シャトーは暖かな空気に包まれていた。
「美味…これはまた才子のRc脂肪が…」
幸せそうな顔をしながら才子は夕飯をもぐもぐと口に運ぶ。
「そんなものねェよ。大体一日中部屋で遊んで引きこもってたらデブるに決まってんだろ」
「シラギン…お主まるでわかっとらんな。FPSは遊びじゃないのだよ!」
「知らねェよ じゃあなんなんだよ」
不知は、わざとらしい口調でいつものようにだる絡みする才子に一応は反応する。
「そうだな…吾輩にとって戦場《FPS》こそが帰る場所であり、そして何より恋のように激しく求めている場所…!」
「故にFPSは恋人…いや、片思いの想い人と言ったところか」
「あっそ」
不知は完全に興味がないようで「はいはい」と流す。するとそれが癪に障ったのか才子はFPSの魅力を滔々と語り始めた。
「あはは…」
柔和な笑顔を浮かべながらキッチンから戻ってきて椅子に座った青年は、Qsの指導者佐々木琲世だ。
染めたような白髪に頭頂部は黒髪。まるでごまプリンのようなへんてこな髪型をしている。
「そういえばママンには居ないのかい。そういう人。」
くるっと視線を向きを変え思いついたようにニヤッと才子は言う。いつでもその時その時で気分がころころ変わるのだ。
「え?」
突然の不意打ちを食らった琲世は目をきょとんとする。
「お、俺も気になるな。サッサンの色恋事情」
「え、ええ?」
困ったような顔をすると、2人はますますにやにやする。
「せ、先生にも言いたくないことあるだろうしさっ」
真面目な六月は困った琲世を見て擁護に回るがすぐに2人に篭絡されてしまった。
「うーん、異性として好きな人かぁ…」
琲世はしばらく「うーん」と唸る。
そして、おお…という期待が高まる中答えた。
「いないや」
琲世は顎を触りながら答えると、 期待された空気がぷしゅーと抜ける。
「ほんとほんと」
「吐いちまった方が楽になるぜサッサン」と不知は食い下がったが、あまりに堂々としていたためそうなのかな。と納得してしまった。
やっぱりなーという空気も弛緩し、「ほんとだってば」と繰り返す琲世に追求の手はそこまでしつこく追っては来なかった。
「忙しくてそんなこと出来ないからね、忙しいと言えば明日も鈴屋班に提出するナッツクラッカー探索草案のレポートの事なんだけど…」と琲世はするっと論点をすり替えると、そのまま明日の役割分担の話になっていった。
「さ、才子は、明後日から本気出すから明日は充電しときます…」
「何度目だよ、それ」
呆れたように突っ込む不知の声を背中に受けながら才子は、さっと逃げるように食べ終えた食器を下げに行く。
「あはは…」
と、引きつった笑みを浮かべながら、最近はもう仮病すらしなくなったね…僕のお説教が足りないのかな…情けなさそうに呟く。
しかし、本当は心の中では別の事を考えていた。聞かれた時一人のシルエットが脳裏に浮かんだあの人のことだ。
──こんなに綺麗な人がいるんだ、って、そう思ったひと。
名前も知らないあの人に、琲世はどうしようもなく惹かれていた。
×××
*琲世side*
喫茶店:Re。
「り」と読めば良いのか「あーるいー」と読めば良いのか未だわからないこの喫茶店に琲世は度々一人通っていた。
店の奥の方に座り「おいしいコーヒー」の本を開きながらコーヒーを飲んでいる。
「へー〝の〟字をね…」
ここは落ち着いた喫茶店だが、琲世の態度はなんだかそわそわしていて忙しない。
まるで初めてのデートの待ち合わせでもしているような初々しい雰囲気だ。
ところが残念この男。そんな約束は何も無かった。元よりそもそもデートなどした事が無い。
琲世は本で顔を隠しながら、奥で立っている店員に目を向ける。
そこには綺麗な女性がいた。
そう、度々喫茶店に足を向ける理由はそういう事だ。
しかしアタックするほどの度胸は無く、たまに彼女が話しかけてくれるのを待っているような残念さだった。
──ぼ…僕だってわかってるよ…僕とじゃ釣り合わないことぐらい…僕は見てるだけでも十分幸せなんだ…
そんな少々気持ち悪いことを思いながら、本に視線を戻す。
東京を守る為日々奮闘している喰種捜査官のその休暇は、思春期の中学生そのものだった。
×××
「興味あるんですか?」
突然声にビクッと肩がはねる。
声のする方を見ると、あの店員さんが片付けるコーヒーカップお盆の上に置きながら横に立っていた。
「本」
開いていたのは初心者向けのコーヒーの煎れ方本だったので、そこで質問の意図がわかった。
「あ、はい。家じゃ豆から淹れたことは無いから入れてみようかなぁって。それでシャトーの皆にも飲んでもらえたら嬉しいから」
「良いですね」
