インフィニット・ストラトス~君が描いた未来の世界は~   作:ロシアよ永遠に

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第73話『宝石言葉 ロシアの知人』

沈み行く太陽がALOを照らし出す。

 

ただ広々としたこの草原で、2人のプレイヤーは並んで寝そべり、黒く染まり行くその景色をボーッと見詰めていた。

何とも言えない脱力感。

全力を出し切った後に感じるそれは、2人の身体を支配していた。

現実で全力を賭して刃を交えた2人は、疲労感に身を任せて、こうして仮想世界でだべっているのだ。

 

言葉を交わすことはない。

 

ただ2人でこうして一緒に過ごす事が、疲れた身体に充足感を与えていた。

 

「ん……。」

 

どちらからともなく、隣で寝そべる恋人に手を伸ばす。その指先は相手の指にそっと触れ、そしてどちらからともなく手を握り、繋ぐ。

視線を向ければ、互いの双眼が瞳を映し合う。

 

「ユウキ。」

 

ややあって、イチカは口を開いた。

 

「今度の日曜…会いに行って良いか?」

 

「ふぇ?」

 

今会ってるじゃん?

そう言いかけてユウキは言葉を飲み込む。

イチカの言う『会う』と言う意味。

それは、現実でユウキに…木綿季に会いに行く。所謂お見舞いに行くと言うことだ。

 

「うん、勿論だよ。むしろ…来てくれたら…うれしいな。」

 

願ってもないことだった。

木綿季自身、前回のイチカとマドカの面会以降、誰も会いに来ては居ない。そもそも面会に来る人が皆無に等しい木綿季は、こうして誰かが会いに来てくれることが堪らなく嬉しい出来事なのだ。

以前の彼女なら、深い付き合いを避けるために突っぱねていただろうが、今の彼女は誰かとの繋がりを恋しく思い、面会を心から歓迎していた。

 

「…でもどうして急に?こうやってALOでも会ってるし、プローブ越しにも…。」

 

「こう言うのって、直接会うのが大事なんだよ。…現実で、この身で木綿季に会いに行きたいんだ。」

 

「そっか…嬉しいなぁ…。」

 

現実の木綿季の身体は、長い間運動しておらず寝たきりであるため、筋肉は痩せ細り、とてもじゃないが人に見せられたものではない。恋人である一夏なら殊更だ。

だが木綿季はそれすらも受け入れてくれている一夏が堪らなく愛おしい。願うならば…仮想世界でなく、現実世界で、彼に触れたい。願わぬ望みと知りながらも、一夏と最期まで共に居ると決意したあの時から、そんな思いが木綿季の中で芽生えていた。

 

「じゃ、日曜日な。昼前後に行く予定にするから、倉橋先生に伝えておいてくれ。」

 

「ん、じゃあ待ってるね一夏。」

 

「おう。サプライズも用意してるから楽しみにしとけよ?」

 

「サ、サプライズ?」

 

そんな言葉に、会えるという楽しみと共に一縷の不安がユウキの中に芽生えた。

良くも悪くもサプライズという言葉はとれるため、少し表情を曇らせたユウキにイチカは慌てて弁解する。

 

「や、悪い!変な想像をさせちまった!別に変な意味じゃないんだ!」

 

「ほぇ?」

 

「ま、まぁ…その…楽しみにしててくれれば問題ないぞ。悪いことじゃないから。」

 

「う、うん。イチカを信じる。」

 

イチカがそう言うのならそうなのだろう。未だ完全に不安は拭いきれないが、お楽しみのサプライズということなので、ちょっとプレゼントにも似たワクワクである。

思えばプレゼントと言えば…

 

「そう言えば、イチカ。」

 

「ん~?」

 

言うだけ言って、再びぼんやり夕日の沈み行く様を眺めるイチカに、ユウキはふと尋ねる。

 

「この前プレゼントしてくれたロザリオのさ。」

 

「ん?あぁ…、マドカに作って貰った奴か。」

 

「うん、そうだよ。覚えててくれたんだね。」

 

「勿論だろ?…そう言えば初めてのプレゼントだったなぁ。」

 

