ノーソウル,ノーギフト   作:麻戸産チェーザレぬこ

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 アンチなんて無いと思ってた。
 あと、皆さんはショタが傷づくところが見たいのでしょうか?


 冗談でございます。
 お読みに来られた方々ありがとうございます。
 また、第二話のあとがきに『うた』のような物の意味を書かせていただきました。

 注意、この回は不愉快にさせると思います。


白夜の夢を極光に

 

 

 なぜ(よう)が白夜叉たちに襲われるのかを知るために時をさかのぼる。

 葉が箱庭に誘われてから、ハオは箱庭の南のある地域に顕現した。そこは、ハオにとって素晴らしい景色であった。なぜかと言えばハオは地球を司る王であるため、いわゆる〝この世〟の悲惨な、いい迷惑な、理不尽なモノ、もしくは人間たちが、良くも悪くも力によって命あるすべての者たちに恵を与える自然の破壊や文化が滅ぼされてゆくのを目にしていた。

 そのようなことがあるから、ハオは地球には無かった、又は、滅ぼされたそういった街並みを、微笑んだのだ。

 しかし、それは一転してしまった。

 一人の少年が、家族なのだろうか五人の亡骸の前で叫んでいた。

 

「こっこないで! 魔王!!」

「おいおい、僕は『魔王』じゃない。シャーマンキングだ。………手を、貸そうか?」

「ぼくだけで、いいっ――ぼくが、おくらなきゃ、……だめなん、です」

「そうか。ならば話を変えよう。誰なんだい? きみの抱きかかえる者たちを殺したヤツは? まぁその魔王なのだろうがどこの魔王なのかな」

「あれ」

 

 少年が指さしたのは街から三キロはあるだろうか、戦火が空を覆い、空に散っていく人の形をした者たち、そして怪物。

 

「あの場所のどこかにいるんだね。で、奴らは何をしている」

「……ギフト、げぇー……、む」

「へぇぇ」

「お兄さんは参加できないよ。条件満たしてないし」

「じゃあ、条件を満たしていないのに、もし乱入した場合、僕はどうなる?」

「ギフ、トっ。……っぐ」

 

 ハオは少年をなでる。

 

「すみ、ません。ギフトゲームは絶対なんです。ギフトゲームをおか、せば、お兄さんはギフトを抜かれるか、箱庭から抹消されます」

「そうか。つまらないことを訊いてしまったな」

 

 少年を撫でるのをやめ、少年の手に収まらないほどの宝石を渡す。

 

「こ、これは……!?」

「金がなくては生きてはゆけまい。ま、ギフトゲームに勝てば困らんのだろうが参加資格が金だったり、物であったりすれば、野たれ死ぬだけさ。ましてギフトゲームは絶対らしいからな。少年よ、君のそばで横たわる愛する人たち以外に頼りになる者も、(みな)あの戯れ事に参加しているのかい」

「………」

 

 弱弱しかった。

 少年は宝石を地面に置き、まっさらなギフトカードをハオに渡し、ハオの手に渡り、カードを見やれば文字やら色が浮かび上がり――ふむ、ハオは理解した。

 ハオは目線が同じになるようしゃがみ、少年のほおに、――ぱん――ぱんとした。

 ギフトゲーム会場の方角へ体を向ける。そして、振り向きざまに彼は言った。

 

「君のその魂をたたえよう……故に君の思い人を奪った奴らになるな………僕みたいに、道を……あまりはずすなよ。シャーマンキングとの魂の契りだ」

「……ありが―――とう、………………おにぃさ、ん」

 

 そっぽを向いて、ハオは、ギフトゲームへ飛んだ。

 そして、ハオはギフトゲームを終わらせた(・・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

「な、なぜだ!? なにをした!!!」

「見てわからないのか――っふ」

 

 

  ちっちぇえな

 

 

「素晴らしいと思った僕が阿呆だったよ。さぁ、ゲームは終わった。こんなちゃちなモン、二度とやるなよ。魔王ども」

「ふざけるなよ……てめぇ。こちとらルールを重んじてゲームを開き、あいつら参加者もルールを承諾したうえで命を落とした。ちっちぇえのは、むしろお前の方だ」

「ほう、命を粗末にするのをゲームだと、君たちは言うのか」

「は!?」

「それはゲームというんじゃあない――人間(ゴミ)というんだ。………まったく、まるでがん細胞を見ているようだな。さて、僕が勝者だ。お前ら、再度言おう。もうこんな下らねぇことするなよ? ギフトゲームは〝絶対〟なんだろ」

