「それで、お父さん。お父さんはどこから来たの?」
私はエミヤさんを「お父さん」と呼ぶことにした。お父さんは一体何者なのだろう?「呪われた子供たち」ではないのにすごく強い。民警?そんなよくわからない人を「お父さん」と呼ぶなんておかしいよね。でも、このひとからはいつもみんなが私に向けていた憎悪とか、嘲りとか、嫌悪感といった嫌な感情が感じられない。お父さんといるととっても落ち着く。あの時、壊滅した街で感じた罪悪感にまみれた落ち着きなんかよりも何倍も何十倍も何百倍も暖かくて気持ちの良い落ち着き。何より、お父さんは私の「正義の味方」だもの。それだけで十分。
「はぁ、なんでさ、、、」
「ねぇ、お父さんってば、聞いてる?」
「なぁ、本当にそう呼ぶのか?」
「うん!」
お父さんは恥ずかしいのか赤くなっている。でも、やめるつもりはない。やっと手に入れた「家族の繋がり」。手放したくない。「お父さん」と呼んでいれば、その繋がりを感じていられるような気がしたから。
「私は、、、」
何かを考え込むお父さん。どうしたのかな?
『ドオォォォォ』
えっ?
すごくすごく小さな音、でも、聞き間違いようがない。この音は、あいつの・・・
恐い。
恐い、怖い、こわい、コワイ、コワイコワイコワイコワイコワイコワイ・・・・・
「ライブ!!」
顔をあげれば、心配したように私の顔を覗きこむお父さんの顔があった。
「おとう、さん?」
「どうした、大丈夫か!?」
「あいつが!あいつが、、、」
伝えなくちゃ。逃げなくちゃ。
「、、戻ってくる。」
『ドオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォン』
「逃げよう」という声は轟音で消された。
お父さんは止める間もなく家の外に行ってしまった。まさか、戦うつもり?無茶だ。止めなくちゃ。頭ではそう思うのに体が動かない。
ー一ーーーー嫌だ。やっと手に入れた「家族の繋がり」。掴みかけた「普通」の幸せ。手放したくない。
「っ、」
私は勇気を振り絞って駆け出した。
海上に黒い何かがいる。……間違いようがない、ゾディアック、キャンサー。
目の前には赤い大きな頼れる背中。その背中を見るだけでさっきまでの恐怖がうそみたいに霧散した。
「耳を塞いでおけ、ライブ。」
真剣なお父さんの声音に従い咄嗟に耳を塞ぐ。
どこから出したのかお父さんは黒い弓と捻れた……剣だろうか、鋭利なものを持っている。そして、お父さんは流れるように弓を構え、剣をつがえて、弦をひく。その一連の動きには一切の無駄がなく、あたかも一つの芸術のようだと思った。
赤い閃光が迸る。キャンサーとお父さんの間に赤い繋がりが生まれた次の瞬間……
海上に赤い花が咲き乱れた。
「綺麗………」
それからいくつも赤い光が走った。その間私はお父さんの姿の美しさに、放たれる赤い閃光の美しさに心を奪われていた。
特大の紅の花がキャンサーを包み込む。
先程までキャンサーのいたところには、ただ青い海が広がっているだけだった。
「お父さん!!!!」
目の前で、膝をつき、頭から倒れていく弓兵。
私はお父さんに駆け寄った。右手が彼の体に触れる。
「っ、」
熱い。お父さんの体が火のように熱い。
「お父さん!!お父さん!!」
何度も呼びかけるが反応がない。視界がぼやける。涙が溢れてくる。
「いや、だ、、、」
失いたくない。やっと見つけた温もりを。もう二度とあんな孤独は味わいたくない。
動揺してぐちゃぐちゃしてる思考を無理やり落ち着ける。運ぶことはできない。ならばどうする?
