幼女戦記~秋津洲皇国助太刀ス!(本編完結)   作:宗田りょう

7 / 29
恥ずかしながら、帰ってまいりました。


可能行動
戯言の中


 立っているのは、ひとりの女性だった。

「…… 高垣中尉どの……?」

「お久しぶりです。福田さん」

 

 うふふ、と笑う女性が背後にいた。

 亜麻色の髪に翠色の瞳。魔術の影響によって変色した髪は不自然に染められたものではないため、明らかに異様であるが奇異ではない。今日は非番だったのか流行りの白のワンピーススタイルだった。

 

「いえ、なんだか面白いことをしている人が見えて、それが福田さんでしたので」

(そりゃ面白い恰好してるよなあ)

 

 たしかに、出前のリヤカーを引きながら帝国軍歌を歌う人間は面白いだろう。

 

 福田は面目ないやら恥ずかしいやらで、「いえいえいえいえ、これには深ぁい訳がありまして」と、聞かれてもいないのにこの状況に陥った訳を懇切丁寧に女性士官に説明しだしてしまった。

 

×××× ×××

 

 高垣中尉と呼ばれた彼女は、近衛軍所属の女性魔導兵である。

 

 近衛軍ーー 皇国に存在する軍事組織のうち、もっとも誤解されやすい組織だ。

 

 軍事に興味のない皇国人にはこう誤解される

「女だけの軍隊」「女性しか入隊できない軍隊」

 

 海外においては「インペリアル・ヴァルキリーズ」「イエロー・アマゾネス」といったように

 

 それはなぜか、話は皇国が近代的軍事組織を得た維新まで遡る。

 

 維新によって侍の国から一気に列強に追いつく必要のあった皇国は、同じく新興国家であった帝国(の前身にあたるプロシア)に陸軍のモデルを求め、そのコピーとして、皇国陸軍と近衛軍を創設した。

 

 帝国における帝室親衛軍の模倣として設立された近衛軍は「皇家と皇主を警護する」独立武装組織であり、陸軍省ではなく、宮内省直轄の軍事力として設立された。人員は名家名族から選抜し、司令官は皇族が務めるものとした。ここまでは帝国と同じである。

 

 が、皇国における名族たちーー300年近い旧体制における上流階級ーー は軍事的才能が完全に枯渇していた。

 

 革命政権であった維新政府が作り上げた軍事組織の中核は名族からは遠い人々だった。帝国や連合王国ならば騎士ですらない身分の人間たちが軍隊を作ったのだ。

 

 皇国の軍事組織の中心は、維新の中心地なった西國の下級戦士階級であり、立身出世主義が強く、旧名族にとって居心地の良い組織ではなくなった。

 

 結果的にであるが、近衛軍の実態は維新で不遇になった旧名族たちの箔付けという面が大きかった。無論、戦力としても期待されていない。

 

実際に西郷の乱中盤において投入された近衞は下野した元陸軍大将西郷が率いる侍たちによってあっさりと壊滅し、不要論さえ公言されるようになっていた。

 

(余談だがほぼ同時期、海軍においても連合王国王立海兵隊のコピーである海兵隊が廃止された)

 

 変化が訪れるのは新軍種として、魔導師が出た後だ。

 

 魔導師にとって重要なのは魔力 ――宝珠との相性や空間把握能力などの総体―― であり、女性であっても著しく不利になることはないという原則から、列強各国は女性魔導兵の積極的登用を始めた。

 

 しかし、皇国における魔導師の運用は他の国と異なっており、帝国のような魔導軍は存在せず、陸海がそれぞれ育成から運用を行うという形を取っていた。そのため、陸軍ではごく少数の女性が、海軍に至っては「船に女を乗せるな」という伝統から女性魔導師の枠その物がなかった。

 

 この女性登用の消極性は、皇国の民族性や社会制度にそれを求める向きがある。戦国乱世において一般的であった女戦士や女家長といった存在は、その後成立した幕藩体制の中で形骸化した。武家諸法度における『末期養子の禁止』『女陣代の禁止』がそうであり、支配階級である『侍』の中では女性の地位は低いものとなった。その流れが程度の差はあれ、継続していた。

