ポケットモンスター虹 ~夢見る六花~   作:白草水紀

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今回も瞬音様(@matatane0912)のリンカちゃんをお借りしてます。
タイトルにグレイシアいるけどまだ出てきません。調子乗ってたら長くなりそうなのでまた分けました……。

よく考えたら勝手に既知設定にしてしまいすみませんでした。何かあればご連絡ください……!


#6 VSグレイシア(前編)

「ここが、バトル練習フィールドだよ」

 リンカと男性に連れてこられたのは、大きな白い扉の前。重低音を響かせながらゆっくりと開かれる。

 突如、隙間から飛び込んでくる冷え切った空気。暖房設備は無いようで、ロッカの肌に鳥肌を作った。

「さて、と。ルールはさっき説明した通りだ、いいな?」

 揃って返事をした。灰色のホールに少女の声が反響する。

 男性は審判台に乗ると深呼吸。リンカはロッカの向かいのフィールドへ走って行った。

 ルールは三対三のシングルバトル。相手のポケモンを全て戦闘不能状態にした方が勝者となる。

「よーっし、容赦はしないよ、ロッカ!」

「……うん、わかった! 私だって負けない!」

「――それではバトル、始めッ!」

 両者同時にボールを投げた。ひゅんっという風を切る音、次に咆哮。

「お願いね、リオン!」

 リンカが繰り出したのは、リオンという名のリオル。軽やかに着地し素早く構えを取った。

「頑張ろう、ヘイル!」

 対してロッカが繰り出したのは、ヘイルと名付けたカチコール。フィールドに現れるなり辺りを見回し、ロッカの方を向く。

「大丈夫、私も頑張るから!」

 その力強い声に、カチコールも不安を振り切って小さな鳴き声を返した。

「リオン、先手必勝! 『はっけい』!」

 よく通るリンカの声が放たれた。リオルは脚にぐっと力を込め、そのまま目にも留まらぬスピードでカチコールに突進した。一瞬の間に目の前に現れたリオルに怯んだカチコールへ、思い切り掌を押し当てた。

 空気が揺れる。カチコールが勢いよく後方へと吹き飛んだ。

「うそっ……!?」

 図鑑を確認すれば、リオルがルカリオの進化前だとわかる。純粋なかくとうタイプから放たれる、タイプ一致の技。さらにこおりに強いとくれば、カチコールが大ダメージを受けたであろうことがひしひしと感じられた。

 ――このバトルはヘイルの初陣。初手にこれだけ痛い思いをさせてしまい、ただでさえ臆病なヘイルがまた立ち上がれるかどうか――。

 そんなロッカの心配はすぐに晴れた。欠けをたくさん作りながらも、カチコールはゆっくりと、そしてふらつくことなく立ち上がる。

「……いけるね?」

 ロッカの問いに、カチコールは闘志の燃える双眸を持って答えた。

「『アイスボール』!」

「かわして『かわらわり』!」

 連射された氷塊はリオルに命中することなく砕け散る。そのまま接近してきたリオルの腕を間一髪でかわした。人工のフィールドにヒビが入る。

(まずは、あのスピードをどうにかしなくちゃ)

 冷や汗が背筋を伝った。

 ロッカにとってはたった二回目の勝負だ。リンカは旅を始めてから随分経っているだろうし、PG隊員として活動もしている。彼女と同じ舞台に立つには、経験が足りないと言えば足りなさすぎるだろう。それでもロッカは、勝たねばならなかった。

