ひねくれボッチは仮想現実で本物を求める   作:エンジェリック

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どうも、エンジェリックです。随分と間が空いてしまいましたが第十四話の投稿となります。あの人にある異変が!楽しんでいただけたら幸いです。


ひねくれボッチは杞憂する

 

 

「アスナの様子がおかしい?」

 

 

楽しい社畜生活が始まってから二週間。ギルド全体のレベル、技術が大幅に向上し、前線合流まであと少しとなったある日の夜。キリトが相談を持ちかけてきた。

 

 

「はい。この頃ずっと調子が悪そうで・・・・・戦闘の時とか少し動きがおかしいですし、今日は攻略自体休んでしまっていましたし・・・。」

 

「ふむ。」

 

 

アスナが攻略を休んだ?あの怪物絶対貫くマン、攻略の鬼とさえ言われているアスナが・・・・・・そういえば例の鬼ごっこ以来会ってないな。

 

 

「それとなく聞いてみてもはぐらかされてしまいますし、どうしたらいいでしょうか?」

 

 

付き合いの長いキリトにも明かさないとは・・・。

 

 

「なぁアルゴ、なんか知ってるか?」

 

 

キリトと反対に座る絶対情報収集マンに尋ねる。

 

 

「・・・・・・自覚しちゃったカナ?」

 

 

少し考えた後、物憂げな表情でアルゴはポツリと呟いた。

 

 

「「自覚?」」

 

「あっ、いやっ、推測だからナ?オイラはそれらしい情報は持ってないしナ。」

 

 

アルゴは慌てた様子で手を振る。

 

少し怪しいがアルゴは大事な情報を渋る奴じゃない。むしろ高値で売りつけようとするはずだ。関係のありそうな情報は持ってないだろう。

 

となるとさっきの呟き。自覚?

 

 

「・・・・・・なるほど。」

 

 

先ほどの暗いアルゴの表情でなんとなくではあるが分かってしまった。

 

 

「多分アスナは自分の状況を再認識したんじゃねぇか?」

 

「再認識・・・ですか?」

 

「おう。」

 

 

この世界に囚われてからもうすぐ六ヶ月。どれだけ慣れようとしても、安全に配慮してもふとした時、思ってしまうのだ。

 

 

自分は命をかけていると。

 

 

現代の学生でそんな環境で暮らしていく事に耐えられる奴なんて何人いるだろうか。

 

以前、長く過ごしていれば慣れてくるなんて言ったがそれは中層、下層の話。誰も知らない未知の領域に挑み続ける攻略組とはほぼ別世界と言っていい。

 

ましてアスナは血盟騎士団の副団長。その心労は並大抵ではないはずだ。

 

推測だと前置きした後、キリトに話してみる。

 

 

「なるほど・・・・・・どうしましょう?」

 

「と言われてもな・・・。」

 

 

こればっかりは俺にはどうしようもない・・・と思う。励ますなんて行為は極端に言ってしまえば死地へ向かわせるよう促しているのと同じだ。出来るわけがない。

 

だからサチにも自分で選択するようにさせているんだ。最近のあの様子だともう決まってるみたいだが。

いやしかし元はと言えば俺が焚き付けたんだよな。責任は取るべきか・・・。

 

 

「どちらにせよアスナにはゆっくり決めるための時間が必要だろ。」

 

「そうですね。でも・・・・。」

 

「ああ、分かってる。」

 

 

アスナは攻略組の中核。そのアスナがいないとなると攻略は大幅に遅れる。

 

 

「だがそれはそこまで問題じゃない。」

 

「え?」

 

 

一瞬解決案があることを喜んだのか顔が明るくなる。だが次の瞬間にはこちらにジト目を向けていた。流石察しがいいっすね。

 

 

「・・・・・・まさか。」

 

「俺が行けばいい。」

 

 

閃光様ほどの実力なんてないがレベルは充分。隠蔽と索敵を駆使していけば結構迷宮区は進めるだろう。

 

俺の言葉を聞いた瞬間キリトの顔が険しくなる。

 

 

「黒猫団のレベリングはどうするんですか。」

 

 

そして顔だけではなく声まで厳しいものになる。しかしそこも大丈夫だ。

 

 

「ケイタとはそろそろ俺なしでやってみるって話してたんだ。予定より少し優しめの場所になるけど問題無い。」

 

「でも!」

 

「前線の奴らもいきなり襲ってはこないだろ。いざとなったら逃げるし捕まる事はまず無い。あとアスナには言うなよ。あいつのことだから俺が代わりにやってるなんて知ったら―。」

