ねぇ、こんなことわざを知ってる?
『前門の虎、後門の狼』
一つ災いを逃れて、さらに他の災いにあうことのたとえ
『一難去ってまた一難』ともいう。
さて、どうして俺が戦車の中で紅茶を嗜む人のようなことを、いっているのかといいますと・・・・・・。
今現在、二つの大変大きな脅威に晒されているからであります。いや、正しくは『二人の』だな。
前後ではなく左右。虎と狼ではなくプレイヤーなのだが、危険度はぶっちゃけ変わらないと思う。
一人目はさっきのレイピア使い。先ほどからあたりをゆっくりと見渡している。時折フードの隙間から覗いている目が、猛獣が獲物を狙っているときの目そのものである。
まぁ本当に獲物を狙ってるとしたら俺のことなんだけどね。おそらくさっきのやりとりが原因だろう。
足を引っ張るなと言っておいて会議にいないとはどういうことか。
そう思ってることだろう。それにしても恐ろしい。さっきから視線が俺のいる場所を通過する度に《隠れ率》が結構下がる。大変心臓に悪い。
そしてもう一人。こちらもフードを被っているが、知らないプレイヤーだ。さっきまでしきりにあたりをキョロキョロしていたが、今はもう下を向いて項垂れている。
それだけなら全く問題ではないのだが、そのプレイヤーが放っている負のオーラがヤバイ。誰かを探していたのかもしれないが、どうやら見つからなかったらしい。
それにしても落ち込みようが半端じゃない。もう瘴気とか出てるんじゃないのアレ?この距離でも胃がキリキリ痛むんですけど。
それにさっきから、少し前に座ってる野武士面の男がしきりにそのプレイヤーを見てる。知り合いなら瘴気出すのを止めるように言ってくれませんかね?
そんな二人はある程度の距離を空けて同じ列に座っているんだが、その真ん中に俺が座っている。
俺からここに座ったわけじゃねぇよ。ここに座って開始を待ってたら、レイピア使いが来て動けなくなったんだよ。何度か脱出を試みてはいるが迂闊に動くと隠れ率が激減する。このままやり過ごすしかねぇと思ってたら反対側にもう一人が座って今に至る。
もうね、胃がマッハで削れていく。
俺がものすごい速度で自分の胃の寿命を削っていると、広場の中央に水色の髪のプレイヤーが現れ、手を叩いた。
「はーーーい。それじゃあそろそろ始めさせてもらいまーす。」
どうやらようやくボス攻略会議が始まるらしい。左右からのプレッシャーも薄くなった。
「今日は、俺の呼びかけに応じてくれてありがとう。俺は《ディアベル》。職業は・・・・・・気持ち的にナイトやってます。」
広場が笑いに包まれた。口笛や拍手なども聞こえるてくる。
・・・・・なんだあいつ。あそこまで露骨にリア充オーラ振りまいてる奴なかなかいねぇぞ。いつもの俺なら舌打ちの一つでもしてやったが今はできない。左右のプレイヤーに聞こえかねないからな。
レイピア使いなんか見えてなくても音だけで見破ってきそうだからな。迂闊な行動はできない。
するとディアベルは急に真面目な顔で話し出した。
「今日、俺達のパーティーが、あの塔の最上階でボスの部屋を発見した。」
ディアベルがそう言うと、集まったプレイヤー達から驚きの声が漏れ出た。
「俺達はボスを倒し、第二層に到達して、このデスゲームもいつかきっとクリア出来るってことを、始まりの町で待っている皆に伝えなくちゃならない。それが、今この場所にいる俺達の義務なんだ。そうだろう?みんな!!」
ディアベルのやや芝居がかった演説に、広場は再び拍手や口笛に満たされる。何人かは声を上げて賛同している。流石、あれだけのリア充オーラを振りまいてるだけのことはある。なかなかのカリスマ性を有している。まぁ悪い奴ではないんだろう。
「OK。それじゃあ早速だけど、これから攻略会議を始めたいと思う。まずは六人のパーティーを組んでみてくれ。フロアボスは単なるパーティーでは対抗できない。パーティーを束ねたレイドを作るんだ。」
OK。前言撤回だ。とんでもない爆弾落としてきたよ。いや、わかってたよ?こうなることは。しかし、これは相当キツイ。まわりの奴らはほとんどがパーティーで来ている。もう既に出来上がっているようなものだ。途中から入ると絶対に、えっ誰?みたいな反応が返ってくる。あの視線ほど気まずいものもない。ほんとにもう苦笑いくらいしかできない。
広場を見渡してみると例の二人は動いていなかった。レイピア使いは微動だにしてないし、もう一人はオロオロしっぱなしだ。薄々思ってたけどやっぱりキミ達もソロなのね。
ん?なんだ?オロオロしてた方がこっちを見てる。いや違うな。俺の後ろのレイピア使いを見てる。
・・・・・・まずっ!!