 

 十六夜よりも見下すハオ。

 

「そうですよ、ギフトゲームは絶対(・・)です」

「ふーん。きみたちが僕を抹消しに来たのかな。不届き者め」

「いや、それは貴女だと」

「『貴女』じゃない、しゃ」

「あ? あれよく見ると少年だ」

「『少年』じゃない――」

「お主の戯れ事はここまでだ。裁いてしんぜよう」

 

 ハオは降りてきた彼彼女らとは明後日の方向を見つめていた。

 

「お前たちは強い。それに僕はまだ消えるわけにはいかない。だからこっちも本気でゆこう。しかし、清き魂があるんだ。ここではすまい」

「では、場所をかえましょう」

「おっと、言い忘れていた。今は君たちの遊戯にじゃれてる暇は…………!」

 

 ハオの腕がもがれ、その手にはハオのギフトカードがあった。ギフトカードは腕ごと天の許にわたる。

 腕を引き裂いた彼が、ハオのカードを読んで驚く。

 

「こいつ、……!」

「その紙切れ僕はいらない。僕を馬鹿にしすぎだ。だが、その『うた』は僕たち(・・・)のだ…………!」

 

 な、なんと! 

 ギフトカードの一部がハオの無事な右手に還った!?

 魔王の配下の一人は言った。

 

「いみ、わかんねぇ」

「……おかえり。じゃ、これでさよならだ」

 

 そしてハオは逃げ去ったのだった。完璧に。

 

 

 

 

 

「―――という事件があったわけでございます。黒ウサギ様」

「うぇっへっへっへ……なるホロ――兄ちゃんらしいや」

「兄ちゃん、だと?」

 

 白夜叉の問いに――うん、と葉。

 

「ありえんの。それより、なぜおんしは腕をやられたというのに、そう平然としている」

「いやどう見たって今のオイラ痛そうに見えるだろ? なぁー逆廻」

 

 十六夜は答えない。

 それもそうだ。湖に落ちるとき、あいつはただバカしただけだった。そしてその目の前の少年(バカ)はあっちの世界にいた有象無象たちと同種の人間なのだ。又、他の二人のようになにかおもしろいモノを持っている気配もない。

 なぜ取るに足らないチビッ子が、あの和装な白ロリと店員と一戦交えようとしているのかが、気に食わない。

 

 ユルすぎる

 

 そのために気に食わなく、気づかない。

 

「……ふむ。さすがに、まぁそうだよなぁ。おそらくオイラってさ、お前ら三人がもっとも忌み嫌う人間なんだろ?」

 

 三人は沈黙する。

 葉がフツノミタマノツルギと春雨を仕舞おうとした時

 

琴温(きんおん)よ、こやつは私がやる。私の部屋でよい、黒ウサギたちを連れてけ」

「承りました」

「あ、あり? オ~イ、オイラは? オイラもギフト勘定してもらえるんじゃなかったのか」

「無い、さ。ではゆこうか…………私の盤上へ」

 

 白夜叉と葉は、消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、ではさっそくはじめよ…………!?」

 

 白夜叉が見たものは、エモノを雪原に置いてそこから離れた処に移動する葉であった。

 葉は手ごろな場所を見つけよっこらせと空を見上げた。

 

「おったまげた~まるでアイスメンのオーロラ北極天だなあ~。でっけえ白い山の背後に白い太陽――――んで澄みきってはいるがどこかに安らぎをもたらす淡くきらめく空――」

 

 白夜叉と葉の髪を揺らし頬をなでるひんやりするそよ風に――――葉の瞳に映る白夜叉が背に負う空は無数の星々がアーチ状にめぐる。

 んくぅ~~――葉の伸びは、見ていて気持ちがよい。

 

「いいなぁ~。オイラもしろやんみたいな能力あったら好きなときに、こうゆったりできんだろーな」

 

 白夜叉は扇子を下ろし口をぽかん――する。

 大きな愛嬌ある目をぱちくり、ぱちくりしては目をこする。あぐらをかきて余韻にひたるような葉を。

 葉に飛びかかった。あの時よりも鋭く、葉を狩る!

