ロクでなし講師と魔眼保持者 作:斎藤
とうとう魔術競技祭の日を迎えた。
魔術競技祭は例年、学院の敷地北東部にある魔術競技場で行われる。
競技場は石で造られた闘技場のような構造で、中央には芝生が敷き詰められた競技用フィールド。
この競技場は魔術的ギミックを多く組み込んだ建築物でもある。管理室からの制御呪文一つで、フィールドを自由自在に変えることができ、あらゆる条件や競技に対応可能という。
そんな魔術競技場に全力で向かう少年がいた。勿論ラヴァルである。朝起きればもうすぐ『飛行競争』が始まるのではないかと思われる時間。朝からいなければ何を言われるかわからないし、勝手に欠席扱いにされるかもしれない。欠席扱いになればテストの話は無しとなる。そのことに焦りを感じていたため、いつも以上に急いでいた。
体のリミッターを外す魔術に身体能力を上げる魔術。さらに体の一部を強化する魔術まで重ねがけして走る彼は音速を超えていた。
音を置き去りに走ることでなんとか『飛行競争』の競技中に間に合うことができた。クラスメイトからは遅いと怒られ、グレンからは安心された。一通り謝った後、『飛行競争』に目を向けた。
『そして、さしかかった最終コーナァ~!!二組のロッドくんが…ぬ、抜いたぁーッ!まさかの二組が、二組が……これは一体どういうことだー!?』
実況のアースが実況席で興奮して声を張る。一位、二位のクラスは完全に放置され、二組ばかり見ていた。
『そのままゴォォォォール!!なんとぉぉぉ!?『飛行競争』は二組が三位!あの二組が三位だー!誰が、誰がこの結果を予想したぁぁぁぁ!?』
歓声と拍手が起きる中、アースは手に汗握りながら実況を続ける。
『トップ争いの一角だった四組が最後の最後で抜かれる、大とんでん返しーっ!!!』
一位はハーレイ率いる一組、だが観客席にいる生徒達は大奮闘で三位を勝ち取った二組を見て歓声を送っている。
「やった!すごい!先生三位!ロッド君とカイ君、三位ですよ!」
「………」
(うそーん……)
グレンはこの結果に驚いていた。この『飛行競争』は魔導器を使って《レビデート・フライ》の呪文を唱えることで飛行し、学院敷地内に設定された一週五キロのコースを二人で交代しながら計二十周する競技だ。
グレンはこの競技を飛行スピードではなく、ペース配分が大事だと見て、ペース配分の練習だけしてろと二人にアドバイスをしていた。
(いやまさかここまでやるとはな…ぶっちゃけ驚いた……)
ここまで上手くいくとはグレンですら予想外である。
「幸先良いですね、先生!」
「何か秘策でもあったんですか!?」
システィーナが興奮気味にグレンに質問をする。予想外な結果に少し反応が遅れた。
「んなもんねーよ。この競技はスピードよりペース配分が大事だと思って、あいつらにはペース配分の練習だけさせただけだ。後は連中がペース配分に間違って自滅するのを待て、と指示しただけ。フッ。楽な采配だぜ」
腕を組み、余裕な表情で淡々と言うグレンに生徒達は盛り上がる。
「ひょ、ひょっとして俺達……」
「あぁ、俺達…先生についていけば…」
勝てるかもしれない。と誰もが思った。まだ始まったばかりではあるがその可能性を示すには十分すぎる結果だった。
そして、二組の快進撃は続いた。
『魔術狙撃』は魔術精度に長けているセシルが出場し、《ショック・ボルト》で的を射抜き、四位以内を確定させた。
『暗号早解き』ではウェンディが出場。《リード・ランゲージ》で誰よりも暗号を早く解き、圧倒的な解読力で一位になった。
「すげーな。『決闘戦』で全てが決まるとかになりそうな勢いじゃん」
ラヴァルは自分が出る種目が結果を分けることになる可能性に少し頭を痛ませる。
「その時は頑張ってねラヴァル君。私も頑張るから」
ルミアが決意を固めた目で言う。次の競技は『精神防御』。ルミアが出場する競技だった。
「あー、ティンジェル。皆が頑張れ頑張れと言ってるからって無理して精神壊されるなよ。安全第一にな」
「うん。ありがとうラヴァル君」
そう言って、微笑みながら競技場へ歩いていった。
「ルミア、大丈夫かな…」
「なあ銀髪。ティンジェルはそんなに心配するほどメンタルが弱いのか?」
「弱くないわ。むしろ私とは比べ物にならない程強いと思う」
「なら、大丈夫でしょ。いつものような感じで帰ってくるよ」
ラヴァルの言葉を聞きながらシスティーナは競技場にいるルミアを見つめた。
競技場に実況のアースと燕尾服にシルクハット、髭といういかにもな姿をした男が現れる。
『ではではただいまより、『精神防御』の競技を始めます!今年もお願いしますね、ツェスト男爵!』
「ふっ、紳士淑女の皆さん、御機嫌よう。ツェスト=ノワール男爵です」
