昨日のボス攻略会議から一夜明け、四十数名のトッププレイヤー達は迷宮区へ続く道を歩いていた。
ハチside
・・・・・・・うるさい。
なんでこんなテンションMAXなの?あちこちから話し声が聞こえてくる。爆笑してるプレイヤーもしばしばいる。遠足か。
俺達のパーティーはそんな集団の最後尾、少し離れたところを歩いている。
朝の集合時にディアベルは、それぞれのパーティーに役割分担をし、最後にプレイヤー達を鼓舞していった。そのときの盛り上がりが未だに止まないようだ。ちなみに俺達の役割は取り巻きの取りこぼしの掃討。アスナは不満気だったが人数が人数だけにしょうがない。楽だし。
そんな中俺はというと、今朝廊下で目を覚まし、昨日の小っ恥ずかしいやりとりを思い出し、また新たな黒歴史が製造されたとのたうち回っていた所をキリトとアスナに目撃され、アスナの冷ややかな視線を朝食と共に存分に味わい農家を出た。
昨日出来なかった作戦会議、もといスイッチとPOTローテの説明をキリトにしてもらいながら広場に到着。その後、今にいたるというところである。
広場で待機してる際、例の野武士面がキリトに話しかけ、少しの時間談笑していた。
キリトに昨日見たような憂いは感じられず、とりあえず胸をなで下ろした。
昨日の会議で騒いでたキバオウも、先程ディアベルに対して謝罪していた。一夜明けて頭が冷えたんだろうか。
アスナさん?殺気立ってますよぉ〜。ええ、これでもかってくらい。その殺気が今日挑むボスに向けられたものなのか、俺に向けられたものなのか知る術はないが。
っていうか知りたくない。
っていうかなんで二人とも俺から若干離れてるんですかね。なに、いつの間にかパーティー分けられてるんすか?そりゃあ廊下で目が腐った男が転げ回ってたら恐ろしいだろうけどさ。
そんなことを思いながら二人の少し、いや結構後ろを歩いているとふと振り返ったキリトと目が合う。
「っ!」
ソッコーで顔を背けられてしまった。・・・死にたい。
精神的大ダメージを受けていると前のパーティーから、見覚えのあるモヤッとボールが近づいてくる。やだな〜。絶対面倒なことになる。是非ともお引き取り願いたい。
「おい。」
低く怒気を隠そうともしない乱暴な声でキバオウが声をかける。前の二人が立ち止まる。少し遅れて俺も二人の後ろに立つ。剣呑な目つきでキリトを睨みながらキバオウは口を開いた。
「ええか、今日はずっと後ろにひっこんどれよ。ジブンらは、わいのパーティーのサポ役なんやからな。」
はぁ?なにこいつ。それを言いにわざわざ戻ってきたの?しかしどうやらそれだけではないようで、先程から終始キリトを睨んでいる。キリトはというと俯いて上着の裾をギュッと握っている。
うちのパーティーにちょっかいかけないで欲しいもんだな。
「おい、トンガリ。」
「っ!!なっなんやワレ!どっから出てきた!?」
えっ?なに?気づかれてなかったの俺?マジで?まぁいい。そんなこと今は関係ない。さっさとご退場願おう。
「そう言うからには代わりにお前らが頑張るんだろ?せいぜい楽させてくれよ。リーダーさん。」
「ぐっ!」
まぁ取り巻きの担当のコイツらが頑張るということは俺たちに仕事は回ってこないということだからな。是非とも奮闘していただきたい。
なにも言えなくなったのかキバオウは道端に唾をはいてパーティーに帰って行った。きたねぇな。
「・・・なにあれ。」
アスナさん?レイピアから手を離しましょう?ここ圏外よ。
それにしてもアイツ、ずっとキリトを睨んでたな。なんなの?好きなの?
とか言ってる場合じゃないな。キリトがキバオウに睨まれる理由なんて一つくらいしか思いつかない。アイツ、キリトがベータテスターだってこと知ってんのか?そうだとしたら誰から?