 

「なぜよけん」

「なんとなくだが、オイラより強いだろ? だから逃げても無駄だろうなっておもったんよ」

 

 葉のでこに触れているしろやんの鋭利な爪。白夜叉の双眸(そうぼう)の奥を見つめる葉。

 

「おんしおそれ(・・・)を抱かんのか?」

「だからさぁ~しろやんのこの世界すげえって言ってるだろ」

「なぜ武器を置いた。生を諦めたからか?」

「生きることを諦めていたらオイラはしろやんに刃を向けてる。そうだな。オイラが刀を置かんとさ、戦いになっちゃうだろ?話し合うためさ」

「話し合うため、の。なら話し合いの席に私たちが座ったとしよう。その時、もし、私が裏切ればどうするのだ。今私が少しでも力を入れればおんしの脳をつらぬくぞ」

「そうならんようオイラもなんとかする」

「……そうか。よくわからんな。おんしはいったいなんだ」

「箱庭は、ギフトゲームやギフトが物言う世界なんだ。オイラを勘定すればいいだろ?しろやん」

「元魔王である私を〝試す〟…………」

 

 白夜叉は元魔王である。そして星霊という最高位の存在であり箱庭の、星の数ほどいる(つわもの)たちの遥か高みの箱庭二桁に座し、箱庭第十席の神霊だ。

 その白夜叉が試されようとしている。べつに葉はそんな表層意識にも、海面下に隠された氷山にも無い。ただ白夜叉が勘違いしているだけなのである。

 しなやかにほそい線は伸ばし新雪のような無垢をまとい(うち)からは白夜叉がおさなごだからか、その温かさを感じ受けられ恍惚(こうこつ)とさせる白夜叉のゆびを、葉の眼の高さへおもむろに合わせる。

 

「私を試すとは……つくづくため息をつかせるヤツやのぉ…………はて、奈何(いかん)すべき」

「……オイラ、んなこた言ったつもりは無えんだが」

「それともこのままおんしの眼からお邪魔をしようかのう」

「うぇっへっへっへ………笑えねぇぞ~」

「――――ふっ」

「『ふっ』?」

「―――っふふ………ふふふっ――――!」

 

 ―――――――――!!

 白夜叉は高らかに笑った。

 

「おいら、なんか変なこと言った?」

「そうかそうか! ッハ――考えてみればそうやなぁ……おんし程のユルい奴がするわけ……いや、あるか」

「っな! もっとふんばれよ~! オイラずっと黒ウサギたちといたし、腕もがれたんだろ? オイラの兄ちゃんは。さすがのオイラでも両腕を生やすまでの蘇生はできんよ」

「すまん、嘘だ。からかっただけじゃ」

「そうか、嘘か。ならよかったぞ、しろやん」

「私は『しろやん』ではないぞ。白夜叉(しろやしゃ)じゃ」

「んじゃあ、とりあえず今んところ。オイラは命を約束されてるわけでいいんか?」

「うむ。おんしのギフトが判るまではとりあえずの」

「ならいいや!」

「…………って! うぉおい!?」

「なっ、なんよ?」

「わ、私は腕を削いだのだぞ!? 何も言わんのか!」

「おお! あ~確かにな。だなぁ~、そうだ忘れてた腕治してくれよ。すげー痛む」

「そこまでユルい奴は、いないぞ」

「よく言われる、―――だってきりねえじゃあんっ」

「ぁ~~…………ではひとまず戻ろうか。それからだ」

――なぜに今じゃないんだ?

「っふ。よっこらセイウチ!」

 

 ぽっふっ―――白夜叉は葉にすわった。

 

「おんしっぃなかなかの座り心地だのぉ……ではさっそ―――」

「待て! 春雨とフツノミタマノツルギが!」

「安心せい。ほれ」

「うお、ありがと。おまえ、いつのまに持ってたんだ?」

「そこらの者とは違うのだ」

「そか」

「うんむ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 麻倉は白夜叉のおもちゃにされながら癒された。

 その最中、問題児たちが白夜叉に喧嘩を売ったが、白夜叉の実力を見せつけられ問題児たちは仕方なく(・・・・)白夜叉(・・・)からの挑戦を受けることにした。挑戦の場所は白夜叉が麻倉を抹消しようとしたゲーム盤。

 そして挑戦内容はグリフォンと〝力〟〝知恵〟〝勇気〟のいづれかを認めてもらう。それを耀が命からがらにクリアをした。

 ゲームを終えて今は白夜叉の自室にいた。

 

