GOD EATER 【Ghost in the Rain】 作:謝意・ハルード
――――夢を見るんだ。
――――何時も瞼を閉じる度に、同じ夢を見る。
――――何も、分からなくなる夢を。
――――夢の中では深い霧に全てが飲み込まれていて、何もかもが曖昧になっていく。
――――目の前に何かがぼんやりと見えると思えば、何も見えないようにも思える。
――――耳には何かノイズのような音が響いている気がしないでも無いが、完全な静寂に包まれているようにも感じられる。
――――ここが夢の世界であると今現在に至るまで知覚しているのに、同時にここが現実の世界であると錯覚している自分がいる。
――――そんな、矛盾した感覚。
――――確信できることなんて、何一つとしてない。
――――自分が今、立っているのか座っているのか、それとも倒れ伏しているのかさえ分からない。
――――自分が今、どんな状態なのかも全く感じ取れない。
――――それどころか、自分が今「存在」しているかさえ、感覚がぼやけてて認識できない。
――――倒れた花瓶から水が零れ落ちる様に、自分の認識が次々に何処かへ流れ去っていってしまう。
――――こうして最後には何時も、自分が何者なのかさえ分からなくなっていくんだ。
――――……ああ、違うか。
――――毎回、夢の終わり際になって思い出す。
――――何も分からなくなっていく中、最後に一つだけ気付かされるんだ。
――――在るかどうかも分からない地を打つ音と、在るかどうかも分からない身体を伝うこの感覚。
――――ほかの事は全て霧にかき消されるのに、この事だけははっきりと分かるんだ。
『…………雨が、降ってる』
こうして夢の主――
__【Eat,01「Awakening」】~目覚めの時~__
―― 某日、フェンリル極東支部 第六ブロック 適合者管理エリア D区間
「…あ…? ……丈夫……え…………るの!? 」
(……ン…ぁ? )
聞き覚えの無い女性の声で、部屋の隅のベンチで眠りこけていた時雨の意識は現実へと帰還した。
声は両耳のヘッドホンから流れる歪んだギターサウンドに紛れて聞き取りづらい。
襲い来る倦怠感を撥ね退け、うっすらと瞼から紅く鋭い瞳を覗かせる。目が覚めても、思考は未だ正常に作動しない。
(あー……寝てたのか、俺……)
おぼつかない動作で上着のポケットに突っ込んだプレイヤーの電源を切り、一間置いて思考回路の回復を待つとようやく視界を遮っていた靄のようなものが晴れた気がした。
「あ、やっと起きた……大丈夫? うなされてたみたいだけど……」
それとほぼ同時に、先程聞いたものと同じトーンをした女性の声が時雨の耳に入る。透き通る様な声質で、可愛らしさと艶やかさを併せ持った実に女性らしい声だ。
「ん……あぁ、大丈夫……」
時雨が言葉を返しながら少し頭を上げると、彼の眼前に声の主である少女の姿が映し出された。
歳は時雨と同じくらいだろうか。
少女は整った輪郭と大きな浅葱色の瞳を持ち、どちらかと言えば綺麗と言うより可愛いといった印象の強い、所謂「美少女」と言って差し支えない容姿をしていた。
特に目を惹くのが頭髪であった。見事なまでに美しい菫色の長髪を持ち、それを左側頭部でポニーテールにして纏めてある。
その肉体も時雨の素人目から見ても非常に整っており、主張しすぎず謙虚すぎない、女性としての繊細さが全面に押し出されたスタイルを持っていた。両肩と腹部を露出させた制服も健康的な肢体にスポーティな上品さを加え、その魅力を引き立てるのに一役買っている。
「87点」
「え? 」
「……いやなんでもない」
突然の時雨の採点に少女が怪訝な眼差しを向ける。少女は自分が品定めされている事に気付いていない様子だったが、その無垢な反応は逆に時雨に奇妙な罪悪感を与える要因となっていた。
「……ここにいるって事は……アンタも『候補者』って事か?」
時雨はばつが悪そうに少し乱れた黒髪を手櫛で直しながら、少女に答えの解かり切った問いを投げかける。
時雨たちがいる第六ブロックはフェンリルにゴッドイーター候補者と判断された人間がまず初めに入れられるエリアであり、A、B、C、D、Eの5つの区間で成り立っている。このうちA~Cの三区間は適合試験を受ける前の健康診断や血液検査等を行うエリアであり、休憩所の役割を持つD区間を挟んでゴッドイーターに値するか否かを判断する適合試験の場であるE区間が存在している。
時雨たちは事前の検査を全て終え、検査結果の分析と適合試験の準備完了の数時間をこのD区間で待機している所であった。
「勿論、ついさっき検査が終わった所だよ……確か私がここに来たときにはキミはもう寝てたかな」
怖い夢でも見てたの? と少女が少し不安げな表情を浮かべ、ベンチに座った時雨を覗き込む様にして続ける。それに対して時雨は一度クスッと笑みを作った後「まさか」と呟きながら少女に対して呆れのポーズをとっておどけて見せた。
「……っと、そういえばまだお互い自己紹介してないよね」
少女は束の間の沈黙を断ち切るようにして身体を戻すと、時雨に向かって右手を伸ばしてきた。
「私は『
少女ーー桔梗はそう言って時雨に屈託の無い笑顔を見せる。
「…八雲 時雨だ。よろしく、桔梗」