「――ねえ、ロッカ。ちょっと思ったんだけど」

「えっ、なあに?」

「その……ヘイルくん? 普通のカチコールにしては、小さすぎない?」

 ロッカはきょとんと首を傾げる。リンカは記憶をたぐるように眉間に少し皺を寄せた。

「カチコールって普通、体長は一メートルぐらいあるし、体重も百キロ近くあったと思って――」

「ひゃ、ひゃひゃひゃ百キロ!?」

 頓狂な声にカチコールもびくりと身体を震わせた。リオルはリンカの方を向いて戸惑ったような表情を浮かべる。

「だ、だってヘイルは……私の膝よりも低いし、抱っこできたし、テーブルの上にも乗ってたんだけど……」

「どこで捕まえたの?」

「シャルムシティとフローゼス・オーシャンの間……おとといぐらいに捕まえたばかりなの」

 リンカは吃驚したようにため息をついた。その様子にロッカは若干の不安を覚える。

「この時期のカチコールって、まだ生まれたばかりの子が多いんだよ……赤ちゃんなんじゃない?」

「あ、赤ちゃん……!?」

(クレベース)は凶暴じゃなかった?」

「ううん、会えてないんだ」

 首を横に振った。リンカは「さすがに赤ちゃんはなあ」と苦笑する。

「まだバトルさせるのには早かったんじゃないかな」

 リンカはカチコールへ微笑みかける。その言葉の意味を理解したのかしていないのか、少し俯いた。

「……でも、私は――ヘイルの意思を尊重してあげたい」

 アルバの言葉を思い出す。トレーナーの主観だけで判断するのはいけない、と。

「ヘイルが戦いたいって言うなら、私はヘイルを戦わせてあげたい!」

 きっとリオルを、リンカを見据える。初めて見せたその真剣な顔に、リンカはどきりと息を呑んだ。

 キッサキシティで、ただ憧れていただけの少女は――もうどこにもいないのだと。

「……わかった。そっちがやる気なら……こっちも本気、出しちゃうからね!」

 顔を上げたヘイルと目があった。お互いを確認するように、大きく頷いて。

「手加減しないよ! リオン、『スピードスター』!」

 星型弾がカチコールめがけて放たれた。避けること叶わず直撃するが、大きなダメージにはなっていないようだ。カチコールはぴんぴんして身体中に冷気を纏わせている。

 いくらカチコールがまだ小さく軽いとはいえ、それを上回るリオルの素早さに追いつけるはずがない。ロッカは深呼吸した。

 つんと冷たい空気が、火照る感情と頭をひゅっと冷ました。

「『こごえるかぜ』で素早さを下げるよ!」

 冷気を乗せて思い切り吐き出した。フィールド全体へと拡散する息吹に、リオルは後方へと跳躍。身体についた氷の欠片を払い、『でんこうせっか』で間合いを詰めた。

 慌てて『こおりのキバ』で応戦するが、軽々と避けられ体当たりを食らう。

 ――当たらない。

 焦る気持ちを落ち着けるために、頰をぴしゃりと叩いた。

「ヘイル、『かたくなる』!」

 ピキピキと心地いい音を立てながら身体を硬化させていく。その隙にもリオルは『かわらわり』を振り下ろそうとした。

「――今ッ!」

 肉薄する腕目掛けて、『こごえるかぜ』を撃った。ゼロ距離で放たれたそれにリオルは直撃する。

「リオンっ!」

 白霧が晴れた後。リオルの身体右半分が、白い氷で埋め尽くされていた。内側から砕こうとしているのか、氷からはバキバキと音が鳴っていた。

「いくよ、『とっしん』!」

 リオルは正面から突進を食らう。氷が砕けるが、鋭利で硬い結晶の体から繰り出されるそれは、より大きなダメージを与えた。

 まだ十分に身動きのとれる状態でないリオルに向けて、カチコールは『こおりのキバ』で追撃。慌てて腕を交差させて防御態勢をとるが、氷がそれごと食い込んでいく。

「振り払って! 『はっけい』ッ!!」

 腕を大きく振り回してカチコールを投げ飛ばす。そのまま右腕に力を込めて駆け出した。

 カチコールへとその掌が届く瞬間。

 ぴしりと音を立ててリオルが静止した。

「そんな……凍った……!?」

 透明な結晶体がリオルを包み込み、凍り付いていた。動く気配は無い。『こおり』状態であった。

 ロッカはほっと胸をなでおろす。カチコールがとてとてとこちらへ来たので、抱きしめて頭を撫でた。その冷たさに一瞬身体を震わせるが、ロッカを少しずつ冷静に戻してくれた。

 下唇を噛みながら、リオルをボールへ戻す。そのままふう、と息を吐き、一気に吸い込んで目を見開いた。

「まだまだ! エンマ!!」

 視界の端に煌めきが映った。はっとして顔を上げる。熱が頬を掠めた。

 すらりと長い身体にこちらを睨む赤い瞳。そして何よりロッカを戦慄させたのは。

「……〝ほのお〟だ」

 口を閉じることができないまま、ぽつりと呟いた。

 背中に赤々と燃える火。あっという間にフィールド中が熱に覆われていく。

 カチコールの纏っていた冷気が一瞬にして昇華する。ロッカの額に汗が滲んだ。

 ――かくとうタイプよりも、はがねタイプよりも、いわタイプよりも。彼女が最も苦手としている〝ほのおタイプ〟。氷を砕かれるよりも溶かされる方が、考えただけでぞっとする。

 図鑑をかざしてもポケモンの名前――マグマラシしか解らないが、消えることのない背の炎や時折口から漏れ出す火の粉が、ほのおタイプだと自己主張しているようなものだ。ロッカは腰のボールへ手をかける。

「戻ってヘイル! 頼んだよ――グラシエ!」

 カチコールをボールへ戻し、代わりにタマザラシを繰り出した。

 タマザラシのタイプはみず・こおり。ほのお技のダメージは、カチコールやはがねタイプも合わさったサンドパンよりかは軽減されるはずだ。

 転がり出たタマザラシは、ホール内に走る緊張感をものともせず陽気に手を叩く。その様子に少し安心したロッカは深呼吸。眼鏡をかけなおし、臨戦態勢のマグマラシを見据えた。

