熱い
暑い
痛い
苦しい
息も出来ない
されど終わらない地獄
突如として降り注いだ太陽のごとき灼熱の炎
それは刹那の間に悪魔を焼き尽くし、今も尚レイヴェルを焼き続けている
炎に対する絶大な耐性を持つ筈のフェニックスの身体をも焼き尽くすそれに対し、レイヴェルがまだ生きているのもまた、フェニックスの高い再生能力による賜物であった
だがしかし、それが故に彼女は無限に続く地獄を味わっていた
無限に続く焼却と再生
常に全身を襲う灼熱と光力
焼かれる度に再生し、されど追いつかない
全身の血液が沸騰し、内側からも焼かれる
次第に遠のく意識の中で、レイヴェルは不思議な感覚を覚えていた
その地獄の中で痛覚を失い始め、視界も無くなった彼女は、感情さえも削ぎ落とされ、されど脳裏にはレインの姿が浮かんでいる
彼女にはわかっていたのだ、今自分を焼いている炎がレインのものであることを
当然のことだった
産まれてからの8年間、毎日ともに過ごしたのだ
朝起きる時も、食事をとる時も、どこかに出かける時も、彼が勉強している時もその横で過ごし、共に遊び、一緒にお風呂に入り、そして同じ部屋で眠る
そうやって彼女は彼と8年共に生きてきたのだ
だからこそ消えない後悔
これほどの力を秘めていた彼は、どれ程の苦痛を味わいながら生きてきたのだろうか
眠っている間や食事をしている時間、彼はどれ程苦しんでいたんだろうか
心休まる時間さえも無かったのかもしれない
勉強をしている彼に何度も話しかけた、何度も遊びに誘った、眠る前の時間に何度も呼びかけた
その時の彼はどんな思いで相手をしてくれていたのだろうか
そして溢れるのは、愛情だった
ずっと一緒だった、一緒に居てくれた、傍に居てくれた
苦しいはずなのに、痛みを感じていたはずなのに
文句のひとつも言わないで相手をしてくれた
悲しかった
もし兄妹ではなく、違う家に生まれていたなら、迷わず結婚をしたいと思えるほどに大好きな兄だったから
嬉しかった
レイン以上の殿方なんて絶対に居ないと思っていたから、将来結婚をするつもりはなかった
叶わぬ願いだけれども、純潔はレインに捧げたいと決めていた
それが奪われそうになった時に大好きなレインが助けてくれた
もう思い残すことは何もない
大好きな兄に救われ、兄の炎に抱かれながら死ぬのだ
これ以上の幸福なんてどこにもない
幼い身に向けられたおぞましい程の悪意により、既に限界に達していたレイヴェルの精神は生存を諦めていた
フェニックスの再生力はその魔力と精神によって左右される
何度も死の淵を彷徨い、幾度もの再生を繰り返した彼女の生存本能は、その身体を
再生をやめ、全身を炭へと変えながら、ゆっくりと死へと向かっていく
その身を焼く炎が炎が弱まったのは、彼女が死を受け入れた数秒後のことであった
あと数秒、何か一つでも違っていたのなら有り得たかもしれない未来
されど時は戻らない
彼女はもう助からない
身体から止まることなく溢れ出る魔力と炎
それを必死に抑えようとするレイン
暴れ狂う炎を制御し、周囲の状況を把握しようとする
そこには、気絶している魔王の眷属達と下半身を失い倒れる魔王
全てが消し飛び、焼き尽くされた城
そして
元が何だったかも分からぬほどに焼き焦げ、炭へと変わった
その瞬間、レインは周囲の状況も、炎の制御も忘れ、ふらつきながらそれに近づいていく
脳が理解を拒む、理性がそんなはずがないと否定する
しかし
レイヴェルが自身を焼く炎で気づいたように、レインもまた本能で理解していた
目の前の炭の塊が、大切な妹である事を
自分が妹を焼き殺した事を
治癒魔法を掛けるが治らない
魔力を分け、再生を促すが反応しない
涙が溢れ、その涙がレイヴェルへと落ちる
純正のフェニックスの涙
ありとあらゆる傷を癒すその涙
されど何も起きない
それはどうしようもなく、ひとつの事実を指し示した
妹は死んだ
その事実を前にレインは絶望し、声を上げながら涙を流した
「僕が......!僕が殺した......!レイヴェルを......僕のせいで!!」
そう嘆き妹に縋り付くレインの身体は徐々に変化していた
それまでは均衡の取れていた炎が揺らぎ、次第にレインの身を焼き始める
フェニックスの再生力は精神に由来する
自らを責めるその精神は、炎による燃焼を自身に向け、再生を鈍らせる
このままではいずれこの子も死んでしまう、そう思った魔王は必死に声を張り上げ呼びかける
君のせいじゃない!全ての責任は僕にある!だから落ち着くんだ!そのままでは君も死んでしまう!!
