インフィニット・ストラトス~君が描いた未来の世界は~   作:ロシアよ永遠に

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第69話『願いの終わる日』

数日後

放課後のHR

 

普段ならば、これから待ち遠しい放課後が間近に迫り、ほんの少し色めきだつ教室だが、この日ばかりはその空気が少々神妙なものだった。

その場にいる誰もの表情に喜色はない、悲壮を秘めたものだ。

今日この日を境に、1ー1から1人のクラスメイトが去る。

そんな時に、誰が喜びに打ち震えようか。

 

「では、1週間の特別授業参加を終え、今日一杯を以て紺野木綿季はこのクラスを去ることになる。織斑、前へ出てやれ。」

 

「…はい。」

 

プローブを肩に乗っける一夏は、少しばかり重い足取りで壇上に立つ。その表情は暗く、また肩にあるプローブの視線も俯いている。

 

「では、紺野。皆に挨拶を。」

 

『はい。』

 

だが彼女は、クラスの雰囲気とは相反するかのように、しっかりとした声で応じた。

 

『皆さん、1週間の間…短かったけど、ありがとうございました!長年の夢だった学校…しかも有名な国際学校であるIS学園に行けるなんて、それこそ夢じゃないかって思ったくらいです!』

 

視線をあげ、プローブの視点を操作して、クラスメイト1人1人を、ゆっくりと網膜に焼き付けるように、その顔を見渡していく。

 

『正直、最初は受け入れてもらえるか凄く不安でした。ホントのことを言うとボク、学校に通ってたときは虐められてたし、少し怖いところもあったんだ。でも…学校に通いたいって思いが、それに勝っちゃったんだよね。』

 

ラウラと視線が合う。

少し…常識外れな所もあったけど、ボクという存在に分け隔てなく接して、模擬戦もしてくれた可愛い少佐さん。

 

『でも通い始めて…ボクが1つ年が下にも関わらず、皆はクラスメイトだからフランクに行こうって、優しく受け入れてくれた。』

 

シャルロットと視線が合う。

優しくて勉強を解りやすく教えてくれた、何処か親近感があるシャルロット。

 

『この1週間は…ボクにとって、得がたい体験だったし、忘れられない…一生の宝物になるとおもいます。』

 

セシリアと視線が合う。

明日奈とは違う、お嬢様然としたお嬢様。料理は壊滅的…だけど、その優雅さとお淑やかさには少し憧れるものがあった。

 

『だから…ボクがここに居たこと、ここで過ごしたこと、皆も忘れないでいてくれたら…と、そう思うのはおこがましいのかも知れないけど…。』

 

箒と視線が合う。

ここに居ない鈴もそうだった。模擬戦の時には一番強いと感じた2人。幾年の一夏への思いが、痛いくらいにこれでもかと伝わってきた。あれ以降、2人は皆と同じように…さっぱりと接してくれて、申し訳ないやら嬉しいやらで少し困惑した。

 

『皆と…このIS学園…で過ごせ…た時間は、ボクは…幸せ…者です…!』

 

そして…己の肩に乗せてくれている一夏と、その少し横で目を閉じて聞き入っている姉の千冬さん。

千冬さんが学園長に直談判してくれなかったら、きっとボクはここへ来れなかった。…知ってるんだよ?ボクのために徹夜して、大きな隈を作ってたの。

一夏も、キミと出会って、学校へ行ける方法を言い出してくれなかったら、きっと燻ったままALOで過ごしていたと思う。ありがとう、ボクの…大好きで、大切な人。

一夏や千冬さんとはこれから会うことは出来る。けれどクラスメイトとして、皆とここで過ごすことはこれで最後。そう思うと思わず涙が溢れてきて止まらなくなる。

 

『皆…1週間…ありがとうございましたっ!』

 

涙声高らかに、それでも元気いっぱいに。

自身の持ち味である明るさを全面に押し出して。

皆には伝わらないだろうけれど、仮想世界で溢れんばかりの笑顔で。

木綿季は最後の言葉を締めくくる。

そして

静寂が教室を包み込む。

 

 

 

 

 

ややあって…

 

パチ…パチ…と

1人の生徒が、その手で拍手を始める。

そしてそれを皮切りに、2人、3人と重なり、やがて教室を包む喝采へ変わっていく。

 

「こっちこそありがとう!」

 

「もう1週間なんて早いよ~!」

 

「こんちゃ~ん!」

 

「絶対、また会おうね!」

 

端々から、別れを惜しむ声と再会を誓う言葉。

また会おう。

そんな言葉が叶うかどうかは解らない。

でも、それを糧の1つとして生きてみたい。

だから木綿季はこう答えた。

 

『うん!また、ボクは皆と…会いたい!』

 

これ程までに暖かな一時は、今までの人生でそれ程ない。

仮想世界での木綿季は、何処までも澄み切った笑顔でクラスメイトに見送られ、夢の1週間を終えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…終わっちゃった。』

