インフィニット・ストラトス~君が描いた未来の世界は~   作:ロシアよ永遠に

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ギリギリ!間に合った!


木綿季誕生日記念短編

その部屋にはとんでもない重圧が掛かっていた。

と言っても物理的な物ではない。ただ、そこに居るだけでプレッシャーやら威圧感やら。それこそフロアボス所かクォーターポイントボスを彷彿させる程の。

その部屋のど真ん中。ゆうに5、6人で使用できるテーブル。その傍らに立つ一人の青年がそのプレッシャーの原因だった。

無論、その青年はボスでも何でもない、ただの人間である。にもかかわらず、そんな雰囲気を出すことができるのは最早異常に近しいものだが、その視線はボスに挑む際の彼のそれと変わりなかった。そんな彼にとって、今その視線の先にある物は、下手をすればクォーターポイントボスを凌駕しかねないほどの物なのは変わりなかった。

額から汗がしたたり落ちそうになるのを手拭いで手早く拭う。

万が一、億が一、支障や不備があってはならない。それ程までのものと相対しているのだと、見て取れる形相だった。

 

「…なぁ妹よ。」

 

「何だ、姉よ。」

 

「アイツは…一体何と相対しているのだ?」

 

そんな彼が居る部屋を覗き込む二人。揃ってみればまるで双子の如く瓜二つ。千冬と円夏だ。

命の遣り取りをしているかのような彼…一夏。その理由が何なのか、千冬はわからないらしく、こうして一緒に覗く円夏に尋ねたわけだ。

 

「…アイツがあそこまでのめり込むもの…と言えば、十中八九、関係してくる奴がいる。」

 

「…??誰だ?ソレは…。」

 

「…そんなんだから27にもなって男の影が無いんだよ。」

 

「ヲイ…。」

 

未だ年齢=恋人居ない歴を絶賛更新中の千冬の急所を抉るかのような言い様に、思わず低い声が喉から飛び出る。

恋人が出来ない理由としては、やはり彼女の肩書きが猛威を振るっているのは間違いないだろう。世界最強の女ともあっては、世の男は釣り合いがとれないと思うばかりなのだ。

 

「木綿季だよ。」

 

「ん?」

 

今絶賛遊びに出掛けている、件の一夏の恋人の少女だ。

現在彼女は、明日奈や直葉に連れられてお買い物の真っ最中だ。一夏とのデートも勿論これ以上に無いくらい楽しいものだが、女友達とのショッピングも、今更ながら心躍るものと気付いた木綿季は、たまにこうして女友達と、時々円夏とも街へ繰り出していた。

しかし…ここまでヒントを出しておいてまだこの姉は気付かないのかと、内心、円夏は呆れる。

 

「今日の日付は?」

 

「5月23日だろう?それが?」

 

未だ気付かぬ駄姉に、クイッと顎でカレンダーを指す円夏。何のことかと見て見れば、5月23日の予定に何か書いてある。目を細めて、じっと見てみれば…。

 

「あ……。」

 

「漸く気付いたのか。…さては忘れていたのか?」

 

「い、いや。そんな事は無いぞ、全く。うん。」

 

「そうか。ならプレゼントは…」

 

「あっ、そうだ(唐突)今から少し山田君と出掛ける予定があったんだ。…済まないが留守番しておいてくれ。」

 

手早く自身のバッグやスマホを引っ掴むと、焦りながら上着を羽織り、まるで飛び出すかのように家を飛び出す千冬。

 

「…やはり忘れていたか。」

 

そんな姉の後ろ姿に、円夏は思わず肩をすくめる。

 

「…一夏、飾り付けの件だが…」

 

円夏も円夏で今日の主役を祝福すべく、1つ年上の兄と共に追い込みを掛けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい木綿季!お誕生日おめでとう!」

 

ダイシーカフェにて。

SAO帰還者の関係者にとっては溜まり場となりつつあるこの店で、お茶を交えながら木綿季はプレゼントを渡されていた。

いきなり渡されて、へ?と目を丸くしている本人に、明日奈達は少々戸惑う。

 

