三人称side
広い荒野のフィールド、そこで2人は対峙していた
「なぁライザー、戦う前にひとつだけ聞きたいことがあるんだけどさ」
兵藤一誠は真剣な目でそう話しかけた
「......何を聞きたい?」
少し困惑しながらライザーは聞き返した
「この10日間、レインにあんたのことを聞きながらさ、これまでにあんたがやってきた特訓を俺もやってきたんだ」
「.........」
「めちゃくちゃきついし痛いしで、あっこれ死んだかもって、何回もそう思ったよ」
どこか苦笑混じりに一誠はそう語った
「そんでこれで強くなれてるのかなって、心配になりながらレインに稽古つけて貰うんだけどよ」
「全然勝てなくて、それどころか指一本も触れられねぇんだ」
「......だろうな」
そう返すライザーは僅かに微笑んでいた
その微笑みが、かつての自分と重ね合わせて見えた事への自嘲の念によるものなのか、それとも最愛の弟の姿を思い浮かべ、想いを馳せた事によるものなのか、本人にも分からなかった
「......それで、結局何が言いたいんだ?」
「......レインはあんたのことを自慢の兄貴だって言ってた、すげぇ努力して今の実力を手に入れたってさ、自分なんかよりよっぽど凄い人なんだって」
「......」
「あんたがやってきた訓練ってさ、スポコンみたいに努力、努力、努力!って感じでよ、こんなきつい特訓をずっと続けてきて、俺もあんたが本当にすげぇ人なんだなって思ったんだ!」
一誠は溢れんばかりの笑顔でそう話す
だが次第にその笑顔を収め、真剣な顔つきへと変わっていく
そして
「だからこそ思うんだよ、なんであんたはそこまで強さに拘るんだ?」
そう聞かれたライザーはゆっくりと目を閉じて答えた、あの日から変わらぬ誓いを
「.........決まっている、レインが、レイヴェルが、2人が自慢できるような兄でいるためだ」
だが
「今みたいに強くなかった時から、レインはあんたを大好きな兄様だって言ってたのに?」
そう返されたライザーは思わず言葉が出ず固まってしまう
「何があったのか詳しくは話してくれなかったけど、あんたがそうなったのは
「っ!」
瞬間ライザーの脳裏に浮かぶ、8年前の苦い後悔の記憶
8年前レインの暴走により魔王城が消し飛ぶ十数分前
フェニックス邸では怒号が飛び交っていた
「レイヴェル様はまだ見つからないのか!?」
「ダメです、どこにも見当たりません!」
「ふざけるな!!もし何かあったらどう責任を取るつもりだ!?」
「お付の者たちは何をしていたんだ!?」
「申し訳ありません!!少し目を離した隙に居なくなってしまわれて!」
「申し訳ないで済むか!!お嬢様のご安全を守るのがお前達の役目だろう!!」
「もし良からぬ輩に誘拐でもされていたら......!!」
「っ!!本当に!!申し訳......!!」
「落ち着け!!お前達!!」
「「「!?ライザー様!!」」」
「今、責任の追求をしても何も状況は好転しない!!情報を纏めることを最優先しろ!!」
「っ!現在フェニックス領全域を捜索していますがなんの痕跡も見つかりません!!」
「城下町に住まう悪魔たちに聞き込みを行っておりますが、お嬢様のお姿を見たものはおろか、怪しい者を見かけたという情報すらありません!」
「なら、フェニックス領周辺の領地を治める各貴族達に、事情を説明し協力を仰げ!」
「はっ!大至急連絡致します!」
「大変です!ライザー様!!」
「っ!どうした!?何があった!!」
「今、レイン様が単身サーゼクス様の元へ向かったとの報告が!!」
「なんだと!?」
ライザーは背中に冷たい汗が流れるのを感じた
サーゼクス様が幾らお優しい魔王様であるとしても、もし何か問題でも起こった場合、レインが罪人として捕えられるかもしれない
そうなれば良くて投獄、最悪の場合死罪となる可能性すらあった
「わかった!そちらは俺が対応する!お前たちは引き続きレイヴェルの捜索を頼む!!」
「はっ!命に変えてでもお探しいたします!!」
その言葉を最後にライザーはフェニックス領を飛び出した
そしてそれから数分後、魔王城周辺が広大な光とともに消し飛んだ
その日レイヴェル・フェニックスはいつものように、部屋に閉じこもって勉強をしているレインを誘って外で遊ぼうと考えていた
普段であればお付の者が一緒に行動していたが、8歳になったレイヴェルは自分の足で行動出来る距離も増え、1人でも部屋へと向かえると飛び出してしまったのだ
大好きな父や母、そして兄たちからも決して一人で行動してはならないと言いつけられていたのに
幼い少女は理解していなかったのだ、自身の、フェニックス家という悪魔の持ちうるその価値に
だからこそ起こった悲劇、それは地獄の始まりであった
レイヴェルがお付の者達の目を盗み、部屋を出てレインのいる場所へと向かうために、近道をしようと庭に出た時突然背後から地面へと押さえつけられた
声をあげようとしたが、口を塞がれ、目隠しをさせられ、抵抗しようにも腕を押さえつけられ、あまりの恐怖にそのまま気を失ってしまった