 いくら若干タイプで有利とはいえ、こちらに不利なタイプ相性なのは変わりない。タマザラシだけでなんとか完封してしまわないと、リンカのもう一体いる控えにも対応できなくなるかもしれない――。

 ゆらめく赤が、ロッカを煽る。

「グラシエ、『あられ』!」

 頭上へ冷気を吐き出した。そのまま雪雲は膨れ上がり、白を降らせる。ぱらぱらと氷の粒がフィールドを埋め尽くした。

「そうはさせないよ! エンマ、『にほんばれ』っ!」

 突き刺さるように降り注ぐ霰を、身体を震わせ振り払う。ぐっと力を込め、炎球を発射した。

 煌々と燃え盛るそれは灰色の雪雲へと直進し大穴を空ける。そのまま雲は溶けるように消え、代わりに炎がロッカ達を照らした。その赤は、さながら太陽のようで。

 光が、熱が、タマザラシを貫く。その〝太陽〟に一瞬怯んだタマザラシへ、マグマラシは『かえんぐるま』を叩き込んだ。

 アイスボディで回復しながらの戦いは、どうやらさせてくれないらしい。

「こうなったら……短期決着、いくよ! 『みずでっぽう』!」

「かわして『えんまく』!」

 軽々と水流を避けたマグマラシは黒い煙を吐き出す。それは広がってタマザラシの周りを包み込んだ。もはや、内側(タマザラシ)からは何も見えない。

「畳み掛けて! 『つばめがえし』!」

 風を切るように黒煙の中へ飛び込む。タマザラシの悲鳴が聞こえるや否や、身軽にひゅっと飛び出した。

(――まずい。防戦どころか何もできない……っ!)

 焦っている間にも、マグマラシは次々と攻撃を与えていく。いくら耐久力の高いポケモンだとはいえ、攻撃を浴びせかけられ続ければ倒れてしまうだろう。

「……っ、グラシエ! 『ふぶき』!」

「この天気で当てられるかな!? 『つばめがえし』!」

「――ううん、当たらなくてもいいっ!」

 もう一度煙幕の中へ飛び込もうとしたマグマラシに、至近距離からの吹雪が直撃する。しかし、所詮はこおり技だ。大したダメージにならずに別方向から攻撃を仕掛けようとする。

「『ふぶき』を出しながら、回って!」

 ゆっくり、吹雪が回転した。場外ごと凍らせるような勢いで煙幕を吹き飛ばしていく。広範囲の可動する攻撃に対し、マグマラシは動くことができなかった。

「うそぉ……! そんな大技で……」

「こっちだって負けてられないっ、『ころがる』!」

「ッ!! 避けて!」

 助走をつけたタマザラシが転がりだす。もちろんマグマラシのスピードに追いつけるはずもなく、渾身の体当たりは空を切る。

「まだまだ! 転がって!」

 レーシングカーのようにきゅっと方向を変え、またスピードを増し始める。

『ころがる』はいわタイプの技――ほのおタイプであるマグマラシへの有効打。更に、当たるまでは威力が増加し続ける危険な技。

 まるで円を描くように転がり続けるタマザラシ。ついにマグマラシは、その円の中に閉じ込められてしまう。タマザラシのスピードはぐんぐんと増し、猛スピードでマグマラシの周りを転がる姿は残像を作り出すほどだった。

「いっけええええ!!」

 ロッカの声に合わせ、マグマラシの背後に回り込んだ瞬間に突撃。なす術もなく技を食らったマグマラシは一気に吹き飛んだ。

「『しおみず』!!」

 放り出されたマグマラシに大量の水が被さった。背中の炎が小さくなる。

「エンマ!!」

 ドサッと地面に落ちた。マグマラシの傷口が塩水で疼く。

 効果は抜群であった。苦しそうに立ち上がるマグマラシは、すぐにその四肢をフィールドへ投げ出した。背の火が、太陽(ほのお)が、消える。

「マグマラシ、戦闘不能! タマザラシの勝ち!」

 堂々とした審判の声が響いた。ほう、とため息をついて座り込む。

 技の連発に疲弊したのか、タマザラシも少し苦しそうに息をしていた。ありがとう、と呟いて抱きしめる。

「……悪いけど、切り札は最後まで取っておかせてもらうよ。いっておいで、リオン!」

 はっとして顔を上げた。

「そんな……だってさっき倒したはず……!」

「甘いよ! たかがこおり状態で、戦闘不能にさせてたまるか!」

 軽やかに飛び出すは、完全に氷の溶けたリオル。手負いとはいえ、その動きは未だ俊敏かつ力強かった。

 ふと思い出す。――審判は、戦闘不能のコールをしていなかった。

 慌てたように男性を見つめれば、ロッカの言いたいことを分かっているかのように頷いた。

「……よし、グラシエ、このまま行こう」

 ロッカの頷きに合わせ、タマザラシも真剣な目で頷いた。

「リベンジするよ、リオン! 『かわらわり』!」

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