インフィニット・ストラトス~君が描いた未来の世界は~ 作:ロシアよ永遠に
新生アインクラッド27層
今現在、アインクラッド攻略における最前線
その主街区ロンバール
鉱山や炭鉱と一体化したように、クレーター状の穴にそって作られているこの街には、道行く人々のほとんどが旧SAOで言う攻略組にあたる面々で、話し合う言葉の端々に攻略における相談が嫌でも耳に入ってくる。
そんな街の一角に店を構えるNPC経営の宿屋。
宿屋内にある和やかな雰囲気のレストランにも、多数のプレイヤーが腹ごしらえをしている中で、不釣り合いなまでの異様な光景が嫌でも目に付く。
ギザギザ鉄板の上に縄で縛られて正座させられているインプの少年
…何処かで見たことあるような光景だが、全く以て気のせいだと言いたい。
「さて…ウチのリーダーはあのギトギトを落としにシャワーを浴びてるわけだけど…、何か言い訳はあるかい?」
「え、え~っと~、俺はユウキのデュエルを労ってお菓子を作って行っただけなんですが…?」
「で?あんな卑猥な状態になるようなお菓子を食べさせようとしたわけだ?さぞ眼福だったでしょ?」
「いや、挿絵がないから眼福もなにも…」
「あぁんっ!?!?」
「いえ、ナンデモナイデス…」
目の前の褐色のスプリガンの女性は、どうにもアレが故意だったと思っているらしく、こうやって尋問が行われているのである。
「まぁまぁノリ、もしこの人がユウキの言ってた人だとしたら、後々気まずいわよ?だから抑えて?ね?」
温和そうなウンディーネの女性が、ノリと呼ばれたスプリガンの人をやんわり嗜める。
ユウキと知り合い…のようである。成る程、知り合い…もしくはリーダーと呼んでいたし、ギルドメンバーなら、あんな事になっていては怒るのも無理はない。
…それにしても、と口には出さないが、この一角に集まっているメンバーを見遣り、イチカは思った。
(しかし…ユウキがインプで…ノリって人がスプリガン、眼鏡の人がシルフ、あの女の人はウンディーネ、偉丈夫っぽい人がノーム、紅い男の子がサラマンダー…と。見事にバラバラだなぁ…。)
ALOは基本的に種族間での抗争、及びそれに準ずるPVPがメインに近い。にもかかわらず、これ程までにバラバラともなれば、以前からの知り合いか何かなのか?しかし、旧ALOの最大目的であったグランドクエスト達成による飛行時間無制限は共有化されているし、もし旧ALOからのプレイヤーなら、友人同士で出来るだけ諍いのないよう、同種族を選ぶはず。それにユウキのような一流のプレイヤーが居たのなら、少なくともテスト勉強に入る前からある程度の噂は聞いていたはず。
となると…考えられるのは、つい最近どこかのゲームから揃ってコンバートしてきた、と言う答えが導き出されてくる。
「で?アンタの名前は?」
「い、イチカ…です。」
「ユウキとデュエルして、マザーズ・ロザリオを抜かせたって人か?」
「マザーズ・ロザリオが…あの11連撃のソードスキルを指すなら…そうなるのかな。」
「…じゃあアンタがユウキの初チューの相手って訳だな…?」
あれ?これってもしかしなくても、また制裁の予感?
