ひねくれボッチは仮想現実で本物を求める   作:エンジェリック

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どうも、エンジェリックです。十一話の投稿となります。アルゴは今回もヒロインなのか、別のダークホースが現れるのか。楽しんでいただけたなら幸いです。


ひねくれボッチは誤解した

「なんだ・・・・・・あれ。」

 

 

 

 

今日も今日とてレベリング。理由あってある三人から逃亡している中、現在の最前線である三十六層より六層下の三十層に昼間人気のないベストプレイスを見つけた俺は二週間ほどそこにいた。しかし、今日。今まで見かけなかった妙なパーティーを発見した。

 

いや妙と言うよりはバランスが悪いと言った方がいいだろう。

 

五人パーティーのうちタンクらしきプレイヤーが一人しかいない。それでもって他は短剣使い、棍使い、長槍使いが二人だ。

 

あれではタンクが交代出来ずにそのうちジリ貧になってしまう。

 

予想通りタンクが後退出来ずに追い詰められているようだ。

 

 

「みんな、撤退だ!」

 

 

このままでは危ないことに気付いたのだろう。リーダーらしき棍使いが撤退を指示した。

 

しかし、世の中そう上手くいかないものである。

 

パーティーの十メートルくらい後方に、彼らが相手をしているモンスターと同じ奴がポップしたのだ。

 

突然のアクシデントにパーティーはみるみるうちに大混乱。特に黒髪の槍使いなんかはもう竦みあがってしまっている。

 

 

・・・・・・・・・この世界でこんな光景を見るのは何度目だろうか。

 

 

俺ってもしかして死神か何かかな?死ぬぜぇ、俺様の姿を見た奴は!的な。なにそれカッコイイ。

 

 

「こっ・・・こないで!」

 

「おい!サチ落ち着け!」

 

「ケイタ、どうする!」

 

「くっ!」

 

 

さてさていよいよ危ねぇな。まぁ幸い安全マージンは充分すぎるくらいとってるからな。あのくらいのモンスターなら楽勝だ。

 

短剣を抜くと共に隠蔽発動。あとはあのカマキリみたいな奴の胴をかっさばくだけの簡単なお仕事。

 

 

「っ!」

 

 

木の影から飛び出し横からカマキリの胴を切断する。

 

 

「なっ、なんだぁ!?」

 

 

着地後、モンスターが爆散する音を聞きながら硬直から解放された俺はもう一体のカマキリ目がけピックを投擲。

 

放たれたピックは吸い込まれるようにカマキリの右眼に突き刺さった。

 

 

ギシャアァァッ!!

 

 

予想外の奇襲に怪物が断末魔をあげながら大きくひるむ。

 

 

「っ!テツオ!今だ!!」

 

「うぉりゃあ!!」

 

 

防戦一方だった盾持ち棍使いが反撃にでる。気合と共に放たれた一撃はレッドゾーンだったカマキリの体力を全て削りきった。

 

カマキリがその身体をポリゴンに変え、戦闘は終了した。

 

これでとりあえずは落ち着いたな。俺の存在も気付かれてないようで安心したぜ。

 

突然モンスターが砕けたことに混乱しているのだろうか。パーティーメンバーが集まって何かを話している。さっさと町に帰ってくんねぇかな。レベリング出来ん。

 

数十秒後、自らの状況を思い出したのか五人は足早に去っていった。

 

辺りが静まり返る。

 

ふむ。索敵にかかるプレイヤーも無し。これで安心してレベリング出来るな。

 

周辺の安全確認を終えた俺は昼の分のレベリングを始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁケイタ。さっきのは何だったんだ?」

 

「分からない。でも体力マックスのモブを一撃で倒したんだ。かなり高レベルのプレイヤーだと思う。」

 

「でも姿が見えなかったんだろ?例え隠蔽を使ってたとしたってソードスキルを使いながら見えないなんて有り得るのか?」

 

「そんなプレイヤーの噂なんて聞いたこともねぇよな。」

 

「うーん・・・・・・情報屋にでも聞いてみるか?」

 

「何コル取られっかなぁ・・・・・・。」

 

「それよりもサチ、大丈夫か?」

 

「うっ、うん!大丈夫だよ。」

 

「さっきはごめんな。あわてちゃって。」

 

「ううん!ケイタはいつも頑張ってくれてるよ。こっちこそごめんね。いつもいつも。」

 