「それで、付けてくれたアメジストの宝石言葉、調べてみたんだけどね?」

 

(宝石言葉?そういうのもあるのか。花言葉みたいな感じかな。)

 

「アメジストの宝石言葉は…『真実の愛、誠実』だって。」

 

「ふぅん…真実の愛……………へ?」

 

「…イチカ、その時からボクを…?」

 

頬を染め上げ、モジモジとイチカを見詰めるユウキ。

実際、可愛い。

 

正直、役得だ。

 

しかし出会って2日やそこらで真実の愛だのを宝石に乗せて贈って居たともなれば、チャラ男か何かと思われかねない。

 

「へぁっ!?ち、ちがっ…それは偶然偶々で…!」

 

「違うの?」

 

イチカの否定に、しょんぼりと眉をハの字にして、見るからに表情を悲観の表情に変えていく。

ユウキを失望させてしまったことにイチカは、どう取り繕おうかと表情をあたふたさせる。

そんな彼が余りにも愉快だったのか、ユウキはコロッとその顔に笑みを浮かべて、クスクスと笑い始める。

 

「ふふっ、大丈夫だよイチカ。」

 

「おぅ?」

 

「そーいう打算的なとこはなくって、偶然なんでしょ?流石に出会ってそんな時間経ってないのに、意図してイチカにそんな事されるなんて、ボクは思わないもん。」

 

どうやら揶揄われたらしい。

自身が軽薄な男と思われていなかったことに内心安堵する。しかし、揶揄われていたことに何処か釈然しない。

 

「…イチカ、怒った?」

 

「怒ってねーですよ。」

 

「嘘だ、怒ってる。」

 

「だから怒ってねーですって。」

 

口ではそう言うが、その口調は何処かぶっきらぼうで、拗ねて居るであろうことがありありと感じた。彼の顔を覗き込もうとすれば、プイッとそっぽを向いてしまう。

子供か。

しかし、そんな子供みたいに不貞腐れる彼に、どことなくユウキは保護欲というか…母性をくすぐられた。

だから、

 

「イチカ、こっち向いて?」

 

「…ん?うぉ…!」

 

ゴロリと、ユウキの方に顔を向ければ、視界いっぱいに彼女の整った顔立ち。

そして…唇に伝わる、柔らかで、そして甘美な感触。

ややあって…

 

「…きげん、なおった?」

 

唇を離すと、少し赤らめながら…ユウキは尋ねる。

そんな艶めかし気な彼女に、イチカは我慢が出来なかった。

 

「…まだ。」

 

「ふぇ…?」

 

「まだ足りない。」

 

「え?い、イチカ?ひゃあっ!?」

 

ユウキが覗き込んでいたハズが、あっという間にイチカに押し倒された形になった。

 

「え、えと…イチカ、さん?」

 

「もっとだ、ユウキ。」

 

「ふぇえ!?ん…んん…!」

 

暗く成り行く草原で、

誰も居ないのを良いことに、2人はしばらくイチャイチャしていた。

終わったのは辺りがすっかり真っ暗になったときだったとか何とか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「祝!出番!」

 

誰も居ないIS学園生徒会室。

最奥の一際大きな机で、生徒会長たる更識楯無は一人ドヤ顔で呟いた。手に持つ扇子には達筆な字で『一日千秋』そして裏返せば『全世界一億人の楯無ファンの皆様、お ま た せ』。しかしそれを祝福する者は誰もおらず、ただただ虚しく部屋の中を言霊が木霊するだけだ。

その代わりと言わんばかりに目の前には山のような書類が聳え立っており、もしかしたら現実逃避もあるのかも知れない。

 

「………はぁ。中々減らないわね。」

 

転じて大きな溜息を吐く。

世界中から生徒が集まるIS学園だけあり、その書類の溜まり易さは他の高校の比にならない。毎日のように書類と格闘する日々があり、少しでもサボればご覧の有様である。

 

「ちょぉっと簪ちゃんが落ち込んでたら、遠目に見守る日々が数日続いただけなのにねぇ…。」

 