アルゴ?いや多分違う。一ヶ月前に少し話した程度だが今のベータテスターの立場を知らないわけがない。それにキリトの知り合いらしいしな、そんなことはしないだろう。
となると他のベータテスターから聞いたってところか。
「なぁ。キ・・・・リト。」
よく考えたらキリトの名前呼ぶの初めてだな。
「・・・・なんですか。」
あらー、目に見えて萎縮してらっしゃる。あのモヤッとボール許すまじ。
「お前ってベータテスト時代と同じキャラクターネーム使ってるか?」
「っ!!・・・・・・はい。」
急にベータテスト時代のことを聞いたから驚かせてしまったようだ。少し申し訳ない。しかし、これでベータテスターの誰かがキバオウに告げ口したことが判明したな。いや、案外キバオウ本人がベータテスターだったりしてな。だとしたらたいした役者だが。
おっと。そんなことより早くキリトのリカバリーをしなければ。
「あー、なんだ。あのモヤッとボールのことは気にするな。お前は・・・その・・・自分を誇っていいぞ。」
「っ!いえいえ!大丈夫です!頑張れますよ!」
昨日のやりとりを思い出したのか顔が赤くなる。初心な反応だな。俺?真っ赤だよ。くそ、また小っ恥ずかしい事を言ってしまった。
「ねぇ、それって何の話?」
空気だったアスナが聞いてくる。鋭い質問だ。レイピアだけにね!!・・・・・・・・・ごめんなさい。
っていうかキリトは説明してないのか。そりゃあお互い恥ずかしいけど。
二人して顔を背けるとアスナはレイピアに手をかける。
「わっ、わかりました。話します。」
キリトがアタフタする。アスナさん。最近レイピアに手かけすぎじゃないですかね。今日の終わりとかになったらそれされただけで土下座するようになってそうで怖い。
「あの・・・実は私、ベータテスターなんです。」
「知ってるわ。」
「「えっ?」」
意外だ。アスナも気付いてたのか。そうゆうの疎い奴だと思ってた。
「あれだけ色々な知識があるんだもん。それになんか場慣れしてるし。流石に気づくわよ。」
「いや、知識に関しては基本なんですが。」
まぁコイツはアイテムと武器だけ担いで、迷宮区でキャンプするようなある種の脳筋だか・・・・・・・・・ごめんなさい。
「とにかく。ベータテスターだからってグダグダ何か言ったりしないわ。キリトちゃんは大事なパーティーメンバーだしね。」
・・・・・・なんだろう。キリトの宿に行って以来、アスナのキリトに対する態度が軟化している気がする。反対に俺への態度は硬化する一方だが。
「大事・・・・・・パーティーメンバー・・・・・・えへへ。」
ソロだからあまり言われたことがないんだろうか。アスナの発言に対してキリトが照れている。かわいい。天使だ。
その後キリトはアスナに昨日の出来事を説明していた。
さて、随分間を空けたが再び考えよう。キリトがベータテスターだとして、わざわざあんな発言する必要があったんだろうか。キバオウの性格からして文句を言うなら直接言ってきそうだし。
後ろに引っ込んでろ・・・。前には出るな?ボスには攻撃するなってことか?確かに部隊の統率は大事だが、わざわざ念を押さなくても。
うーむ、分からん。少なくともそのベータテスターはキリトに何らかの因縁がある筈だ。今後注意しなければ。
いや、別に今後なんてないだろう。この二人とはボス攻略の為に一時的にパーティーを組んだだけだ。ボス攻略中ならまだしも、ボス攻略が終わったらそれまで。そうなったらもう俺には関係ないことだ。
この二人は強い。アスナは言うまでもないし、キリトも一ヶ月前に見た程度だが相当な実力者だ。おそらくこの先も攻略組の中核を担って行くことだろう。
優しく、純粋な少女と。決して折れることのない信念を目に宿した少女。
出来ればそんな二人の活躍を近くで見ていきたいと思う自分もいたが、そんな二人は俺には眩しすぎると思う自分もどこかにいた。
辛い現実から逃避して、こちらに来た俺には・・・・・・。
午後十二時半。ボスを攻略するべく集まったプレイヤー達は最上階、ボス部屋の前まで到達していた。
ここまで数回の戦闘があったが、ディアベルが的確な判断力を見せ、無事犠牲者なくここまで来ることができた。
それにしてもディアベルはもしかしてベータテスターだったりするんだろうか?随分と部隊の指揮に慣れている。まぁ他に何か経験があるのかもしれないな。
「お二人共いいですか?私達のパーティーが相手をするルインコボルド・センチネルは取り巻きですが強敵です。朝にも少し説明しましたが、頭と身体の大部分が鎧で守られていて、お二人の武器では有効なダメージは難しいです。」
「大丈夫よ。狙うのは喉元、でしょ。」
「はい。私が相手の武器をソードスキルで弾くので、すかさずスイッチして飛び込んで来てください。」
「俺はお前らの補助だな。」
「はい。ベータテスト時代との変更点などでなにかトラブルが起きるかもしれません。そういった場合に対処をお願いします。」
「おう。」
補助の補助というなんとも言えない仕事だが、しょうがないことなのだ。まず武器を弾くのは経験があるキリトがするとして、攻撃なのだが。アスナのレイピアと俺の短剣ではリーチが大分違う。しかもソードスキルの正確さもアスナの方が勝っている。喉元の僅かな鎧の隙間に攻撃を当てるのは俺では荷が重いのだ。
隠蔽を使えば接近できるのだが、キリト達も見えない相手と連携を取るのは難しいだろうしな。俺も二人がどう動くのかよく分からん。
一応、この一ヶ月練習した《シングルシュート》があるが、提案したらキリトが微妙な顔をしていた。まぁ攻撃力はほとんど無いからな。あまり戦力にはならないだろう。あれ?俺っていらない子?