「・・・・・・やっぱりあの件は難しそうか?」

 

「・・・・・・・・・・・・うん。」

 

「そっか。まぁ気にするなよ、どうにかするからさ。」

 

「・・・・・・ごめんなさい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なん・・・だと・・・・・・。」

 

 

翌日、やや寝坊しながらも再度楽しい楽しいレベリングに来た俺は思わず呟いた。

 

昨日のパーティーは今日もここでレベリングをしていた。そこまではいい。おそらく彼らのレベルから適切な狩場なのだろう。

 

だが二日続けてピンチになるのは流石に駄目じゃないか?しかも昨日より悪化している。なんと今日は昨日のカマキリ三匹に囲まれているのだ。

 

・・・なんだろう。いよいよ俺は死神説が浮上してきた気がする。

 

なにか対策をしてきたのでは、と期待した俺だったが案の定というかなんというか、再び黒髪槍使いは震え始め、タンクはジリ貧。リーダーも予想外の状況なのか指示が出せずにいた。

 

ホントに危なっかしいパーティーだな。安全マージンとってあれなんだろうしな。

 

内心ため息を付きながら俺は短剣を抜いたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夕暮れ。その五人がもたらした情報はアインクラッド随一の情報屋を、そして攻略組の中でも屈指の実力者二人を震撼させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

散々な目にあった件のパーティーだが、誰もが状況を理解出来ずにいた。

 

 

サチside

 

 

一体どうなってるの。

 

 

連続してレベリング中に不可解なことが起こった私達は結局昨日、情報屋さんを訪ねた。

 

でも情報屋さんは冷やかしだと思ったらしくて怒って行ってしまった。

 

しょうがないって私達も帰ろうとしたんだけど、一時間後くらいに突然フードを被ったおかしな話し方をするプレイヤーが訪ねてきて。

 

 

「なっ、なァ!アンタ達のパーティーなのカ?!幽霊を見たっていうのワ!!」

 

 

見た目もそうだけど最初はその必死さに驚いた。ケイタの肩を掴んで揺さぶりながら大声で聞いてきた。

 

 

「はっ、はい。幽霊かは分かりませんが。目の前で急にモンスターがやられたんです。でも周りにプレイヤーなんていなくて。」

 

 

ケイタの証言を聞いたその人はフードの隙間から見える目をさらに輝かせた。

 

 

「その情報、売ってくれないカ?!」

 

「ええ。それにお金は要りませんよ。」

 

「ありがとナ!」

 

 

ケイタから場所、時間とかを詳しく聞いたフードの人はもの凄いスピードで走って行ってしまった。それが昨日の夕方のこと。あっという間の出来事だったからみんな唖然としていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして今。謎の現象の調査員が派遣されるって聞いてたんだけど・・・・・・。

 

 

「《月夜の黒猫団》の皆さん初めまして、《血盟騎士団》副団長のアスナです。今日はよろしくお願いします。」

 

「ソロのキリトです。よろしくお願いします。」

 

「はっ、はい・・・。こちらこそよろしくお願いします。」

 

 

ケイタがガチガチに緊張しちゃってる。横のみんなだって緊張してる。それもそうだよ。だって今私達の目の前にいる二人は攻略組でもトップの実力を持っているプレイヤーだから。私だって緊張してる。

 

でもその二人もどこか緊張してるように見える。ううん緊張とは違う。もっと別の物の気がする。

 

 

「あっ、あの。調査員が来るのは知ってたんですがどうして有名なお二人が?」

 

「えっと・・・・私は時間に余裕があったので・・・。」

 

「私も・・・・・・です。」

 

「そうですか。」

 

 

ケイタの質問に二人は歯切れの悪い答え方をした。何か他に事情があるのかな。もしかしてそれが二人の雰囲気の理由なのかも。

 

 

「では早速調査方法の確認をします。といっても基本的に私達は離れた場所から皆さんを見てるだけになります。皆さんは昨日と同じくレベリングを行ってください。」

 

「はい。分かりました。」

 

「何らかのアクシデントが起こった場合はすぐに行きますので。」

 

 

話し合いを終えた私達は昨日と同じくレベリングの支度を始めた。最前線のトッププレイヤーが調査に来るなんて・・・。

 

もしかしたらこの一連の現象には何か大きな人物が絡んでるかもしれない。

 

装備を整えながらそんなことを思ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハチside

 

