インフィニット・ストラトス~君が描いた未来の世界は~ 作:ロシアよ永遠に
知ってる方は、店内BGMをあの曲で脳内再生です
「いらっしゃいませ!」
カウベルの音に反応し、ウェイトレス姿の木綿季は満面の笑顔で来客に応対する。
「クッ……!嬢ちゃん…4番テーブルにブレンドの3を2つだぜ。」
浅黒い肌で、ボサボサの黒髪と短く整えた顎髭の男性が、慣れた手つきでコーヒーのブレンドをカップに注ぎ、カウンターに乗せる。
木綿季は足早にそれをトレイに乗せると、注文のあった席へと急ぎ運ぶ。
「お待たせしました!ブレンド3になります!」
ここ、『ゴドー・カフェ』。ブレンドコーヒーのみで勝負をするハードボイルドな店長が経営するカフェで、木綿季はちょっとしたアルバイトをしていた。
「クッ…!さすが嬢ちゃんだ。『掘り斑』の坊主が紹介するわけだぜ。」
「掘り斑じゃなくて織斑ですけど。」
客がはけた店内で、そう言って売り物のブレンドを飲み干すのは、オーナーで店長である『
木綿季も休憩として甘いミルクコーヒーを入れて貰っている訳だが、それを口にする度に目の前の男が『クッ…!』とコーヒーを飲みながら苦虫をかみつぶしたような顔をするので、正直言って鬱陶しいし飲みにくい。
「クッ…!やっぱりおこちゃまには俺のブレンドは早かったか。」
「お、おこちゃま言わないで下さい!」
「ブラックという人生の闇を飲み干せねぇ時点で、まだおこちゃまなんだよ。…嬢ちゃんも、掘り斑の坊主も。」
「え?普通に一夏はブラックですよ?」
「クッ…!男はヒドい目にあって、初めて大人に成長するもんだぜ…!」
普通に一夏はヒドい目に遭っていると思う。
SAOに囚われて、
IS学園に放り込まれて、
そこで何度も命のやり取りをして、
怪我をして、
生死の境をさまよって、
ヘタをしたら、もう既に一生分はヒドい目に遭っているかも知れない。
「そもそも、あの掘り斑が嬢ちゃんみたいな恋人を、大人の溜まり場にほうりこむなんざ…何考えてんだ?」
「う~ん、まぁ店長のこと、安心して預けれるって言ってたし、ボクも一夏の信頼する人なら大丈夫かなって、ここをバイト先に選んだんですよ?」
「クッ…!よせやい、テレちまうぜ。」
そもそも一夏と荘龍…イチカとゴドーの出会いはひょんなことだった。
何の気無しにGGOにログインした先に、そっとカフェを営むプレイヤーに、イチカは出会ったのだ。
それこそゴドーの営むカフェだった。
殺伐としたGGOで、こうしてカフェを営むプレイヤーに興味を持つのは必然かも知れない。
聞けばエギルのように、仮想世界と現実世界の両方でカフェを経営していると言うことで、益々興味を持ったイチカは、ちょくちょくゴドーのカフェを訪れるようになった。
コーヒーしか無いその店のブレンド。味覚エンジンをフル稼働させているかの如く、全てのブレンドは微妙に味が違う。コーヒーのその僅かな味の差異に引かれ、現実世界でも荘龍のカフェに足を運ぶようになったのである。
「クッ…!短い間だろうが、精々味わいな。オトナの、コーヒーの様に黒く、そして苦い世界を、な。」
(もちろん!オトナの世界を味わって、オトナの魅力を身に付けて、一夏を悩殺するんだから!)
目的を微妙にはき違えているような気がしなくも無い木綿季。
そもそも彼女が悩殺しなくとも、一夏は木綿季に惹かれているのは周知の事実なのだが、そこは割愛すべきだろう。
「クッ…!微妙に煩悩が感じられたが気のせいか?」
「え?き、気のせいですよ気のせい!」
「否定するこたぁねぇさ。煩悩ってぇのは、人間に与えられた人間らしさだぜ。煩悩といえば、俺もアイツと出会ったのは、5年前のあの日…6杯目のモーニングコーヒーを飲み干したときだった…。」
「え?ここで回想ですか!?」
「嬢ちゃんの煩悩に合わせて、俺の煩悩をさらけ出してやってんだよ。5年前のあの日!17杯目のモーニングコーヒーを飲み干したときの話だ。」
(え?さっきと数変わってないですか!?)