俺がこのパーティーの本質に気がついていると、ディアベルは銀の長剣を構え、ボス部屋の扉に手をかけた。周りのプレイヤー達も武器を構える。
切り替えなければ。まずはこの戦闘を生き延びるとしよう。
「―――行くぞ!」
ディアベルが決意を込めた声と共に扉を押す。
このアインクラッドで初のボス攻略が始まった。
思った以上に広いな・・・・・・。
ボス部屋を覗き俺はそう感じた。奥に向かって延びる長方形の空間。左右の幅はおよそ二十メートル。奥の壁までが百メートルといったところだ。
徐々に部屋の松明に火が灯り、部屋が明るくなっていく。そして少しずつ、部屋の奥に座するボスが照らされていく。
《イルファング・ザ・コボルドロード》
第二層への扉を守護する獣人の王は、侵入者である俺たちを睨み、その凶暴なあぎとをいっぱいに開き、吠えた。
ガアアアアアァァァァ!!
「総員・・・突撃ー!!」
ディアベルが長剣を前に突き出す。それを合図に、両陣営は走り出し、部屋の中央で激突した。
悲報、俺ほんとにいらない子だった。
いやキリトさん強いっすね。想像以上です。
キシャアア!!
コボルドの持った斧に光が宿る。跳躍し、キリトの頭をソードスキルで叩き割らんと振り下ろす。見ているこちらの背筋が凍るような光景に対して、キリトはまったく臆せずにその斧をソードスキルで弾く。
跳躍により威力を増したはずの斧の一撃を、キリトはコボルドごと弾き飛ばす。相当なSTRが無ければ無理な芸当だ。
それだけではない。剣の速さ、技のキレが凄まじい。アスナもそうだがどうやってるんだろうか。
「スイッチ!!」
「ええ!!」
コボルドを弾いたキリトは叫ぶ。その直後、アスナがキリトの後ろから飛び出る。
空中で無防備なコボルドの首元目掛け、閃光が走る。視認すら難しい速度で放たれた一筋の光は、目を見張る正確さでコボルドの首を貫いた。
思わず自分の首をなぞってしまった。
「ふぅ・・・・・・これで三匹目。」
コボルドをポリゴンに変えたアスナは息を吐き、再び辺りを警戒する。
いよいよもって手持ち無沙汰だ。それとなくやる気を見せるポーズを取っているが何もできない。現実世界の学校での体育の時間を思い出す。
ふと周りを警戒するアスナと目が合う。ほんの一瞬。
「・・・・・ふふん。」
笑った。ってかドヤ顔を見せてきた。カワイイのだが。カワイイのだが!!
「・・・・・・なんだよ。」
「いえ別に。楽できて良かったわね。」
「ああそうだな。」
むっかつくな。そもそも俺は君と勝負なんてしてないからね?君が一方的に言ってるだけだからね?
「ハチさん。大丈夫ですか?」
「おっおう。」
やめて!純粋に心配されると心が痛むから!君の役割が一番危ないから!
「お前も大丈夫か?」
「はい!まだまだいけます!」
ほんまにええ子やな。今ばっかりは実力が足りてない自分が恨めしい。パーティーを組んでるため何もしてない自分にも金と経験値が入る。楽なのはいいんだが。
にしてもさっきからコボルド来すぎじゃないか?キバオウのパーティーはちゃんとやってるのか?
キバオウのパーティーを探す。すぐに見つかった。ボスへの攻撃部隊の中に。
「なっ!?」
おい!アイツらのパーティーはコボルドの掃討だろ!何やってんだ!!
だがディアベルは構わず指揮を続けている。いや、最初から想定してたかのようだ。どういうことだ?
