インフィニット・ストラトス~君が描いた未来の世界は~ 作:ロシアよ永遠に
今年も当筆者及び当小説をよろしくお願いします。
静かな空
アリーナの開けた天井の端から差し込むのは、紅く染まった西日
吹き抜けるのは、肌寒い11月の風
そして目の前には、白を纏った一夏
今から始まるのは、IS学園での最後の催し。
自身が駆る紫天と白式のぶつかり合い。
右手にリヒトメッサー、右手にマーゲイ・ストライフを。
向こうは雪片弐型を正眼に。
『2人とも、準備は良いな?』
『へ?お、織斑先生?』
一夏との2人だけの闘いと思っていたら、思わぬ声に木綿季は驚く。
『何を驚く必要がある?私の生徒がアリーナを使用するのに教師がいなければならんだろう?それが私なだけだ。』
「俺が頼んだんだよ。…ちょっと粋な計らいだろ?」
確かに、これ以上ないくらいのお膳立てだ。
プローブ越しのモニターの奥で、不適に笑う千冬がこれ以上なく木綿季を昂揚させていく。
対する一夏も、ちょっと照れ臭そうに白式のアームを解除してポリポリと頬を搔く。
『これは言わば、お前のこの1週間。その集大成を見せて貰う。…これまで学んだ全てを以て、一夏を破り、…1週間という短いながらも学校生活を……【卒業】して見せろ。』
『………っ!』
卒業
その言葉がどれ程まで心に響いただろうか。
思わず息を吞むほどに、その二文字は木綿季にとって…小学校で叶わなかった願いだ。
感極まる思いで、その響きを噛み締める。
『卒業…ボクが…?』
『あぁ。…言わばこれは卒業試験だ。…心して掛かれ!』
『…っ!はい!』
千冬が管制室のコンソールを操作すると、アリーナの中央にカウントダウンが表示される。
(卒業…うん。これが心の何処かで望んでいた、学校へ行きたいって思いの果てなんだ…。
ボクが…千冬さんの思いに応えて…見せないとダメだ。…生徒としての…成長を!)
目の前には愛しい一夏が、雪片弐型を構えて戦闘態勢でカウントダウンを待っている。
千冬とともに、一夏もボクのためにこうして時間を割いてくれている。
それに応えないで…一体どうするというのか。
(だから…紫天。ボクの…この1週間を…一夏と千冬さんに見せたい!)
相棒は何も応えない。しかしこの1週間、共に飛んだパートナー。短い時間ながら、唯一にして無二の相棒。
(ボクと…一緒に…飛ぼう!)
ヴォン…
木綿季のその想いに応えるかのように、紫天のカメラアイに光が灯る。
それを木綿季が確認することは出来ない。それでも、紫天というISと一心同体となり駆ける。それだけなのだ。
だから…
『レディ…!』
『最大で…!』
『ファイト!』
『駆ける!』
カウントゼロと共に、アンロックユニットを吹かして
だが、一夏もそれを見越して居ないわけではない。それを迎え撃たんと雪片弐型を構えてすれ違い様に一閃をと、己も加速する。
だが木綿季の武器はリヒトメッサーだけではない、マーゲイ・ストライフという飛び道具もある。
ガンッガンッ!と撃鉄が射出した大口径のそれは、音速を超えて一夏へと迫る。
シールド・エネルギーに大ダメージを与えんと頭部狙いの連射。しかし、一夏は軌道を上昇させて眼下を通過する弾丸を見送る。一夏も
木綿季もまさか避けられるとは思わなかったのか、
減速したときには、背後に強い衝撃が加わり、急速落下してしまう。
木綿季の上を取った一夏が、浴びせ蹴りのように蹴り落としてきたのだ。
急ぎ体勢を整え、更なる追撃に備える木綿季の目の前に、
しかし
圧し負けて紫天の背後に迫るのはアリーナの床。
このままでは押し切られてしまうのは明白だろう。
だからこそここで機転を利かせなければならない。
「うぉっ!?」
紫天が目の前から消えたと思えば、腹部の圧迫感と共に景色が逆転していた。
(ほぅ…見事なフォームの巴投げだな。)
管制室からモニターしていた千冬は、偶然なのだろうが紫天の…木綿季の放った巴投げに舌を巻く。
もしかすれば、木綿季は格闘技のセンスがあるのではないかと思ってしまうほどに足の蹴り込みも見事なものだった。
「っと…!」
左手と両爪先でアリーナの地面を削りながら静止する一夏。
だが休む暇などない。
花火どころか爆弾が爆ぜたかのような轟音が重く響くと同時に、一夏は横に飛び退いた。
一瞬後、肩先を掠める様に大口径の弾丸が撃ち込まれ、それによりシールド・エネルギーが減少する。
転がるように避ければ、先程まで身体があった位置に二発、三発と銃弾がめり込んでいく。
起き上がる勢いで跳躍し、再び宙へと戻る。
上を飛翔する白式を追うように銃弾が連射されるが、ランダム回避運動によって何とか当たらずには済んでいる。
(やっぱ…飛び道具が厄介だよな。)
ここに来て雪羅がない状況というのは悔やまれるものの、無い物ねだりしていても仕方ない。
だが雪片しかないこの状況を打破するには、あの銃弾の嵐をくぐり抜けなければならないのも事実。
(…よし、一丁賭けるか!)