「って! 待ってください!! オーナー」

「なあんだ。性悪店員よ? どこまでも主に似よって」

あの方より(・・・・・)とことんマシですっ……違います! 話をそらさないでいただきたいのですが!」

「ギフトカードだ。そのタンスの中に入っておる」

「白、ですか?」

「うむ。琴温の今日のアレは白だったの。私が男ならこの場で皆に見せつけ押し倒すの」

「はい。今日は白な気ぶ」

 

 白夜叉が叩かれることで葉も巻きぞえを喰らう。

 

「うわーカワイソウデゴザイマスネー」

「おい黒ウサギ、笑っていられるのも今のうち、覚悟しておくんだの」

 

 墓穴を掘る黒ウサギ。

 

「あーいたい、いたいぞ~」

「しろやん~、その。あの、いろいろとやばいのだが」

 

 麻倉がしろやんと言っている理由は、耀がグリフォンと命と誇りをかけている最中――『あ~白夜叉じゃなくて〝しろやん〟でいいぞ麻倉。気に入った』とのことがあった。

 

「麻倉がそのような〝はだけた〟格好なのがいけないのだ」

 

 麻倉葉の上半身の服装は、裸のうえにワイシャツ一枚で一つのボタンもかけず、袖をまくっている。そして首には三つの大きな黒い爪の首飾りをしていた。

 白夜叉の言う通り麻倉に落ち度がある。

 

「産毛すらもないとは希少種め」

「おまえいいかげんにしろよ!! 怒るぞ! もう怒ってるけどなっ!!」

「……す、すまん。さすがにキレるか」

「おいお嬢様なに赤くなってんだよ」

「う、うるさいわね十六夜君」

「っは! 黒ウサ――!? な、何でもない」

「そうですか♪」

 

 耀が何か言おうとしたところを、黒ウサギがどこから取り出したか分からないハリセンをちらつかせた。

 琴温が四人にギフトカードを配る。

 

「――はぁ……ギフトカードでございます…………」

「お中元?」

「お歳暮?」

「お年玉?」

「ち、違います! というかなんで皆さんそんなに息が合っているのですか!?」

 

 四人が手にした途端カードが光り輝きおさまったかと思えばカードには、それぞれの名前と体に宿るギフトを表すネームが記されていた。

 

 

 

コバルトブルーのカード

坂廻十六夜

ギフトネーム 〝正体不明(コード・アンノウン)

 

 

ワインレッドのカード

久遠飛鳥

ギフトネーム 〝威光(いこう)

 

 

パールエメラルド

春日部耀

ギフトネーム 〝生命の目録(ゲノム・ツリー)〟〝ノーフォーマ―〟

 

 

ホワイト

麻倉(あさくら)(よう)

ギフトネーム 〝なんとかなる〟〝巫者(シャーマン)〟〝春雨(はるさめ)〟〝フツノミタマノツルギ〟〝場外乱闘〟〝闇討ち〟〝寂しいお人、その子はきっと………鬼の子(「今日は死ぬにはいい日だ……君は合格だ」)

 

 

 

「ギフトカードの色はホワイトだが、どうする? 葉?」

「なに? 白夜叉。私のカードはパールエメラルドだよ?」

「すまんかった……この少年も葉というのだ。葉っぱのな。では改めて………どうする? 麻倉葉?」

「ふむ………どうする? 琴温?」

「私に訊かないでください!!!」

「まぁ――――これは私がなんとかしようかの。安心せい、おんしの安全は私が保証する。が、〝場外乱闘〟と〝闇討ち〟の二つは使うな………よ? なぜ泣いておる」

「ん? うぇっへっへ………なんでだろうな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガルドは自分の屋敷で痛そうに頭を抱えていた。

 やってしまったと。黒ウサギを手に入れようとして取り返しのつかないことになってしまった、と。ガルドは〝主催者権限(ホストマスター)〟を所持したとある魔王の傘下であり、………である。(いや)、あり続ける。あり続けなければならない。あり続けたい。

 ……………。

 傘下に入り魔王を後ろ盾に名前を振りかざせば、怯えないコミュニティは無いからである。それを利用してフォレス・ガロの勢力圏を徐々に広げ、やがては最高難易度のゲームに挑み、自身が神各級のギフトを手にするつもりだった。それにはコミュニティの名を上げ、より強力な人材を集める必要がある。

