ロクでなし講師と魔眼保持者 作:斎藤
でも気にしなーい気にしなーい。
魔術競技祭が終わって数週間。ラヴァルは一度も学院に行っていなかった。と言っても、外に出ていないわけではない。いや、むしろ家にも帰らず外に出ていたせいで数週間学院の方に行けていなかったのだ。
なぜ、面倒臭がりなラヴァルが家にも帰らず外に出ていたか、それはアリシアに招集されたからだ。では何故招集されたか。それはエレノア=シャーロットが脱獄したからである。
「くっそ、俺をこんなところに呼んでまで魔術解析しろなんてほんと最悪だ。無理疲れたダルい。誰か代わってくれぇ……」
「すまない…。『ラヴァルにならできる』と陛下が仰っていたため、ラヴァルに頼ることになったのだ」
エレノア=シャーロットの収容されていた牢獄に2人の人影。うち1人はラヴァルであり、もう1人は宮廷魔導士団特務分室に所属しているアルベルトである。
エレノアを救出する際に使われていた魔術を解析するには、部屋中に蔓延した呪術のみをディスペルする必要があった。そして《ディスペル・フォース》では解除できたとしても救出した時に使用した魔術の痕跡ごと消してしまうため、呪術のみを消すことの出来る『魔眼』を持っているラヴァルが招集されたのだ。といっても、全ての魔術を消し飛ばすつもりで宮廷魔導士が《ディスペル・フォース》を放っても解除することはできないレベルの魔術であるため、実質ラヴァルにしかできなかった。そんな事情であろうとも、ラヴァルはアリシアからの要請がなければここまで来ることはなかった。
「アルベルトさんは邪魔だからどっか行ってくれ。この呪術複雑すぎて集中しないと解除できないし、1人の方が集中できる」
まずはアルベルトに『魔眼』の情報は伝えられていないため、バレないように人払いを行なった。
「了解した。捕縛してもらったにも関わらず逃してしまってすまない」
「別にアルベルトさんが悪いってわけじゃない。『天の智慧研究会』にここまでの使い手がいるのは流石に予想外だな」
「よろしく頼んだ」
ラヴァルに解除と解析を頼み、アルベルトはこの場から離れる。ラヴァルは周りに人がいないことを探知魔術で確認し、『魔眼』を使用した。
「…………は?」
『複写眼』を通して見た魔術構成はラヴァルの見立てを上回って複雑怪奇であった。まず、かけられているものは1つ1つ別の魔術であり、その1つ1つが人を死に至らせるに十分な呪いが付与されている。解除するにも対策として、いくつかの手順を踏まなくてはならない。全て解除するにはかなりの時間を要すことを理解してしまった。
「帰りたい……」
心からの言葉を吐き出し、絡まった糸を取るように1つ1つ丁寧に術式を解除していく。
そうして、気がつけば10日が過ぎていた。
呪術は全て解除し、本命の魔術の解析に入ることができた。だが、ここでラヴァルはさらに驚くことになった。
『複写眼』で見ても、解析の魔術を扱っても、魔術の痕跡が全く無いのだ。何度も何度も部屋全体を見渡すがあるはずのものがない。これでは終わらないと考え、より目を凝らし、一点を見つめる。するとそこには少しだけ残滓を発見することになった。
「転移魔術か……行き先を洗い出してみるか」
『複写眼』を利用して唯一の手掛かりの構成を解析する。そして、転移された場所が分かることになった。
「サイネリア島か」
場所が分かれば仕事は終わりだとアルベルトを呼ぶ。
呼べば数分でアルベルトが部屋まで来る。アルベルト は10日前まで呪術で近寄り難い場所が近寄れるようになっていることを確認して中へ入る。
「何か分かったのか?」
「あぁ、場所はサイネリア島だ。転移魔術で逃げたみたいだな」
「その魔術を再起動することは可能か?」
「可能だけど、間違いなく罠だな。やめておいた方がいい」
「聞いてみただけだ。そのような真似はしない」
「それにしてもこの術式は……いや、勘違いだろうな」
「何か気づいたことがあるのなら教えて欲しい」
「…この術式が帝国のものより王国のものに似ている気がした。でもここまでの術式を扱う魔導士は王国にはもういないはずだから王国の介入はないだろうなって思っただけだよ」
「なるほど、興味深いな。その件はこちらで調べておこう。これが今回の報酬だ」
そう言ってアルベルトはジャラジャラと音を鳴らす太った袋を手渡した。
「報酬、結構多くない?正直これの半分でも多いと思うのだが……」
「学院に戻ってからの『迷惑料』だと思ってくれたらいい」
「『迷惑料』?ま、多いに越したことはないしな。仕事は済んだし帰らせてもらうぞアルベルトさん」
「あぁ、今回の借りは返すことを約束しよう」
「そうだな。学生の貴重な青春を10日も無駄にされたんだ。大きな貸しだぞ」
「そうだな。本当に申し訳なく思っている」
「でだ。この借りをすぐ返してもらうべく1つ依頼がある」
「……できることなら力になろう」
「俺のいた王国の動きを探って欲しい。この間刺客が送られてきたけど、戦争に駆り出されるはずの実力者だった。何か良からぬことを考えていそうだ。できるか?」
「了解した。そちらに手を回そう」
「よろしく。依頼も終わったし帰ることにする。お疲れさん」
「送っていこう」
「いやいいよ。男に送られても悲しいだけだしな。それに馬車の中でアルベルトさんと2人っきりはお互いに気まずくて辛そうだ」
「それは言えてるな。依頼の件は任せろ。ラヴァルは安心して学園生活を送るといい」
「それじゃ」
こうしてラヴァルは依頼を終えて外に出た。そして用意してくれていた馬車に乗って眠りながら帰っていった。余談だが、10日間も休んでいたことでルミアにしばかれる夢を見てうなされていた。
「いったか」
アルベルトはラヴァルのいなくなった一室を見回す。そこには10日前の状態からは考えられないほど安全な空間が広がっている。その空間を見たアルベルトはラヴァルに対して恐ろしく思った。宮廷魔導師が絶対に解除できないと匙を投げた術式をたった10日で全て解除、解析をしてしまったのだ。改めてラヴァルの異常性を知ることになった。だが、それだけではなくなぜラヴァルなら解除・解析ができると女王が知っていたのかを疑問に思った。
「何か秘密があるな。調べてみるか」
その調査が逆鱗に触れるということをこの時のアルベルトは思いもしなかった。
エレノアさんいなきゃ物語が動かないし仕方なく脱獄。
この章からオリキャラを登場させる予定です。オリヒロインじゃないんで許してください。なんでもしますから