどうだ?飽くまでも参考までにって事で。」
イチカの案に、フム…と顎に手を当てて一考する。
一考する、と言うことは、選択肢の1つとして捉えてくれていることの証左だろう。でなければ、即答で拒んでいるはずだ。
「では、飽くまでも参考までに…参考までに!聞くだけ聞いてみましょうか。」
素直じゃないなぁ、と改めて苦笑する2人は、シオンに1つの手解きをする。
自身らが空に抱くイメージを。
自由に、何処までも高く、速く。
そう飛べるように。
そして…
「おっ?おぉ…っ?」
先程とはまるで別人。
未だぎこちなさこそ取れていないが、それでも最初に比べれば雲泥の差という言葉が相応しいまでにシオンの技術は向上していた。
宙返りや、バレルロール、インメルマンターン…。
自覚は無いのだろうが
「ここまでユウキの飛行のコツがハマるとは…たまげたなぁ…。」
「うん、ボクも正直驚いてたりするかな。」
理詰めではなく、ただ自由に空を舞うイメージを勧めただけ。
本来ならば翅があるという感覚を自覚して、その上で羽ばたくイメージで飛ぶことが出来る。ユウキは翅の感覚を無自覚にイメージをし、その上で上記のイメージをして飛んでいる。これは飽くまでも慣れなのであって、
しかし現実はどうだ。目の前にはユウキの助言で見事なまでの上達を見せるシオンがいるのだ。これはセンスと言うほかないのではないだろうか。
「………。」
スムーズに飛び続ける彼女を見て、身体をウズウズさせるユウキ。
「…一緒に飛んできたらどうだ?」
「…っ!うんっ!行って来るね!」
どうやらウズウズの原因に自覚はなかったようで、イチカの勧めに合点がいったらしく、まるでリードを外された飼い犬が駆けるように翅を広げて飛翔する。
その速度は、やはりシオンに比べて一夕の長があるためか、その飛び方は淀みなく、そしてスムーズだった。
ふわりとシオンの近くでホバリングすると、まるで誘うようにゆっくりとシオンの前方を先行していく。シオンも最初こそ何なのか解らなかったが、引き離さず、一定の距離を保って飛行するユウキの意を察してか、彼女が少しスピードを上げる。するとユウキは、自然とそれに比例してスピードを上げ、まるでエスコートするかのように夜空を舞っていく。
「まるで親鳥が雛に飛び方を教えてるみたいだな。」
そんな2人を見上げながら、イチカはポツリとそんな言葉を漏らした。
2人だけの夜空の散歩。
ゆっくりと、後ろをついてくるシオンのスピードに合わせながら、肌に感じる風を堪能する。
何だか最近、こうやって空を飛ぶことはなかった。
でも改めてこうして飛んでみると、自分達の最後の思い出を刻もうとこのALOを選んだ理由をまざまざと感じる。
自分達スリーピングナイツは病室や病院から出ることは敵わない存在。
ましてやユウキ…紺野木綿季は意識をメデュキボイドへと移して、現実で過ごすことはほぼない。
それだけに、このALOで自由に剣を振るい、自由に空を飛ぶことが、どれほどまでに斬新で心奪われるものだったか。
当初の目的である、自身らの名を刻む快挙は、イチカやキリト達の協力もあり、既に成し遂げることが出来た。
後は最期の時まで…そう思っていた矢先、イチカという恋人が出来た。
今までは何のことはなく、ただその時が来るまで全力で生きていたら…そう考えていたユウキ。
しかしここ最近は少し違った。
いつ止まるとも知れない自身の心臓。
明日?はたまた明後日?
もしかしたら次の瞬間には止まってしまうかも知れない。
だが望むならば…願わくば。
神様。
どうかその1日でも…1秒でも長くこの心臓を動かしていて下さい。
大切な人と、愛すべき人と、ほんの少しでも…一緒に過ごすために。
「…どうかしたんですか?ユウキ。」
「へ?」
すぐ傍から聞こえるシオンの声。いつの間にか速度が下がっていたのか、並列して飛行する彼女の顔に間の抜けた返事をしてしまった。
「あ~、うん、何でもないよ、何でも。ちょっと…最近思うことがあってさ。」
思わせぶりな彼女の言葉に、シオンは首を傾げる。
「そんな大したことじゃないんだよ!ただね?」
「ただ?」
「楽しい時間って、一分一秒でも長い方が良いなって。」
「それはまぁ…そうですね。」
「だからさ。シオン。」
クルリとシオンの前に躍り出ると、ユウキはその手を身体の後ろで組み、こう言った。
「もっともっと…いっぱいいっぱい、思い出を作ろうね。このALOで…この世界で!」
「…はい。私もユウキと…ついでにイチカと、もっといろんな所を冒険してみたいです。」
「その意気だよ!じゃあ…飛行もそこそこに、次はせんと…っ!」
ドクン…!
まるで世界その物が振動したかのようにユウキの身体を揺さぶった。
視界がぐらぐらと揺らぐ。
耳につんざくような高音が刺さる。
(アレ……?ボク…どう…なっ…て…?)
目の前でシオンが何かを叫んでいるが、まるで遠い世界の事のように、何を言っているのか全然解らない。
それどころか…彼女の身体がどんどん上昇していくのだ。
いや、
違う。
(ボクが…落ち…てる…の?)
落下の感覚がない。
それどころか、視界がぼやけている。
暗くなっていく視界の中で、
自身を抱き留める確かな感触を最後に、
ユウキの意識はそこで途絶えた。
円夏が一夏を呼ぶ時の呼び方は?今後の小説に反映されます。
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にいに。
-
お兄ちゃん。
-
兄さん。
-
兄貴。
-
一夏。