「今日はスリーマンセルを組んでもらうぞ!」
イルカ先生の号令と共にオレたちは動き出す。スリーマンセル――つまりは三人一組だ。忍の基本的なフォーメーションの一つである。今日はこれで対抗戦でもやるのだろう。
アカデミー卒業後は一部の例外を除いてこれに指導役の上忍を加えたフォーマンセルで任務に就くことになるので卒業試験が迫った今ならではの授業と言えるだろう。
「よろしくな、相棒」
「俺達はいつも通りだな」
当然オレはユウキと組む。小さい頃からつるんでいるのでコンビネーションはバッチリだ。コイツと一緒なら不思議とどんな事でも出来るような気がする。出来る事なら卒業後も同じ班になりたいものだ。
問題はあと一人。スリーマンセルというからには三人集めなければならない。オレたちの他にフリーな奴を探さなければならない。
「クソ、こういう時はシカマルたちが羨ましいぜ」
恐らく最も手早く簡単に決まったのは奈良シカマル、山中いの、秋道チョウジの三人だろう。彼らは一族絡みの付き合いであり、そのチームワークは抜群……恐らくはあの組み合わせで卒業後もチームを組むのだろう。「めんどくせぇ」等といいながら二人のもとへ歩いて行ったシカマルに軽く殺意を覚える。
「まぁ、手早く出来たのはあいつらだけだしな。オレらは気長くいこうぜ」
「いや、そうもいかないみたいだぞ」
「ん……? ッな!!?」
ユウキの指を指した方向を見て俺は唖然とする。唖然としているだけでは収まらなかったので走り出す。
「キ、キ、キ、キバァ!! お前な、なんで!?」
「おう、トウマか。どうした?」
「何で犬臭くて誰も近寄りそうにないお前がこんなに早くチーム作ってんだよ!?」
「おい、いきなり失礼だな! お前!?」
そこには頭に子犬を乗せた少年――犬塚キバが他の二人を後ろに従えて勝ち組オーラを出していた。
「何でなんだよ! お前絶対選ばれないと思ったから最後らへんに憐れみを込めて誘ってやろうと思ったのに!!!」
「よし、お前の俺に対する思いはわかった。後で覚えていろ!?」
「キバにヒナタにシノか。中々面白いチームだな。というか『鬼ごっこ』か『かくれんぼ』ならまず勝てん」
俺とキバが醜い言い争いをしている中、ユウキは顎に手を当てながら感心するように何度も頷いていた。確かにキバはともかく、日向一族で白眼を持っている日向ヒナタと無数の蟲を扱う油目シノは索敵においてそれぞれ右に出る者はいないというレベルだ。このキバですら鼻
「クソ、想像以上にまずい」
ぶっちゃけオレとユウキのコンビネーションがいいと言ってもこの二組に二対三で勝てるというほどじゃない。どうやらオレたちはこの勝負を甘く見ていたらしい。
「ッハ! 勝負は戦う前からすでに始まっていた!?」
「何当たり前の事言ってるんだ? いいから俺達もそろそろあと一人探すぞ」
って言ってもあと残っているのはさっきから元気に叫んでいるナルトと女子に囲まれて三人組というよりはスポーツチームになっているサスケのところ位だ。
「ナルトは当たり前だけど却下。そしてサスケとその周りの奴もむかつくから却下」
「じゃあ、残っている奴いなくなったぞ?」
当然のようにユウキが突っ込みを入れてくる。だが、オレには見えていた。
「いや、まだ居る」
「お、おい、トウマ。そいつは……」
普段は有り得ないほど目立つ筈のその”音”を完全に消して、まるでそこら辺に落ちている石ころになっているかのようにしゃがんでいるそいつを見つけられたのは偶然だった。でも今はどうでもいい。他に候補がいないのだ。