 

「ハー坊。」

 

「ん?」

 

 

ここで今まで静かだったアルゴが話しかけてくる。見ればアルゴは時折見せる真剣な表情でこちらを見ていた。

 

 

「本気なんだナ?」

 

「おう。」

 

 

見つめ合うこと数秒。少し気恥しさが出てきたところでアルゴは大きくため息をついた。

 

 

「・・・・・・わかったヨ。」

 

「アルゴ!」

 

「キーちゃんもわかってるダロ?こうなったらハー坊は止まらないと思うヨ。」

 

「うぐっ。」

 

 

なんだ、俺が頑固とでもいうか心外な。

 

ため息をまた一つ吐き、アルゴは話す。幸せ逃げるぞ。

 

 

「ただしキーちゃんと一緒に行動してクレ。ハー坊一人だと危なっかしスギル。」

 

「えっ、いやそれは―。」

 

「ここは譲らないゾ。」

 

「・・・うす。」

 

 

いや俺としてはありがたい話なのだが。

 

 

「でもキリトはいいのか?」

 

「大丈夫です。どのみち明日は攻略を進めるつもりでしたし。」

 

 

大丈夫ならむくれないでくれ。可愛いだけだから。

 

 

「じゃあケイタに話してくるわ。」

 

 

手元のコーヒーを飲み干し、席を立つ。

 

 

「あっ、なら私はサチさんに。」

 

 

キリトも続いて席を立つ。

 

そういえば最近仲いいよなこの二人。この前なんか一緒に狩り行ってたし。いつの間に仲良くなったんだろうか。っていうかサチに何話すの?

 

 

「区切りがいいしオイラもここでお暇するヨ。ハー坊、くれぐれも無茶はしないでくれよナ。」

 

「わかってるよ。」

 

 

その他諸々のクギを刺した後、アルゴは入口へ歩いていった。

 

俺ってそこまで信用無いか?あっ、見た目ですかそうですか。

 

目からこぼれる汗を見られぬよう二人に背を向け、俺はケイタのいるテーブルへ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱりハー坊はハー坊ダナ。」

 

 

二人と別れ、人気の無い道を歩きながら鼠は呟く。

 

 

「自分がどんな表情してたかも気付いてないだろうシ。周りに敏感なくせに自分の事には疎いんだよナ。」

 

 

不満をもらしているようにも聞こえるが、その声色はどこか楽しそうなものだった。

 

 

「まっ、そもそも誤解なんだけどナ。でもオイラの口からは説明出来ないし・・・・・・アーちゃん、今回は貸しダゾ。」

 

 

足は止めず、独り言を続けながらアルゴはメニューを操作する。

 

二十秒程でメールを打ち終え、送信する。

 

 

「本格参戦カナ?キーちゃんはまだ大丈夫だけど問題ハ・・・・・・あの娘カ。」

 

 

鼠の本日最大級のため息は夜の闇に吸い込まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さてさて、約五ヶ月ぶりの本格的な攻略。なんだかんだ言っても不安要素は多い。だがしかし。今しがた最大級のイレギュラーが発生、というより到来した。

 

 

「なっ、なんであなたがここにいるの。」

 

 

目の前の少女はジト目でこちらを見ている。それ昨日もくらったから。耐性は出来ないけど。

 

キリトとの待ち合わせ場所。現在の最前線である四十三層の転移門広場にはアスナがいた。

 

十分前に来たのだがその時には既におり、こちらを見るなりこの発言である。

 

なにかとてもイヤーな予感がするがとりあえず攻略に来たとはバレてないと思う。運悪く会ってしまっただけだ。誤魔化しはきく。

 

 

「この層の道具屋に用があってな。黒猫団の奴らには言ってある。」

 

 

攻略行ってくるって。

 

 

「・・・・・・攻略に来たわけじゃないのよね?」

 

 

ビンゴです。さっすがアスナさん。鋭いですねー。

 

 

「おう。用がすんだら―。」

 

「ハチさーん!お待たせしましたー!」

 

 

キリトさん。朝から元気いっぱいですね。八幡嬉しい。というかアスナいるからな?見えてる?

 

アスナはキリトを見て、ふーんといいながらこちらを睨む。

 

 

「・・・・・・その店にはキリトちゃんと行くの?」

 

 

その責めるような目をやめてくださいお願いします。だが安西先生だって言っていた。諦めたらそこで試合終了ですよ。

 

 

「たまたま目的が同じで―。」

 

「今日の攻略、張り切っていきましょう!!」

 

「・・・ソウダナ。」

 

 

チェックメイト。もう無理ですね。はい。安西先生・・・・逃げ出したいです。あとキリト。君わかっててやってるよな?