ぶっちゃけ、ただの自業自得でストーカーである。

以前のような仲違いしているわけではないのだが、落ち込んでいる事情が事情だけに助言も出来ず、生徒会長の仕事をほっぽって見守りに徹していた次第である。

そして昨日、とうとう堪忍袋の緒が切れた虚に鹵獲され、こうして生徒会室に缶詰にされているわけだ。

 

「うぅ……眠気が…。」

 

襲い来る眠気に何本目かわからない眠気覚ましのドリンクを一気に飲み干して無理矢理打ち消し、再び書類との戦闘に臨もうか。そう意気込んだとき、楯無のスマホがその着信をバイブレーションと共に告げた。

 

「……誰かしら?あら?」

 

着信相手を見れば、珍しいこともあるものだ。自身が代表として在籍するロシアの知人からだった。

少し心を躍らせながら、受話器のボタンをスワイプし、スマホを耳に当てる。

 

「もしもし?」

 

『あ、たっちゃん?プリヴィエート!久しぶり!』

 

「うん、久しぶりね博士。」

 

スマホ越しに話す幼い少女の声。彼女は世界的に有名な仮想世界技術の研究者で、アイドルだ。楯無もちょっとした縁で、こうして電話番号を交換するまでに親交を深めていたりする。

 

「珍しいわね。博士からこうして電話してくるなんて。」

 

『私だって、気心知れた友達とガールズトークしたくなることもあるわよ。アイドルにもプライベートは必要なの。』

 

「まぁ…確かにそうね。…そう言えばお姉ちゃんは?訓練頑張ってる?」

 

『うん。たっちゃんに言われたメニューをずっと反復してる。飽きないのかなって思うくらいにね。…そうそう!代表候補生に選抜された辺りからトップ(上層部)がね、お姉ちゃんのビジュアルも売りに出し始めたのよ。』

 

「あ~…確かにあの子、見た目も良いからね~。その気持ちもわからなくもないわ。」

 

『ね。だからいずれ、私とデュエット出来ないかなって期待してるのよね。もしデュエット組めたら、たっちゃん見に来てよね?』

 

「勿論よ。こっちの方は簪ちゃんが…」

 

互いの近況報告。

他愛のない会話。

普段は更識家当主としての仮面を被っていた楯無だが、この時ばかりはその仮面(ペルソナ)を取り払い、年相応の少女として盛り上がっていた。

 

『あとね、住良木君が研究もそこそこに、剣術の鍛錬に打ち込み出しちゃって…まぁ滞ってるわけじゃ無いから良いんだけどね~。』

 

「へぇ…あの住良木君がねぇ。」

 

『うん。何でもリベンジに燃えてるんだって。【次こそは…あの一太刀を見切る!】とかなんとか。』

 

「リベンジ?住良木君、負けたの?」

 

『うん、何でもALOのトーナメントでね?』

 

思い返せば、ALOのデュエルトーナメントを楯無は見ることが叶わなかった。と言うのも、今現在と同じように書類の山と格闘していただけなのだが。それだけに、住良木がトーナメントに参加していたというのは初耳だった。

そうであっても住良木の実力について、楯無は高く評価している。時々手合わせして、戦績はほぼ五分五分。それ程までの実力者が負けるとは、一体どんな相手なのか。

虚が入れていってくれた紅茶を口に含みながら、どんなマッチョな対戦相手だったのかと、想像を膨らませる。

 

『イチカってプレイヤーに負けたって。』

 

「ぶふぅぅぅうっ!?!?」

 

哀れ。吹き出した紅茶が書類の山にぶちまけられ、楯無は唖然とすることになった。

世間は狭い。そんな人生の教訓を刻むと共に。




ロシアの博士とそのお姉ちゃん…一体何色さんと何架さんなんだ…

ちなみにお姉ちゃんは公式で運動音痴設定らしいですが、本作ではIS操縦者として楯無による訓練をしているので、だいぶマシになっている状態です。

円夏が一夏を呼ぶ時の呼び方は?今後の小説に反映されます。

  • にいに。
  • お兄ちゃん。
  • 兄さん。
  • 兄貴。
  • 一夏。
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