「のわっ!」
「きゃ!」
急いで避けようとしたが遅かった。レイピア使いに猛烈な勢いで近づいたそのプレイヤーは見事に俺とぶつかり、その瞬間、俺の《隠れ率》は0になった。
俺、レイピア使いに殺されるんじゃねぇかな。
体制を崩し、押し倒される中、俺はそんなことを考えた。
キーちゃん?side
・・・・・・一瞬何が起きたか分からなかった。パーティーを組まなきゃいけなくて、広場を見渡したら赤いフードを被った人が座ってた。だから一緒にパーティーを組もうとして近づいたら、
急に目の前の空間が歪んだ。
そう形容するのが一番しっくりくると思う。気がついた時にはもう遅くて、突然現れた何かにぶつかってしまう。
勢いがあったせいか、ぶつかった衝撃でその何かを押し倒してしまった。
「なっなにが・・・・・・。」
急いで身体を起こす。そして押し倒した何かと目が合う。
濁った目。ピョコピョコ動くアホ毛。あの時は背中越しだったけど分かる。その顔はまさしく、この一ヶ月間探し続けたものだった。一瞬の間の後、身体が動く。もう嬉しくて嬉しくて、自分を止められなかった。
「ハチさん!!」
生きていてくれた!思わず飛びついてしまう。フードも取れちゃったし彼をまた押し倒してしまうが気にしない。今はただこの再開を喜ぼうと思う。よかった・・・・・・。
・・・なんで悟ったような笑顔なんだろう?
ハチside
待って。いや本当に待ってくれ。何が起きてる?
おそらくこの少女は後ろのレイピア使いとパーティーを組もうとしたんだろう。だから近づいたけど、隠蔽で見えなかった俺にぶつかった。ここまではいい。100%こちらの過失だ。後で謝罪なり土下座なりするとしよう。
でもなんで抱きついてくるの?しかも泣いてらっしゃる。
この絵面はマズイ。非常にマズイ。傍から見ると泣いている少女と、その少女に抱きつかれてる目の腐った男。
まるで俺が何か彼女の弱みを握って脅して、泣きつかれてるようではないか。
急ぎ身体を起こし、少女を離そうとする。このままでは少女の弱みにつけこんで脅すような犯罪者のレッテルを貼られてしまう。早く離さなければ。
「っ!!・・・STR・・高すぎだろっ!・・・」
全く離れない。圏外だったらダメージ判定が出るレベルだ。流石最前線のプレイヤーといったところだ。それにしてもこのプレイヤー・・・・・・どっかで見たような気がする。
記憶の中を漁っていると、少女が勢いよく顔を上げる。
アメジストのような潤んだ瞳が、こちらを見つめる。
「生きていてくれて・・・よかったです・・・・・・。」
小さくか細い声でそう呟く。その瞬間に全てを理解した。
「あのとき・・・森の中で会った・・・・・・。」
「はい!!あのときは助けていただき、ありがとうございました。」
満面の笑みで感謝を告げてくる。かわいい。
じゃなくて、おそらくこの娘はずっと心配してくれていたのだろう。転移した後もその場所で俺を待っていた。でも転移してこない。だから思ったわけだ。何かトラブルがあったんじゃないかと。それで心配で今まで探してくれていたと。
圧倒的罪悪感ッ!!