復帰してから何だか連続してこんなコトばかりだな、とイチカは内心大きな溜息をつく。
「ノリー、チューって、オッサン臭い表現止めなよ~。」
「うっさいなジュン!そんなことはどうでも良いんだ、重要なことじゃない!」
「で、でででも、ユウキが昨日の最後はあんまり怒ってなかったので、そ、そこまで捲し立てるのは…。」
「うん、タルケンの言うとおりだ。当の被害者のユウキが気にしてないのなら、こちらがどうこう言うのは筋が違うんじゃないかな?」
「…テッチ、貴方とは付き合いも長いけど…そんな長い台詞言えたのね。」
「シウネー…!?」
どうやら、サラマンダーがジュン、スプリガンがノリ、シルフがタルケン、ノームがテッチ、ウンディーネがシウネーと言うらしい。
何やら内輪で揉めているが、イチカの所業を諫めんと躍起になっているのはノリだけのようだ。
「ふい~、さっぱりした~!」
そんな皆の空気を読んでか否か、シャワーを浴びて、胸のプレートアーマーを外して軽装になったユウキが、濡れた髪をタオルで拭きながらやってきた。
「あれ~?皆喧嘩?ダメだよ~、仲良くしなきゃ。」
「違っ…!ってか誰のことで揉めてると思ってるの?」
「ん~?誰って…誰?」
本当に解っていないのか、キョトンと首を傾げるユウキに、一行は苦笑せざるを得ない。
「ところでイチカはなんで縛られてるの?」
「いや…これには事情が…」
「…もしかして、縛られるのが好きなの?お尻の次は、縛られたい体質?」
「違っ…!?ってか、その件はデュエルで許した筈だろ?」
「あははっ、そうだったね。」
そう笑いながら、手足を縛る縄をマクアフィテルでサクッと切ってくれる。耐久力を失った縄は、ポリゴン片となって霧散し、イチカの身体は自由を取り戻す。
「そそそう言えば…イチカって…名前のインプで…聞いたことが…。も、もしかして、絶刀の…イチカさん…ですか?」
「…まぁ古い二つ名だけどな。結構知られてるのか。」
「有名も中々有名ですよ?刀のエキスパートだとか。」
「そうそう!イチカの戦い方って面白いんだ!あんな風に使うのって、ボク始めて見たよ!」
「へぇ…じゃあ今度僕と手合わせしてくれよイチカさん。」
「あ、あぁ、いいぜ?」
「よっしゃ!負けないからな!」
ジュンが盛り上がる中、一番年長と思しきシウネーがパンパンと、まるで注目!と言わんばかりに手を鳴らした。
「デュエルの約束も良いけど、ユウキが今日、あの場所に私達を集めようとした理由について聞かなきゃならないわ。」
「そ、そそうですね、失念していました。」
「それで、ユウキ。そのイチカさんが…」
「うん!そうだよ!そんなわけでイチカ!頑張ろうね!」
そう言ってイチカの手を取り、キラキラとした眼で見つめてくるユウキ。
まるで子犬か何かみたいだな、と苦笑しながらも、とりあえずイチカは答えを口にする。
「頑張るも何も…何を頑張れば良いんだ?」
「あ、そっか!ボク、まだなーんにも説明してなかったんだ!」
どうにも少し抜けているリーダーに、面々も垢抜けてぐったりとしてしまった。
そんな中で…イチカは一つ一つ、彼、彼女等の動作に少し戸惑いを覚えていた。
(動きが…あまりにも『自然すぎ』ている…?)
現実と違い、仮想の身体であるアバターを動かすと言うことは、多少なりとも現実の身体との差異が現れて、それがアバターの動きに少なからず違和感やぎこちなさを生み出す。
しかし、目の前の面々はそんな物を微塵とも感じさせず、挨拶や食事などの細かな仕草、それら全てを流れるかのように滑らかに熟している。
前述のぎこちなさは、ダイブ時間によって解消される者も多く、イチカも旧SAOにおける2年というフルダイブ時間で培ったものだ。
しかし、目の前の彼等はイチカと同等なまでにフルダイブに慣れている。
つまり、アバターを如何に思い通りに動かせるかが重要になるALOにおいて、こうしたフルダイブ慣れは実力に直結していく。
即ち…目の前の彼等は…ユウキと同じく、凄まじい手練。
そして先ほどイチカの考えが蘇る。これほどの手練なら、なぜ今になってコンバートしてきたのか?