『それでは第一ラウンド、スタート!ツェスト男爵、お願いします!!』
「それではまず、小手調べに恒例の《スリープ・サウンド》の呪文あたりから始めよう」
こうして『精神防御』の競技が始まる。ツェストは言葉通りに《スリープサウンド》の呪文を唱える。
出場選手は対抗魔術として、白魔《マインド・アップ》を唱える。
『精神防御』とは精神攻撃呪文を精神強化呪文でただ耐えるだけだが全競技の中でも最も過酷であると言える競技だ。
学院の中で最も多く会話をしているかもしれないルミアを心配そうに見守る。
《スリープ・サウンド》では、勝利は無理と判断し、捨て駒として出場していた一組の生徒が脱落した。《コンフュージョン・マインド》では、八組の生徒が耐え切れず、業火に包まれた錯覚に襲われ服を脱ぎ始め、脱落。《マリオネット・ワーク》では四組、《チャーム・マインド》では三組と、次々に脱落者を伴い、ツェストの興奮も大きくなりながら競技は続いていく。
『なんと、誰が予想したかこの展開!これで五組代表ジャイル君と、二組代表ルミアちゃんの一騎討ちだぁぁぁぁ!!』
ルミア対ジャイル。ジャイルが残るのは予想できた。だが、ルミアが残るという誰も予想していなかった対戦カードができあがった。
「白魔《マインド・アップ》は素の精神力を増幅させるだけの呪文だ。元々の精神防御が強い者ほど……要するに肝が据わってる奴ほど大きな効果がある。で、うちのクラスにルミアより精神力が強い奴はいない。まぁでも……あのジャイルってのも大概だな」
グレンが心配そうに見ているシスティーナとラヴァルに解説する。その間にツェストは魔術レベルを上げ、《マインド・ブレイク》の呪文を唱えた。
《マインド・ブレイク》は精神破壊系の魔術で最も高度で危険な呪文の一つ。下手をすれば相手を一瞬で廃人にする力がある。
だが、《マインド・ブレイク》を受けたルミアとジャイルは耐え抜いた。
確かに耐え抜きはしたが、《マインド・ブレイク》を耐えたルミアはどうみても顔色が悪くなっている。後一回耐えられる、もしくはすでに限界がきている。それは膝をついていることから明らかだ。だが、ここまで来たら倒れるまでルミアはやると少し仲がよければ分かってしまう。
マズイとラヴァルは思った。これ以上やれば確実に後遺症が残る。
「グレン先生」
「あぁ、分かってるよ!」
ラヴァルの声でグレンは競技場内に飛び降りた。それに続いてシスティーナも飛び降りていく。
「棄権だ!」
『え、えーと…グレン先生?今なんと?』
「棄権だ棄権。二組はここで棄権」
『な、なんと…二組ルミアちゃん棄権。これはあっけない幕切れ』
「よくここまで頑張ったな。ルミア」
「そ、そんな、先生!私、まだ……!」
「ルミア、辛くなったら我慢しなくていいのよ」
「お前なら余裕で勝てると思ったんだけどな……あんな化け物がいたとは……マジですまん」
「いえ、楽しかったです。私も皆のために戦えているんだって気持ちになれたから」
そんな三人をそっちのけでアースはジャイルへと勝利者インタビューへと移る。
『えー、それでは、去年に続いて見事、『精神防御』を制した五組代表ジャイル君、何か一言』
「さすがだねジャイル君。……ん?ジャイル君?」
アースやツェストが呼びかけてもジャイルはただ立って腕を組んで、固まってる。そんなジャイルを不審に思い、ツェストは顔を覗き込んだ。
「じゃ、ジャイル君は立ったまま気絶してる!」
ツェストの叫び声に会場中が騒然となる。競技場内にいる三人も驚いていた。
「えーと?ということは…?」
「ルミア君の勝ちだろう。棄権したとはいえ、直前の《マインド・ブレイク》に耐え抜いたのだから」
『な、なんとぉぉぉ!なんというとんでん返し!この勝負を制したのは紅一点、二組のルミアちゃんだぁぁ!!!』
「やった!やったじゃないルミア!」
「システィ……」
システィーナがルミアに飛びつき、次々にクラスメイト達がルミアを囲んでいく。競技場内はお祭り騒ぎだ。
そんな様子を少し離れたところで皆を見ているグレンは笑っていた。
「お前はあの中に入らないのか?」
「……面倒だし、あんなに人が固まってたら絶対に暑いでしょ」
「はは、ラヴァルらしいな。本当は仲間思いなくせに」
グレンの言葉を聞いて会場から出ていく。仲間思いという言葉がラヴァルの表情を曇らせた。
「………俺は仲間を見捨てて逃げるようなロクでなしだよ」
誰にも聞こえないような小声で、自分に言い聞かせるようにそう言った。
伝勇伝好きは同世代な気がする。
競技祭の話だけで終わってしまった。しかもオリジナル要素少ないしね。
次は女王出るしオリジナル要素はあります。