ロクでなし講師と魔眼保持者 作:斎藤
帝国宮廷魔導士団特務分室の制服を着たラヴァルに似た青年は自分の体と足元の魔法陣、そして5人の王国兵とルミアを見て現状を把握する。
「なるほど。転移魔術の応用で未来の自分自身と場所を入れ替えたのか。でもそんなことした記憶は俺にはない…つまり、平行世界の未来の自分自身と入れ替えたというのが正解だな」
「何を言ってやがる。《求めるは殲虹>>>・光燐》」
3人の魔術士から光線が放たれる。だがその魔術は途中で書き換えられて霧散する。
「いきなり攻撃とか野蛮だなぁ。で、いるのは5人だけなのか?」
「そうだと言ったら?」
「今の俺なら楽勝だな」
「たかだか姿が変わっただけで勝ったつもりか。やはり魔眼保持者は心底気持ち悪い。特にその七色の眼は吐き気を催す」
「奇遇だな。俺もこの眼が嫌いなんだよ。色々と、この世の物が見えすぎる」
「ところで、ラグナに似たお前は一体何者なんだ?」
「……は?今更かよ。だが余裕たっぷりで優しい俺が教えてやるよ王国兵。俺の名はラヴァル=ピエル。帝国宮廷魔導士団特務分室所属、執行官ナンバー21《世界》といっても未来のだけどな」
「未来だと……ばかな。そのような魔術ありえない」
「おい、魔術士が目の前で起きたことをありえないと言うのはありえない。事実を事実として受け止めろ三流」
呆れた表情で五人の王国兵を見る。バカにされたことで少しイラついたが一瞬で冷静に戻った。そこだけは流石と未来のラヴァルも内心で賞賛する。そして未だに理解ができていないような表情をしているルミアの方を向く。
「多分過去の俺が使った魔法は未来の俺との位相転換。ここが過去だというのは小さなルミアが証明してるしな。俺が来たからには大丈夫だぞルミア。多分この世界の俺より百倍強いから」
ルミアを安心させようと頭を撫でながら言う。その間にも魔術士は魔術を、剣士の2人は斬りかかるが、塞がっていない片手で剣戟を受け流し、魔術は書き換え霧散させることで対応をしていた。
「明らかに殺意を持っての攻撃。バッドエンドってやつを迎える覚悟はできているか?」
ラヴァルが凄むことで5人は蛇に睨まれた蛙のようにうごけなくなる。明らかにあの変化した【魔眼】は歴代の魔眼保持者の中でも群を抜いている強さを秘めていると5人は思う。目を見るだけで圧倒的な存在感に体が震える。逃げ出したいにも関わらず足が地面に縫い付けられているかのように動かない。
そして、動けずにいる5人は4人に減った。少し眼が輝いたと思えば先程までいた5人のうちの1人が塵となり消えた。
異常。異常すぎる光景に1人は正気を失い、動けない体を無理やり動かすために足を切り落として匍匐前進で逃げようとする。だがラヴァルがそれを許すはずもなく、いつの間にか逃げようとする男の前に立っており、頭を踏み潰した。
「た、助けて……私、何でもするから………」
残った3人のうち1人は命乞いをする。仲間である2人はその行為に何も言わない。そもそも恐怖で声が出ないから咎められないし、自分たちだって声さえ出れば命乞いをしているからだ。
「奴隷として扱ってくれてもいい……性的な奉仕だって何でもする……だから」
これ以上の言葉が紡がれることはなかった。突如としてその女は消えた。残った2人は拠点にでも移されたか…?と思っていた。だが、その思考は一瞬で止まる。目の前に先程まで隣にいた女が落ちて、地面に血をぶちまけて潰れた。
「俺相手にそんな命乞いが通じると思うなよ。奴隷なんていらねぇよ」
残った2人は自分たちが生き残る道はないことを確信しており、どうせ死ぬなら一矢報いて死ぬと考えた。そして恐怖を乗り越えラヴァルへと決死の突撃を行う。だが
「《私の世界》」