 

何かがおかしい。

 

 

ぼんやりしている頭をたたき起こし、そんなことを思ってしまう。

 

いつもとほぼ変わらない気温。いつも通りの森。そして相変わらずの五人。

 

一昨日から何も変わらない光景のはず。なのにどうしてだろうか、俺の第六感が告げている。ここは危険だと。

 

幸い今回は囲まれているわけでもなく、誰かがピンチなわけでもない。本日のレベリングは中止。いますぐ回れ右してさっさと帰ろうそうしよう。

 

いつもの五人に背を向け歩き出そうとしたその時。

 

 

「分かってたよ。」

 

 

目の前にご存じカマキリモンスターが現れた。いやホントこいつらわざとやってる?マジでいやなタイミングで出てくるよなこいつら。

 

だがしかし、ノープロブレムだ。俺は今、隠蔽を発動している。この層のモンスターなんぞに看破されるわけがない。

 

念のため短剣を抜きつつ、モンスターの横を通る。敵はまだこちらに気づいてないよ。なんて冗談を考えながら俺は悠々と―。

 

 

「はぁぁ!!」

 

 

無事フラグ回収。

 

片手剣を前に突き出し、真紅の光を纏いながら一人のプレイヤーが突っ込んできた。突然の奇襲。見たことがないソードスキル。そんなアクシデントを俺が冷静に見守っていられるわけもなく。

 

 

「ひゃっ。」

 

 

小さくしかし確実に声を出してしまった。

 

 

「あれ?今なにか・・・・・・。」

 

 

未知のソードスキルでカマキリを瞬殺したそのプレイヤーは辺りを見回した。

 

その人物は装備はずいぶんと変わったが、今俺が絶賛逃亡中だった三人のプレイヤーの内の一人・・・・・・キリトだった。

 

第二層ボス攻略の直後、気がついたら解除されていたフレンド登録。見たときは衝撃を受けた。別にフレンド解除にショックを受けたわけじゃない。恐ろしかった。そこまであの二人がキレてるとなるともう考えるだけで背中を冷や汗が伝う。

 

なんでここにいるかなんてどうでもいい。絶対に見つかりたくねぇ。殺されちまう。

 

 

「・・・・・・もしかして・・・ハチさんですか?」

 

 

鋭い!流石キリト鋭い!怖い!

 

 

「なんで出てきてくれないんですか?」

 

 

俺はまだ死にたくないです。

 

 

「二層攻略から三ヶ月、なにしてたんですか?どうしてずっと私達から逃げてるんですか?」

 

 

あっ、ヤヴァイ。雰囲気が変わり始めてる。

 

 

「悲しかったです。急にハチさんがいなくなって。フレンド解除の件はアルゴのイタズラでしたけど。でもハチさんはそのままきえちゃうし。」

 

 

ん?アルゴのイタズラ?なんのことだ?キリトの言っていることがよく分からんぞ。

 

キリトとの会話?の違和感に気を取られていたせいだろう。後ろから近づくプレイヤーに俺は気が付かなかった。

 

 

「キリトちゃんどうしたの?早く隠れないと―。」

 

「うおっ!」

 

「きゃ!」

 

 

アスナまでいんのか!いやそれどころじゃねぇ!今確実に!

 

背後のアスナに向けていた視線を急いで前に戻す。その時俺が見たものは・・・・・・。

 

 

満面の笑みでダイブしてくるキリトの姿だった。

 

 

 

がっつり目が合ってた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハチが捕獲されてから二時間後、八人は町への帰路につこうとしていた。

 

 

サチside

 

 

いっ、一体何が起こってるの・・・。

 

 

今日二度目の衝撃的な光景に私を含めたみんなが驚いていた。

 

特にアクシデントもなく、無事にレベリングが終わってお二人を呼んだ時、一人知らない人が一緒に来た。

 

濁ったような目、ピョコピョコ動くアホ毛。見た目のインパクトは充分な人だった。

 

でもみんなはそこに驚いたんじゃない。別の場所に驚いた。

 

その男の人はキリトさんをおんぶしている。というよりさせられているようだった。肝心のキリトさんはすごい嬉しそうでぎゅっとその人にしがみついていた。

 

 

「この人が異変の原因ですよ。皆さんを助けた人ですね。」

 

 

アスナさんが説明してくれる。でもずっと二人の方をチラチラ見ている。

 

 