「なあ、おい。いや、辺りを探すなって。お前だよ、お前。うちはスズネ。オレたちと組まねえか?」
第二話 初めてのスリーマンセル
「いってぇ! っていうか猪鹿蝶卑怯すぎだろ!」
いきなり組んだチームで全戦全勝!っという事は無くオレこと櫓トウマ、如月ユウキ、そしてうちはスズネの混成部隊は問題なく、そして順調に負け越していた。現在0勝負け数更新中。
「ご、ごめん」
うちはスズネがとても申し訳なさそうに頭を下げてくる。確かに彼女が自分から誤ってくるほど今日の動きは散々だった。一対一になれば確実に競り負け、うまく混戦に持ち込んでも真っ先に脱落してしまう。挙句の果てにさっきは自分の忍具を不注意でばら撒いていた。
ただ、それはこっちにも問題があると言える。オレとユウキの二人なら何とか互角以上に戦えるいや、戦えてしまうのだ。だから必然的に彼女は孤立して真っ先に狙われてしまう。その後三対二になってしまうのでオレたちもジリ便に……というのが大体の負けパターンだ。
「いや、お前が謝る事ねぇよ。確かにあのキバ達に負けたのは悔しいけど本当に倒すべき敵の前にオレたちの弱点がわかってよかった。なら、いくらでもやりようはある」
このチームの課題は盛りだくさんだ。だが、敵を知り己を知れば百戦危うからずともいう。自分達の弱点をこれまでの戦いで知った今、これから先の戦いに負けは無い。
「負けから学ぶ……か。フ、トウマお前も成長したな」
流石相棒。
ユウキもオレの意図が読めたようだ。子供の成長を喜ぶように頷いている奴にニヤリと笑い返す。
このチームの弱点を知った今、オレたちがとるべき戦術は一つ。
「要するに、オレが前に出て敵を全員倒す! これしかねえ!」
「すまなかった。お前に期待した俺が馬鹿だったよ。そういえばお前作戦立案とか苦手だったな。本能で動きすぎだよ」
「うるせえお前も似たようなもんだろうが!」
因みに、ユウキは細かく考えすぎて結局実行に移すころには状況が終了している事が多いというオチ。こういう時、普段はめんどくさがり屋だが同期で間違いなく一番頭の回りが早いシカマルが居てくれればいいんだが、今回は敵だ。現実は非情である。
「え、えっと。取り敢えず私はどうすればいいのかな?」
一人だけ全く状況を理解できていないスズネが困ったように頭の鈴を鳴らして首を傾げている。
正直、数合わせで選んだという都合上こいつに期待する事はあまりないのだが、それは言うまい。精々怪我しないように離れて見ててくれればいい。
「お前はオレたちを援護していてくれればいいよ」
「援護?」
「ああ、今迄は連携できるか色々試していたけど次の相手にはそういうのは無しで生きたいんだ」
オレたちはこれから戦う相手に常に負け越している。オレは日頃から、ユウキは表立って挑む事は無いがアカデミーでやり合うチャンスがあればこれ幸いと挑み続けている。言うなれば宿敵だ。結果はボロボロだが今日こそそのツケは返す。
そう、この勝負は日頃から負け続けているオレたちのリベンジマッチでもある。
「勝負だ! サスケェ!」
長年の宿敵を前にしたようなテンションでサスケに向かってビシッと指をさす。うちはサスケ――オレがライバルと認めてやってもいいと感じるほどの才能を持つ男だ。アカデミーでの生活の影には常にこの男がいたと言っても過言ではない。あらゆることを平均以上どころか完璧にこなすコイツにはやはり卒業前に挫折というものを味あわせてやりたい。それがコイツの為でもある。ほら、挫折を味合わないで大人になるとちょっとしたことで落ち込んでニートになるってよく言うじゃん?