旋回すると、木綿季に向かって一直線に突撃する。
(一夏…突撃戦法は通用するほど木綿季は甘くはないぞ!?)
ここに来て昔のような脳筋スタイルに切り替えるとは思わず、千冬も内心驚き半分呆れ半分だ。
楯無との特訓で、それなりに上達しているのではないのかと。
木綿季にとっても向かってくるなら好都合。
マーゲイストライフのアイアンサイト越しに向かってくる白式、それを纏う一夏の眉間に狙いを定める。
引き金を引く。
大口径に違わぬ反動が、木綿季の腕に伝わる。
マズルフラッシュと共に空を裂いて弾丸が射出される。
それが向かう先は、一寸違わず一夏の額に向かって、まるで吸い込まれるように進んでいく。
このまま着弾は明白だ。
そう、木綿季と千冬は思っていた。
だが、
一筋の閃光が、その弾丸の軌道を『逸らした』ことで、それは叶わぬものとなった。
「「は…?」」
気の抜けた声が2つ、アリーナに響いた。
何が起こったのか、理解できない。
しかし、現に白式のシールド・エネルギーは全く減っていない。
と言うことは、白式に弾丸はヒットしていない。
『くっ…!』
ガンッ!ガンッ!と立て続けに狙いを定めて発射する。
流石に当たるだろうと自負する狙い。
しかし、再び迸る光がによって銃弾は白式に触れることなく通過していく。
(なん…だと…?)
どんな手品を使ったのか。
それを見極めるために千冬は目を凝らして見ていた。
弾丸の軌道は、確かに白式にヒットするものに間違いはない。
だがその軌道を『何か』が逸らしていた。
それが何なのかを凝視した。
だがそれは、千冬からしてみても、『有り得ない』ものに他ならない。
そう、彼が弾丸を逸らしたもの。
そしてその為に使用したもの。
彼が持つ唯一の得物が、その答えだった。
「うぉぉぉぉっ!!」
紫天を雪片の…否、零落白夜の射程内に収めた一夏は、その刀身を分割させ、シールド・エネルギーを使用した諸刃の剣を展開。
『なんとぉぉぉっ!!』
だが木綿季は、敢えて距離を詰めることで、刃が振り下ろされる寸前にリヒトメッサーで雪片の刀身その物を受け止める。
シールド・エネルギー消滅効果のあるエネルギー刃に触れなければ、何とでもなるため、この場においては最善策と言えるだろう。
『な、なんで…銃弾が当たんなかったのさ?』
鍔競り合いをしながら、先程の不可解な現象について尋ねる。
確かに直撃コースであったはずなのに、それが悉く外れればそんな疑問も生まれるだろう。
「弾を、雪片で斬った。」
『……ほへ?』
「実体弾だからな。別に問題ないだろ?」
いやいや…いやいやいやいや!
(なに、さも当然って顔で言ってるの!?)
音速を超える速さで迫る弾丸を…斬った?斬ったと申すか!?
「いや、キリトだって、GGOで斬ってたんだし、現実でも出来るはずだろ?」
『あ、あれはあくまでもゲームだし、フォトンソード使ってるから斬れたんでしょ!?そもそも現実でだと、銃弾の勢いに圧し負けて…』
「ISのパワーアシストだとイケるんじゃないかって思った。」
いや、だからって…。
あんな弾を刀の一振りで…?
「じゃ…そろそろ形勢逆転と行くぜ!」
更にブーストを吹かしてくる一夏。
圧されていく紫天の躯体。
どうやら木綿季の卒業試験は、一筋縄ではいかないようだった。
円夏が一夏を呼ぶ時の呼び方は?今後の小説に反映されます。
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にいに。
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お兄ちゃん。
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兄さん。
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兄貴。
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一夏。