「おい、俺はこいつらを助けたことなんてないぞ。冤罪だ。」

 

「なんで濡れ衣着せられてるみたいな反応なのよ。」

 

 

二人が何かを話しているけど頭に入ってこない。でもキリトさんもアスナさんも雰囲気が変わっていることは分かった。

 

キリトさんは最後に見た張り詰めた顔からは想像もつかないくらいの少し幼い容姿相応の笑顔。アスナさんはいつも固くむすんだ口元が少し緩んでる。それと男の人に対しての口調が砕けてる。

 

 

「あっ、あの、すいません。お名前を伺ってもいいですか?」

 

 

見た目のせいか、状況の整理が出来ていないのかケイタが戸惑いながら質問する。

 

 

「あー・・・んーとだな。」

 

「なぁあんた。もしかして《ハイエナ》か?」

 

 

ハイエナ?それってあの有名な―。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の瞬間、場の空気が一変する。

 

 

「ひっ!!」

 

 

短い悲鳴をあげたのは誰なのか。自分の声なのかすら分からないまま、固まる。

 

僅かでも行動、言動を間違えたら視界左上のバーが無くなる気がして。

 

さっきまで笑顔だったキリトさんの表情が消えていた。そして周りには黒いオーラを纏っているようにみえる。

 

前に噂で聞いたことがある。キリトさんが黒の剣士と呼ばれる理由はその服装ではない。ましてやその綺麗な黒髪でもない。システムに支配されたこの仮想世界でさえ見えるように錯覚するほどの濃密な殺気であると。

 

あの時は冗談だと思った。でもいまなら分かる、見える。キリトさんが放っている真っ黒なオーラが。

 

 

「あっ、あの・・・キリトさん?背中でそんなオーラを放たれるのは堪えるんですが。」

 

「あっ、すいません。つい。」

 

 

男の人の一言でオーラは霧散した。圧倒的なプレッシャーから解放され深呼吸してしまう。

 

 

「キリトちゃん、そろそろ慣れないと大変だよ?」

 

「すいません。でもアスナさんも抜きかけてましたよ。」

 

「そうだね。私もまだまだ慣れないよ。」

 

 

二人の雰囲気は最初に会ったときのものに戻っていた。

 

 

「えっと、皆さんすいません。でもあまり噂を鵜呑みにしないで欲しいんです。」

 

「はっ、はい。」

 

 

ケイタが反射的に返事をした。今日一日のストレスで毛が抜けるんじゃないかなって思う。

 

 

「おい、一番の被害者がここにいるだろ。」

 

「ハチさんには今までの分ってことでお願いします。」

 

「・・・・・・なぁアスナ。キリトの遠慮が無くなってる気がするんだが。いやまぁ最後に会った時点でもう結構無かったけどさ。」

 

「今までほったらかしにしてたからよ。」

 

 

そう言ったアスナさんも怒っているような様子だった。あの二人はほぼゼロ距離であの殺気を浴びたのに意外と平気そうだった。すごい精神力の人達なんだなぁって思った。

 

 

「キリト。それでこれからどうすんだ?」

 

「とりあえず町に戻りましょう。話したいこともありますし。」

 

「え?ここで解散だよな?」

 

「駄目です。」

 

「いやだって―。」

 

「駄目です。」

 

「ほら―。」

 

「駄目です。」

 

「はい。」

 

「では行きましょう。」

 

「うおっと。」

 

 

男の人を説得?したキリトさんは再び男の人の背中に飛びついた。アスナさんはその様子をじっと見ている。もしかして羨ましいんですか?

 

 

「なぁキリト。流石に俺のパラメーターじゃ辛いんだが。」

 

「むっ、ハチさん。女性に重いって言うのはタブーなんですよ。」

 

「この世に背負って重くないもんなんて無いんだよ。」

 

「なんですかそれ。」

 

 

雑談しながら二人は歩き出す。二人を見ていたアスナさんがこちらに向き直る。

 

 

「キリトちゃんがすいません。ですが私からもお願いします。少なくとも彼は噂のような人間じゃありませんので。」

 

「いえ、こちらこそすいません。軽率でした。」

 

「・・・とりあえず戻りましょう。じきに日が暮れます。」

 

 

そう言ってアスナさんも歩き出した。少し遅れて私達も歩き出す。

 

あっ、結局あの人の名前聞けなかった・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それにあの人・・・・・・どこか疲れてるように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一人を除き、各々の当初の目的を達成した一行は町に戻ってきた。

 

 

ハチside

 

 

とんでもない苦行だった。

 

 

異性をおんぶするというのは思春期の男にとっては拷問なわけで。それにキリトが軽装備のせいでな、こう・・・・な?あとアスナの視線が痛かった。そりゃあ目の腐った男が女の子おんぶしてるとか犯罪臭が凄まじいが、俺の意志じゃないよ?