そうして忽然とフェニックス領から姿を消すこととなった
レイヴェルがお付の者から離れて僅か1分以内の出来事である
次にレイヴェルが目を覚ましたのは薄暗い部屋の中だった
身動きを取ろうとすると椅子に縛られていた
自分が誘拐されたことを理解した時、部屋の扉が開き複数の悪魔が入ってくる
「お?目を覚ましたかお嬢ちゃん、気分はどうだい?」
悪魔のうちの一人がニヤつきながらそう話しかけてくる
「っ!ぅぅーー!」
声をあげようとしても口に咥えさせられた球状の何かによって上手く話せない
「まったく、ダメだろ〜?一人で外に出るなんてよ〜、あれじゃ誘拐してください〜って言ってるようなもんだぜ?」
そう言いながら悪魔たちはゲラゲラと汚い笑みを向けてくる
それに対してレイヴェルは恐怖に耐え、涙目になりながらも睨み返した
だが
「おっと、怖い怖い!そんなに睨むなよ〜、そんなに睨まれると怖くて思わず痛い目に合わせちゃうかもしれないだろ〜?」
「それとも、もしかして大好きな家族が助けてくれる〜なんて思ってるのかな?」
そうだ、大好きな両親や兄たちが必ず助けに来てくれるはず
そう思っていると
「無理無理!ここがどこだかわかるか!?ここは魔王城の地下さ!」
「確かにサーゼクスの野郎はあまちゃんだが、たかが一貴族のガキの為に動くことはない!」
「何よりまさか自分の真下に逃げ込むなんて、考え着く筈もねぇしな!!」
そう、そこは魔王城の真下に作られた空間
サーゼクス・ルシファーは確かに強いのだろう
だからこそ彼には思い付けない
セラフォルーはその役割により人が多くバレやすい
ファルビウムも同様の理由で無理
アジュカであれば魔力探知に引っかかり侵入すらできないだろう
だがサーゼクスはそうではない
彼には驕りがある
圧倒的な強者であるが故の慢心
自身が最強であるが故に、その警備は少なく
また最強であるが故にその懐に潜り込むものが居るとも考えない
その慢心によりルシファー領を調べはするだろうが、魔王城を調べようなどとはしない
故に
「諦めろ!お前はもう詰んでんだよ!」
絶望の言葉を笑いながら告げるのだった
それを聞きレイヴェルは堪えていた涙が止まらなくなった
「ぅっ...ぅぅ......」
その様子を見ていた悪魔の言葉によりレイヴェルは更なる絶望へと落とされる
「おいおい、そんなに泣くなよ!もったいないだろ!?」
「お前の涙も、血も!その体液の全てが金に変わるんだからよ!!」
「もちろん、その体もなぁ!」
「っ!?」
「お前が男なら、血を抜かれ続けて一生を生きるだけで終わったんだろうがな」
「女の体には色んな使い道が有る!今死んだ方がマシだったと思えるほどにな!!」
「女に生まれてきたことを後悔するこったな!」
そう言いながら悪魔は下賎な目でレイヴェルを眺め、ニヤニヤと嗤っていた
そのあまりの恐怖にレイヴェルは失禁してしまう
「うぅ!うぅ〜......!」
「ぎゃはは!怖くてちびっちまったのかお嬢ちゃん!?」
漏らしてしまったことへの羞恥心と絶望、そしてそれすらも嘲笑う目の前の悪魔への恐怖により、幼いレイヴェルの精神は限界に達していた
しかし絶望は終わらない
「くっくっくっ!!ちょうどいい!約束の時間が来るまでまだあるからな!今のうちにその体にた〜っぷりと教育してやるよ!」
「っ!?」
「安心しな、数時間後には自分から求めちまうほどの淫乱に変えてやるからよ〜!!」
「っ!うぅ!!」
「おいおい、お前ペドフィリアだったか?」
「バカ言え、ガキとは言え女だろう?楽しめる時に楽しんどかねぇーと損だろ!」
「はぁ、まったく......好きにしろ、生きたまま連れていくなら上も文句は言わないだろうしな」
「はっはー!さすが話がわかるやつは助かるぜ!!」
「終わったら呼べ、俺たちは念の為周囲を警戒しておく」
そう言って目の前の悪魔を残し、誘拐犯たちは部屋を出ていく
そして
「さぁーてと、そんじゃ始める前にっと......」
そう言いながら悪魔はレイヴェルの口から口枷を外す
「これで喋れんだろ?喘ぎ声が聞こえねぇとつまらねぇからなぁ!!」
「うぅ!!やだぁ...!!もう許してください......!!」
「おいおい何言ってんだ!許すも何もこれから楽しむんだろ?」
そう嗤いながら悪魔は、レイヴェルの幼い体へとゆっくりと手を伸ばしてくる
「いやぁ......!やめて......!助けて!助けて!!レイン!!!!」
どれだけ泣き叫ぼうとも届かない
もう助けは来ない
大好きな双子の兄にはもう会えない
ここで終わるのだと、自分の純潔はここで喪われるのだと
全てに絶望し、家族の言いつけを破った自分を呪った
そして悪魔の手がレイヴェルの体に触れようとしたその時、視界に映る全てが遅くなったように感じた
その時にレイヴェルは見たのだ、赤く紅く赫く、そして白へと変わっていく天井を
次の瞬間、全てが焼き尽くされた
あの日のことを忘れもしない
俺の犯した間違いによって生み出された絶望の1日
今更証明しても
もう.........
裏タイトル「失格」