私は家に向かって走り、毛布と濡れたタオルを持って戻ってくる。毛布を地面に敷き、お父さんを転がしてのせる。お父さんの外套と鎧を外して服を脱がす。
「!」
浅黒い肌は銃創や切り傷でズタズタだった。この人は一体何者?そんな疑問が浮かぶ。だけど、頭をふってその考えを振り払った。
(この人が何者であろうと構わない。この人が私の正義の味方で、私の優しいお父さんであることは紛れもない事実なのだから。)
私は水で濡らしたタオルでお父さんの身体中を拭いた。お父さんの身体が異様に熱かったからだ。あっという間にタオルは熱くなってしまう。何度も家とお父さんの間を往復しては同じことを続けた。
「………お月様。」
いつのまにか夜になっていたらしい、お父さんがキャンサーと戦ったときから、かなりの時間がたったようだ。
お父さんの体の熱はやっと下がった。服を着せて、お父さんの体を毛布でくるむ。私は、もう一度タオルを濡らしてくるために立ち上がろうとした。が、
「あ、あれ?」
足に力が入らずにふらついてしまった。頭がぐらぐらして視界がぼやける。私は、お父さんの上に覆い被さるように倒れ、そこで気を失った。
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安らかな寝息が聞こえる。目前には漆黒の空と美しい満月が見える。
満月の夜か、あの美しく気高い騎士王との出会いを思い出す。寝息のする方へ顔を向けると幼きマスターが私に寄り添って眠っている。彼女を守ることができたようだな………
状況を把握する。どうやら、マスターが看病してくれたようだ。深刻な魔力切れを起こして気を失っていたと推測される。僅かながら魔力の込められた毛布と身体接触によるマスターからの魔力供給がよかったらしい。ふと、マスターの顔を見ると涙のあとがある。
何が守った、だ。私はまたこのマスターを泣かしてしまったようだ。正義の味方失格だな…………。
「んっ、、、、おと、うさん、起きたの?」
「あぁ、心配かけたようですまなかったな。もう、大丈夫だ。」
「っ、、よがっっだぁぁぁ!!よがっだよおぉぉぉぉぉ!!」
ライブはエミヤに抱きついて泣いた。
「そんなにみっともなく泣くな。綺麗な顔が台無しだぞ。」
「バカっ!すごく心配したんだよ!?……お父さんが死んじゃうかもって、また一人ぼっちになっちゃうんじゃないかって、、それでそれで、わたし、、わたし、、、うぅぅ、ヒクッ、うっ」
「・・・ねぇお父さん。わたしのこと護ってくれるのは嬉しい。大切にしてくれるのも嬉しい。でも、私もお父さんが大切なの。お父さんがいなくなったらとっても悲しいの。」
「ライブ…………。」
「だからお願いがあるの。………絶対に無理はしないで。私ね、お父さんが戦ってるとき思ったの。護った誰かのところに帰って、その人が"ありがとう"って言うまでが本当の意味で"護る"ってことなんじゃないかなって。そうじゃなきゃ、守られた誰かはきっと悲しんじゃう。」
「っ!」
「だから、約束して。絶対に帰ってくるって。」
「あぁ。約束しよう。」
「本当に?」
「あぁ、誓って本当だ。」
「んっ、」
ライブは小指をたてて右手をつき出した。
「どうした?」
「んっ。」
ふっ、なるほど。小さきマスターはゆびきりをご所望らしい。
私も小指をたてて右手をつき出し、私の小指をマスターのそれに重ねた。
「ゆ~びき~りげ~んまん、うっそつぅいた~らはりせ~んぼんの~ますっ!」
「ゆ~びきったっ!」
「約束したからね!破ったら、針千本のますんだからねっ!」
「ふっ、、なら、破ることはできないな。」
「むうぅ~。破るつもりだったの?」
そう言って、ジト目で見てくるライブ。
「い、いや、そんなことは、ない、ぞ?」
「しんようできないぃぃ!」
「絶対に破らない!信じてくれ!」
私は手を合わせ、頭を下げて必死で訴える。
「…………わかった。信用してあげるっ!」
「ふっ」
「くすっ」
「「ハハハ!アハハッ!アッハッハッハッハッハッハ・・・・・」」
「帰ろうか。」
「うん。」
「どうした?」
「手、、つなごう?」
「ふっ、ほら、」
「お父さん、」
「なんだ?」
「護ってくれてありがとう。」
「どういたしまして。」
赤い瞳と赤い弓兵をお読みいただき誠にありがとうございます。今回はどうでしたか?面白かったですか?後半はイリヤと切嗣のクルミの芽探しのような温かい雰囲気が出るように努めたのですが、出ていましたか?
設定を投稿しますので、見てみてください。