 

それはもう深~いため息を吐き、横目でアスナの様子をうかがう。

 

さっきからどうもアスナの様子が変だ。挙動不審だし変に顔が赤い。どうやら話は本当のようだ。まぁ顔が赤いのは・・・・・・うん。熱でもあるんだろ。決して俺への怒りではないはずだ。多分、きっと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アスナside

 

 

「あなたね、自分の立場がわかってるの?」

 

 

アルゴさんからのメールを貰った時はまさかと思ったけど、本当にくるなんて。

知らないふりをしていたのはあれよ・・・・・アルゴさんからのリークだって知られないようにするためよ。決して慌てるハチくんを見てみたかったとかそういうんじゃないわ。

 

あとキリトちゃん楽しそうね。アルゴさんから連絡がいってるのは知ってるけど、ここまで喜々としてやるとは思わなかったわ。

 

 

「今は大分落ち着いてきているけど、あなたが前線に戻って来たなんて知れたらまた騒ぎだす連中だっているのよ?」

 

 

それに少し前から変な噂だってたってるし。

 

 

「どうも身体が鈍った感じがしてな。戦闘のカンを取り戻すために出てきたんだよ。」

 

「だからって・・・。」

 

 

モンスターには一定のアルゴリズム、攻撃の兆候などが設定されている。基本的にはそれらの情報をもとに戦っていくのだが何事にも不測の事態というのはある。それこそ第一層、第二層でのボス攻略の時のように。

 

そういった時、私たちの行動の支えとなるのは経験からくるカンというものだ。

 

理屈がどうとかじゃなくこうきたからこうする。といったような膨大な経験をもとに瞬時に出される答え。これがカンだと私は思っている。

 

これを養うためにはとにかく経験が必要だけど薄い経験では中々身につかない。だからハチ君は前線に出てきた。常に命の危険に晒されて安全地帯なんかでは経験し得ない濃密な時間を過ごすこの前線に。

 

実際何度かこのカンに救われたこともあるため良い反論がすぐに思いつかない。

 

危うく口から唸り声の一つでも出そうになった時。キリトちゃんがニコニコ笑いながら寄ってきた。そして横に立ち、つま先立ちで私に小さく耳打ちする。

 

 

「ハチさん。口ではああ言ってますけどアスナさんのこと心配してたんですよ?」

 

「えっ?」

 

「何話してんだ?」

 

 

こいつが私の心配?キリトちゃん、エイプリルフールはもう終わったのよ?

 

 

「昨日アスナさんが不調だってアルゴから聞いた時すごく険しい顔してたんです。ハチさん自身は気がついてないと思いますけど。あっ、もちろん私だって心配したんですよ?」

 

「そっか・・・ありがとね、キリトちゃん。」

 

「おい。」

 

「いえいえ。それより体調はどうですか?辛いようでしてたらやっぱり今日は休んでもらっても・・・。」

 

「ううん、大丈夫だよ。」

 

「おーい。」

 

 

キリトちゃんは心配そうにこちらを覗き込んでくる。キリトちゃんには悪いけど困り顔がとても可愛かった。

 

それにしてもハチ君が私の心配ね・・・。ふーん、へぇーなるほどねー。

 

 

 

・・・誰のせいだと思ってるのよ。

 

 

諸悪の根源を見ると少し目が赤くなっていた。・・・やり過ぎたわね。

 

 

「え、なにこれイジメ?」

 

「何言ってるの。さっさと行くわよ。」

 

「・・・やっぱり来るのか。」

 

 

露骨に嫌そうな顔になるハチ君とは反対に少し頬が緩んでしまう。

 

これってやっぱり心配してるのかしら。いやでも私が同行するのを嫌がってるだけかも。いやいや。もしかしたら・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

sideハチ

 

 

やはりおかしい。

 

 

攻略を開始してから大体三十分が経過した。俺とキリトが前衛。アスナが後衛といった布陣で今回は戦っている。

俺は最初少し危なげない戦闘になってしまっていたが今は大分安定している。

 

問題は・・・。

 

 

「スイッチ!!」

 

「っ!」

 

 

キリトの声でアスナが前に飛び出す。だが少し遅い。

 

 

「そらっ!」

 

 

剣を持ったトカゲ人間の両足を後ろから切りつける。まるで膝カックンのように体勢を崩したモンスターの喉をアスナのレイピアが穿つ。

 