「長年の恨み晴らさねば」
「本音出てるぞ。本音」
「五月蠅い今日こそ奴に勝つチャンスなんだ! ほら、見てみろよあっちのチーム。オレらよりヒデェことになってるぜ」
当たり前のようにセンターポジションにいるサスケの両隣を見る。あいつのチームメイトはナルトとサクラだった。
ナルトは言わずと知れた実力で認められるところといえば打たれ強さしかない。というか打たれ強さはかなりのモノなので認めてやってもいい。打たれ強さナンバー1忍者のオレが認めるレベルだ。
サクラはサスケの取り巻きの一人で勉強こそ出来るが体術も忍術もくノ一としては平均レベルでしかない。得意の怪力もサスケの前ではぶりっこが入っているので殆ど使わないと来ている。
つまりこの勝負、実質二対一。例えスズネがまともに戦えなくてもオレとユウキがサスケにさえ勝てばどうにでもなると言う事だ。
「貰ったな。グヘヘヘ」
「最近お前の考えていることが手に取るようにわかって困ってんだけど……なにこれ超能力?」
「今度はちゃんと頑張らないとッ……」
「行くぜ! サスケェ!」
イルカ先生の開始の合図と同時にオレは駆け出す。先手必勝、まずは相手の出鼻を挫く。
「走り出したら止まらないぜ!」
地面を蹴り、跳躍する。目標の真上を取ったところで俺体を車輪のように回転させる。
「必殺!大・切・断!」
そのまま目標に向かって回転による力を利用したかかと落しを喰らわせる。
「どりゃァ!」
「グへェ!」
確かな手ごたえを感じる。今しがた考え出したオレのこの『必殺!大・切・断!』をまともに受けて立ち上がれた者はいない。フッ、この勝負一手で決まったな。
「ん? グへェ? サスケにしてはずいぶんな断末魔だな――ってナルト? なんでお前がここに!? もしや変わり身か?」
驚くことに俺の『必殺!大・切・断!』の下敷きになっていたのは黄色い髪をした人物――つまりはうずまきナルトだった。
「トウマ……酷いってばよッ!」
「ナルトッ! オレと同じくサスケに対抗するものであるお前があいつを庇う訳が無い。いい、みなまで言うな! あの極悪、卑劣、冷血漢に身代りにされたんだろ? 大丈夫だ仇は取ってやる」
「アンタが勝手に突っ込んでいったんでしょうが……」
サクラの冷静な批判を無視して再びサスケに向き直る。
「やいやいやい、サスケテメェよくもナルトを盾にするなんて卑怯なことしやがって! さっきから黙っているが何とかいったらどうだ!」
「ピーチク、パーチク、良く鳴く奴だな。っていうかお前誰だ?」
サスケの一言それで俺の怒りの臨界点は越えた。
「テメェ! オレの名前も覚えてないってのかぁ!」
「あ、おいトウマ! この馬鹿ッ!」
後ろからユウキの声が聞こえてきたのも無視してオレは再び飛び掛かる。今度こそコイツに俺の必殺技を決めてやる。
しかし、オレの決意とは裏腹にサスケの浮かべた表情はもう何度見たかもわからないムカつくあのニヤケ顔だった。
「まさかこんな簡単な挑発に乗るとはな……そんなんだから単細胞って言われんだよ、トウマ!」
「な、お前しっかりオレの名前憶えてんじゃねえか!」
「火遁・豪火球の術!」
次の瞬間オレが見たものはサスケの口元から出た人一人分くらいは確実にあるであろう巨大な火の玉だった。
(全く、トウマの奴また突っ込んで行っちゃったよ。あんなあからさまな罠に引っ掛かって……しょうがないフォローするか)
しばらく状況……主に勝手に突っ込んでいったトウマの活躍?を眺めていた俺はあいつがサスケによって文字通りの火達磨にされたのを見てから動くのを決める。
戦況は完全にこちらが不利だろう。唯一与えたナルトへのダメージも恐らくはもう回復している頃だし。
ナルトはこのアカデミーでも1.2を争う打たれ強さだ。正直全員に均等にダメージを与えた場合サスケよりコイツが残る可能性が高い。サクラは全くの無傷……これはトウマが性格的に女子にはあまり手を出さない事から予想済みだ。サスケやナルトに比べると尖った点は無いが持ち前の頭の良さや意外な怪力を発揮されるとかなり厄介だ。サスケは……火遁を使った影響で多少チャクラに乱れがありそうだが、流石というべきか特に疲弊している様子はない。
「よし、そろそろ行ってくるわ」
隣で呆然と戦況を見ていたうちはスズネに向って言う。
