ロクでなし講師と魔眼保持者 作:斎藤
「いたぞ、反逆者だ!」
競技場に入りたくても王室親衛隊が守りを固めていて入ることができず、ただひたすら逃げていた。
「ラヴァル君後ろ!」
ルミアの言葉に後ろから《ライトニング・ピアス》が飛んできていることにラヴァルは気づいた。
「《壁・なんか壁出て》!」
適当な詠唱でその場に壁を出現させる。そしてルミアはラヴァルの行うことに驚かされる。即興での魔術の開発、実践。魔術を知り尽くしていなければできないことだった。
「《求めるは水雲>>>・崩水》からの《求めるは氷神>>>・浮凍》」
大量の水を出し、全てを凍らせる。
聞いたこともない魔術を扱い、次々と王室親衛隊を撃退していく。その姿にルミアはあの時の『魔眼』の男を重ねていた。
今まで、あの日いなかったラヴァルがそうだと思い、ずっと見てきた。だからこそ今、確信した。
ラヴァルこそがテロの時救ってくれた『魔眼』の男であると。
「《落ちろ浮凍》」
氷が氷柱のように落ち、王室親衛隊の体を貫く。数では勝っているはずの王室親衛隊が一人を相手に手間取る。
その様子を遠くから見ている者が三人いた。
一人目は帝国宮廷魔導士団特務分室に所属しているアルベルト=フレイザー
二人目は同じく帝国宮廷魔導士団特務分室所属のリィエル=レイフォード。
そして、三人目は学院講師で二人の担任のグレン=レーダス。
「ラヴァルのやつ、あんなに強かったんだな」
「グレン、あれほど危険な存在をどうして知らなかったんだ」
人ごとのように話すグレンにアルベルトが諌める。国のために戦う宮廷魔道士団としてはこれほどの実力を持つ者の存在を認知していないのは危険であった。
「知らねーよ!取り敢えず落ち着いたら行くぞ」
「分かっている。色々と聞きたいことはあるからな」
「分かった。全員倒す」
二人の決断と違うことをリィエルは言う。それにグレンは頭を痛ませる。
「いや、分かってねぇよ。多分どこかで隠れるはずだ。それまで待つんだよ」
「分かった」
「本当に分かっているのかよ」
「グレンは失礼。あいつ強い。だから一人で任せるということ」
「おお、分かってるじゃねぇか。っと、そろそろいくか」
三人は路地裏へと逃げ込んだ二人を追いかけて路地裏へと向かった。
路地裏へと入ればそこは罠だらけだった。魔術による仕掛け。全て死に至るような罠ではないが、気絶させるには十分すぎる罠。一瞬で数々の罠を仕掛けたラヴァルの技量にアルベルトは驚かされる。
「グレン、《愚者の世界》で無効化してくれ」
「分かってる」
グレンが《愚者の世界》を発動させることで条件発動式の魔術全てが封殺される。アルベルトは《愚者の世界》範囲外から、二人の行った道を辿るリィエルとグレンについていく。
「《求めるは殲虹>>>・光燐》」
「《万里を見晴るかす気高き雷帝よ・其の左腕に携えし天翔ける雷槍以て・遥か彼方の仇を刺し射抜け》」
ラヴァルとアルベルトがお互いに《愚者の世界》の範囲外から魔術を放つ。
ラヴァルの魔術は角に仕込まれていた《浮凍》の魔術を反射する特性を使い、見えない位置から攻撃をしていた。それに対して速攻で《愚者の世界》範囲外から固有魔術を発動して相殺させたアルベルトの技量は流石の一言だろう。
「ラヴァル!ルミア!俺だ!攻撃する必要はねぇ!」
グレンの声が路地裏に鳴り響く。二人はグレンが本物であると信じて三人の前に出る。今までずっと逃げていたはずなのに少しも疲れが見られないラヴァルにグレンは驚く。
「敵ではないんですよね?」
「あぁ、こちらの二人も俺の知り合いで敵じゃない。まずは情報の共有から始めよう。まずはこいつらは俺の元同僚のアルベルトとリィエルだ」
「よろしく頼む」
「よろしく」
アルベルトとリィエルが挨拶をする。アルベルトは警戒した目でラヴァルを覗く。そのことに気付きながら反応せず、ただ今の状況を伝えた。
「こちらの状況は面倒の一言ですね。ティンジェルに国家反逆罪を被せて処刑しようとする。うじゃうじゃと勝てないくせに王室親衛隊が現れる。それを俺が邪魔して逃げている最中です。いや、疲れた」
嘘つけとこの場でルミア以外が思った。明らかに息は乱れていないし、マナ欠乏症の様子も見られない。本当に魔術を使って逃げていたのか怪しくなるくらいだ。
「ラヴァルだったか。お前は何者だ」
アルベルトは単刀直入に聞いた。誰もが聞きたかったことを代弁して言う。真面目な雰囲気にラヴァルでさえも飲まれそうになる。
「ラヴァル=ピエル。ただの学生だよ」
だが、『魔眼』については絶対に言わない。その決意は固かった。
「ふざけるな」
「ふざけてない。本気だよアルベルト=フレイザー。ただ、俺は戦場を知っているだけだ。今はこれだけでいいだろ。どちらを優先させるかを考えてくれ」
「終わったら教えることを約束しろ」
アルベルトはフルネームを名乗ったことはないのにフルネームを知っている。つまり、そっち関係の人間であるとグレンとアルベルトの二人は判断した。
「俺のことくらいであればいいよ別に。だから協力してくれ」
頭を下げて言う。一区切りしたと感じたグレンはわざとらしい咳を一度する。
「ラヴァル、セリカから聞いた話によればセリカは何も言えないし何もできない。そして、どうにかして俺は女王陛下の前にいかなくちゃならないらしい」
「なるほど。グレン先生が行かなくてはならないということは、さっきの魔術を封殺する固有魔術で何かをするということ。つまり、何かしらの魔術がかけられている」
「そうだ。そして今は魔術競技祭中で王室親衛隊が女王陛下のまわりにいる」
「となれば、クラスが優勝してグレン先生を女王陛下の前に行かせればいい」
「その通りだ。その間のことだが……」
「グレン先生、《セルフ・イリュージョン》で姿を変えましょう。帝国宮廷魔道士の二人が俺とティンジェルに姿を変えて逃げてもらう。そして俺とティンジェルは二人に姿を変えて競技場に入り、『決闘戦』になったら俺は出ていけばいい」
「よし、それでいこう。アルベルト、頼めるか?」
「いいだろう。だが、終わったらラヴァルを借りるぞ」
「……好きにしろ」
ラヴァルの意思を無視して取引が進められた。といってもラヴァル的には後で借りられようが別に良かったため、別段気にしてはいなかった。
「あの…私のせいですいません……」
ルミアは自分のせいでこうなってしまったことを、巻き込んでしまったことを全員に謝る。それに真っ先に反応したのはラヴァルだった。
「ティンジェルは何も悪くないでしょ。悪いのはこの状況を意図的に作り出した敵だ。謝る必要なんてない。堂々としよう」
その場凌ぎの言葉ではなく、本心からの言葉だった。だから悲しそうな顔をするなと暗にそう言っていた。
「ラヴァル君……」
「何二人の世界に入ってんだよ。ほら、さっさと《セルフ・イリュージョン》使って戻るぞ」
「ほいほい」
ルミアとラヴァル、そしてアルベルトとリィエルは《セルフ・イリュージョン》を使って姿を入れ替わる。そしてお互い頷き、この場から散開した。
また明日あげます。