世界から色が抜け落ちた。それと同時に全ての動きが止まる。2人はその止まった世界で思考だけが動いていた。これがどういう魔術であるか、思考が動いても理解できない。否、したくなかった。時を止める魔術なんて認めたくなかった。そして、魔導器を使わずこれほどの魔術を扱うことを認めたくなかった。
「死ね」
一言とともに2人の体からあるものがラヴァルの掌の上に転移する。2人がそれを理解するのは早かった。そしてそれを理解した瞬間この時の止まった世界が終われば死ぬことに恐怖する。
「《解除》」
転移させて奪った心臓を放り捨てながら言い放つ。突進してきた2人は呆気なく倒れ、生き絶えた。
「さて、敵は殺したし何か言いたいことありそうだから聞いてあげるし質問にも答えるよルミア」
ルミアの顔を見れば色々と言いたそうであり、聞きたそうだと思い訊ねた。といっても、魔法にも時間制限があり、あまり多くを語ることができない。
「ラヴァル君は今のようなこと何度もあるの?」
「ない。といえば嘘になるかな。まー未来では王国は世界から消えたから平和なんだけどな」
「世界から消えた……?」
「敗戦国の常でしょ。簡単な話、王国は俺に戦力かけてばかりだったせいで足りなくなったんだよ。そのせいで周辺諸国の連合にやられた」
馬鹿だなと鼻で笑いながら言うラヴァルにルミアは苦笑いをする。こんな未来の情報を自分が持っていいのかと少しだけ怯えるが誰にも言わなければ問題ないと自分で結論を出した。
「じゃあ、あの魔術……ラヴァル君は魔法って言ってたあれはいったいなに?」
第2の質問は使用した魔法についてだった。その質問にどう答えるか迷ったのかラヴァルは少しだけ黙った。
「………俺が第五魔法と呼んでいる魔法の試作だと思う。その効果は過去未来への干渉。今回は俺と過去の俺の場所を入れ替えただけじゃない?」
「魔法?」
「そうだな。俺達魔術師の到達点。人には考えられない程の神秘かな。まー、魔法を扱う人間なんて出会ったことないから大丈夫だよ」
ここまでできる人間は後にも先にも自分以外に1人もいないとラヴァル自身は思っていた。高度な術式に莫大な魔力。この2つが必要なため、たとえ知識と技術を身につけていても発動するきは必要な魔力量のせいでほぼ無理である。ルミアもそれを理解したから次の話題に移る。
「その眼は…?」
今まで朱の五芒星が浮き出ていた眼だったのに未来のラヴァルは七色に明滅する涙の形をした眼に変化している。これを不思議に思っていた。
「これは……魔王の呪いと思ってくれればいい。呪いで【魔眼】に魔王ってやつが宿った」
過去を悔いるような表情にルミアは少し戸惑う。そしてこの話題はやめた方がいいと考えすぐ次に移る。
「ラヴァル君の指についてるそれって…」
ルミアの視線は未来のラヴァルの左手の薬指に嵌められた指輪に向いていた。そこに指輪を嵌める意味をルミアは知っている。そして、想い人の未来がそれを付けているとなれば気になるのも仕方ないだろう。本来なら初めにこの問いかけをしたかったくらいだった。
「ま、そういうことだよ。言っておくけど平行世界の未来だからこの世界の未来が俺と同じ結果になることはありえないからな」
「相手が誰か教えてくれたりは?」
「なんだそれを聞きたいのか。……俺の嫁はリィエルだよ。今のルミアがリィエルのこと知ってるか知らないけどね。昔から思っていた幸せな人生を歩んでいる」
「そう……ですか」
ルミアは相手が自分でないことに明らかに残念そうな、絶望したような表情をした。
「俺の世界のルミアと2人で出かけたことないからこの世界は違う結果になると思うよ。だからそんな落ち込むなよ」
ルミアがこの時代のラヴァルのことをどう思っているか表情から把握してしまったため、慰めた。慰めの言葉を聞き少しだけ表情が和らぐがやはりどこか悲しげだった。
「未来の私はどうでしたか?」