「キリト。少しいいか。」
「はい!どうしました?」
「少し外す。大丈夫か?」
「まかせてください!」
頼もしい限りだ。
「どうしたの?」
「気になることがある。いない間、頼んだぞ。」
「言われなくても。」
こっちも強気だなぁ。だが今はそれが頼もしい。
二人に話を付けた俺はディアベルの元に走る。指揮が止まったタイミングで声をかける。
「おい。」
「なっ!君は。・・・持ち場を離れないでくれ。君たちはコボルドの掃討だろう。」
こちらを見て少し驚いたディアベルは、すぐに目線をボスに戻す。
「キバオウ達のパーティーが攻撃に参加してる。あいつらのパーティーの担当も取り巻きの掃討のはずだ。」
「君たちは十分に強い。コボルドの掃討は君たちで大丈夫なはずだ。だからキバオウさんのパーティーを攻撃部隊に急遽加えたんだ。」
「俺達に何も言わずにか?」
「そのことについては後で謝罪する。もういいか?ボスの四段目の体力がレッドゾーンに入る。目を離せない。」
「・・・・・・わかった。」
会話を終え、急ぎキリト達の元へ戻る。キリト達はさらにもう一匹のコボルドを倒していた。
「用事は終わりましたか?」
「ああ。急に悪かったな。」
「いえいえ、大丈夫です。」
くっ!いい子すぎる!!にしても妙だ。なんで急に変更したんだ?いや違う。どうみてもあらかじめそうするつもりだったとしか思えない。ディアベルの指揮がまったくブレてない。
そもそも総合的な戦闘力でいっても、俺達のパーティー、というよりキリトとアスナの強さはキバオウのパーティーを超えてる。変えるならこっちの筈だ。その方が早く倒せる。
キバオウは言った。後ろに引っ込んでろと。ディアベルは俺たちのパーティーだけに取り巻きの掃討を担当させた。まるでどちらもボスから俺たちを遠ざけたがってるようだ。
まて。倒す・・・遠ざける・・・・・・。
・・・っ!!
「キリト!二つ聞きたいことがある。」
「はい!」
「ボスを倒したプレイヤーに何かボーナスはあるか?」
「あります。とても強力な装備がドロップします。」
「二つ目だ。お前はベータテスト時代にそれを取ったことはあるか?」
「はい。みんな狙っていたようですけど。私も何度か取ったことがあります。」
「そうか。ありがとう、助かった。」
これで決定的だ。ディアベルはベータテスターと見てまず間違いない。ということは・・・・・・。
うおおおおおおお!!
一つの結論に達したとき、ボス部屋に鬨の声が響き渡った。見ればボスの体力は既にレッドゾーンに入っていた。
「やられたな。」
声が出てしまう。ディアベルがベータテスターなら曲刀のソードスキルは見切ることが出来るだろう。そして単身突撃してボスを倒す。ディアベルは攻略組に大きな支持を得ている。皆の指揮官が最後、ボスに華麗にトドメをさして第一層を突破。なんともありがちな筋書きだ。ついでにレア装備を手に入れて、名実ともにトッププレイヤーとなるだろう。
だが、一つだけ懸念材料がある。キリトだ。キリトはベータテスト時代から何度かボスにトドメを刺していたらしい。ディアベルがそれを知ってたとすれば当然、警戒するだろう。
このデスゲームとなったSAOでもキリトの戦闘力は他のプレイヤーよりずば抜けて高い。ボス攻略に参加すればトドメを刺す可能性は十分にある。
だから遠ざけたのだ。キバオウにはおそらく情報屋から聞いたとかいって伝えたのだろう。アイツはボスへのトドメだけを狙って、レア装備を手に入れる汚いベータテスターらしい。そんな奴に前衛に出られると指揮が乱れる。と。ベータテスター達に反感を持っているキバオウは当然激怒し、作戦に協力する。ディアベルがベータテスターだと知らずに。
思ってたより黒いヤツだな。ディアベルさんよ。キリトの実力なら取り巻きにやられることは無いだろうから自分の責任問題にはならない。まして、アスナの実力を見てやられはしないと確信しただろう。本当に油断も隙もあったもんじゃない。
「皆下がれ!俺が出る!!」
ディアベルの指示で全員が後退する。何人かは不思議な顔をしている。当然だろう。セオリー無視の単身突撃なんだから。
ディアベルと相対したコボルド王は腰から新たな武器を抜く。アレがタルワールか。
「っ!あれは!!」
「ん?どうした。」
「あれは《野太刀》です!!タルワールじゃありません!!」
「なっ!!」
ベータテスト時代からの変更点。ここでかよ!
ディアベルは気づいていない。あいつの持つ長剣はもう既にライトエフェクトを纏っている。
「だめぇ!!後ろに避けてぇぇ!!」
キリトの叫びはこの決闘の勝ちを確信したかのようなコボルド王の咆哮によってかき消される。
グルルラアアアア!!!
