現実逃避とは
現実に求められたり、何かしなくてはいけない出来事から意図的に注意や意識をそらす行為。
この言葉を考えた人間もまさか本当に現実から逃げる手段が発明されるとは思ってなかっただろう。
「これがナーヴギアか。」
自分の部屋のベットに腰かけながら俺はそうつぶやいた。
いま俺の手に持っているこのヘルメットのような物こそその夢の現実逃避アイテムである。
スカラシップ流錬金術を駆使し、なおかつバイトをしてまで金を稼ぎ、手に入れた秘密道具。
民生用VRマシン1号機《ナーヴギア》。天才《茅場晶彦》によって設計され作られた新時代のゲームハード。
そしてそのソフトである《ソードアート・オンライン》通称SAO。こちらも茅場晶彦によって完成した物である。
この三種ならぬ二種の神器を手に入れるために、俺はこの2ヶ月バイトをしてきたのだ。
11月6日12時55分
ソードアート・オンライン正式サービス開始まであと5分。期待でワクワクしすぎて、さっき昼食を食べに行ったらニヤついていたらしく妹の小町に
「ごみぃちゃん。なんでニヤついてるのキモいよ。」
と絶対零度の眼差しで言われた。ちょっと小町ちゃん?そんな冷たい目して罵倒してくるとか何ノ下さんですか。あとキモいってあんまり使わないでね?ボッチハートにはこたえますよ。ってかそれすら何比ヶ浜ですか。あれ?小町ってあの2人のハイブリッドじゃね?あと1人を楽しむこともできるんだから俺の特性も持ちあわせている。なんてこった・・・小町は神だった(錯乱)
それにしても・・・・・・奉仕部・・・・か。
修学旅行の一件以来、奉仕部には行っていない。教室で由比ヶ浜には会うが話しかけてはこない。どこか俺を避けているようにも感じる。雪ノ下とはそもそも奉仕部以外で会うことがないのだから会うわけがない。
この二人となら掴めるんじゃないか、と思っていた俺がいたことも確かだ。どれだけ手を伸ばしても、求めても掴めなかったものが今度こそ、と。
俺は勝手に期待していたのだろう。どこか居心地のいい、あの場所に。
だからこそ動いた。戸部が振られるのを防ぐために。そして、もう一つの依頼をクリアするために。二人が解決出来ないなら自分が、俺はこのやり方しか出来ないけどこの二人なら――、と。
その結果、俺は二人を傷つけた。
そのことが辛くて、俺は逃げ出してしまった。
っていかんいかん。何のために
さて、そうこうしてるうちにいよいよダイブのときだ。カウントダウン!!
5! 4! 3! 2! 1! 0!!
「リンクスt「おにぃちゃーーん?」
・・・・・・小町ェ。決めゼリフくらい言わせて欲しかった。
「おお、これが。」
初期設定とアバター作成を終えた俺は、《アインクラッド》第1層《始まりの町》にいた。ちなみにプレイヤーネームは《Hachi》。アバターもごく普通の男性を作った。興味本位でアバターの目を色々いじってみたがやはり俺の目は再現出来なかった。天才の茅場晶彦ですら俺の目は再現出来ないということか。
・・・・・・・・・なにそれ全然嬉しくない。
それにしてもすごい再現度だな。いや、実際にこんな町並みを見たことがある訳じゃないが。それでも草木から建物までまるで本物のようだ。
外に出るための準備のため町の中を探索していると、武器屋のようなものが見えてきた。サービス開始直後というだけあって大勢のプレイヤーで混んでいる。
イヤだなー。あそこに突っ込まなきゃいけないとかボッチには辛いわ。
思い出すのは中学時代、全校集会のたびに俺の周りには誰も近づかず、俺を中心に円ができていたが・・・・・・おっと目から水が。
トラウマを掘り起こしてる場合じゃないな。今の俺のアバターは普通の男だ。避けられるはずがない。・・・大丈夫だよね?