「ん?大人になってもシスティやリィエル……というか2年のクラスメイトと仲良くしてるよ。ちなみに未だに独り身であることをアリシアさんは心配していた」
「お母さんが……それにしても、ラヴァル君が結婚してしまったら結婚を諦めるのは少し分かってしまうな…」
「分からない方がいいと思うけどね。ま、この世界の俺を射止められるよう頑張りな。俺はちょろいみたいだからリィエルのように長い期間一緒にいればいつの間にか好きになってるよ」
「ありがとうラヴァル君。私頑張るね」
「そうだな。あとは……時間が来たみたいだ」
何かを言おうとした時、足元に再び地面に朱色に輝く魔法陣が現れた。
「じゃあなルミア。がんばれよ」
そう言い残して光に包まれる。そして光が晴れた時、学院の制服を着たいつものラヴァルがその場に立っていた。
「おかえり、ラヴァル君」
「あ、うんただいま。なんか凄かったよ」
先程まで行っていた未来での出来事を思い出しながらラヴァルは苦笑いをする。未来で何があったかなどラヴァルしか知らない。だが、面倒くさいことがあったのだとルミアは理解した。
「未来のラヴァル君から色々聞いちゃった」
「色々聞けるほど時間があったのか。流石未来では最強の魔術士の称号を持つだけあるな」
「そんな称号持ってるんだね」
「おう。ある人から聞かされた。なんか自分のことのように語ってきたから怖かったよ」
「あはは……」
ルミアは未来のラヴァルのことをラヴァルに語った人物はリィエルであることを予想して苦笑いをする。そう思うと胸が痛くなる。ラヴァルと他の人が付き合ったら嫌だなと思っていることを自覚している。
「ねえ、ラヴァル君はどういう女の人が好きなの?」
ルミアは真剣に聞いた。その目を見て流すことはできないと確信する。短い時間の付き合いでもそのくらい分かった。といっても、どう答えるかに迷う。ラヴァルは今までの人生でそんなこと考えることはなかった。故に
「どんな人でも、一緒にいてた時間が長い人を好きになるんじゃね?てかどうしてそんな質問?」
「未来のラヴァル君、結婚してたんだ」
ラヴァルはその言葉を聞いて全てのピースがはまったかのような感覚に陥った。
「そういうことか。だから帰って来た時から少しだけ表情が曇ってたんだな。そして俺のことを教えて来たリィエル=レイフォードがそうなのか。つまり俺はロリコンだったというわけか。ないわー」
と言うが本人は何故そうなったかを理解する。自分に未来の自分のことを語ったのがリィエル=レイフォードであることは今と変化のない顔と身体を見れば分かっていた。そして自分の未来が宮廷魔道士団特務分室所属になっていることを知った。リィエルは宮廷魔道士団特務分室所属だ。だから同じ職場として一緒にいる時間が多いのだろう。このことから先ほど言った一緒にいてくれる人が好きになるというのは間違っていないと思った。
「うん。やっぱ一緒にいる時間が長い人を好きになるんだろうなぁ」
「もっと一緒にいないと好きになってもらえないならずっと一緒にいてもいい?」
「え、普通に嫌なんですけど。やっぱ隣に人がいたりすると疲れるわけよ。だからそんな無駄なことしないでくれよ」
「流石に冗談だから安心してね」
「それならいいよ。さて、今からどこへ行く?」
「へ?」
ラヴァルから誘ってくることに対する驚きに声を漏らす。
「ラヴァル君から誘ってくるなんて珍しいね」
「いや、今日は俺の問題に付き合わせてしまったから申し訳ないと思ってな。別に解散がいいなら解散してもいい。もうすぐ夕暮れだしな」
「じゃあもう少しだけデートしよっか」
「へいへい」
そう言って、ラヴァルは照れ臭そうに、ルミアは嬉しそうに夕暮れを歩き、空が暗くなるまで2人はデートを楽しんだ。
修正する気力もないので確認せずに投稿。
話はプロット通りなので変なところはないはず。
別作品の話を投稿してしまった申し訳ございませんでした。