 

町についた後だって大変だった。降りたくないですって愚図るキリトをアスナとなだめてようやく解放されたと思ったら逃げないようにと二人に挟まれた。説得コマンドは最早意味をなさず俺はフードで顔を隠しながら町を歩いた。周りの視線が痛かったです。はい。

 

宿に着くまでに二人から色々聞いた。アスナがギルドに入ったとか、二十五層ボスは強かったとか、後ろの五人は月夜の黒猫団っつうギルドだってこととかだ。

 

ちなみにフレンド登録を二人から要求されました。断れるわけが無いだろ?断った瞬間ポリゴンにされる。

 

精神のHPバーがガリガリ削られるのを感じる中、やけに人気がない場所に建っているレストランに着いた。アスナとキリトが言うには俺と後ろの五人にここで話があるらしい。

 

早く帰りてぇ、なんてことを考えながら扉を開けた直後、

 

 

「ハチィィィ!!」

 

「うごぉ!」

 

 

フードを被ったプレイヤーがタックルしてきた。突然の衝撃に踏ん張ることも出来ずに倒れ伏し、俺を押し倒したプレイヤーは馬乗りのまま喋り出す。

 

 

「酷いじゃないカ!突然フレンド解除するなんテ!オネーサン悲しかったんだからナ!!」

 

 

ん?この特徴的な話し方は・・・・・・。

 

 

「アルゴ・・・・・・さん?」

 

「なんで敬語なんダ!」

 

 

あなたも俺が逃げている三人の内の一人だからです。会いたくなかったプレイヤー総集合ですよ。マジかー。俺の仮想世界生活もここまでかー。

 

 

「何やってるの?」

 

「にャ?!」

 

 

続いて入ってきたキリトが問う。オーラ出てますよ?

 

キリトに睨まれたアルゴはしぶしぶ俺の上からどいた。それにしても最悪の状況だな。俺に対してプッツンしてる二人とアルゴが揃ってるとかもう。

 

 

「アルゴ、反省してるの?」

 

「・・・・・・ハイ。」

 

 

アルゴが反省?なんのことだ?そういえばフレンド解除がアルゴのイタズラとかさっき言ってたな。

 

 

「キリト。さっき言ってたアルゴがどうとかってなんのことだ?」

 

「えっとですね。第二層ボス攻略の直後にフレンドリストから私とアスナさんの名前が消えていたのは知ってますよね?」

 

「ああ。というよりお前らがフレンド解除したんだろ?」

 

「そこです。ハチさんが誤解しているのは。」

 

「誤解?」

 

「フレンド解除したのは私達じゃなくてハチさんなんですよ。」

 

「は?」

 

 

キリトは何を言っているんだ。いくらあの時疲れていたといっても気付かないうちにそんなこと出来るわけないだろ。

 

 

「混乱するのも無理はないんですが・・・・・・ちょっと手をお借りしますね。」

 

 

そう言ってキリトは俺の手をとった。柔らかいなぁとかそんなことを考えてしまったが顔には出さない。

 

 

「力を抜いてください。えっと・・・こう。」

 

 

キリトは俺の腕をスッと下に動かした。すると目の前にメニューが表示された。

 

 

「っ!!」

 

「こういうことなんです。」

 

 

唖然としている俺の手をキリトは動かしていく。ん?

 

 

「おい。俺のステータスは関係ないだろ。」

 

「あっ、すいません。つい。」

 

 

謝りながらもキリトの手は止まらない。

 

 

「キリトさん?トリックは分かったからあといいんですよ?」

 

「・・・・・・。」

 

 

ちょっと!力凄いんだけど!もういい、分かったから!

 

 

「はい。イタズラはそこまで。」

 

 

アスナがキリトを止めてくれた。危ねぇ。俺のステータスからなにからなにまで丸裸にされるとこだった。

 

 

「そうですね。イタズラが過ぎました。」

 

 

いや、絶対マジだったよね?目が本気でしたよ?

