またどこかでお会いしましょう、そんな言葉を残して彼の目の前に居た不定形の粘体が消えていく。
先程まで自分以外の存在が居たとは思えぬほどの静けさが辺りを包み、自分が一人になってしまったのだと強く実感させられた。
「今日がサービス終了の日ですし、お疲れなのは理解できますが、折角ですから最後まで残っていかれませんか――」
帰って来るはずの無い言葉、先程まで目の前に居た不定形の粘体に対する問いかけを漏らす。
ギルドに残った最後の一人は心の底から溢れ出たようなため息を残して自身の目の前にある円卓を見回した。
「あー、いやえっと……」
不意に聞こえてきたのは第三者の、ギルドと最後を共にしようと残ったギルドマスター〈モモンガ〉の物ではない声。
少し遅れてギルドメンバーがログインした旨を知らせるログが表示される
「ちょっとパッチ当てるのに時間が掛かってしまいまして、いやすみません、一年ぶり……でしょうか?」
一人きりの最後を迎えようとしていたモモンガの目の前には光を固めて人の形に押し込めたような体をもつ一体の異業種の姿があった。
彼女の名は輝盾〈キジュン〉、アインズ・ウール・ゴウン41人の一人だ。
「あ、いや。聞かれちゃいましたか?」
先程までの態度を隠し、恥ずかしそうに照れエモをピコピコと連打するモモンガに対し輝盾は笑顔エモで返す。
「ええ、まぁ、んんっ」
曖昧な答えを返した輝盾はひとつ咳払いをすると、モモンガの席の近くにあるギルド武器に視線を移す。
「そ、そういえば、未だそこに置いてあったんですね。最後の時だからモモンガさんが装備している物だと思っていました」
その言葉にモモンガは焦ったような声を出す。
「そんな!皆が丹精込めて造った武器ですよ!?自分の決定だけで装備するだなんて!」
「そうですか?最後を迎えるわけですし、私としてはあのスタッフオブアインズウールゴウンはモモンガさんに持って居て貰いたいと思うのですが……」
その輝盾の言葉にモモンガは少し迷うと席を立ち、スタッフオブアインズウールゴウンへ向かう。
手を伸ばせば絡み付く黒い怨嗟の靄のようなエフェクトが発生し、その作り込み具合に思わず苦笑を漏らしてしまう。
「そういえば、こんな機能も有りましたね」
その言葉に頷く事で返した輝盾も苦笑しながら言葉を返す。
「確か、ほんの少しだけデータ要領が空いたからって入れたエフェクトでしたっけ、あのときはどういったエフェクトを入れるかでギルドが割れましたねぇ」
「ハハハ、そうでしたね。結局皆それぞれで持ち寄ってどれが良いか決めたんでしたっけ」
「そうそう、結局はウルベルトさんのチームが用意した物に……おっと」
輝盾は言葉を途中で止めるとコンソールを使い現在の時間を確認する。
「もうこんな時間ですか、モモンガさん、折角ですからばーっと着飾って玉座の間で最後をって言うのはどうですか?NPCなんかも集めちゃって」
その言葉にモモンガは少し思案すると了承の意を返す。
「確かに、それも良いかもしれませんね」
「じゃあ、私も装備を取ってきますね。ええと他の皆と同じ場所に?」
「はい、宝物庫です」
「じゃあ急いで行ってきますよ、間に合わなくても笑わないでくださいね」
輝盾はギルドメンバーである証の指輪の力を使い、自らの装備を取りに宝物庫へ向かう。
その様子を見送ったモモンガも再び席を立ち、玉座の間に足を進めるのであった。