勝負は一瞬だった。
コボルド王はその身体からは信じられない速度で跳躍し、空中で一回転。その後、落下の衝撃に合わせてソードスキルを叩きつけた。曲刀だと思い込んでいたディアベルは正面からこれに直撃。そのまま後ろに吹っ飛ぶ。
しかしコボルド王の追撃は止まない。着地と同時に地面を蹴り、空中で身動きのとれないディアベルを追い越し、振り向きざまにその背中を真横に切りつけた。
息もつかせぬ連撃にディアベルはその身を空中に吹き飛ばされ、前衛のパーティーの頭を超え、後方の俺達のところに落下した。
ディアベルの元に駆け寄るキリト。しかし、キリトと数回言葉を交わした後、ディアベルは青い欠片となって散っていった。俺はその光景をただ黙って見てるしかなかった。
なんだ・・・・・・今の。
強すぎる。今まで見たことの無いソードスキルだった。第一層のボスがそんな技使うなよ。反則だろ。
後ろから叫び声が聞こえる。見れば指揮官がやられたせいか、部隊はパニックになっていた。
マズイ。ここボス攻略に失敗してしまったら、プレイヤー達にSAOはクリア出来ない。という空気が蔓延してしまう。自暴自棄になるプレイヤーが増えるかもしれない。
駄目だ。なんとしても今、ここで倒す。行くしかねぇ!
震える足を前に踏み出す。
「私も行きます。」
横を見ればキリトが立っていた。かつてないほどハッキリとした口調で彼女はそういった。
「私も行くわ。」
キリトと反対側にアスナが立つ。強い意志を感じる瞳は未だに揺らいでいない。本当に強いなぁ。君たち。
「わかった。キリト、手順はセンチネルと同じでいいんだな。」
「はい。以前、カタナスキルを見たことがあります。防ぎきってみせます。」
「アスナ。攻撃は頼んだぞ。」
「わかってるわ。それで、あなたはどうするの?」
「最初と同じだ。お前らの補助だよ。行くぞ。」
三人が駆け出す。それと同時に俺は隠蔽を発動する。二人より早くコボルド王に接近する。未だに前衛パーティーを襲っているコボルド王の横を通り過ぎ、背後に回る。
次に接近してきたキリトに気づいたコボルド王は、得物を構え、ソードスキルを発動させる。
「はぁぁぁぁ!!」
同じくキリトもソードスキルを発動させる。直後、二つの光が交錯し、弾き合う。
「スイッチ!」
崩れた体勢の中、キリトが叫ぶ。そしてアスナが飛び出す。ここだ。
ソードスキルを弾かれ、仰け反っているコボルド王の無防備な背中にすれ違いざまソードスキルを叩き込む。
グルガァ
「せぇい!!」
死角からの斬撃にコボルド王が悲鳴をあげる。しかし、その悲鳴が止む前にアスナのリニアーがその腹を貫く。
神速の一撃を喰らい、今度は声もあげずに後方に吹き飛ぶ。
スキルの硬直の中、アスナが口を開く。
「今・・・。」
「立派な補助だろ?」
「・・・ええ。そうねっ!」
緊迫した空気の中でアスナが少し笑い、駆け出す。
「キリト。弾くことだけに集中しろ。不安材料は俺が除去する。」
「ハチさん・・・はい!!」
見えない俺に元気な返事をして、キリトも駆け出した。
さぁ。集中しろ。敵の動きを、キリト達の動きを読み切れ。あの二人の連携は既に見た。あとは自分がどうやってそこに入るかだ。
キリトside
すごい・・・・・・戦いやすい!!
コボルド王がソードスキルのモーションに入る。その直後、小さな斬撃がその足を襲う。僅かに崩れる足元。しかし、王は気にせずソードスキルを放つ。
「はぁ!!」
それをソードスキルで相殺する。すかさずアスナさんがリニアーを、コボルド王の腹に突き立てる。
やりやすい!!
相手のソードスキルの準備中を襲う小さな斬撃。崩れる足元。コンマ何秒ほどか延長される準備時間。でも・・・それだけで十分!!
再び肉迫する。構えるコボルド王。しかしその頭をまた小さな斬撃が襲う。生まれる空白の時間。
「これだ!!」
刃が交わる。弾かれ合う両者。
「スイッチ!!」
私が言う前にアスナさんが叫び、追撃する。少しずつ、アスナさんとの連携が加速していってる。アスナさんも戦いやすいんだ。
高速のソードスキルの迎撃。連携の中で最も難易度が高い点を即座に見抜き、アシストする。
ハチさんの攻撃力は低いけど、隠蔽で狙われないことを生かしたこれなら十分に貢献出来てる。それどころかこのアシストが無ければ、いつこの連携が崩壊するかわからない。
こんな戦い方、今まで見たことがない。
アスナside
速い。
取り巻きの時より展開が格段に速い。キリトちゃんの迎撃タイミングが速すぎる。ほぼ、相手の初動で弾いている。
出鼻をくじかれて威力が出てないのか、弾いたキリトちゃんの体勢が崩れてない。それどころか相手の仰け反りがさっきより大きくなってる。
「スイッチ!!」
キリトちゃんが叫ぶ。無防備に伸びきった腹にリニアーを放つ。
まだ。まだ加速できる。
コボルド王に迫るキリトちゃんの後を走る。相手の刀身に光が宿るとともにキリトちゃんがソードスキルを放つ
「スイッチ!!」
自然と自ら声が出る。ソードスキルを放ちボスを吹き飛ばす。これなら・・・。
キリトside
あと少し。あと少しで!