「あ、アレ大丈夫なの?もう、リタイヤじゃ……というか早く火、消さないと」
恐らくはいつまでも火が消えず、キャンプファイヤーの様になっているトウマの事を言っているんだろう。そうか、この中で知らないのはスズネだけか。俺やナルト、サスケなどの男連中は勿論。よくサスケと一緒にいてあれを目撃するサクラにはすでに周知の事実だが、スズネはめったにサスケに近づこうとしないのでなかばアカデミーで名物になっているあれを目撃する機会は少ないだろう。
「大丈夫だ。トウマはあれでもここじゃ1.2を争う耐久力だ。俺的には断トツだと思うがな」
「い、いや、耐久とかじゃないよ!あれ!」
「心配はいらない。あいつはちょっとの事じゃビクともしないよ。俺も同じだ。ナルトはトウマと同じで女子より俺らを狙うし、サクラはサスケの活躍を見るのに夢中だ。だからお前は安心して見てればいいよ」
「う、うん。ありがとう………ヘェ、大丈夫なんだ」
後ろ手に手を振って俺も戦場へと赴く。ただ、スズネの発した最後の言葉だけが微かな不安となって耳に残り続けた。
「必殺!火遁・火達磨の術」
「馬鹿かコイツ……」
「うわ、トウマってば、こっちにくんなってばよ!」
精神滅却すれば火もまた涼し……身体中を燃やしながらオレは敵へと迫る。この場合敵は勿論サスケであって、ナルトではない。あいつは何故か毎回オレの進路上にいるだけだ。
「火達磨パーンチ!」
文字通り、炎を待っとった拳でサスケへと殴りかかる。
「この炎は元はお前のもの!今からお前は自らの出した炎で焼かれるという最高に屈辱的な負け方をするのだッ!」
「お前やっぱバカだな。それ何回も破られてるってこと忘れてんのか?」
「俺のこと無視するなってばよ!」
「くっ、挟み撃ちか!」
前方にはサスケ、後方にはナルト、絶対に意図したものでは無いだろうがオレはいつの間にか奴らに挟まれる形になっていた。
しかし、焦る必要はない。これは元々チーム戦あちらがそうであるようにこちらも一人ではない。
「トウマ、行くぞ!」
「ま、結果オーライってか。頼むぜ、相棒」
オレたちの頭上――空中からユウキの声が聞こえる。そう、これは全て最初から作戦だったのだ。
「氷遁・氷結弾!」
ユウキの付きだした手から大きめの氷の塊が射出される………オレに向かって。
「お、お前! なんでオレ!?」
「馬鹿か」
「どこに撃ってんだってばよ!」
サスケもナルトも自分に来ると思っていたのか味方に向けて撃ってしまったユウキを馬鹿にするように気にせず、オレへと向かってくる。氷塊を避けるしかないオレの隙に一撃を叩き込むつもりなのだろう。
「終わった……お前らがな!」
普通に当たれば痛いじゃすまない速度で飛んでくる氷塊を避けるんでは無く、炎を纏った全身で受け止める様に防御する。
最初からこれが狙いだった。火遁を好んで使うサスケと氷を使えるユウキ。残念ながら火遁を使えないオレたちがイルカ先生に頼んで練習していた必殺のコンビネーション。
「炎も氷もエネルギーという点では全く同じだ! ただそれがプラスとマイナスと言う事だけ!」
「プラスとマイナス――この二つがぶつかり合った時に起こるのはこれだ!」
これが、何度も挑んで負け続けても諦めずに勝つ方法を考え続けた成果だ。その名も、
「「氷炎遁・水蒸気爆破ァ!」」
オレのまとっていた炎とユウキの氷が正面から衝突し、周囲に白い霧がかかる。威力こそは無いが、めくらましには十分だ。
「ック!」
流石のサスケもこれは予想できていなかったようで視界を確保するのに手間取っていた。
「どんな天才でも初めて見る攻撃には戸惑う! うちはサスケここに破れたりィィ!」
そのスキを逃さずオレは霧の中を突き進み、サスケに向かって拳を振るう。
「サスケ君に何すんじゃこらァ!」
「な、サクラ!?」
突然現れた人影に今度はこちらが意表を突かれる。さっきまで完全に観客と化していた春野サクラが今オレの目の前にいた。
「しゃーんなろー!」
「グへェ!?」
その身体からは想像もできない一撃でオレの身体はノーバウンドで数メートル吹き飛ばされたのだった。
その光景をじっと眺めていた少女は一言、誰にも聞こえないような声で呟く。
「後、3分36秒」
初めての戦闘回なのに影が薄い主人公……
最初の内は副主人公であるトウマ目線が多いです。見る人によっては寧ろこっちが主人公なのかもしれない。