「えと…今日って、木綿季の誕生日よね?5月23日…。」

 

「えっと…あっ!うん!そう!そうだったね!すっかり忘れてた!あはは…。」

 

うっかりしてましたと言わんばかりに苦笑い。

当の本人がこれなのだからプレゼントを渡した明日奈も、思わず苦笑いが伝染する。

入院中の木綿季にとってみれば、誕生日はただ歳を重ねるだけの日でしか無かった。唯一、主治医の倉橋医師が祝ってくれてはいた物の、やはり虚しく心に響くだけの物だった。

だがこうして外の世界を謳歌し、木綿季にとって何気なく過ごす日々が輝いていたため、誕生日という、何の気無く過ぎ去っていた日が、特別な日たらしめるように改めて認識させていた。

 

「全く、当の本人が忘れてるんじゃ世話無いな。」

 

「でもまぁ、サプライズへのちょっとしたスパイスになって良かったんじゃない?」

 

呆れるのは箒。結果オーライと評するのは直葉だ。

特技がお互い剣道、と言うことで意気投合した2人は、時折出会うほどの間柄となっていた。もっとも、2人での出掛け先は、剣道用品店という、女子力も何も無いところなのだが。

 

「てことは、忘れてたとこを見るに、さっき初めて今日が誕生日を知った感じかしら?」

 

ウーロン茶をすすりながら、鈴音が軽く探りを入れる。

 

「う、うん。そうだけど?」

 

「起きてから出掛けるまで、一夏にそれらしいこと言われた?」

 

「ん~…いつも通り…だったかも?」

 

「ってことは、一夏の奴、誕生日のこと忘れてんのかしら?」

 

唐変木再びかと言わんばかりに鈴音は呆れた声を出す。

恋人が出来たことでマシになったと思っていたら…。

 

「あ、でもなんか朝からケーキ焼いてたけど、関係あるのかな?」

 

「それよ!一夏君、木綿季にケーキを焼いてくれているんじゃないかしら?」

 

「良いわね。恋人の手作りケーキなんて、妬けるじゃない。」

 

「うむ、ケーキを焼くだけにな。」

 

喜色満面の明日奈と、リズベットこと里香の、ロマンチックな一夏の計らいにキャーキャーする中、ラウラはアプフェルショーレ(ドイツの炭酸リンゴジュース)をストローでチューチュー吸いながら、上手いことを言ったつもりのようにドヤ顔を決め込む。

 

「ら、ラウラ…ソレは流石に…。」

 

「ん?なんだ?日本ではこうして会話に駄洒落を仕込むのが風習ではないのか?」

 

「それ、中年男性が良く口にする、所謂親父ギャグなんだけど。」

 

「ふむ、長らく日本に居て、日本人に感化されたのかもしれんな。実に喜ばしい。」

 

うら若き少女が親父化して、それを喜んでいる本人はさて置くとして。

 

「でもうらやましいですね。恋人の手料理とかお菓子が食べれるなんて。」

 

「全くよ…独り身には想像つかないイベントだけどね。」

 

シリカこと珪子の年の割に少しマセた願望に、彼女の相棒兼姉御的ポジションとなっている里香は同意しながらも、恋人がいない自身にごちる。

そしてここにいる2人以外が同意の思いで頷いていた。

 

「一夏がフリーの時は、手料理をたまに食べさせてもらったけど…。」

 

「でもそれって、誰か一人のためじゃなくて、皆のため…なんだよね。」

 

「全く…恋人冥利に尽きるな?木綿季。」

 

「明日奈も、一度はキリトに料理振る舞って貰ったら?ご馳走してばっかりもアレでしょ?」

 

「お兄ちゃん、簡単な料理は出来ますから、頼んだら作ってくれますよ?」

 

「「あ…あはは…。」」

 

友人からの勧めに、ほんのちょっぴり僻みをアクセントにして、独り身の友人に周囲をブロックされて、時間は瞬く間に過ぎていくのだった…。

 

 

 

 

 

 

「わたくしも、恋人が出来たならば、是非とも手料理を振る舞って……」

 

「やめときなさい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『こちらサマーゼロ、ターゲット接近。距離、100。』