ボスはもう瀕死。あと数回ソードスキルを喰らわせられれば倒せる。
ボスが構える。一瞬の遅れを見せながらもソードスキルが発動する。
あのソードスキルはさっきも!
迎撃するべく剣を振り抜く。しかし、相手の武器はまるで半円を描くように回り、私の剣は空をきった。
「しまっ!」
直後、身体に走る衝撃。とっさに剣を盾にしたが圧倒的な力に跳ね飛ばされる。後ろから続いていたアスナさんも巻き込んでしまう。
「ぐぅ!」
「きゃっ!」
倒れている身体に影がかかる。顔を上げると、コボルド王が自らの武器を血のように紅く光らせて振りかぶっていた。
避けれない!!そう確信する。
しかし
「どおぉぉりゃ!!!」
「おらぁぁぁ!!」
二つの刃が振り下ろされた野太刀を弾いた。一体誰が?
二人の顔を見る・・・。
「すまねぇ!大丈夫か?!」
「間に合ってよかったぜ!」
「エギルさん!クラインさん!」
ありがとうございます!そう言おうとした。瞬間、後ろから多くのプレイヤーがボス目掛けて突撃していった。あれはエギルさんとクラインさんのパーティーだ。
「回復するまで、俺達が支えるぜ。」
「ボスだって倒していやるさ!」
そういって二人はそれぞれのパーティーに合流していった。助かった。とりあえず回復しないと。ポーションを取り出していると目の前の空間が揺らめく。
「悪い。対処できなかった。」
申し訳なさそうな顔をしてハチさんが出てきた。
「いえ!大丈夫です!それより――。」
「ああ。行ってくる」
言い終わる前にハチさんはゆっくりと透明になっていった。早くポーションを―。
「あの、キリトちゃん?そろそろ・・・。」
「んにゃ!すっ、すいません!!」
アスナさんの上に乗りっぱなしだった。恥ずかしい。
「私も行ってくるわ。」
「はい。お願いします。」
アスナさんも前線に戻っていく。
・・・回復が遅い。今もクラインさんとエギルさんのパーティーはボスの猛攻を凌いでる。盾越しにもHPが削られている。急いで。
そんな願いを嘲笑うかのように、ボスの巨体が沈み込む。
「っ!あれは!」
全方位攻撃!
「下がってください!!」
ボスは既に跳躍している。エギルさん達のパーティーも動き出すが間に合わない。
そのとき、空中で武器を構えるコボルド王の背後の空間が揺らいだ。
「それはディアベルのときに見た・・・ぞっ!!」
ハチさんのソードスキルがボスの背中に直撃。予想外の攻撃にボスはバランスを崩し、そのまま落下する。
「キリト!アスナ!今だ!」
自身も落下する中、ハチさんが叫ぶ。
「はい!」
「わかった!」
二人同時に駆け出す。起き上がったボスが武器振りかぶる。弾こうとした瞬間、ボスの目にピックが突き刺さる。
ボスの攻撃は逸れ、私は攻撃を弾かずに避ける。そしてがら空きの胴体をソードスキルで切り裂く。
直後、アスナさんが神速のリニアーをボスに浴びせる。
それでも僅か数ドット体力が残る。でも!
「なんとか間に合ったな。」
後ろから声がする。今までなかった三人目の追撃。
「「スイッチ!!」」
アスナさんと声が被る。光を纏った短剣がボスの首元を捉える。
「お前の弱点もここなのか?」
そんな疑問と共にハチさんはボスの首元をソードスキルで切り裂いた。クリティカルを示す激しいライトエフェクトを放ち、ボスは幾千万のポリゴンとなって砕け散った。
その直後、ボス部屋には第一層ボス攻略のファンファーレが鳴り響いた。
ボス部屋には歓喜の声が響いていた。固い握手をする人、抱き合う者、踊り出す人、それぞれだ。
「二人とも、お疲れ様。」
「はい。アスナさんも。」
「ああ、ほんっとに疲れた。早く帰りたい。」
ハチさんはボヤきながらメニューを操作している。何してるんだろう?そんな疑問を浮かべていると、アイテムが贈られてくる。差出人は・・・ハチさん?
