インフィニット・ストラトス~君が描いた未来の世界は~   作:ロシアよ永遠に

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本編に入れても良いかなと思える話です。
え?あぁ、クリスマス?雪音さんと鱒がどうかしましたか?(すっとぼけ)


クリスマス特別編『家族を想うこと』

「クリスマスの…バッキャロー!!!!!」

 

血涙を流しながらALOの西日に向かって叫ぶ1人のバンダナ野武士。

それに不本意ながら同情を禁じ得ない不特定多数のプレイヤー。

彼ないし彼女らの恨み辛み妬みの矛先は、世に蔓延るリア充…ここは仮想世界なのだが、そういう存在に向けられていた。

 

「クラインの奴、何を叫んでるんだ?クリスマスが馬鹿って…今一意味がわかんないんだけど。」

 

「それをお前が聞きに行くなよ?絶対行くなよ?」

 

クラインの暴挙?をカフェでまったりしながら見ているのは、鈍さが抜けきらないイチカと、そんな彼の行動を先読みして止めるのはキリトだ。彼もまた、ヘタをしなくともクライン一党のスレイ対象なのだから、ここは近付かないに越したことはない。

 

「ねぇねぇキリト君!今日はクリスマスなんだし、ケーキ食べましょケーキ!」

 

「私もケーキ食べたいです、パパ!」

 

「そうだな…折角のクリスマスだしな。何処のにする?」

 

要望を尋ねたキリトに、アスナはキラリとその目を光らせる。まるでこの流れを誘導させたかのような問いかけに、キリトは嫌な予感を禁じ得ない。

 

「実はね、前々から目を付けていたメニューがあるのよ。」

 

「へぇ…アスナほどのプレイヤーが目を付けても、まだ手を付けてないなんてどんなメニューなのか、中々興味ありますな。」

 

「でしょ?…場所は、アインクラッド2層ウルバスのNPCレストランでね?」

 

「ほうほう………ん?」

 

あれ?

何か途轍もなく嫌な予感が…

 

「そこのトレンブル・ショートケーキが食べたいの!」

 

「ぶふぅっ!?」

 

思わず吞んでいたコーヒー擬きをイチカに向けて吹き出した。

 

「うわっ!?き、汚ぇ!?」

 

「あ、あぁ、悪ぃ!!」

 

「ママ、トレンブル・ショートケーキと言うのは、どんなケーキなんですか?私、気になります!」

 

「ふふっ、それはね…」

 

(アレか…アレをまた奢らされるのか…!?)

 

トレンブル・ショートケーキ…

その巨大さたるや、頂点の角度60度、一辺の長さ18㎝、高さ8㎝で、おおよその体積1350㎤と言うのが、旧SAOでアスナに奢らされたキリトの目測だ。

 

「すごいです!パパ!早く行きましょう!」

 

アスナの説明を受けて食べる気満々になっている愛娘にまで強請られて断るようでは、男として父親として如何なのか!

 

「よし!こうなったら俺も男だ!今夜は俺のおごりだぜ!」

 

「やった!流石キリト君!」

 

「パパ!太っ腹です!」

 

「フッ…そう持ち上げるなよ!それ程でもあるけどな!」

 

数十分後…

ウルバスのとあるレストランに、

 

『なんじゃこりゃぁぁぁぁ!!』

 

と言う、値段に絶叫する男の声が木霊したとか何とか。

 

 

 

 

 

 

 

時間は戻り

 

「ケーキかぁ…。」

 

うっとりと、その濃厚な甘さ引き立つその甘味に恍惚とした表情を浮かべるのはユウキだ。

やはり甘い物は女子共通の話題であり、その味が気になるのは性と言うべきか。

 

「ユウキもケーキ食べたいのか?」

 

「食べたいと思っても、流石にトレンブル・ショートケーキは大きすぎるし…値段がねぇ…。」

 

「…そんなになのか?」

 

「ユルド5桁って言ったらわかるかな?」

 

あぁ、なるほど。

確かに食べ物で万単位が飛ぶともなれば、流石に躊躇ってしまうだろう。

奢ると豪語して行ってしまったキリトに合掌しながら、自分は如何したものかと思案する。

ここでユウキを誘って、何処かのカフェでケーキを食べるのも良いが、どうせならもう少し趣向を凝らしたい。そんな密かな欲望を抱きながら、それとなくシステムメニューのプレイヤーショップを開く。

プレイヤーショップと言うのは、一概に言えばバザーである。プレイヤーが出品し値付けしたアイテムを、他のプレイヤーが購入するというシステムだ。

そんなショップ内の出店アイテムをカラカラとスライドして、何かしらアイデアが浮かばないかと考えていた矢先、それはあった。

 