突っ込んではまた反論される。
ここは聞きに徹するしか無い。
恐らくは長々しい惚気話にになることは請け合いだろうが。
しかし、
ここで木綿季に女神が舞い降りた。
「うぇ……さ、流石にあのフランス料理店のランチは…ハズレだった…。」
「う…うむ……アレを食べるくらいなら…軍用レーションの方が何倍もマシだ…。」
顔を青くして項垂れながら入店してきたのは、木綿季のよく知る2人だった。
片や金髪のセミロング、片やプラチナのロングヘアに眼帯。
「あれ?シャルロットとラウラ?いらっしゃい!」
「え?木綿季?な、なんでこんなとこに?」
「クッ…!こんなとこで悪かったな。」
「ボク?バイトだよバイト!」
「ほう…何の気無しに入った場所でお前に出会うとは…奇偶だな。」
とりあえずお客様なので2人を席に誘導し、メニューを渡して伝票を取る。
メニューをしばらく眺めていた2人だが、読み進めて行くにつれて少々怪訝な表情を向ける。
「あの…木綿季?」
「ん?」
「ここって…コーヒーしかないの?」
「ないよ?」
何当たり前のこと聞いてるの?と言わんばかりに首を傾げる木綿季。
「さ、流石にケーキセットとかは…。」
「ねぇぜ。」
ゴクッと、荘龍は31杯目のコーヒーを飲みながら、シャルロットの問いにバッサリ異議を唱える。
「クッ…!男には1本の筋が通って魂を込められるもの…それがあれば良いのさ。」
「…つまり?」
「コーヒーだけで勝負ッてこと。」
荘龍節が理解できないシャルロットとラウラに、何となく理解というか翻訳が出来る木綿季が代弁する。この神乃木荘龍という男、例え話や揶揄が遠回りになって理解されないことが多く、こうして木綿季が訳しているのだ。
「クッ…!察しの良い奴はキライじゃねぇぜ。ブレンドのナンバーと味の趣向をメニューに書いてあるから、参考にして頼むんだな。」
確かにメニューには、酸味や苦み、香りの趣向に合わせて細かくナンバリングされており、コーヒー1つ取っても数十種類ある。ケーキセットの様なものを探すのに夢中で気付かなかったようだ。
数分ほど思考し、シャルロットとラウラはそれぞれ酸味、香りに重きを置いたブレンドを注文。荘龍は相変わらず『クッ…!』とか言いながらそれぞれの番号に合わせた配合のコーヒー豆を手早く挽き、ドリッパーで抽出していく。その手際に見とれていると、やがて喫茶店内に豊かなコーヒーの香りが漂い始める。
「ふわぁ……良い香り…。」
「そうだな。インスタントや缶コーヒーはよく飲むが、この香りはまたひと味違うな。」
「クッ…!嬢ちゃん達…わかってるじゃねえか。」
予め温めておいたカップに注ぎ入れ、ソーサーに乗せてカウンターに乗せる。
木綿季がトレイに乗せると、やはり『クッ…!』と32杯目のコーヒーを飲む荘龍を無視して、木綿季は友人達の下へと急ぐ。
「はい、こっちがシャルロット、こっちがラウラね。」
「クッ…!試させて貰うぜ…お嬢ちゃん達がオトナかどうかをな。」
なぜコーヒーを飲みに来てまで試されなければならないのか。
目を丸くしていると、木綿季が『無視しといて良いよ。』 と肩を竦める。
荘龍の言葉は気になるが、それはそれとしてもあれだけ豊かな香りを漂わせていたのだ。普段は砂糖やミルクを入れようとも、まずはそのまま飲んでみたいと言う意欲が2人に湧いてきた。
「い、いただきます。」
カップを顔に近付ける。
先程から感じていたコーヒーの香りが、より鮮烈に鼻腔を突き抜ける。
今まで感じたことの無い、挽き立ての豆ならではの香りに緊張しつつも、ゆっくり、そっと一口含む。
「…おいしい。」
「あぁ。確かに…今までに味わったことの無い…何というのか、香ばしい。」
「クッ…!挽き立てだからな。それがコーヒー本来の味って奴だぜ。」
確かにブラック特有の苦みはある。
だがそれぞれの酸味と香りが、自然と身体に染み入り、何の躊躇いも無く味わえる。そんな一杯。
「うん、さっきのフランス料理店に比べたら雲泥の差だな。」
「フランス料理?」
昼間っからフランス料理とはブルジョアなものだが、2人は代表候補生。ある程度の給金もあれば、ラウラはそれに加えて現役の少佐。それくらいの貯金は十分あったりする。
「クッ…!お嬢ちゃん達、『あの』店に行ったのかい?」
「あの店?」
一人話が見えない木綿季は首を傾げる。