 ガルドが欲した黒ウサギはコミュニティの〝箔〟としても〝駒〟としても、欲を満たす玩具としても欲しかった人材である。今までも何度もアプローチしてきたが、鼻であしらわれてきた。

 

「くそ…………くそ、くそくそくそくそこのドチクショオウガァ!!! 俺もあのガキに撫でられたかった!! ――――って違う!!」

 

 ガルドは身近にあった執務机を持ちあげて窓の外に放り出した。

 

「あの女のギフト……精神に直接触れる(たぐい)だ。どんなゲームを用意しても勝ち目なんてねえぞ!」

「情けない。三桁外門の魔王の配下がコレとは。こうも情けないと同情してしまうよ」

 

 割れた窓からいきなり、風と黒い風が吹き抜ける。

 現れたのは華麗な金の髪を(なび)かせた、葉を除いて十六夜たちよりも二、三歳上の女性だった。

 金髪の女は(あき)れるように(かぶり)を振る。

 

「誰だ!」

「威勢がいいのは評価してやる。だが、獣の成り上がり風情が〝鬼種〟の純血である私に牙を剥くのか?」

 

 勢いは一瞬にして萎えはて、顔は青ざめ、巨体をよろめかせて、後ろに下がる。もう一度金髪の女を確認した。 

 細かい波を引いたブロンドの髪、年不相応に凛とした顔立ち。覗きこめば吸い込まれそうな艶美で紅い瞳には息を呑まずにはいられない。

 

「き、〝鬼種〟の純血だと…………!? 鬼種の純潔と云えば殆んど神格じゃねえかッ――どうして俺の下に来る!? 〝名無し〟共の尖兵か!?」

 

 純血とはガルドのような様々な種が混ぜた成り上がりとは違い、系統樹の起点に位置するギフトを指す言葉だ。

 金髪の女は絹の髪を掻きあげてガルドの言葉を指摘する。

 

「その名無しとは因縁があってな。………そうそう、彼らの新しい人材が神格保持者を倒したと聞いて、様子を見に来たのだ」

 

 今度こそガルドは打ちのめされたように跪く。

 

「っふ。聞けばまだ若い少年らしい。お前と問題を起こした奴と全く別の人間であることは間違いない」

「じょ! じょうだんじゃねええっ!」

 

 ガルドは我を忘れて叫ぶと隠し部屋を開いて、金品を荷に掻き込む。鬼種を名乗る少女は金の毛先を指先で弄びながら呆れたようにその様を見る。

 

「…………しかしゲームからは逃れられんぞ」

「し、知ったことか! 俺が一体どれだけ抱いて箱庭に来たと思ってやがる! 何年も何年も何年も…………ただの獣でしかなかった時代からずっと箱庭の上を目指して、―――――――て生きてきたんだッ! それをあの小娘………畜生………!!」

 

 悔し涙と恐怖の入り混じった声で……哭く。どこで間違えた? かつて森で生きていた頃………牙と爪を頼りに生きていた頃のように。

 今度は知恵と策謀を手にのし上がってきただけなのに。

 

「お前はそのまま修練を積んでいれば〝幻獣〟という種に昇華されたが…………悪魔に魂を売ったのが運の尽きだな。俗物にまみれる事も無かっただろうに」

「うるせえ! うるせえ! うるせえ! 純血の鬼種さんだろうが、おなじこともっかい言ってみろ……咬み殺すぞ」

「まぁ待て虎よ」

 

 悪戯っぽい笑いだが、その目は異様なまで冷たい。

 ガルドは再び、否、それ以上にこの女に対する恐怖に震えあがる。

 

「勝てば全ての問題は解決されるのだろう?」

「か、勝てるわけねえだろうが! 昼間の騒ぎを聞いていたなら知ってるだろ! お、俺は、あの……ガキどもに手も足も出なかったんだ――ッッ」

「うむ。今のお前では無理だ。…………〝鬼種〟のギフトをお前が得たら? 勝ち目も出てくるのではないか?」

「……………一つ聞きたい。あんたのコミュニティはどこだ?」

「それは言えん。承諾せねば詮索は無用。私は月の出ているうちに帰る」

「チッ。選択肢はねえか。いいぜ、けど時間が無い。種族そのものを変質させるにはどれくらいかかる?」

「気にするな。この場で、僅かな時間で済む」

 

