幼女戦記~秋津洲皇国助太刀ス!(本編完結)   作:宗田りょう

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違和感

「釣り野伏ぇ?」

 

(その日の)統裁役であった大田蔵斗司夫は不機嫌な声を上げた。研究員の中でも一番の巨漢である彼の声はいつもなら非常に目立つ。しかし今回は目立たなかった。周りの反応も似たようなものだったからだ。

 

 声の内容は大きく3種類に分けられる。

 

(帰って早々好き勝手に…… ) ←知ってる組

(釣り野伏ってなんだよ……やば、わかんないね……)←知らない組

(え、なになに、なんつった? シャウエッセン?) ←聞き違い組

 

「ええ…… そのう、薩州の、嶋津家の兵法です」

 

 そう言って福田は(申し訳なさそうに)手近にある黒板の空きに書き始めた。大田蔵を含めた周囲は何も言わない。平均的な皇国人以上に「人の話を聞く」という事の意味を知っているからだ。言うなら、最後まで話せ。の精神である

 

 釣り野伏。簡単に述べると

 

 1自軍を囮部隊と伏兵に分け、予想される戦場の近くに伏兵を置いておく

 2合戦が始まると囮部隊は敵にぶつかり、退却するふりをして敵を引き込む

 3頃合いが来たら左右から伏兵が襲い掛かる。囮も反転し包囲の形をとる

 

 この囮が「釣り」で伏兵もしくは奇襲を「野伏せ」という。

 

 この戦法は自軍が相手に対して数的劣勢にあるときに使われる。

 この戦法、囮部隊の高い能力 ――偽装退却を見破られないことはもとより、そもそも組織的な退却自体困難である―― と伏兵を置く場所と奇襲のタイミングの妙など、かなり高い能力のある軍でなければ出来ない芸当なのだ。

 

 約500年前の諸将争乱時代、嶋津家はこの戦法を武器に西國12州を制圧した。

 その後も半島出兵における包囲殲滅陣、不破乃関の戦い(天下分け目の大戦)における敵中突破など色々と頭のおかしい戦をしていたが。

 

 以上の説明を福田は大人への説明というより、こぼれ話を交えた「面白い社会科師範の与太話」といった風に行った。むろん知ってる人(割と面倒なマニア)を怒らせない程度には端折った説明を行っている。説明が上手いだけでなく、マニアが聞いても面白い(不快ではない)という福田の稀有な才能だった。

 

「まあ、こんな感じです」

「つまり、君ぃはこの後退が出血を強要する消耗戦やのぅて、包囲殲滅、一大決戦を意図したものであると?」

 大田蔵がメガネをかけつつ聞いた。彼を知る研究員たちはその意味にに気が付いた――大田蔵さん、この話にノったな。

「でなければ下がりすぎです。低地帯の大半を明け渡し、西部工業地帯が重砲の射程圏内に入るところまで下がるのは戦線の整理と考えにくいでしょう」

 

 福田は、列車の中で考え続けた予測を語り始めた。はじめは反感を持っていた周囲も大田蔵の様子とその内容から顔色が変わる。

 

 1つは、直前のアレーヌ市における武装蜂起の鮮やかな解決。あれは本当に、共和国が補給線寸断の為に仕掛けたのか? むしろ帝国が戦線後方の敵対的市民(工作員もいるだろう)を殲滅するために仕掛けたのではないか。現にあの事件以降、戦線の情報は手に入りにくくなっている。そして大規模攻勢を行うに、アレーヌ市程適した集積地点はない。

 

 2つ目は帝国において、国内の自動車輸送が目に見えて落ち込んだという報道だ。

 

「帝国は合衆国の次に自動車産業が盛んで、道路網も整備されています。もちろん鉄道が輸送の中心であることは間違いありませんが、依存度でいえば共和国以上でしょう。そして共和国のように大規模徴発を行った。という報道もありません」

 

この戦争では特に自動車輸送の有効性が示されていた。彼の言った大規模徴発とは、共和国でパリースィ域内のタクシーを動員して兵員輸送に充てたことだ。(この手のことは戦意高揚のために宣伝されやすい)

