幼女戦記~秋津洲皇国助太刀ス!(本編完結)   作:宗田りょう

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ドードーバード城襲撃作戦─ 潜入

ドードーバード城─ 連合王国では周辺の航空基地や防空陣地までをひとまとめにして『ドードーバードコンプレックス』と呼ばれている。海峡に突き出した半島にある灯台と塔は、長きにわたり欧州大陸からの侵略者を見張る役目を負っていた。

 

この城がいつ頃築かれたものなのかははっきりしていない。20年前に行われた大規模調査によって鉄器時代の遺構が見つかっていたから、その頃から何らかの施設が立っていたことは間違いない。

城の中庭にある灯台はローマ時代のものであり、欧州大陸においてもこれほど古い灯台はほんのわずかしかないから、城の歴史的な価値が良くわかる。

 

中世期に城が築かれた後、時の権力者によって改修が繰り返され、130年ほど前に海峡を通る密輸船の監視拠点として整備されて以降は近代的な軍事基地としての機能を持つようになった。現在は南部地区防空司令部として機能している。

連合王国にとっての不幸は新しい施設を立てる余裕が全くなかったことだろう。もっとも、後の欧州反抗作戦で明らかになったように、石造りの建物はそれ自体が非常に頑丈で良く砲爆撃に耐えるから、全く悪い選択でもない。

 

(本日も異常なし……か)

 

ハイランドからやってきていた郷土防衛隊の予備役少尉は、数名の部下を連れて城の岬側をパトロールしていた。今夜間空襲は行われていなかったから、通常の警備体制になっている。

コマンドの襲撃や上陸作戦に備えるのが警備の目的だったが、予備少尉としては空から落ちてきた爆弾によって死ぬ可能性の方が高いと思っていた。

 先日も急降下爆撃機の一団が近くに爆弾を落してきたから、その予想にも裏付けはある。全く楽しい未来ではない。一応空襲の時は全員防空壕に隠れられるから、防空要員よりははるかに見込みはありそうだとも思っている。

 

「隊長!誰か来きます!」

 

 前方を進んでいた兵が声を上げた。岬へ下る道を上っている人影がいたのだ。

 殆ど団子のようになって進んでいた兵士は、一斉にライトを人影に向けた。

 

「誰か!」

「眩しい、そいつを降ろしてくれ」

 

 少尉は近くによると警戒を強めた。銃は持っていないが、見覚えのない軍服を着ていたからだ。歳はかなり若い。

 

「……王立フェルセン連隊所属のスターミー中尉だ。ここは連合王国本土、ドードーバード基地付近に間違いないな」

「郷土防衛隊、グリーン予備少尉であります。はい、基地はすぐそこであります。中尉、失礼ながらどのような……」

 

 見覚えのない飛行服の後ろにまた違う種類の軍服をきた人間がいる。この感じからして魔導師のようだった。

 

「ああ、郷土防衛隊の人か。熱心だな」うん、疲れた様子でスターミー中尉は後ろを指した。

「我々は協商連合からの客人、アムンゼン中尉と一緒に夜間訓練を行っていた…… ところが、恥ずかしながら位置を見失ってね、危うく向こう側に上陸しかけたのさ」

 

 話を聞くうちに、やっとグリーン予備少尉は自分が銃を向けていた相手が味方の魔導師と気が付いた。現役時代にはトンと縁がなかったから、見覚えのない制服もそのせいか。と納得する

「は、これは失礼いたしました」

「いや、君は仕事をしただけさ。そこで、もうひと仕事頼みたい…… うん、君が郷土防衛隊で助かったよ。この周辺は君たちが警備しているのか?…… そうか、ならば我々をこっそりと城の警備本部まで案内してくれないか」

 

「はあ、それは。いや、まず衛兵司令に─」

「ああ、分かる。つまらん貴族の見栄だ。正直、道に迷いましたとほかの連中に知れると面白くない。大事になると、な。警備本部までいってしまえば済むのだ。頼む、なんとかならないか」スターミー中尉は君に面倒はかけないと重ねて言った。

 

 後ろにいるアムンゼン中尉(だろう人物)と他数名は押し黙っている。見たところ連合王国人はスターミー中尉だけらしかった。なるほど、他国人を連れて訓練に行き、道に迷ったとなれば大問題だ。

 グリーン予備少尉にしてみれば今の状況が面倒だったが、本職の中尉が頭を下げてくるということはよほどのことだろう。自身の後ろを振り返れば率いている兵士たちも困惑している。

 