その店員は朗らかに答える。
「でも、家で煎れられるようになったらもう来なくなっちゃうんじゃないですか?」
「いやいや!来ますよ!気に入ってるので」
「それにここは僕の隠れ家的なスポットなのですから!」
両手をぶんぶんと振りながら、琲世は否定する。謎の必死の弁解がおかしかったのか、店員は笑みを零しながら「ありがとうございます」と言う。
「家でも気軽に入れられる道具というと…豆を挽くコーヒーミルと、ドリッパーとフィルターペーパー、お湯を注ぐ細口のポットと…」
「ちょ、ちょっと待ってください、メモします」
琲世は慌ててコートの内ポケットに入っているメモ帳とボールペンを取り出す。
「あと、コーヒーを入れるサーバー。と豆ですかね」
「思ったよりも色々多いなぁ…豆とかって種類のおすすめとかあったりしますか?」
と初心者丸出しの質問を琲世がする。
「……」
「…?あの…?」
「あぁ、どうせ今度買出しに行くし、付き合ってやろうか?」
「へ?」
「あ…」
店員はしまったとばかりに口を塞ぐ。しかし、一度口から出てしまった言葉は戻すことは出来ない。
琲世の方を見ると頬を紅潮させながら、「いいんですか!?」「あっ、あのでも…!」
とドギマギとしながらテンションが上がっている。
店員は苦そうな顔をしていたが、気付かず一人盛り上がっている琲世を見て、諦めたようにため息をついた。
「あっ…そう言えば…」
店員が琲世に視線を戻すと、琲世は目をそらしながらぽしょりと聞いた。
「お名前、なんて言うんですか?」
×××
*トーカside*
カネキ、いや佐々木琲世がこの喫茶店に来るようになってからしばらく経つ。
どうやらこの店が気に入ってくれたみたいで嬉しいとトーカは思っていた。
でも少し違うのかもしれないと感じ始めてもいた。原因である妙な視線に気がついたのは最近のことだ
「……」
ちょくちょくなんだかこっちを見てくるのだ。そしてその目線には見覚えがあった。
「へー〝の〟字をね…」
そんな懐かしい事を聞いたからだろうか、トーカはつい佐々木に話しかけてしまっていた。
「興味のあるんですか?」
突然話しかけられて驚いたのかビクッと肩がはねる。昔のカネキにそっくりでシルエットが重なり、このモヤシっぽさは変わらないなとトーカは内心で苦笑した。
あん時も良く質問してきたっけな。店長に押し付けられてただけだけど。コーヒーの事で質問され、トーカは自然と思い出す。
──そういえば、ニシキが行ってたからカネキは店長のお使いで豆買いに行った事無かったんだっけ。なら分からないのも無理ないか。
「あぁ、どうせ今度買出しに行くし、付き合ってやろうか?」
何の気無しにそう言ってしまった時、トーカは自分に驚いた。途中から完全にカネキと話している気でいたのだ。
──ば、馬鹿か私は!これじゃクソ山と変わらねえじゃねぇか!
「いや、えっと今のは…」
「いいんですか!?」
慌てて取り消そうとしたが、顔を真っ赤にして喜ぶ彼を見て今更無かったことになんて出来るはずも無かった。
×××
「…月山に顔向け出来ねーな。なぁ店長サン?」
琲世が喫茶店を出ると、店の奥から眼鏡の男が姿を見せた。
にやにやと楽しそうな表情を浮かべ、椅子にどさりと腰を下ろす。
「月山にはあんなこと言っといて自分はデートかよ」
トーカはあしらう様に「アホか」と答える。
ただその顔は完全に「やってしまった」という顔だった。
ニシキはその事が分かっているようで見透かすように言う。
「アイツは佐々木琲世で喰種捜査官だぞ」
「そんなことはわかってるよ」
「なら、いいけどよ」
ニシキは椅子から立ちカウンターの方へ回る。
「何が言いたいの?」
鋭い視線を感じながら、コーヒー淹れ茶化すように言う。
「ラブホでも紹介してやろうと思っただけだ」
「は、はあ?殺すぞクソメガネ!」
ニシキは罵倒を背に受けながら逃げるように店の奥へ戻る。
いつもの気だるげな態度とは違い、にやにやと楽しそうだった。
ニシキが消えると、トーカは一人カウンター席に座った。
この時間は、閉店間際で客も一人もいない。
「はぁーあ」
深くため息を着くと、ぼそぼそと一人つぶやく。
めんどクセーな。ったく。なんで付き合わなきゃいけねーんだ。バレないようにしなきゃな。あと、待ち合わせ時間か。いつもみたいに遅れるの辞めなきゃな。服は…どうしようか新しく買っちゃおうか。
「…馬鹿みたいだ。私は」
──こんな形でも、嬉しいなんて。
読んでいただきありがとうございましたm(_ _)m
久しぶりの投稿です。
東京喰種の二次創作は初めてでとても難しかったです。
批評や感想貰えると嬉しいです。