 

 燃料の不足ではないか? 当然の疑問がでる。それはない。と否定の声、連中はアブラに困ってない。

 事実だった。ダキア公国の占領後、帝国は欧州最大の油田であるプロイシュ油田 ――信じ難いことにダキアは無傷の油田をあけ渡したのだ―― を手に入れていた。開発を行ったのは帝国系企業であるから、供給にはさして苦労していないはずだ。

 そして帝国は陸軍国家なのだ。陸軍は海軍に比べてそれほど石油を消費しない。それにどういうわけか石炭を液化して燃料にするという芸当もできるから、燃料に不足するという事態そのものが起こりえないのだ。

 

 「燃料不足ではなく、モノそのものがとられたわけやない…… 原因は? 」

 「蓄電池です」

 

 福田は続けた。株価を見ると帝国の電池と無線通信関連の株価が上昇していること、これは帝国が大量の蓄電池と無線機をかき集めていることを表している。(同時に工場が事故などで操業不能になっていないことも示している)帝国は国策として民生と軍事で規格は同一のものを使っていること、そして蓄電池は戦車から電源車、大型無線機まで、おおよそ現代の軍用品にとって必要不可欠なものであること

 

「もしも帝国が長期戦を図るなら、銃後からもってこようとはしません。むしろ民生に回して生産を維持しようとするでしょう。そして無線機です。野外通信や車両に取り付けるには蓄電池が必要ですし」

「つまり、君は帝国が全面的に機械化戦力と無線設備を強化している…… それも大急ぎで。という事やね」

「ええ、こういう言い方はよくないのですが、乾坤一擲の大ばくちな気がします」

 

 アレーヌ市の事件によって工作員を狩りだせた。そして共和国はアレーヌの敗北(不祥事)を隠すためかなり早く低地帯に侵入した。

 まるで引き込まれたかのように

 

 福田は改めて壁に掛かった地図を眺めた。いくつかあるうちの最も過激なシチュエーション――帝国が全面攻勢に出た場合の予想図だ。

 

 戦線の縮小による防衛線の再構築によって時間を稼ぎ、旧協商連合戦線・対連邦戦線から引き抜いた戦力をもって全面攻勢をかける。もちろん軍事的整合性はあるが、かなり過激だ。

 脆弱な突出部側面からの攻撃による、一大包囲作戦。

 方法も協商連合戦で見せた陣地への浸透突破や機甲部隊の突撃、航空挺進などかなり冒険的な内容になっている。

 

 そうか、福田は思った。この図を作ったのは大田蔵ではないか。するとこの人も似たようなことを考えたことになる。

 後退、突出部の創造、包囲。

 

 福田は脇にまとめられた記録に目を通す。その攻撃は失敗に終わる。機械化部隊による突破や歩兵部隊に夜間浸透も一時的には成功するも、包囲網の完成前に共和国の予備戦力によって阻止されてしまう。そして一大攻勢に敗れた帝国は、事実上共和国戦線の全戦力を消耗させて敗北する。

 

 目を引くのは機械化部隊の消耗だ。膠着した戦線の切り札と目される戦車だが、実際は動くだけで壊れるほど繊細なものであり、とても大突破に使える代物ではない。

 

「結局のぉところ、戦略レベルでは機械化部隊は決定打にはならへん。()()()()ではな。足はあるが壊れやすい上に、練られた陣地には弱い。航空艦隊と魔導士で制空権を取らな危なくて使えたもんやない。それに相手も戦車があるから穴をふさがれてまう」

 福田が結論に至ったのを見計らい。大田蔵は呟く。あの戦場という言い方に棘があった。

 

 しかし、なにか引っかかる。福田の考えを聞いた全員が抱いた違和感だ。

 アレーヌのこと、蓄電池のこと

 

 なによりあの帝国が、あの戦争機械が、負けっぱなしを許すのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




遅れてすみません。
とにかく書いて、改稿する形にしたいと思います。

なんとか三話まで(´・ω・`)
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