 ええい、とにかく上役に押し付けよう。そう考えたグリーン予備少尉はとりあえず警備本部まで案内することにした。

 

※※※※※※※ ※※※※※※※

 

(うまく引っかかってくれましたね……)

(意外とばれないな、うん、地図の通りだ)

 

『スターミー中尉』の背後には203大隊のヴァイス大尉が率いる別動隊がいた。

 そう、このスターミー中尉とアムンゼン中尉達は光学術式によって作られたデコイなのだ。

 

 術式によって投影された動きもぎこちない虚像だが、夜の闇は全てを隠していた。声も足音も指向性のある音源によって作り出されている。スターミー中尉だけが良くできたデコイであり、協商連合の士官たちは書割に過ぎない。本物の203大隊の隊員は各々見えないようにやや離れた場所にいる。

 

 通常光学術式によるデコイは空戦時に活用される。空中では本人以外に比較対象がなく、敵の認知機能も低下するから精巧なものを作る必要はない。だからデコイが動いたり話したりすることはない。

 

 この術式は合衆国製の精巧な投影術式と指向性発声術式の応用で作られている。

 国際法上、敵国の軍服を着て敵対行為を行うことは違反だった(民間人の服装で攻撃をするいわゆる便衣兵についてはここではおく)。

 だが、この術式は例えるなら良くできたマネキン…… 否、影を見せているに過ぎない。国際法上では敵国の制服を着て敵対行動することと偽装は区別されていたから、この術式自体が敵対行為を行うものではない以上問題はない。と言える。

 

 だが、それほど便利ではない。そもそも幻燈に過ぎないから天候によっては使えないし、極めて精密な魔力操作が必要だからだ。

 だいたい、国際法云々で面倒な事態になることは間違いなかった。ターニャは作戦に必要だからと(一応法務官に確認をして)使用しているが、通常なら深刻な問題を引き起こしかねない術式だった。

 

 後世の視点から見れば、この術式はこれ以降203大隊とごく少数の特殊部隊でしか使用されなくなった。大規模な使用例としては後年に行われた枢軸軍に対する冬季反撃作戦『ロメール攻勢(バルジの戦い)』におけるグライフ作戦があるが、大きな効果は上がらなかった。魔力の使用量からみて費用対効果が悪すぎたし、それほどの力量のある魔導師がいなかったのだ。

 

 しかし、この瞬間に限れば影は郷土防衛隊の案内の下、ドードーバード城への道を歩いていた。

 

※※※※※※※ ※※※※※※※ ※※※※※※※

 

「ヴァイス大尉は上手くやったようだな、こちらも始める」

 

 スモックで着ぶくれした幼女は闇の中で言った。暗視術式─これは帝国がもっとも進んでいた によって周囲は良く見える。

 非術式依存空挺降下。高高度から飛び下り、飛行術式をギリギリで展開するそれは魔力の感知を極限まで抑えるもの。パラシュート降下は装備の関係により出来なかったから危険はあったが、練度の高い大隊各員ならば問題ない。

 

作戦目標は─

 

1ドードーバード城中庭にあるレーダーの奪取、もしくは破壊

2城内に侵入し可能ならコードブック及び暗号機械を奪取

3攪乱によって防空網を混乱せしめる

 

の順になる。一番の目標はレーダーだった。

大型トラックで運べるほどのコンテナ2つとアンテナ。アンテナはともかく、帝国にはこれほどコンパクトな戦域防空レーダーはない。要員を含めておそらくトラック4両あればどこでも展開できる防空システムは脅威だった。航空艦隊ではこの移動式システムが強靭な防空システムの一翼をになっていると考えていた。

 

(開始15分でレーダー周辺を占拠、並行して作業を開始して10分でケーブルや固定器具を破壊、木馬に取り付けて20分で安全圏へ離脱…… 我ながら無茶苦茶ではあるな)

 

これと並行して破壊活動とコードブックの奪取も行われる。作戦の無謀さで言えば共和国の軍司令部を完全破壊したり、500キロ先の軍港に飛び込んで戦艦を破壊したりする方がよほど無茶苦茶なのだが困難であることは間違いない。

 

「潜入班より入電、無事城内へ侵入できたようです」

「セレブリャーコフ中尉から中継です『航空艦隊より、欺瞞作戦開始』とのこと」

「了解、こちらも行動を開始する」

 

長距離通信が使えない今、第一段階では上空に待機したセレブリャーコフ中尉(と合衆国人)を中継して通信を行うことになっている。連合王国には通常の偵察と思われているはずだった。本土防空戦の開始以来、連合王国は単機の偵察機相手では滅多に戦闘機を上げて来ないから、まず安全だった。