《コート・オブ・ミッドナイト》
えっ?装備品?なんで今。それにこれってもしかして。
「あの、ハチさん。これって―。」
「いいかキリト。それやるから今から起こることを黙って見てろ。一切口出しするな。」
「それってどういう―。」
「アスナも頼むぞ。」
「なによ・・・急に。」
アスナさんも不思議な顔をしている。理由を聞こうとしたけど声をかけられて聞けなかった。
「見事な剣技だった。Congratulation。この勝利はアンタのものだ。」
「そうだぜキリト!やっぱおめぇ強えな!」
エギルさんとクラインさんが労いの言葉をかけてくれる。
「あっ、はい。ありがとうございます。」
「それとフェンサーさん。アンタの剣技も見事だった。」
「どうも。」
「二人が前線を支えてくれたからボスを攻略出来た。ありがとうよ。」
「いえ、それなら―。」
ハチさんだって。そう言いたかった。
あれ?二人?
「でもよぉ、短剣使いのアンタ。今までどこにいたんだ?最後のトドメだけ貰ってくってのはあまり頂けないぜ?」
「えっ?」
クラインさんが言う。悪気はないのは分かる。多分私達のことを考えてくれての発言だろう。それに確かにトドメだけを貰っていくのはあまり褒められた行為ではない。
でも違う。そうじゃない。ハチさんは私達と戦ってた。あの怒涛の連携攻撃を支えてくれたのはハチさんだ。あのアシストが無ければ今頃、結果はどうなっていたかわからない。最後、コボルド王の目にピックを打ち込んでくたのもハチさんだ。
気づいていない?ハチさんの隠蔽が高すぎて?
アスナさんも異変に気づいたようだ。顔をしかめている。
「あっ、あの!ハチさんだって―。」
戦ってました!そう言葉を続けようとした。誤解を解こうとした。でも、それは出来なかった。
「お前ぇ!!ディアベルさんに何をしたんだぁぁ!!」
怒り狂った声が部屋に響いた。誰もが驚愕し、目を見開いている。たった一人を除いて。
叫んだのはディアベルさんのパーティーのシミター使いだった。
「ああ?」
一人だけ冷静だったハチさんは応えた。面倒くさそうに、誰に言ったかもわからない絶叫に。
まるで、その声は自分に向けられたものだと確信しているかのように。
「なんだよ突然。俺はディアベルに何もしてねぇよ。アイツが勝手に突っ込んで死んだんだろうが。」
ハチさんの発言に周りがざわつき、鋭い視線が集中する。ハチさんはそんなことまったく気にしてないといった様子で、変わらず面倒くさそうな顔だった。
「嘘をつくな!!お前、戦闘中にディアベルさんに何か喋ってただろ!!」
「それがどうしたんだよ。」
「その直後だ!ディアベルさんが皆を下がらせたのは!!あそこであんな指揮をディアベルさんが出すわけない!!お前が何か言ったんだろ!!」
「はぁー。」
ハチさんは大きなため息をつく。そうだ。そんなのこじつけなんだ。ハチさんがしっかりと反論すれば皆納得してくれる筈。
ハチさんが口を開く。しかし放たれた言葉は想像と違っていた。
「なんだよ。気づかれてたのか。上手くいったと思ってたんだけどな。」
「えっ?」
思わず声が出る。なんでそんなこと言うんですか。それじゃまるで・・・。
「そうだ。ディアベルが突撃するように仕向けたのは俺だよ。」
「お前っ!・・・なんでそんなことをした!言え!!」
シミター使いの人は声を荒らげる。するとハチさんは突然嗤った。嘲るように。馬鹿にするように。
「っ!!」
「なぁお前ら、知ってるか?ボスを倒したプレイヤーにはとても強力な装備が手に入るんだぜ?」
「それがどうした!!」
「俺はそれが欲しかったんだよ。そのレアアイテムがな。」
わけがわからない。ハチさんは何を言ってるの?何を伝えたいの?確かにハチさんはボスのラストアタックボーナスについて聞いてきた。でもそれが今なんの関係があるんだろうか?
「だから!それがどうディアベルさんの指揮と関係あるんだ!!」
「頭の悪い奴だな。俺がディアベルにそれを取ってくるように《頼んだ》んだよ。」
頼んだ。その単語だけハチさんは強調していった。裏がありますと言わんばかりに。
「それでディアベルさんが従う理由なんてないだろ!」
「それがあるんだよ。でっかい理由が。」
ハチさんが言葉を続けようとする。しかし、部屋に更なる怒号が響く。
「ディアベルはんが言ってた汚いテスターはホンマはお前やったんやなぁ!!」
特徴的な頭のキバオウさんがそう叫んだ。汚いテスター?なんのこと?