生まれてこの方フレンチレストランの料理なぞ食べたことが無いので、尚のことだ。
「この近くにね?『
「…アレはヒドかった…あらゆる意味で。」
2人は思い出していくうちに、眼のハイライトが消え失せていく。
フランス料理店吐麗美庵
ゴドー・カフェからそう遠くない位置に店を構えるフレンチレストラン。
一見普通のフレンチレストランなのだが、
内装がフレンチレストランらしからぬファンシー且つショッキングピンク。
店の端々から香るアロマの香り。
極めつけは店長と、その料理だ。
店長は
ここまで聞けば、聞こえは良いだろう。
だが男だ。
そのルックスは40手前のムッチリとしたオッサンがピンクでノースリーブのコック服に身を包み、カールした髪や顎髭を蓄えている。その強烈なインパクトは、二人に決して小さくない衝撃を与えていた。
そして二つ目の料理。
フランス料理と聞けば、繊細で奥深いものとイメージするだろう。
だが彼の料理は
本格的な変化球を追求した味
なのだ。
ちょっとした変わった変化球の味ではない。
本格的な変化球
である。
メニューを見ても、料理名は
『オマール海老とアワビのフリカッセバルサミコ酢風味のなにか』
という、一見高級食材を使っているようなニュアンスであるが、実際は使っていないらしく、消費者センターから突っ込み待ったなしの内容なのだ。
そんな強烈なフランス料理を味わった…否、味わわされてきた2人は、その店で食後にコーヒーを頼んだのだが、例に違わず…その味は想像にお任せする。
「クッ…!あの店のコーヒーは、一口飲む価値はあるが、それ以上の価値はないぜ。」
荘龍は想像しただけで、また苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべる。味を思い出してしまった口直し、と言わんばかりに、33杯目のコーヒーをごくごくと飲み干していく。
「…まァ、あの店の尻拭いってェのも少し癪だが、あの店を選んだ嬢ちゃん達の不幸を偲んでそのコーヒー…奢っちゃうぜ。」
「え、えぇっ!?そ、そんな、悪いですよ!」
「クッ…!その代わり…また来てくれたら良いだけだ。お友達でも連れてな。」
「わかった。ならば次回は教官に声を掛けてみよう。確約は出来んがな。」
「クッ…!期待してるぜ。」
「…2人が悶絶するほどの料理…。」
本場の人間が言うからにはよっぽどのものなのだろう。
怖い物見たさに、今度一夏を誘って行ってみようかな。
ぶつかってみなくちゃわからない。
そんな彼女のポリシーにより、ちょっとした事件の蕾が、木綿季の中で芽生えてしまったのは不幸としか言えない。
「ありがとうございました~!」
西日が差し掛かる時間。木綿季や荘龍との談笑をしながら彼の淹れたコーヒーを味わったことで、吐麗美庵でのダメージを癒した2人は、足取り軽くゴドー・カフェを後にした。丁度店じまいの時間なので、2人を見送った後に木綿季は店のオープンプレートをクローズに裏返しておく。
「クッ…!嬢ちゃん、今日はもう上がって良いぜ。」
2人の使用したカップを洗いながら、荘龍は木綿季に終わるよう促した。
まだ店の後片付けが終わってないのに、と首を傾げる彼女を尻目に、荘龍は本日40杯目のコーヒーに口を付ける。
「クッ…!今日はお前さん、買いに行くもんがあるんだろ?…早くしないと遅くなっちゃうぜ?」
「え?で、でも片付けまでが仕事だって…。」
「クッ…!片付けまでして、買い物行ってたら、掘り斑が心配するだろうが。お子ちゃまが1人で、コーヒーみてぇな暗い夜道を歩くもんじゃねぇぜ。それに、俺が良いって言ってんだ。…行きな。」
「荘龍さん…ありがとうございます!」
彼の気遣いを不意にしないよう、足早にスタッフルームまで走る木綿季。
「嬢ちゃん!」
横薙ぎに投げ付けた何かを、木綿季は振り向きざまに何とか受け止める。
それは茶封筒。そこそこの重さがある。
「御駄賃だ。持ってきな。」
御駄賃…と言うよりバイト代だろう。
「あ、ありがとうございます。」
「クッ…!良い買い物しなよ、木綿季。」
「…!ハイッ!」
名前を呼ばれたことが余程嬉しかったのか、バイトの疲れなどどこ吹く風と言わんばかりに、花が咲いたような笑顔と共に、弾けるような返事でスタッフルームへと姿を消した。
「…クッ…!これが若さかよ。」