 

が、最大の理由は予算の不足であった。当時は普通の魔導師そのものが少なかったし、貧乏国家であった皇国には他に買うものが沢山あったのだ。

 

 そんな中、半ば過去の遺物として忘れられていた近衛軍が突然、女性魔導師の募集を開始した。

 

曰く「かつて都を守護した戦巫女の後継たる近衛は、秋津女子の先鋒たらん」

曰く「真武皇后は御万騎衆の再来とし、唐入りの先達とする」

 

 魔導師を神話に存在した戦巫女、あるいは諸将時代に皇家を守護した女衛士に擬して、近衛をその後継としたのだ。

 

 つまり、近衛は組織としての生き残りをかけ、自らを伝説の戦巫女や、神代の女武将の後継として女性魔導師の利用を喧伝した。

 

 法的には怪しかったが「統帥権」なる怪しげな用語が全てを有耶無耶にした。半世紀前に作られた宮内省省令も大いに解釈のしようがあった。

 

ほとんど見切り発車であったが、これには世間からの風当たりが強かった名族も同調、国粋主義者や一部皇族の支援もあり、帝政ルーシとの戦争直前という狂騒の中で急速に具現化していった。

 

 古式に習い、京に女性魔導師育成学校を作り、数万人の応募者から選抜して教育を行った。そして、連合王国との同盟により、彼の国でも最新鋭であった宝珠がいくらか輸入されたことも幸運であった。

 

(政府は近衛の女魔導師を宣伝として活用し、王国からの支援をもぎ取っていた)

 

そうして育成された女魔導師は、実戦投入こそされなかったものの、最末期におけるルーシの攻勢に対して戦略予備としてその役割を果たした。

 

神話のようにはいかなかったが、あとから考えれば実態以上に強大に見せかけた予備兵力の存在がルーシの攻勢を少しだけ躊躇させたのだから、大きな意味があった。

 

戦後、陸海軍との調整を経て、近衛軍は皇国で唯一の「女性を前線配備する軍事組織」となっている。

 

××× ×××

 

「そんでまあ、僕が買いに行くことになって……」

「福田さんの職場って、やっぱり面白い方が多いですね」

 

 落ち着いてきたのかいつものおっとり口調で説明する福田とそれに応じる高垣、勿論機密に触れそうな部分は端折ってある。そろそろ研究会のビルディングに到着してしまうが、高垣はここまでついてきてしまっていた。

 

「それでその男はそれからずっと、サブマリン定食しか頼まないんですわ……」

「どうして定食にサブマリンって名前が付くのですか?」

 

それはですね……とためる福田。この話のオチとして語られる。国問研鉄板のネタがある。高垣さんはこう見えて洒落好き、ベタだがどうか。

 

「味も値段も、波の下だからです」

「…………? 」

 

いやいやつまりですね味も値段も並みの下と波の下(=の潜水艦)を掛けているところがこの話のミソでしてそれを思いついたのがその定食を食っている海軍の……

 

話術に自信のあった福田が、外すという失態。一瞬のパニック状態の中で、バラバラだった単語が脳内で奇妙なつながりを持ち始めていた。高垣との会話の中でも頭の片隅で進行していた図演の影響もあった。

 

――値上がりしたバッテリー関連株

――潜水艦だった。

――魔導士単体では不足する突破火力

 

 バッテリー、無線に電源車、そして潜水艦はバッテリーを消費する。それも大型で最高クラスのモノを使用する。そして低地帯の背後は海だ。

 

高垣さん、と福田は言った。いつもと違う、やんわりとした上方方言ではなく、はっきりとした皇国標準語だった。

 

潜水艦から、魔導士は飛べませんかね?

 

 




二年半振りの更新となります。
今回文章量は少ないですが、行けるとこまでいきたいです
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。