「お。」

 

「ん?どうかしたのイチカ?」

 

「良いもん見つけた。」

 

インスピレーションが湧いてくるそのアイテムを速攻で購入。自身のアイテムボックスに移されたそれを早速オブジェクト化することで、なにを購入したのかをユウキに見せた。

 

「これって…?」

 

「これを使って、クリスマスケーキを作る…って言うのはどうだ?トレンブル程じゃないけど、A級食材だしさ。」

 

「これで…ケーキを?」

 

想像してみた。

スキルカンストのイチカが作る、オブジェクト化したA級食材…てらてらと赤く光沢を放つのは、拳ほどの大きさを誇るマンモスイチゴ…それを使ったケーキ。きっと、NPC経営のケーキよりも美味しいに違いないのだろう。

 

「…その顔を見るに、賛成みたいだな。」

 

「へ?ぼ、ボクそんな顔してた?」

 

「してた。」

 

イチカは手鏡をオブジェクト化してユウキに手渡せば、そこには涎を垂らしている、なんともだらしがないユウキの顔が映り込んでいた。

 

「………。」

 

「と、とりあえず…俺んちに移動で…いいか?」

 

「………。」

 

よもや恋人にこんな情けのない顔を見せていたとあっては、恋するうら若き乙女としてショックだったらしく、固まっているユウキ。

余程想像したケーキが美味しそうだったのだろうか。

 

「こりゃ、腕によりを掛けないとユウキのお眼鏡にかなわないかもな。」

 

勿論、そんな事でユウキは文句は言わないだろうが、解っていてもユウキの期待通り…いや、それ以上をと思ってしまうのは惚れた弱みと言うものだろうか。

そんな意欲を湧かせながら、ユウキの手を取り転移結晶を取り出す。

 

「転移、コラルの村」

 

自身のマイホームがある22層へ転移しながら、イチカはイメージする。

どんなケーキしようか、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぁっ!?」

 

鼻腔を擽る甘い匂いに誘われて、意識を取り戻したユウキ。

先程までNPC経営のカフェでイチカとお茶をしていたはずが、何故か室内の椅子に座っていた。

木で出来た壁面に、パチパチと暖かな灯が灯る暖炉。目の前のテーブルには、自身の愛用する紫のマグカップ。そこに入れられているのは、ユウキが大好きなミルクたっぷりのカフェオレ。

漸く理解した。

ここはイチカのマイホームだ。

 

「いつの間に…ボクはここに来たんだろ…。」

 

先程の醜態は余程ショックだったのか、脳が記憶を消したのだろう。

そんな事実は露知らず、先程からカフェオレとは別の、甘く香ばしい匂いが立ち込める匂いに釣られ、ユウキは立ち上がってその歩を進める。

この匂いの根元、それはキッチンであることは明白。

木目の扉を開いた先、そこにはエプロンをしたイチカが、ボールを抱えて泡立て器でシャカシャカと生クリームをホイップしているところだった。

 

「起きたのか、ユウキ。」

 

視線を向けることなく、泡立て続けるイチカ。料理するその様は実に絵になっており、思わず見惚れてしまう。

 

「う、うん。…何でボク、イチカのホームにいるの?カフェテリアでお茶してたはずなのに…。」

 

「それは……いや、何でもない。」

 

事実を教えてまた気絶されるのも事だ。ここは敢えて黙っておいたほうが彼女のためだろう。

 

「それより、もうすぐケーキが出来上がるから、ゆっくり座って待っててくれ。」

 

「ケーキが…?そういえば…そんな話してたような…。」

 

「おう。とびっきりの奴を作るから、楽しみに…。」

 

待っててくれ。

そう言葉を続けようとした。

しかし目の前には薄紫色のエプロンを纏ったユウキが居たために、その言葉を詰まらせてしまう。

 

「えと、ユウキ?」

 

「ん?なにかな?イチカ。」

 

「なにゆえエプロンを装備してるのかな?」

 

「勿論手伝うつもりなんだけど…。」

 

その気持ちは有り難いのだが…ユウキは料理スキルを取っていないはずのため、それは遠慮したい…。だがあからさまに拒否してしまっては、かえってユウキを傷付けてしまう。

 

「ん~…じゃぁ、スポンジが焼けたらクリームを塗ってくれるか?」

 

「オッケーだよ!…えへへ、実はね。クリスマスのお菓子作りってすっごい久しぶりの経験なんだぁ。」

 

オーブンで焼かれるスポンジの生地を覗き込みながら、ウキウキとした表情でユウキは過去を語る。

 

「へぇ…もしかしてALOで料理経験があったのか?」

 

「うぅん。」

 

そこで、ウキウキとした表情から一転、ユウキはどこか物悲し気な表情に包まれる。

 