30代という微妙なお年頃で、荘龍はそうごちて、コップのコーヒーを飲み干した。
「苦ぇ…。俺もまだまだ青いってことかよ。」
「一夏!」
時は進み、夕飯が終わった織斑家。
洗い物をする一夏に、木綿季は声を掛ける。
「ん?どうかしたか?」
「あ、あの…ね?その…。」
洗い物の手を止めて、彼女の話を聞こうとするが、件の木綿季はモジモジと手を後ろで組んで何か言いたげだ。
「えと…んと……!」
どう言えば良いのか。
いつもは色々一夏にして貰ってばかりのお礼と思ってバイト代をつぎ込んだ。
いつもならサラッと言えるはずなのに、どうして意識するとこんなに恥ずかしくて、緊張してしまうんだろう。五月蠅いくらいに心臓がバクバクしてるし。
「木綿季、大丈夫。深呼吸して。ゆっくりな。それからで良いからさ。」
「う、うん。すぅ~……はぁ~……。……よし!」
一夏の気遣いによって、気を入れた掛け声と共に、心に勇気が湧いてくる。
幾何か落ち着いた心臓により、頭の中が少しばかりクールになってきていた。
そうだ、頭はクールに、心は熱く。
誰かがそう言っていた。
「あの、これ…。」
スッと差し出されたのは、とあるテーマパークのワンデイフリーパスだ。全国的に人気があるらしく、日本各地からここを訪れるために足を伸ばすほどである。
「これ、どうしたんだ?」
「ば、バイト代を…その…使ったんだ。一緒に行きたくて。」
「なんだ。行きたいんだったら言ってくれたら連れて行ってやるのに…バイト代は木綿季が好きなものを買うために…」
「こ、これが欲しかったの!…ボク、思い返したら何処か遊びに行くにも、一夏に連れて行って貰ってばかりだし…。だから、ボクの方からこうして一夏を誘いたかったの。」
「木綿季…。」
「だから…一夏。ボクと一緒に…行ってくれますか―?」
これは木綿季からのお礼と、そしてデートのお誘いだ。
自分のために彼女は働いて、そのお金を使ってくれている。
ここはYesと言う選択肢以外は無いだろう。
「あぁ、有り難く御一緒させて貰うよ。」
そんな一夏の返事に、ぱぁっと向日葵のような笑顔を咲かせる木綿季。
一夏としては、これだけで十分過ぎるお礼だった。
「…で?まるほどうは事務所を継げそうかい?」
日も沈んだゴドー・カフェ。
2人用のテーブルで荘龍と、彼より少し若い女性がコーヒーを飲み交わしていた。
黒のピッチリとしたスーツ。襟首には弁護士バッジを付け、首からネックレスのように下げた勾玉の様なアクセサリー。腰までの茶掛かった黒髪と合わせて、誰もが振り向くであろう美貌を醸し出していた。
「えぇ。まぁ法廷じゃ相変わらず綱渡りな感じだけど。でも大丈夫そう。」
「そうかい?俺からしてみりゃ、まだまだお前さんがいてやらにゃならねぇように見えるがな。…ハッタリの勢いは認めるが。」
「ハッタリも1つの戦略よ。危なっかしいのは変わりないわ…けど。」
「けど、なんだい?」
「あの子が一緒だからね。2人で力を合わせて、何とかしていけるって、そう思えるのよ。」
「クッ…!そんな曖昧な…。」
「あら?女のカンって、よく当たるのよ?」
そう荘龍を一蹴し、彼の淹れてくれたコーヒーを一口含む。
相変わらず、今飲みたいブレンドを淹れてくれる細かな気遣い。
ハードボイルドで、ちょっとキザだけど、そんな彼に、彼女は惹かれたのだ。
「成歩堂くんが一人前になるまで…もう少しなの…。だから…一人前になったら、事務所を譲って…その時に、あの返事をしたい。」
クッ…!と荘龍が笑う彼のポケット。
彼女に会ったときにいつでも渡せるように、1つのケースを忍ばせてある。
その中身は指輪。
「いいぜ。…俺はいつまでも待ってる。コネコちゃんが得心するまで、まるほどうをしごいてやんな。」
「あー!またコネコちゃんて!もう!私はもう新人じゃないんですからね!」
「そう癇癪を起こすから、いつまでもコネコちゃんなんだぜ千尋。」
夜はコーヒーのように深く、黒く更けていく。
2人の婚約者の夜はまだまだ長い。
ちょっと長くなった。
ちなみに
柄の悪い客が来るイベントを考えてました。
で、
木綿季がブチ切れてアホ毛を抜く
↓
オルタ化
↓
大暴れ
そんな流れです。
元ネタは…知ってる人居るかな。
円夏が一夏を呼ぶ時の呼び方は?今後の小説に反映されます。
-
にいに。
-
お兄ちゃん。
-
兄さん。
-
兄貴。
-
一夏。