 

 

「話を戻しますと、プレイヤーの意思に関わらず手を動かすことでメニューを表示出来るんです。そこでです。ハチさん。あの時誰かの近くで寝ましたよね?」

 

 

キリトがジトーっとした目で見てくる。別に悪いことした訳じゃないんだがな。

 

 

「アルゴか・・・。」

 

「はい。」

 

「ヴッ。」

 

 

なんてこった。あのときの態度に違和感があると思ったら俺を熟睡させてそんなことを狙っていたのか。あいつホントに油断も隙もねぇな。

 

ん?ということは・・・・・・。

 

 

「もしかしてお前ら・・・・・・キレてた訳じゃないの?」

 

「そうですよ!!」

 

「うおっ!」

 

「勝手に勘違いして逃げるなんて酷いじゃないですか!次のボス攻略から姿を見せなくなりましたし、心配したんですからね!」

 

「・・・わっ、悪ぃ。」

 

 

アルゴが悪いんじゃ、とは思ったがここは素直に謝罪しておこう。

 

 

「でもお前らだったボス攻略の最後、突っ込んできただろ。あれすんげぇ怖かったからな。」

 

「ゔっ、あれは・・・その、あのままラストアタックボーナスを取られるのは悔しかったと言いますか、なんと言いますか・・・・・・。」

 

 

途端にキリトはバツの悪そうな顔になる。まぁなかなかせこいやり方だとは思ったけどね?

 

 

「あと次のボス攻略から姿を見せなかったのは次からはもう限界人数でやられてたからだ。」

 

「それを知ってるってことは攻略会議にいたってことですよね?」

 

 

しまった!口がすべっちまった。

 

 

「いたなら声くらいかけてくれてもいいじゃないですか。」

 

「いやだってお前らが怒ってると思ってたしさ・・・。」

 

「そのせいで今怒ってるんです!」

 

「理不尽だ・・・。」

 

「ねぇ。そろそろいいかしら?」

 

 

おっとアスナの存在を忘れてた。いやごめんなさい。そんな目で睨まないで、俺Mじゃないんで。

 

 

「黒猫団の皆さんを待たせてることだしとりあえず座りましょ。」

 

「あっ、そうでした。」

 

 

忘れてたのかよ。俺?もちろん忘れてましたよ。見るとメンバー全員が苦笑いしていた。とりあえず座るか。

 

長椅子の一番端に腰掛ける。

 

 

「何やってるの。」

 

「は?」

 

 

アスナさん?座ろうって言ったのあなたですよ?

 

 

「一つずれて。」

 

「いやなんで―。」

 

「ずれて。」

 

「だから―。」

 

「ずれて。」

 

「はい。」

 

 

もうホント怖えぇなあの声のトーン。

 

しぶしぶ横へずれる。するとアスナは俺が座っていた所に腰掛けた。そんなに変わんないだろうに。もしかしてあれか?なんかそういうこだわり持ってるとかそんなんか?

 

アスナに気を取られているとキリトが反対側に座った。君たちあれだよね。挟むの好きだよな。オセロか何かなの?

 

そしてキリトの隣にアルゴ。テーブルを挟んだ反対側に黒猫団が座った。

 

 

「あの、どうして僕達がここに呼ばれたんでしょうか。」

 

 

リーダーの男がアスナに質問する。ケイタだっけか?

 

 

「実は皆さんにお願いしたいことがありまして。」

 

「僕達に?」

 

「この人を少しの間このギルドに置いて欲しいんです。」

 

 

この人?この人って誰だ?

 

疑問を浮かべた俺の肩にアスナが手を置く。俺?

 

 

「おい、なんの話だ。聞いてないぞ。」

 

「今は黙ってて。」

 

「うす。」

 

 

だから怖ぇって。

 

 

「えっと理由を聞いてもいいですか?」

 

「はい。皆さんも知ってるかと思いますが前線は常に戦力が不足していて人手が足りないんです。なので一部ギルドが中層ギルドに人を派遣して育成のお手伝いをしているんですが前線から遅れるのを躊躇っているのかあまり志願者がいないんです。」

 

 

まぁ中層ギルドの育成なんてやってたら前線においてかれるからな。

 

 

「その点彼ならボス攻略には参加出来ませんし実力も確かです。人材として最適なんです。」

 

「なるほど。」

 

 

