あの日見た夕焼けをともに   作:羽沢珈琲店

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今回はモカ編です。何故かモカの話は書きやすかったです。


青葉モカ

 青葉モカ。あいつは蘭と同様、幼稚園の頃から一緒だった。昔からマイペースな性格で、お婆さんが幼児化した生まれ変わりなのではと思ったぐらいだ。その反面、蘭に対しての思いは強かった。友達として、親友としていつも隣にいたのがモカだった。

 

 だから俺は羨ましかった。その隣にいられることに。いつか俺も、友達としてではない存在として隣に立てたならと。

 

 

 

 

 

 

 

 

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「あ、海ー」

「げっ……」

 

 俺は今、親に頼まれ商店街まで買い出しに出ていた。今夜はカレーを作るらしく、その足しとしてのコロッケを買ってこいと言われた。人使いが荒い親である。そんな時にゆったりと歩いてくるモカに出会ってしまった。

 

「むっ。げっ……っとは何さ〜。そんなにモカちゃんと会うのが嫌なわけ〜?」

「商店街以外の場所で会うなら問題ない。だが、今は商店街のど真ん中。そして、近くに『やまぶきベーカリー』がある。もう会いたくない理由が分かるだろ」

「えぇー?モカちゃん、分かんないな〜」

 

 ニヤニヤとした表情でしらをきる。だから会いたくなかったんだ。

 

「………今日は3個までだからな」

「あれ、奢ってくれるの〜?わーい、やったね〜」

「もう少し感情豊かに表現してくれたら奢りがいがあるんだがな」

 

 モカと商店街で会った場合、必ずと言っていいほど俺は奢らされている。発端は『やまぶきベーカリー』という名前のパン屋でモカが財布を忘れたことからが始まりだ。その事があってからか、事ある毎に俺に奢らせようとしてくる。最初こそ断っていたものの、モカも絶対に奢らせたいのか、姑息な手を色々使い、結局奢る結果になるのだ。今回で通算10回目なので、断るのが無駄と学習して今に至るわけだ。

 

「じゃあ早速沙綾のとこに行こー」

「はいはい……」

 

 俺は残り少ない全財産を片手に『やまぶきベーカリー』へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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「いらっしゃいませ〜!」

 

 店に入ると活量のある元気な声が聞こえてきた。白いシュシュで髪を束ねていて、羽丘学園とは違う制服の上から『やまぶきベーカリー』専用のエプロンを着けている女の子、山吹沙綾(やまぶきさあや)が常連である俺たちだと気付く。

 

「海にモカ!いつも来てくれてありがとね」

「沙綾のパンは美味しいからー」

「だったら自分の金で買うということをいい加減覚えてくれませんかね」

「あはは……。もしかして、またモカに奢る約束したの?」

「不本意ながらな。最早、約束どころか一種の通過儀礼になってきている」

「海って、将来尻に敷かれるタイプだよね」

「言うな。俺が一番理解してる」

 

 今のこの状況で思わない奴の方が少ない。

 

(翼だけには絶対に知られたくないな)

「それで、今日は何にするの?」

「えっとねー、チョココロネでしょー、メロンパンでしょー、クリームパン、あんパン、クロワッサン……」

「おい、3個までって言ったよな」

「えー?そんな約束したっけー?」

「お前な……」

 

 これが翼だったら遠慮なく殴ってるのに。

 

「仕方ないなー。じゃあメロンパン3個にしとくー」

「仕方なくとは何だ。仕方なくとは」

 

 モカはメロンパンが置いてある棚へ移動して、素早い動きでトレイに乗せる。何故かパンを移動させる時だけは機敏なんだよな。

 

「あぁ!!」

 

 その時、可愛らしい女の子の悲痛な叫びが聞こえてきた。

 

「りみりん。どうしたの?」

「財布、家に忘れてきちゃって……」

「えっ?うーん、じゃあ私の方で建て替えとこうか?」

「そんな!私のワガママでそんなこと出来ないよぅ……」

「じゃあ、そのパンを預かっておこうか?」

「ダメだよ!もしかしたら、他の人も食べたいかもしれないし……」

「うーん……じゃあ、」

「だったら俺が払う」

 

 いきなりの登場に沙綾と小動物のような感じが似合う女の子が驚く。

 

「払うって、海。お金少ないんじゃ……」

「100円払う金ぐらいあるわ。はい、これ」

「えっ!で、でも……」

「チョココロネ好きなんだろ?だったら遠慮はいらん。お金はまた今度会った時に返してくれればいい」

「それでも……!」

「以外と義理堅い子なんだな。あそこにいるモカとは大違いだ。兎に角、今は何も言わず受け取ってくれ。このまま受け取ってくれねぇと、俺が痛い奴に見える」

「あ、ありがとうございます!絶対に、今度返しますから!」

「返してくれないと困るからな」

「あぅ……!」

「揚げ足取らないの」

 

 軽めのチョップを沙綾から食らいつつ、100円を女の子に渡す。

 

 最後までお辞儀していた女の子が帰るのを見届けると、モカの会計をさっさと済ませようとしたが、いつの間にか3個ではなく10個近く積み上げられていた。

 

「おいモカこれは一体……」

「知らない女に奢れるくらいだからね〜。これくらいは余裕だよね〜」

 

 ここで俺は気付く。いつものモカとは様子が違うと。いつもより声に力が入っており、表情も少し険しい。

 

「もしかして、怒ってるのか?」

「何言ってんの〜?ぜーんぜん怒ってないから〜。私には奢らない癖に、知らない女には奢るんだー……なんて思ったないし」

「いや、お前それ完全に怒って……」

「早く払って欲しいな〜」

 

 本能で悟ってしまった。今のモカは何を言っても聞かないし、何より目が笑っていない。

 

「海。やっぱりあんたって、将来尻に敷かれる……」

「もう皆まで言わなくていい!!」

 

 結局この日、俺は全財産であった1500円を払った。




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