多くのプレイヤーにもみくちゃにされながらも、俺はどうにか武器を購入した。選んだ武器は短剣。他にも槍とかハンマーのようなまで色々あったが、俺のアバターはAIG極振りのためあまり重い武器は遠慮しておいた。片手剣でもよかったんだがスピードを最大限に生かすために短剣にした。レイピア?なんか難しそうだったからやめた。
さて、武器も買ったことだし早速外に出てみよう。
「うおっ!」
フィールドに繰り出した俺は早速モンスターを狩っていた。
当然の事だか現実の体と仮想世界のアバターでは身体の勝手がちがう。バランスのいいステータスならあまり違いはないが、STR極振りとかAIG極振りだとかなり違う。
「慣れるのに時間がかかりそうだな。」
なにはともあれようやく3匹目のモンスターを討伐できた。《フレンジーボア》という青色の毛をしたイノシシなんだが、こいつがとにかく硬い。攻撃が全然とおらない。はじかれたりする訳じゃないが、ダメージが小さい。たまにクリティカルのようなものもでるが、それでも20回くらい斬らないとやられない。短剣だからダメージが低いのだろうか?
まわりの狩りの様子が気になり見渡してみると、
「なんだありゃ」
少し離れた所にプレイヤーが二人いるのだが、赤い髪のバンダナつけたプレイヤーがすごいスピードでモンスターを斬りつけていた。斬られたモンスターは体力が半分以上あったにもかかわらず一撃でやられてしまった。
武器は光っていたし、赤い粒子のようなものも放っていた。このゲームにも必殺技のようなものがあるんだろうか?なにそれカッコイイ。
なにかコツがあるのだろうかと、しばらく観察してみた。こらそこ、ストーカーとか言わない。
どうやらあれはソードスキルといったものらしい。タメをつくって、システム起動を感じたらスパーンと打ち込む。・・・らしい。
らしいというのは、青い髪をしたプレイヤーが説明していたのを聞いたからだ。
それにしてもこの距離で聞き耳たててるのに気付かれないってすごいな。なに?この世界でもステルスヒッキー発動しちゃってるの?
とりあえず狩りを再開しよう。ええっとタメをつくって、スパーンだったな。
「こうか?」
試しに構えてみたら全身に奇妙な感覚がはしった。
「なるほど・・ねっ!」
目の前のモンスター目掛けて剣を振るう。その瞬間凄まじい加速を感じた。気がついたらモンスターはポリゴンとなって消え去っていた。
「速すぎだろ。これ。」
体力MAXだったモンスターを一撃で倒してしまった。
そして今ので分かったことが二つある。一つ目はクリティカルというものは生き物の弱点、いわゆる急所に当てると発生するということ。短剣は基本的に攻撃力が低いから、これからは意識して狙っていこうと思う。
二つ目は現実俺を襲っているこの硬直だ。身体がほとんど動かせねぇ。今までこんなことが無かったことから推測するにソードスキルの影響だろう。乱用は控えないといけないな。
ログインしてから4時間半くらいたった。ずいぶん狩ったがそろそろ潮時だな。あまりゲームばっかしてると小町に怒られちまう。
「メニューの出し方はたしか・・・。」
町でもフィールドのあちらこちらでもプレイヤーがメニューを出してるから自然と覚えてしまった。
「ログアウト、ログアウト・・・・・・・・・・・・?」
なんだ?ログアウトボタンがねぇぞ。いや、正確にはそれらしいのはあるんだが反応しない。
「バグ・・・なわけねぇな。」
フルダイブ中は現実の身体は一切動かせない。それなのにログアウト出来ないなんて大問題だ。おそらく運営側もかなり注意を払うポイントだ。
「バグじゃない・・・・・・となると・・・。」
ゴォォォォォン、ゴォォォォォン
「っ?!」
なんだこの鐘の音?時報か?いや、そんなキリのいい時間じゃないし。
「うおっ!」
突如身体を白い光が覆った・・・・・・・・・。
「・・・ここは・・・・・・最初の・・・。」
気が付くと始まりの町の広場にいた。どうやら強制的にワープさせられたらしい。まわりを見渡すと多くのプレイヤー達がいた。誰もが何が起きたのか分からないといった表情をしている。全プレイヤーが集められてるのか?
・・・・・・嫌な予感がする。
そしていつだって俺の予感は的中する。
「おい。あれって・・・。」
誰かがそう呟いた。そのプレイヤーが指さす方向を見上げると・・・。
WARNING
Warning。警告、警報を表す文字が点滅していた。
結論だけ言おう。比企谷八幡はこの日、デスゲームの世界に閉じ込められた。
読んでくださってありがとうございます。ご意見、ご感想がありましたらお願いします。これからも頑張っていきたいと思います。