マジか。そんなに心配してくれたのか。そんなに心配されてたとは思わなかった。まぁ向こうからしたら、自分をせいで人が死んだかもしれないんだからな。気にもするよな。
・・・・・・悪いことをしてしまった。見たところ中学生くらいの娘だ。相当なプレッシャーになっていたことだろう。熟練度の為とはいえ、四六時中、隠蔽を使っていたのはいただけなかったな。素直に謝るとしよう。
「心配かけたみたいで・・・・なんだ・・その・・・・・・・・・悪かった。」
「いえいえ! こちらこそ、生きていてくれてありがとうございます!」
そう言って顔の前で手をブンブンと振る。日本語めちゃくちゃなんだが。
「私《キリト》って言います。それで・・・よかったら一緒にパーティー組みませんか。」
少し躊躇いながらそう聞いてくる。キリトか。なんか男っぽい名前だな。まぁ詮索はしないが。
「おう、よろしく頼む。俺の名前は――。」
「ハチさんですよね!!」
「・・・・・・はい。」
自己紹介遮られたよ。自己紹介ってか本人確認だったな。キリトから送られてきたパーティー申請を受諾する。視界の端にキリトのHPバーが表示された。
まぁ色々あったが無事パーティーを組むことができた。キリトも罪悪感から解放されたようだし、これでなにもかも――。
「見つけた。」
小さな呟きだった。本当に小さな、聞き逃してしまうくらいの声量だった。現にキリトはその声に気づいていない。しかし、俺には聞こえた。ハッキリと。
忘れてた
全身の血が引くのを感じ、身体が震え始める。デスゲームの開始を宣言された時だってこんなには震えなかったはずだ。
一番ヤバイ奴を
ゆっくりと振り向く。わずか数秒の動作。しかし俺には、その時間が永遠のように感じられた。キリトの満面の笑みが視界から外れる。かわりに飛び込んできたのは、
レイピア使いの、
満面の笑みだった・・・・・・。
さっきはどうも。
レイピア使いの口がそう動いた気がした。
「おきににゃしゃらず。」
俺はそれしか言葉が出なかった。
いつだか親父が言っていた。
美人の笑顔ほど怖いものはない、と。
その言葉を今ほど痛感したことはない。今、正座させられている俺の目の前には一人のプレイヤーが立っている。立ち上がった時に外れたのかフードは被っていない。整った顔立ち。綺麗な栗色の髪。誰が見ても美少女と言えるだけのルックスを持っている。
そして彼女は今、俺に笑顔を向けている・・・・・・。
人を殺せるだけの殺気と共に。
この殺気さえ無かったらどれだけドキドキしただろう。中学の俺だったら惚れて、告ってふられてしまうだろう。ふられちゃうのかよ。
まぁドキドキはしてるよ。目の前の恐怖に対して。
「あなた、名前は?」
低く冷たい声が名を聞いてくる。
「ひき・・・・・・・・・ハチです。」
あっぶねー。あまりの恐怖からリアルネーム出すところだった。
「ヒキハチ?変な名前ね。」
混ぜられちゃったよ。なんだよヒキハチって。なんかのカップリングみてぇじゃねぇか。っ!!悪寒が・・・。
「それで、どうして隠れてたの?」
「いや、ほりゃ・・・ありぇがあれで――。」
瞬間、視界が真っ白になった。閃光のような瞬きに目を閉じてしまう。
目を開けた時、目の前にはレイピアの切っ先があった。
・・・・・Oh・・・。
「な・ん・で、隠れてたの。」
誤魔化しは許さない。そう目が語っていた。
「あにょ、怖かった・・・・・・から・・でしゅ。」
「誰が。」
「・・・レイピアを・・・・・・持っている方が。」
「今この広場でレイピアを持っているプレイヤーは私しかいないんだけど、そういうこと?」
「・・・・・・。」
「そう・・・。」
会話が途切れる。俺の命も途切れそうだな。マズイ。こうなったら本気を出すしかない。
見せやるよ・・・・・・俺の本気を・・・。
「覚悟は―。」
言葉の終わりを待たずに全力で跳躍する。現実ではありえないほどの高さまで跳ぶ。そして身体を真っ直ぐ伸ばし、後ろに二回転。その間に三回の捻りを加え、その勢いのままに!!
「すいませんでした!!」
土☆下☆座!!これぞ俺があみ出した史上初、難易度Hの土下座技。この技をハチマンとなずけよう。
広場が静寂に包まれた。気付けばさっきまでパーティーの打ち合わせをしていたプレイヤー達が、何事かとこちらを見ている。キリトも驚いた表情のまま固まっている。
さて、肝心のレイピア使いさんはというと・・・・・・。
「・・・・・・クスッ。」
なん…だと…!?笑っている。あの阿修羅を彷彿させる
だけの殺気を放っていたレイピア使いが?
「今なにか失礼なこと考えてない?」
「・・・・・・カンガエテナイデス。」
ふーん。と疑いの目をこれでもかと浴びせたあと、レイピア使いは大きなため息をついた。
「まぁいいわ。許してあげる。」
一気にまわりの空気が弛緩する。助かった・・・・・・。
「ただし!私もパーティーに入れてもらうわよ。」
助かってなかった。これから鬼と活動を共にするのか。キリトに確認のアイコンタクトを送る。キリトはこれでもかというくらい首を縦にブンブン頷いた。首痛めるぞ。痛めないか。
渋々目の前のレイピア使いにパーティー申請を送る。彼女はそれを受諾し、また新たに視界の端にHPバーが表情される。
Asuna・・・か。
それが神速のレイピア使いの名前だった。
なんかアスナと阿修羅って似て・・・・・・なんでもないです。
こうして第一層ボス攻略のパーティーが完成した。後ろから刺されないよな?・・・・・・大丈夫だよね?
読んでいただきありがとうございます。これから先もテンプレが多いと思いますが、よろしくお願いします。次の第六話も頑張っていきたいと思います。