「ママと…姉ちゃんと、お家で一緒に作ったことがあったんだ。…入院する前にね、クリスマスになったらウチはクリスチャンだったから家族揃って教会で礼拝(ミサ)をして、終わったらママと姉ちゃんと一緒にクリスマスケーキを焼いてたの。今日みたいに、スポンジはママが焼いてくれて…ボクと姉ちゃんとでクリームを塗ったり、フルーツを飾ったり…。一番最初は、ボクも姉ちゃんも生クリームまみれになってたっけ…懐かしいなぁ…。」

 

だが家族で入院してからは、クリスマスだろうと礼拝(ミサ)にも行けず、ただ病院で家族とお祈りをし、気を利かせて倉橋医師が買ってきてくれたケーキに舌鼓を打つ。そんな過ごし方へと変わってしまった。

確かに倉橋医師が買ってきてくれたケーキは美味しかった。甘くて美味しくて、きっと良い店で買ってきてくれていたことは明白だ。

だが、それでもどこか家で焼いていたケーキとは違った。

 

「…あれ?…何でボク、泣いてるんだろ…。」

 

気付けばその目元から雫か流れ落ちる。

もしかして…思い出して泣いてしまったのか?

だとしたらボクとしたことが女々しいものだと、ユウキは内心自嘲する。

今はイチカや…オウカこと千冬、マドカ…キリトやアスナ…沢山の友達や仲間がいて、決して1人なんかじゃないのに…。

そんな彼女の身体を、ふわりと暖かな何かが背中からそっと包み込む。

 

「イチカ…?」

 

「悪い…寂しくなること…思い出させて…。」

 

「うぅん。ボクの方こそごめんね。…今はイチカや皆がいるのに…こんなこと考えちゃって…」

 

「謝る必要ないぞユウキ。」

 

「ふぇ!?」

 

いつになく鋭く、そして重く感じるイチカの声に、思わずユウキは驚きの声を上げてしまう。

 

「今は俺達がいるから…だからって、ユウキの両親やお姉さんの事を思い出しちゃいけないって、そんなことは絶対ない!俺達が居てもユウキにとって3人は、紛れもない家族に変わりないんだ!それはこれからも変わることない!…それに、ユウキが思い出してあげなくて…誰が思い出すんだ?」

 

「そ、それは…。」

 

「紺野家はユウキ、もうお前だけなんだ。お前が思い出さないようになってしまったら…3人は本当の意味で居なくなることになるぞ。」

 

陳腐な言い方なのかも知れない。

だが亡くなった人が思い出されることを失ってしまえば、それは本当の意味でその人の死を意味する。だからこそイチカはユウキが家族のことを思い出すことを否定しない。

 

「…だからユウキ。変に強がらなくて良い。家族のことを懐かしんで、思い出してあげてくれ。…俺が言えるのは、それだけだ。」

 

そのイチカの言葉を最後に、ユウキは押し黙り、キッチンにはただただオーブンの焼ける音だけが木霊している。

2人とも動くことはなく、ただ静かに、互いの温もりと、互いの言葉を噛み締めている。

 

「ありがとう…イチカ。」

 

ややあって、最初に言葉を口にしたのはユウキの方だった。そっと自身の涙を袖でぐしぐしと拭い、よしっ!と勢いよく顔を上げる。

 

「いつまでも泣いてなんていられないや!今はケーキを作んなきゃ!ね?イチカ。」

 

「いいのか?もう少し気持ちの整理を…」

 

「あんまりめそめそしてたら、姉ちゃんに叱られそうだからさ。…でも、いつか、お墓参りに行かないとって改めて感じたよ。」

 

「…そっか。」

 

「それに!皆にイチカを紹介しなきゃね!ボクの恋人を。」

 

お付き合いさせて頂いています報告のことか。

まぁいずれは行かなければならないわけだし、今更動揺するものでもないだろう。

 

「そうだな…いつか必ずな。…よし!じゃあ今日はケーキをたらふく食べるぞ!ユウキもデコレーション、手伝ってくれよな!」

 

「うんっ!」

 

飛び切りの笑顔を弾ませて、ユウキは焼き上がったスポンジにデコレーションしていく。

パパ、ママ、姉ちゃん。

ボク、ここで生きる。頑張って生きるから…。

また会ったとき、ボクの大切な人を紹介したいんだ。

ちょっと鈍いけど…でも、ボクを包み込んでくれる、ずっと一緒にいたい、大切な人(イチカ)を…。

円夏が一夏を呼ぶ時の呼び方は?今後の小説に反映されます。

  • にいに。
  • お兄ちゃん。
  • 兄さん。
  • 兄貴。
  • 一夏。
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