 胸倉を掴まれ、ガルドの意識がそれに気づく前に金髪の女の牙は、食い破った。首筋を。

 嫌な、荒い音とともにガルドの血を吸い上げてゆく。

 獣の本能を呑みこむ血潮が駆け巡り、鼓動は濁流のごとく不規則に打ち、細胞の一つ一つが、燃えて悲鳴をあげる。あの時のように。

 地獄の釜に意識が沈んでゆくなか、ガルドは自分が誰と交渉したかを知ったのだった。

 

「先に断るが騙してはいないぞ。私は確かに鬼種のギフトを与えたのだからな」

 

 ぺろりと下で唇を舐める。笑みは年相応の悪戯っぽい笑顔なのに。

 見る者の心を酷く冷たくさせるような艶美さが。

 

「さてさて。どう出る、新生〝ノーネーム〟」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時はおなじだが舞台は変わる。

 

「今さらだが、一つだけ訊かせてくれ。おんしらは自分たちのコミュニティがどういう状況にあるか、よく理解しているか?」

「名前とか旗の話しか? それなら聞いたぜ」

「〝魔王〟と戦わねばならんことも? それを取り戻すために」

「聞いてるわよ」

「………では、おんしらは全てを承知の上で黒ウサギのコミュニティに加入するのだな?」

「そうよ。打倒魔王なんてカッコいいじゃない」

「〝カッコいい〟で済む話ではないのだがの………魔王と戦う事を望むというなら止めんが…………そこの娘二人と葉。おんしらは確実に死ぬぞ」

「死なんさ…………だあれも」

「麻倉君……。ご忠告ありがと。肝に銘じておくわ。次は貴女のゲームに挑みに行くから、覚悟しておきなさい」

「ふふ、望むところだ。私は三三四五外門に本拠を構えておる。いつでも遊びに来い。……………黒ウサギ」

「何でございましょう?」

「明日のギフトゲームまでには返すから麻倉の葉をこちらに泊めてもらえまいか?」

「……しぶしぶです」

 

 葉だけ残り、黒ウサギたちは帰っていった。

 見送りだした後、葉の手をひいて白夜叉たちはもう一つの自室に戻る。

 自室前に着いたら琴温は戸の前に立った。

 

「琴温、誰も入れるのではないぞ……………何から何まですまない」

「わたくしは白夜叉さまと歩むことができるのなら、それ以上の望みは持ちません」

 

 白夜叉が琴温を手でまねき、琴温の濡羽色な髪の、その頭をなでる。月に照らされながら愛おしく………。

 ―――ぴしゃり。

 琴温が障子戸を閉めた。

 月明かりはぽうっと隙間からゆっくりはいり、子供二人だとしても気持ち的に狭い、畳の部屋。

 

「なんで暗いんよ?」

「私は確かにギフトを見るのは専門外もいいところだ。―――だが。〝裏っかわ〟を見るのは好きでな」

「裏みんならここじゃなくともいいんじゃねえのか」

「全く鈍感なやつじゃ」

「は? って、え?」

「葉は、大人か? 黒ウサギくらいか? それともやはり幼子(おさなご)がよいのか?」

 

 葉は言葉を出せない。

 白夜叉は本来のと云えばいささか語弊があるけれども、格好だけは大人になった。

 

「葉の無実を晴らすためだ…………そう固まるでないぞ? ん? せまいと? ならばこうすればよいのだホレ…………そうこのように……おんしが下になれば収まることだ。それか幼子になればよいのだ。さあ麻倉葉、わたしも………ようにすべてをさらけだそう、じゃからようも、よおうくみせてくれたまえよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 箱庭のとある場所。

 そこはとある箱庭上位者のコミュニティのその一室。

 

「久しぶりだね二千五百年前の王。なぜ来たかって? お前僕が今お尋ね者になっていること知ってるだろ。だからここに来た。おい、なんだその嫌そうな顔は? ……なに? 僕をかくまえば君も追い出される、だって? なんだ解ってるじゃないか僕をかくまえよ。後輩が頭を下げているんだ、先輩なら面倒をみるだろ? それに僕はまだ新神だからね。だからよろしく頼むよセンパイ。…………図々しい? 弟を見習え? 子どもにあんな名前つけた君が言えるのかい? ………すまない、これはどちらも傷をえぐるね。それでは最後だ、僕をかくまって下さいよセンパイ」

 

 その先輩は後輩を助けることにした。

 のちにその先輩は語った。今までのゲームよりも生きた心地がしなかった、と。

 

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