 

そして航空艦隊からは飛行中隊が夜間編隊飛行を開始。欺瞞針路をとりながら飛行訓練(敵から見れば爆撃行にしか見えない)を行う事になっている。流石に203大隊の作戦に全面協力するのではなく、従来の夜間訓練─ 本土空襲を開始した今だからこそ、復帰した要員のために再訓練が必要になっていた の時間を少しずらしてもらう形になっている。

 

 

奇襲攻撃やハラスメント攻撃を行わない場合、混乱に乗じて行動を起こすより、混乱の直前(もしくはひと騒動終わった後に)に事を起こした方が、敵がその後の対応に追われてこちらに対処できないため効果は高い。本来の特殊作戦とはそのようなものだから、ターニャも今回はそのセオリーに従うことにした。

 

「中隊は私に続け、匍匐飛行でドードーバード城に侵入、目標を奪取する」

 

エレメントごとに超低空飛行で城に向かう。眼下で通り過ぎていく地面を見ながら、ターニャは自分が闇の中を滑り落ちていくような感覚を覚えていた。そうかと思えば、グングンと闇の中を、目の前の壁を超えるように、上昇しているようにも感じる。

……まずいな、感傷的になっている。バーナー用のガスが漏れて、脳機能に障害でも起きたのか?

 

そう考えて、背中の荷物を思った。今回の作戦では全員が破壊用のグレーザーバーナーを持っている。魔力刃と異なりプラズマや発熱の燐光はなく、魔力を流せば不可視の光線で対象を焼き切る優れモノだった(闇夜で魔力刃と使うと目立ち、自分にも目くらましになる可能性がある)

合衆海軍建設大隊の戦闘工兵向けに開発されたものを、魔導師用に改造したものだ。

 

欠点は見えない刃が危険なことと、かさばるボンベ(これはリベットガンにも利用される)を持っておかなければならないこと。つまり野外での作業が必要でなければ絶対に持ちたくない代物だった。

 

ナイフや銃剣を持たずにスコップで物事を済ますターニャからすれば扱いにくい道具だったが、今回の作戦では素早くケーブルや固定具を切って、コンテナにベルトを装着してという作業があったから仕方がない。もちろんこの時代に不可視光線による切断機器などないし、リベットガンも巨大なものだから、個人で持てるのはまさに魔法のような小型化なのだが。

彼女は魔導師であって工兵ではない。つまりはその1点であった。

 

すぐに闇の中に浮かぶ古城が見えた。2重の城壁があるから、見えているのは外側の城壁と本丸……と言っていいのか、巨大な城郭と尖塔だった。

 

「見えたな…… ヴァイス大尉。そちらはどうか」超指向性通信によって、不信な電波を抑える。

 

『警備司令部は無力化しました。事前計画どおり、偽命令を出せば、20分程度は稼げます』

『無力化? 気が付かれたか』雑音が響いて返答がくる

『衛兵司令はここで寝ています。シフト表を見るとそもそも警備自体が少ないようです。巡検隊は迷子の魔導師の捜索に出しました』

『結構。我々のスターミー中尉殿は仕事をしてくれたらしいな』

 

ターニャは思った。共和国の司令部を破壊したとき目撃者はいなかった。だが、いまは誰にも見つかることなく中隊が潜入している。どちらが有利か?

常識的に考えてこの手の防空司令部では防空要員と基地警備は別だ。何か起きればまず警備に連絡してその指示を仰ぐ。警備上の問題はおそらく佐官か准将クラスの基地司令官まで行く手前で処理されるはずだ。

そして、我々はそこを掌握している。

 

『ますます素晴らしい。地下の構造は分かったか?』

『今1名を走査にだしています。より詳しい地図はすぐに用意できます』

続けて対空砲についてだった。警備司令部に対空砲の配置図があったらしい。場所は把握出来ましたが、こちらから命令は出せません。という報告

 

言外にどう破壊するかという疑問、確かに重量物を運ぶ以上は対空砲を破壊しなければならない。レーダーを破壊しても、低空飛行する木馬は良い的になる。

『作業開始前に破壊したいが…… タイミングを合わせたい。そうだな、我々は中庭まで入れそうか?』

『どうぞ。見つからずに行けるはずです。詰め所に今誰もいませんし、交代要員はここです。流石に正門からは目立ちすぎますが』

『やむを得まい、裏口から入るさ。我々の城ではないからな』

 

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