嘗て、うちは一族には木の葉の戦神と謳われた男がいた。木の葉の三忍である自来也、大蛇丸、綱手と同じ時代を駆け第二次、第三次忍界大戦で多大な戦果を残した英雄。戦いの天才と呼ばれたその男の活躍は伝説となって今も木の葉の里の内外まで響き渡っている。恐らくはうちはでありながら、第三次忍界大戦終了時で波風ミナトと並んで火影に最も近い人間の一人だっただろう。それは初代火影・千手柱間の代から続く一族の悲願であり、決して叶うことの無かった夢物語。彼が火影になりさえすれば古くから続く里とうちはの不仲も終わりを告げる筈だった。里の全ての期待を彼は文字通り背負っていた。
―――しかし彼は失敗した。
彼にとっては失敗では無かったのかもしれない。しかし、里の――うちはの血を重んじる者達にとっては大いなる失敗だった。写輪眼という固有の血継限界を持つうちは一族の中でも類稀なる才能を持っていた彼の遺伝子は受け継がれるべきものだった。同じうちはの手によって次の世代へ紡ぐはずだった。少なくとも里の上層部や一族の重鎮たちはそう望んでいた。
しかし彼は自らの妻にうちは一族でもその他の名家からでも無く、あろうことか何の血の力も無い平凡な女を選んだ。そして木の葉の英雄の血はその女によって穢され、彼らの娘に受け継がれた。
それこそが、木の葉の戦神の失敗。英雄である彼にとってその写輪眼を子へと受け継がせる事は義務だった。しかし、生まれたその少女が開眼する確率は限りなく低かった。
彼の犯した過ちはそれだけだった。しかし、たったそれだけの事でうちはの悲願はまた砕かれることとなる。
『血を穢したものに火影の座は任せられない』、それが当時の木の葉の決定だった。当然それはうちはが納得出来るものでは無かった。しかし、忍の世界にとって血継限界を持つ血の流れの意味を一番よく知っていたのは他でも無いうちはだった。結果的にその決定は覆る事なく、四代目は波風ミナトに決まり、一族の憤りの矛先は他でも無い英雄とその家族に向けられることになる。
戦争によって英雄となった彼は愛するものを自らの手で決めるというごくごく当たり前の事すら許されなかったのである。
期待を背負ったため、血の宿命、英雄に定められた呪い………そう、それは必然だったのかもしれない。
英雄に向けられた期待と羨望の眼差しはそのまま血を穢した事に対する嫌悪と悪意に変わり彼ら家族へと向けられた。同じ里の者達から迫害を受け、一族から破門され、毎夜のように暗殺者に狙われ、うちはの血が流れるがゆえに他里にすら出られない。そんな生活が続き、そして。
九尾が襲来したあの日、英雄は里から姿を消した。