なるほどじゃねぇ。俺タダ働きじゃねぇか。

 

 

「皆さんのギルド全体のレベルも前線の適正レベルからそれほど離れている訳でもありません。ですので皆さんさえよければお手伝いさせて欲しいんです。」

 

「・・・・・・。」

 

 

ケイタは考え込んでるようだった。当然である。最前線からさほど離れてない層でレベリングしていたことからおそらく結構前から追いつこうと努力していたんだろう。そして今、そのチャンスが巡ってきた。

 

しかし、最前線は常に死と隣り合わせの世界である。最前線に合流するというのは殺されるリスクを背負うということなのだ。いざそうなると悩んでしまうのだろう。

 

アスナもそこは理解しているんだろう。何も言わず、静かに応えを待っている。

 

静寂の中、一人のプレイヤーが声を出す。

 

 

「俺はお願いしたいと思う。」

 

 

盾持ち棍使いの男だった。

 

 

「命の危険は覚悟して今まで頑張ってきたんだ。俺はこのチャンスを逃したくない。」

 

「テツオ・・・。」

 

 

力強く言い切った。タンクという危険な役割でありながら真っ先に決断する点に素直に感心してしまう。

 

 

「俺もいいと思うぜ。」

 

「そうだな。」

 

「わっ、私もいいと思う。」

 

 

短剣使い、槍使い二人が続く。仲間の反応に決意が固まったのかケイタはアスナに視線を向ける。

 

 

「アスナさん。育成の件、お願いします。」

 

「ありがとうございます。こちらとしても嬉しいです。」

 

 

アスナが柔らかく微笑む。イイハナシダナー。俺さえ関わっていなければの話だが。もうなんか反論出来る空気じゃないんだけど。

 

 

「ねぇ。」

 

「ん?」

 

「ギルドに入れとは言わないけど基本的には一緒に行動して。」

 

「俺のメリットが皆無なんだが・・・。」

 

「誤解の件はこれでチャラにするわ。ね、キリトちゃん。」

 

「はい。」

 

 

それを持ち出されると辛い。アルゴが悪いが、思いっきり避けてたことも事実だしな。・・・攻略が進むとしたら協力するしかねぇか。実際俺は前線に顔出せないし。

 

 

「・・・・・・分かったよ。」

 

「今度は勝手に逃げないでよ?」

 

「おう。」

 

 

見つかった時が怖いのでそんなことはしません。ってか出来ません。

 

 

「ハチさん、これからしばらくの間よろしくお願いします。」

 

「よろしく。」

 

 

ケイタからのフレンド申請を受理する。仕事の連絡先を登録してる気分だ。まぁ間違ってないけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それにしても一人だけ場の空気に合わせた奴がいたな。まぁ何も言わんが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ケイタ達の宿など必要なことを確認した後、解散となってアスナとキリト、黒猫団はレストランから出て行った。アスナによると一緒に行動するのは明日からでいいらしい。さて、俺も行くとしよう。

 

 

「ハー坊、大事なことを忘れてないカ?」

 

「何も忘れてないな。」

 

「あるだロ!?なんでオレっちとのフレンド登録も解除したんダ?!」

 

 

アルゴは腕を掴んで揺さぶってきた。いやいやアルゴさんよ。そんなの言うまでもないだろ。

 

 

「いやだって岩山の時俺の居場所バラしたのお前だろ。俺はあの二人がキレてると勘違いしてたし。」

 

「・・・まぁそうだナ。」

 

 

あの時は岩山とは訳が違う。相当キレてる二人に見つかるわけにはいかなかったのだ。まぁ結局俺の勘違いだったんだが。

 

 

「でも居場所を知りたいならキーちゃんもアーちゃんもフレンド解除しないだロ。」

 

「そうなんだよなぁ。」

 

 

てっきりあまりの怒りにやってしまったのかと思っていたがあの二人はそんなヘマしねぇもんな。冷静に追い詰めてきそう。・・・・・・寒気が。

 

 

「だがお前のイタズラで俺は勘違いしたんだからな。」

 

「事情説明する前にハー坊が逃げ出すから・・・・・・。」

 

「キリトとアスナが恐ろしかったからな。俺は悪くない。」

 

「・・・なんも言えないナ。」

 

 

アルゴも怒ったあの二人の恐ろしさは知っているだろう。生き残るために僅かな不安要素も残しちゃおけない。どっから情報が漏れるか分からんかったからな。

 

 

「イタズラのことは素直に謝るヨ。だからもう一回フレンド登録してくれないカ?」

 

「あんなイタズラはもう辞めてくれ。ホントに怖かったからな。」

 

「悪かったヨ。」

 

 

アルゴからのフレンド申請を受理する。アルゴはシステムメッセージを見てニコニコしている。悪用すんなよ?