 

「そうだな…。」

 

西日が差す校舎の屋上で、一夏と木綿季は黄昏ていた。

1週間、その短い時間が、余韻として木綿季の心に響き、そしてそれが終わったことによる空白。

それが2人を脱力させるには十分なものだった。

 

『改めて…ありがとう、一夏。』

 

「ん?」

 

『一夏と出会ってなかったら、ボクはこうやって夢を叶えられなかったとおもう。』

 

きっと辻デュエルで相手を見つけて剣士の碑に名を刻んで満足して、後は夢を夢で終わらせていただろう。

でも今は…夢を叶えられたどころか、恋人までもが出来てしまった。

幸せどころか、夢心地のような日々が流れていることが、木綿季にとって信じられないものだ。

だから、こんな日々を与えてくれたことに、感謝では言い表せないでいた。

 

「前も言ったけど、俺だけじゃない。プローブを貸してくれた和人もだし、千冬姉も頑張ってくれたからだ。今度、和人に会ったら礼を言っといた方が良いぞ。」

 

『でも一夏がいなかったら元も子もなかったんだからさ。そこは誇って良いんじゃない?』

 

「そういうもんかな?」

 

『そういうもんなの。』

 

どうにも一夏は、自身に対する評価に謙遜や卑下する気質らしく、中々受け入れてはくれない。謙遜は大いに結構だが、それは過ぎれば嫌みでしかないので、そこは直して欲しいところである。

 

「…さて、じゃぁ行くか。」

 

『ん?ALOにインするの?』

 

「それはもうちょっと後。やり残したこと、あるだろ?」

 

『???』

 

「リベンジだよ、リベンジ。」

 

含みのある言い方で、一夏は屋上を後にする。彼の肩に乗っかっている以上、彼の行くまま気の向くままに任せるしかない木綿季にとって、行き先が見えないので不安が募る。

 

『…何処に行くの?』

 

「俺なりの、木綿季の学校生活の最後を締めくくる催し。」

 

そして着いたのは、IS格納庫。

既に許可を得ている一夏は、目的のその機体まで迷うことなく辿り着く。

 

『これって…。』

 

目の前には1週間、自身の半身として幾度となく空を舞った機体。

紫色が織り成すその鋭角的なフォルムは見間違えようがない。

 

『紫天…。』

 

「今日一日は…まだ木綿季は1ー1の生徒なんだ。最後に…模擬戦、しようぜ。」

 

授業は終わったが、もう模擬戦をしてはいけないとは言われていない。

もしかしたら、これが紫天を纏う最後のチャンスかも知れない。

そして…ISを用いた最後の模擬戦でもある可能性も…。

そう思えば、感慨深い物もある。

どうせなら…やれるだけやって引くのも良いかもしれない。

 

『…いいね!やろうよ。なんか俄然やる気が出てきたよ!』

 

「よし、どうせなら何か商品を出そうぜ。その方が盛り上がるし!」

 

『商品…?何を?』

 

「そうだな…まぁ、何でも言うこと1つ聞くってのはどうだ?」

 

何でも…。

そんな言葉に魅力を感じてしまう木綿季は子供っぽいと思われるだろうか。

しかし、一夏のその言葉にやる気は更に漲ってくるのは現金すぎる気もするが…。

 

『よぉし!じゃあボクが勝っちゃうから、一夏、約束忘れないでよね!』

 

「俺だって負けないぞ?…勝って今夜は寝かせないからな?」

 

『待って一夏、一体全体ボクに何させる気なの!?』

 

「何って…そりゃナニだろ?」

 

『ブシドーみたいなこと言わないでよぉ!』

 

「よっし!とりあえずセットだ!」

 

『ちょ…一夏、話を聞いてよ!?』

 

「じゃ、向こうのピットに行って来るから、先に出て待っててくれよ~!」

 

『あ!一夏!?一夏~!!』

 

言うだけ言って向かいのピットに行ってしまった一夏。

木綿季の必死の叫びも虚しく、誰もいない格納庫に木霊するだけ。

一夏の言うナニって…何だろう…。

それも夜寝かせないって…。

想像しうるナニの数々に妄想は膨らみ、それは仮想世界の木綿季の顔をボンッと上気させる。

 

(ボボボボボクってば、何を想像してるの!?…そ、そりゃ一夏とそう言うのは…その…やぶさかじゃないけど、やっぱりボクだって順序というか、ムードというか、そう言うのは必要だと思うわけで、でもでも、一夏に迫られたら嫌と言えないというか何というか…。)

 

恋する乙女の妄想力恐るべし。

セシリアもかくやと言わんばかりの妄想の渦に吞まれた木綿季は、中々出てこないことに心配した一夏のプライベート通信が入るまで続いたそうな。

円夏が一夏を呼ぶ時の呼び方は?今後の小説に反映されます。

  • にいに。
  • お兄ちゃん。
  • 兄さん。
  • 兄貴。
  • 一夏。
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