「それは俺じゃねぇよ。後ろのコイツだ。」
ハチさんが私を指さす。周りの視線が私に集まる。苦しい。怖い。どうしてハチさんは私がベータテスターだってバラしたの?私が汚いテスター?
罪悪感が再び溢れてくる。私は大勢を見捨てた。でも、ハチさんは・・・・・・言ってくれたじゃないですか。
アスナさんとクラインさんはハチさんを睨んでいる。
「なぁキバオウさんよ。アンタには感謝してるんだ。アンタがそうやってテスターを恨んで攻略会議で騒いてくれたおかげで、俺はレアアイテムを取れた。」
「なっ、なんやと!!」
「アンタ言ったよな。テスターのせいでビギナーが大勢死んだって。」
「ホントのことやろが!!」
「ああ、ホントのことだな。そしてビギナーがテスターを恨んでるってのもホントのことだ。アンタのようにな。」
「だからなんや!!」
「ディアベルは元ベータテスターなんだよ。」
「なっ!!」
キバオウが絶句する。周りのプレイヤー達も信じられないといった様子だ。
「そっ、そんなわけないやろ!!そもそもそんな情報誰から聞いたんや!鼠か!?」
「あのお固い情報屋はどんだけ金を積んでも教えてくれなかったよ。でもな、いるんだよ。このアインクラッドには。あの鼠よりも優れた情報屋が・・・。金さえ積めばどんな情報だって教えてくれる。最高の情報屋がな。」
ハチさんは大げさなジェスチャーをして話し出す。
「ディアベルは怖かっただろうなぁ。いつ自分がベータテスターとバレてしまうかハラハラしてただろうなぁ。」
「おっ、お前・・・・・・まさか。」
シミター使いが口を開く。ボス部屋の全プレイヤーが一つの結論にたどり着く。
「脅した・・・のか。ディアベルさんを・・・・・・。」
「使わない手はないだろ?」
ハチさんは再び笑う。醜悪に。
「後ろのコイツもそうだ。どいつもこいつもベータテスターってのは少し《頼んだ》だけでなんでも言うことを聞いてくれる。」
「テメェが取り巻きの相手をしてなかったのもそれか・・・。」
クラインさんが問う。
「それまで見てたのか?お前らも案外暇なんだな。」
「テメェ・・・自分が何やったのか分かってんのか!」
「おいおい、俺は悪くないだろう。悪いのはビギナーを見捨てたベータテスター達なんだろ?」
「んなわけねぇだろ!!ビギナーを助けたテスターだって大勢いた!!ガイドブックだってテスター達が作ったもんだ!!」
「だがディアベルとこいつは何もしなかった。」
「ちげぇ!!キリトは俺にソードスキルを教えてくれた!!ディアベルだってここまで皆を引っ張って来てくれたんだ!!何もしてねぇわけねぇだろ!!」
クラインさんの声が響き渡る。キバオウさんがばつの悪そうな顔をしている。周りのプレイヤーもだ。
・・・・・・そうか。
これがハチさんの狙い。でも、これが成功してしまったらハチさんは・・・・・・。
アスナさんもまだ気がついていない。私が止めないと!
それだけは、止めさせないと!!
「待ってく―。」
瞬間、一筋の光が頬をかする。何が起きたか分からなかった。いや、分かりたくなかった。
「キリト!!」
「キリトちゃん!!」
アスナさんとクラインさんが駆け寄ってくる。
「勝手に喋ってんじゃねぇよ。お前はもう用無しなんだ。引っ込んでろ。」
ハチさんから放たれたシングルシュートが私の頬を掠めたんだ。ハチさんのカーソルがオレンジ色に切り替わる。
「あっ・・・。」
身体の力が抜ける。ハチさんのこれは演技なんだ。わかってても力が入らない。ショックで頭が真っ白になる。
「あなた・・・・・。」
アスナさんがレイピアに手をかける。ハチさんはこちらを睨んだままだ。
場に緊張が走る。
数秒、いや一分。痛いほどの静寂の中、ハチさんは動いた。
「ちっ。」
短く舌打ちをして背中を向け、扉に向かい歩き出す。そして振り返りもせずに言った。
「まだまだベータテスターってのは吐いて捨てるほどいるんだ。せいぜい利用させてもらうせ」
直後、罵声が場を満たした。
「この人殺し!!」
「人でなし!」
「ふざけんなよ!」
「さっさと消えちまえ!!」
止まない罵詈雑言の嵐を背中に受けながら、ハチさんは第二層に続く扉を開け、光の中に消えていった。
読んでいただきありがとうございます。テンプレ展開ですがなんとか終わらせることが出来ました。細かい所は次の話で解説できればと思います。次の第八話も頑張ります。