 

『こちらウィンターサウザンド。了解。各員、所定の位置に付け。フラッシュバンも用意し、臨戦態勢をとれ。』

 

『えっと…こちらサマーワン、了解。…てかこれ、必要なのか?』

 

『雰囲気作りだ雰囲気作り。わかったらさっさと準備しろ馬鹿者。』

 

『はいはい、わかったよちふゆね…あばっ!?』

 

『千冬姉ではない!ウィンターサウザンドだ!』

 

 

 

 

 

「たっだいまぁ~!」

 

自身に持たされた織斑家玄関の鍵を使い、意気揚々と玄関を開け放つ木綿季。

普段なら一夏が、時々円夏や千冬が出迎えてくれる暖かな家。

しかし、今日の織斑家は違った。

 

「あれ…?だれも…いないの?」

 

誰からの応じもなく、家の中はただ静寂の暗闇に包まれていた。

時間的には六時を過ぎ、日が沈みかけているため、家の中が暗いのは仕方ないだろう。

しかし、ここまで暗いというのもおかしな話だ。

リビングに続くドアすらも見えないなんて…。

木綿季を、得も知れぬ恐怖が包み込んでいく。

暗い家が、彼女を不安へと引きずり込む。

 

「い、一夏、円夏…?」

 

思い切って震える声で2人を呼べども返事はない。

 

「お、お姉ちゃん?」

 

思い切って世界最強を呼んでみる。しかし、返事は…ない。

何処かで液体のような何かが吹き出す音が聞こえたが、気のせいだろう。

得も知れぬ不安を抱きながら靴を脱ぎ、一歩、また一歩、廊下をゆっくりと進んでいく。

いつもの廊下はそれ程長いものでもないはずなのに、今日に限っては体感的に底知れぬ長さを感じる。

ごくりと固唾を呑んで踏み出した足。ひたひたと、靴下越しに木製のそれから伝わるヒンヤリとした感触が、余計に木綿季の不安をかき立てていた。

 

「へいき、へっちゃら、へいき、へっちゃら、へいき、へっちゃら…。」

 

じっとりと背中に嫌な汗が伝う。

ゆっくりと…しかし、早く明かりを付けたいと言うはやる気持ちを抑えながら。

体感時間として何分かかったかわからないくらいにゆっくりと歩き、ガチャリ、とリビングを隔てるドアを、これまたゆっくりと開く。

やはり、そのリビングも静寂と暗闇に包まれていた。

カーテンは閉め切り、電気すらつけていない。とてもじゃないが、日の暮れかけた時間帯の家の状況とは到底思えなかった。

 

「み、みんな…いない、の?」

 

真っ暗なリビングに問いかけても、自身の声が嫌に木霊するだけ。それが木綿季の不安を余計に駆り立てていく。

 

「う、うぅ~、と、とりあえず…電気電気…。」

 

手探りでリビング入り口付近の壁に取り付けられたスイッチを探る。大まかな位置は把握していたため、程なくしてプラスチックのそれが指先に触れる。

兎にも角にもこの暗闇を何とかしたい木綿季は、思い切ってそのスイッチを押し込んだ。

 

 

パチッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瞬間、

 

パンッ!パンッ!パンッ!

 

甲高い破裂の音と共に、自身の顔に何か細長い物がペタリと貼りつく。

 

「ひゃあっ!?」

 

電気は接触がアレなのか、何度かフラッシュのように点滅。それがまた木綿季の恐怖心を余計に煽ってしまう。

 

ややあって、

 

眩いLEDの光の下、照らされたリビング。木綿季の目の前には見知った3人が飛び出してくる。

 

『木綿季!誕生日おめでとう!』

 

再び、先程の乾いた音が、3人の持つクラッカーから放たれ、そこから発射された紙テープが、木綿季の頭に降り注いでいく。

何が何なのか…さっぱりわからない木綿季は、目の前の3人の顔をボーッと眺める。

3人共、パーティーでよく見かける三角錐の帽子を身に付けていた。

円夏と千冬は、それに加えてお揃いのヒゲ眼鏡をしているのは謎だが。…そして千冬のヒゲ眼鏡は血塗れなのだが、何かあったのだろうか?