されどその声は届かない
彼らに残された時間は残りわずかであった
魔王城で起こった爆発を観たライザーは全てを忘れ駆けつけた
そこで目にしたのは
全てが消し飛んだ魔王城
倒れ伏し何かを叫ぶ魔王様
そして
今まで一度も見たことがない、泣きながら何かに縋り付き、その身から太陽のごとき灼熱の炎を撒き散らす、最愛の弟の姿であった
それを前にライザーは兄として、弟に寄り添わなければならない
だが
弟が放つ光力を含んだ炎によって、近づくことすら許されない
今の自分はあまりにも弱すぎる
近寄れば最後、弟に触れることすらなく消滅する
そんなライザーの脳裏にあの日の誓いが思い浮かぶ
''いつか必ず、誇れる兄になる"
確かにそう誓ったのだ
その想いを胸に鍛錬をしてきた
そして湧き上がる後悔と、怒り
何が、何が必ずだ!
今!目の前で苦しむ弟を救えず!いつか必ずなどと!!
今この瞬間そうでなければならないはずだろう!?
俺は今この時まで何をしていたんだ!!
そして弟に向かって歩き出す
1歩進む、フェニックスであるはずの身体が熱さを感じる
10歩進む、身体が焼け始める
それ以上進めば死ぬと思わされる
それがどうした!!
自分が死ぬことよりも、弟が傷つくことの方が何倍も恐ろしい
焼かれるのならば再生しろ
魔力が足りないなんて言い訳にもならない
命を削ってでも絞りだせ
弟が尊敬する兄として、救って見せろ!!
そうしてさらに歩み出す
身体が焼ける
再生する
1歩進む事に焼却と再生を繰り返す
焼ける、再生する、焼ける、焼ける、再生する
焼ける再生焼け再生焼け再生再生焼再生再生焼ける再生再生再生
次第に焼ける速度を再生力が上回り始める
ライザーの強い精神力と覚悟が、フェニックスの炎を変質させる
より効率よく魔力を使い、高い再生能力を生み出す
足りない分を寿命を削り補う
それはいつかなんて未来ではなく
現在を生きるために編み出された無法の力であった
そうしてたどり着いたライザーは絶望する
遠目では分からなかった
弟が縋り付いているのが妹である事に
弟の涙が幾ら掛かろうとも再生しない妹
その肉体が既に死んでいると認めたく無かった
ライザーは自らの身体が焼かれることも構わずレインを抱きしめる
「落ち着け...落ち着くんだレイン...」
「兄様......!僕の...僕のせいでレイヴェルが!!」
「違う......お前のせいではない...だから落ち着くんだ...」
ライザーはそう言いながら腕を切り、血を滴らせレイヴェルへと捧げる
涙よりも効率よく再生させれるフェニックスの血液
それが意味が無いと知りながら、既に死んでいる妹へと捧げる
なぜいつか必ずなどと、最初からそうあれるようにと努力していれば防げたことではないのかと
取り返しがつかないと知りながら後悔ばかりが募る
その様子を見ていた魔王の脳裏にある事が思い浮かぶ
友の創り出した悪魔の駒
それには死者の蘇生すら可能にする力があった
もし僅かにでも可能性があるならばそれに掛けるしかない
だから
「悪魔の駒だ!今ならまだ間に合うかもしれない!!」
その言葉を聞きライザーは僧侶の駒をレイヴェルへ捧げる
悪魔の駒は万能ではない
確かに死者の蘇生すらも可能とするがそれには強い意志が必要となる
死にたくないという想い、まだ生きていたいという願いが必要だ
もし生き返らなかったら、彼らから希望を奪ってしまったら
魔王は全ての責任を取るつもりでいた
許されることではない、どれだけ償ったとしても償いきれない
それでも最後のその瞬間まで諦めてはならない
彼らは奇跡を信じその時を待った
声が聞こえる
戻ってこいと呼ぶお兄様の声が
声が聞こえる
私の名前を呼び泣いている、大好きなレインの声が
戻らないと
戻ってレインの傍に居ないと
私は大丈夫だから泣かないでって言わないと
だから...だから.........
そうして奇跡は起こったのだ
傷が癒える
どれだけ血を、涙を注ごうが戻らなかった身体が元の姿へと戻っていく
そして......
「......レ...イン......?」
目を覚ました
「良かった......良かった!レイヴェル!!」
「あぁ...よく戻ってきてくれた!」
そう言いながら2人はレイヴェルを抱きしめる
「ごめんなさい.....私が......約束を破ったから......」
「違う...!僕が...僕のせいでレイヴェルを...!」
「謝るな...お前たちは何も悪くない......全ては俺の責任だ...俺が不甲斐ないばかりに...お前たちを傷つけたのだ...」
そうして互いに謝り会いながら、最悪の1日は幕を閉じる
3人の不死鳥の心に、決して消えることの無い
いつか必ずなんて
そのいつかなど来ないと知っていたのに
俺は決して許されない罪を犯したのだ
裏タイトル「罪人」
ようやくタイトルが決定しました!これからも応援よろしくお願いします