 

 

「俺の位置情報とかで商売したら即座にフレンド解除するからな。」

 

「もう許してくれヨ・・・。」

 

 

アルゴが弱ったような表情になる。流石にしつこかったか?でもアルゴだしなぁ。

 

 

「ハー坊はオイラのことは信用出来ないカ?」

 

 

心を読まれたのは久しぶりだな。うーむ、アルゴは本当に駄目なこととの線引きは出来るやつだからな。逆に言えばそうでない場合は問答無用ということだが。あの時?あの時はホントに必死だったんだよ。

 

 

「まぁお前は分かってるやつだからな。その点に関しては・・・その・・・・・・信用してる。」

 

「そうカ・・・・・・そう言ってもらえるのは嬉しいナ。」

 

 

小さな声でアルゴは呟く。あやふやなぼかしたような言い方だったがアルゴは安心してるようだった。まぁ情報屋だしな。信用は大事だ。

 

 

「でも・・・・・・迷惑はかけちゃったからナ。お詫びしないとナ。」

 

「ん?」

 

 

なんだ?アルゴの様子が変わったぞ。俺の腕を掴んだまま俯いてしまった。

 

なんだろう。どこかで見た光景だ。アルゴの様子が変わって、でも俯いていてよく顔が見えなくて・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

デジャヴを感じる中、不意に右の頬に柔らかい感触がした。

 

 

カシャ

 

 

どこかで聞いた音がする。反射的に右に視線を向ける。すると唇が触れそうなほどの距離にアルゴの顔があった。

 

 

「っ!!」

 

 

飛び退こうとするもアルゴに腕を掴まれている。

 

 

「これはお詫びの気持ちだヨ♪」

 

 

頬を赤らめながらアルゴがニッコリ笑う。今のはまさか・・・・・・。

 

 

「大丈夫。この事でハー坊をいじったりしないヨ。オレっちの命を賭けてもイイ。」

 

「いや・・・そうじゃなくてだな。お前・・・今、その―。」

 

「何か情報が欲しかったら呼んでくれよナ。」

 

 

スッと腕を離したアルゴは俺の言葉を遮り入口へ歩き出す。扉に手をかけた時、こちらに振り向く。

 

 

「またナ、ハチ。」

 

 

優しく微笑んだ後、アルゴは扉の向こうへ行ってしまった。ふと右の頬をなぞってしまう。まだ少し熱が残っているような気がした。

 

 

「マジか・・・。」

 

 

NPC以外誰もいないレストランの中、俺の呟きは宙に溶けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれ?カシャってやっぱり・・・・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レストランからハチが出て行った頃、アスナは自分の借りている部屋のベッドに横になっていた。

 

 

アスナside

 

 

「っ!!」

 

 

なんだろう。今すっごく不快な気持ちになった。疲れてるのかしら。

 

月夜の黒猫団の皆さんには少し申し訳ないことしたかな。ハチ君の監視みたいなこと頼んじゃったし。でもあれくらいしないとハチ君は危なっかしいからなぁ。

 

ホントは血盟騎士団に入って欲しいんだけど、まだ団内のハチ君に対する誤解は解けてない。入団は許可されないだろう。

 

それにしてもこの三ヶ月のキリトちゃんは凄かったなぁ。ボス戦だって獅子奮迅の立ち回りをしてたし。そりゃあまぁ、私だって何ともなかったわけじゃないけど。別にキリトちゃんほどじゃないし・・・・・・。

 

そう!攻略組の戦力が落ちて心配だっただけだから、うん!!血盟騎士団副団長としてやっぱり前線には気を使わないといけないから。だから今日、嬉しく感じたの!他意は無い!

 

頬を触ってみる。まだ少し緩んでるのがわかる。明日までに戻ってるといいけど。

 

ハチ君が黒猫団の皆さんといるのは多分大体一ヶ月。その間何も無いといいけど・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イヤな予感がするなぁ・・・・・・。

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございます。次の十二話も頑張っていきたいと思います。
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