大きく仰け反り、倒れきる前にトカゲ人間はポリゴンになって砕け散った。

索敵に反応は無し。周囲のモンスターはあらかた倒したようだ。

 

さてどうする。

 

アスナを襲っている硬直は本当に小さなものだ。わずか一秒にも満たない硬直。しかしそれは今日見たばかりの俺でさえ気づいた異変だ。

もしこの硬直がアスナの死への恐怖心からくるものだとしたら今の彼女はかなり危うい。心理的な問題が身体に反映されてくるほどに大きくなっているということだからだ。

 

アスナは貴重な戦力だ。それこそアインクラッドでも一二を争うほどの。彼女を失うのはキツイ。しかし・・・。

 

 

・・・・・・迷ってる場合じゃねぇよな。

 

 

「アスナ。」

 

 

アスナは一瞬大きく肩を震わせるとゆっくりこちらを向いた。

自分より歳下の少女がそこまで精神をすり減らしている。そしてその発端が自分だと思うと・・・。

 

 

「なっ、なによ。」

 

 

警戒心を滲ませた視線。当然だ。彼女にとって俺が諸悪の根源なのだから。

アスナの反骨心を煽らぬようハッキリとは伝えない。ただニュアンスが伝わるように。

 

 

「無理はすんなよ。」

 

「え?」

 

 

アスナは信じられないものを見たような顔になる。俺のキャラじゃないのは分かってるよ。

 

 

「プロは自身の体調管理も仕事のうちだからな。だから、その・・・たまには休め。少しだったら手伝ってやるから。」

 

 

すんごい遠まわしな交代宣言。最初は少しでいい。徐々に前線から離していくようにすれば・・・たぶん。

 

ダンジョン内に静寂が満ちる。

 

その静寂の中、アスナはクスリと笑った。

 

 

「この前も二日休んだわ。お陰様で体調は万全。心配なんていらないわよ。」

 

 

そう言い放つとアスナはダンジョンの奥へ進んでいった。

 

くそ!失敗しちまった!アスナの反骨心を侮っちまったか!

 

 

「おい!アス―。」

 

「ハチさん!ハチさん!やりましたよ!アスナさんのあの顔。いつものアスナさんです。」

 

「は?」

 

 

急に腕に引っ付いてくるなりキリトはピョンピョン跳ねながらそう語る。

 

直った?つまりアスナは恐怖を克服した?Why、何故?そんなに俺の助言は嫌か?!そりゃそうだよな畜生!

 

 

「っ!」

 

 

アスナの進行方向にモンスターが出やがった。

 

 

「アスナ!来るぞ!!」

 

 

いくらなんでも急すぎる!これじゃあ―。

 

 

「はぁぁっ!!」

 

「ふぁ?!」

 

 

薄暗いダンジョン内に強烈な閃光が走り、神速の剣技はトカゲのHPを一撃で消し飛ばした。

 

あれ?ホントだ。完全復活してらっしゃる。つか最後に見た時よりエグくなってる。

 

アスナからバトンタッチされたかのように硬直する俺と未だに嬉しそうに跳ねているキリトに振り向き、アスナは言った。

 

 

「ほら、いくわよ!二人とも。」

 

 

その笑顔はまさしく閃光のように輝いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

反骨心とかじゃなくてもしかしてアスナってただ単にドMなんじゃ――。

 

 

「ハチ君、何か失礼なこと考えてるでしょ。」

 

「イエ、ナニモカンガエテナイデス。」

 

 

だからなんで心が・・・ん、ハチ君?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、行ってくるな。」

 

 

月夜の黒猫団の団長、ケイタは転移門の上でこちらに手を振り、光の中に消えた。

 

 

「ついに念願のマイホームかぁ。」

 

「親父くせぇんだよ!」

 

「いって!」

 

 

ずっと前からコツコツ貯めてきたギルドのホームのための資金。それが最近のレベリングで一気に貯まった。ハチさんは今日、前線に行ってここにはいないから丁度いいとのことで購入することになった。

 

夢の一つであったギルドホームの購入にみんな浮かれているようだ。そういう私も結構楽しみにしてたりする。

 

 

「なぁなぁケイタが戻ってくるまで時間あるよな?」

 

「ん?まぁ結構あるだろうな。」

 

「じゃあさ――。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ!どんどん行くわよ!!」

 

「了解です!!」

 

「おい、少しは休ませろ。」

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございます。次回も頑張って書きたいと思います。
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