恐らく…全員武器を取れば、ユウキに準ずるまでに高い実力の持ち主だろう。そんな凄腕のメンバーなのだ。他のVRMMOに居たのなら、さぞかし名のあるパーティ、もしくはギルドだったに違いない。
しかしそんな彼等が…なぜこの世界に、
「じゃあ改めて!」
痛む臑を押して、何とか椅子に着く事が出来たイチカは、ユウキの注文してくれた料理を目の前に戸惑いつつ、彼女の説明を受けることにした。
「ボク達は『スリーピングナイツ』っていう6人ギルドなんだ。」
「もうお察しかも知れませんが…」
ユウキの言葉を引き継ぐように、シウネーが言を発する。
「私達はこの世界で知り合ったのではなく、ゲーム外のとある
2年…つまり、イチカが旧SAOで過ごした年月とほぼ同等。親密差こそ差違はあれど、先ほどのやり取りを見るに、2年間でかなりの親睦を育んでいたのだろう。
「最高の仲間です。私たちは…みんなで色々な世界へ行き、そして同時に色々な冒険をしてきました。ですが…」
懐かしむシウネーの表情が一変、影を落とし始める。
「私達が一緒に旅を出来るのも…次の春までなんです…、皆、それぞれ忙しくなっていくので…。」
(忙しくなる…社会人とか大学生になって生活環境が変わるのか?)
安直に忙しくなる、と聞けば思い付くのがそんな理由だろう。そうイチカは思いを留める。
「だから私達は一つ、絶対に消えることのない思い出を作ろうと決めました。無数にある仮想世界の中で、一番楽しく、美しい、心躍る世界を探して、そこで力を合わせて何かを成し遂げようって。」
そして繰り返すコンバート、その果てに辿り着いたのが、このALOだとシウネーは言う。
「この世界は…素晴らしい所です。皆で連れ立って飛んだ思い出は、永遠に忘れることはないでしょう。…望みはあと一つ…この世界に私達が居た足跡を残すこと。」
「大体の事情は判った。つまり…俺はスリーピングナイツの足跡を残す手伝いをしてほしい。その為にユウキは実力のあるプレイヤーを探すためにデュエルをしていた、ってことだな?」
「イチカ、察しが良いね。…そう、ボク達で、このALOで!誰も成し遂げられず、そしてボク達の居た証を残すために考えている事があるんだ!」
まるで世紀の大提案!と言わんばかりに、ユウキが目を輝かせながら言い放つ。
「ボク達は…階層ボスを倒したいんだ!」
階層ボス…つまり…旧SAOと同じく、各層毎に存在するボスを倒したい…と言うことだ。
「ここ…ALOではボスを倒すと、一層にある黒鉄宮…その中の『剣士の碑』に、ボス討伐メンバーの名前が刻まれるのは、イチカさんはご存じですよね?」
「あぁ。確か…レイドの各パーティリーダーの名前が刻まれるようになってたよな。」
正直、イチカは黒鉄宮は余り近寄りたくない場所だ。何せ旧SAOでは、プレイヤー全員の名前が刻まれた碑があり、脱落者…いや、死亡者には、その名前に横線が二本刻まれていくことになっていた。…つまり…イチカもそうだが、キリトやアスナ、旧SAO生還者にとっては、あの場所は悲しみの詰まった所なのだ。
「そこに…ボク達スリーピングナイツ、全員の名前を刻みたいんだ。それも…一緒の場所に!」
「そうかそうか!碑に名前をなぁ…そりゃすご……ん?レイドのパーティリーダーになる、訳じゃない、よな?」
「そりゃもちろん!」
「…まさかとは思うけど…」
「そのまさかだよイチカ!ボクは…ボク達は、このメンバーでボスを倒して…剣士の碑に名前を残したいんだ!」
正直…ぶっ飛びすぎたユウキ達の提案に、思わずイチカは椅子から転げ落ちてしまった。
円夏が一夏を呼ぶ時の呼び方は?今後の小説に反映されます。
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にいに。
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お兄ちゃん。
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兄さん。
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兄貴。
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一夏。