そんな疑問符を浮かべる木綿季は、3人から見れば呆然と立ち尽くしているらしく、円夏が彼女の目の前を手で仰いでみる。

視界の変化にハッとしたのか、木綿季は意識を元に戻す。

 

「え、えと…。」

 

「流石に驚かせてしまったな。…少々やり過ぎだったのではないか?」

 

「何を言う。サプライズと言うのは、驚かせなければ意味はないだろう?現に軽く気を失うくらいの驚きようなのだ。大成功と言っても過言ではないな。」

 

どうやら発案者は円夏のようで、千冬の心配を余所に、未だに平たい胸を張って充足感に満たされている。

 

「た、確かに驚いたけど…でもこんなに暗くしなくても良いんじゃない?それにボク、ちょっと怖かったんだよ?」

 

「ちょっと?あれだけおっかなびっくりで?」

 

「……少し?」

 

「少し?」

 

「…そこそこ。」

 

「それくらいが妥当か。」

 

「ほら、そろそろ席に着こうぜ。…料理が冷めちまう。」

 

姉妹漫才を余所に、せっせと料理を運んでいた一夏。いつの間にかテーブルの上には、普段に比べて数段豪勢な料理の品々が所狭しと軒を連ねていた。

 

「わぁ…!」

 

その料理達が奏でている鼻腔をくすぐる香りに、木綿季は興奮して目を輝かせる。

唯でさえ大好きな一夏の料理、それがこんなにあるのだから、興奮するなと言う方が無理と言うものだろう。

早く食べたい一心で、いそいそと席に着く木綿季の姿を見て、3人共顔を合わせて苦笑いを浮かべる。

彼女に続いて千冬と円夏も席に着き、後は一夏を待つだけと言う時。

木綿季の目の前に、ドドン!という効果音がこれと言うほどに合うものはないと言わんばかりに置かれる。

 

「これ…ケーキ?」

 

「おう。俺の自信作。」

 

鼻の下を指で擦りながら、自身が手掛けたそのホールケーキを見下ろす。

その造形は見事の一言に尽きる。

クリームの塗り加減にムラはなく、イチゴも計測したのかと言わんばかりに均一の感覚で彩られ、

そしてケーキ中央にはホワイトチョコレートにチョコペンで達筆に、

『HAPPY BIRTHDAY YUUKI』

と記され、その傍らには自身の似顔絵と言わんばかりのチョコレートによるイラストが描かれていた。

満面の笑みでVサインしているこの絵…と言うよりもこのモデルとなった写真に、木綿季は覚えがあった。

 

「これって…剣士の碑の前で撮った時(本編17話参照)の…?」

 

「あぁ。…良く覚えてたな。」

 

「…忘れるわけ、ないじゃん。」

 

ある意味、ここから一夏と木綿季、2人の距離が急に近くなったと言っても過言ではない。あれから紆余曲折あって、こうして恋人として、家族として一緒の時間を過ごしているのだから。

 

「あの時、こうして一夏や円夏、お姉ちゃんと誕生日を祝えるなんて…夢にも思ってなかったよ。」

 

「そ、そうだな。だか、私はうれしいぞ。」

 

再びダクダクと鼻から赤い何かを噴出させている千冬は置いておくとして。

 

「これからは…毎年祝えるぞ。…それこそ、天命を全うするまでだ。」

 

「うん。」

 

「さ、木綿季、一息で消して見せてくれよ?」

 

こうして出会えた新しい家族。その暖かい家庭に包まれて、木綿季は目を閉じて思いを馳せる。

 

(パパ、ママ、姉ちゃん…ボク、皆と頑張って生きる…皆の分も、ここで生きるよ。)

 

目を開き、血の繋がった家族への思いを込めて、目の前で揺れるロウソクに、思いっきり息を吹きかけた。

円夏が一夏を呼ぶ時の呼び方は?今後の小説に反映されます。

  • にいに。
  • お兄ちゃん。
  • 兄さん。
  • 兄貴。
  • 一夏。
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