こちらは仏頂面のまま、桔梗の右手に自身の右手を重ねる。
すると桔梗の右手が時雨の右手をがっちりと捉え、そのまま何度も上下に振り回した。
「………随分、嬉しそうだな」
「え? あ、うん……やっぱりこういうのって、一人だと寂しいっていうか……なんていうか……」
軽い痛みに苦笑いを浮かべる時雨を見て桔梗は慌てて彼の右手を解放すると、目を泳がせ恥ずかしそうに頬を掻いた。
桔梗が実際にどう思っているかは時雨には分からなかったが、彼女もまた有無を言わさず連れて来られ、たった一人で検査に次ぐ検査を強制されて来たのだ。普通の女の子ならば事の大小はあれど不安に駆られるものなのだろう。ましてやこれからいつ命を失うかも分からない戦場に駆り出される身になるのなら尚更だ。
それが自分がただここにいるだけで少しでも解消されたという事実に、時雨はほんの少しの満足感を感じていた。
時雨にとって桔梗は、そして桔梗にとっても時雨はこの極東支部で始めて出会った友人であった。
「……にしても、いつまで待たせる気かねぇ……」
「ホントにねー……」
時雨と桔梗が顔を合わせてから凡そ1時間、他愛のない雑談で暇を潰していた二人であったが、適合試験へのラブコールは一向に送られる気配がない。
「二人とも検査で落とされてたりしてな」
「アハハ、本末転倒って奴だ」
皮肉っぽく笑う時雨に桔梗が続く。
▼
結局、事が動き出したのはあれから更に1時間ほど後の事であった。
室内に響き渡るポップなアナウンス音。
落ち着かずに一人室内をうろついていた桔梗も、ちょうどトイレから出て来た時雨も一斉に音のするスピーカーに視線を移す。
『大変お待たせしました。番号667「向坂 桔梗」様、適合試験の準備が完了しましたので、手前のゲートよりE区間へとお進みください。なお番号666「八雲 時雨」様は引き続きその場でお待ちください。繰り返します……』
エコーがかった女性の業務連絡が淡々と繰り返される中、空調音と共に二人の眼前にある巨大なゲートが開いた。再び待機を指示された時雨は深いため息をつき、ついにお呼びのかかった桔梗は呆気にとられていた。
「……足切りか? 」
「わ、わわ私が先!? 検査は時雨の方が早く済んだ筈じゃ……? 」
桔梗の声は緊張からか震えている。遅いだなんだと愚痴を零してはいたものの、いざその時が来てしまうとやはり不安に怯えてしまうものらしい。
「なんか病気でも見つかったんかねぇ……少なくとも息子の方は異常無いと思うんだが」
時雨は自身の下半身を凝視しながら冗談を呟いた後、桔梗の方を見る。
桔梗はおどおどした様子で周りを見渡したり、唇に指を当てたりと落ち着きがない。
「桔梗? 」
「きゃわッ!!? 」
見かねた時雨が後ろから声をかけると、桔梗は素っ頓狂な声を上げて体全体を跳ね上げた。尚もそわそわと動きを止めない様子に時雨は「ダメだこりゃ」と頭を抱える。
「桔梗? 顔こっち向けて、落ち着いて」
「ふえ…? 」
突然の時雨の申し出に混乱するも桔梗はそれに従って緊張で表情の固まった顔を身体ごと時雨の方に向ける。
「あーそうそう、はい息吸ってー……」
「(すぅ~~)」
「はい吐いてー」
「(はぁ~~)」
「また吸ってー……」
時雨に言われた通りに深呼吸を繰り返す。何とも原始的な緊張のほぐし方であったが、何度も繰り返す内に桔梗の心には幾分かの余裕が生まれてきた。
「……少しは落ち着いたろ? 」
「……う、うん。ありがと……」
平静を取り戻した桔梗は少しうつむいたまま時雨に礼をする。その顔は恥じらいで赤く染まっていた。
「……すごいね、時雨はさ」
「何が? 」
「全然慌てたりしないし、私なんかよりずっと大人だなーって……」
「どうだかな……っと、そろそろ行けよ。あんまり遅れてお偉いさん方を怒らせるのもアレだろ? 」
時雨が目をやった先には開いたゲートと、それに続く長い廊下が見えていた。この先がいよいよ本当の目的地であるE区間……即ち試験会場である。
「ん…それもそうだね。じゃあもう行くよ」
そう言って桔梗はゲートに向かって歩き出す。その後ろ姿からは気品と力強さが感じられ、先程までのか弱い少女の姿はどこにも見えなかった。
「時雨! 」
「ん? 」
ゲートを超える所で桔梗が一旦止まり、振り返って時雨を呼ぶ。その表情はとても穏やかで暖かいものであった。
「先に行ってくるよ、また後でね! 」
時雨が軽く掌を見せて答えるのを見た後、桔梗は再び前を向いて奥へと続く道を駆け出した。
桔梗がゲートを過ぎて数歩進んだ所で自動で扉が作動し、腹部に響く轟音と共に門が閉じられる。それからもしばらくの間、金属製の床を足で鳴らす音が部屋まで響いていた。
桔梗を見送り、時雨は深く息を吐きながら側の壁に寄りかかる。
「……「後」がありゃいいけどなぁ……」
ヘッドホンからは、再び音漏れが聞こえ始めていた。
主人公の容姿は原作(バーストの方)のエディット主人公をモデルにしているので原作にてある程度の再現ができます。ゲームをお持ちの方は再現してみると脳内補完に役立つかもしれません。
①八雲 時雨(男主人公)
ヘアスタイル⇒9
ヘアカラー⇒1
フェイス⇒6
スキン⇒7
ボイス(イメージ)⇒15
トップス⇒ペチュニアブルゾン上(首のヘッドフォン無し)
ボトムス⇒F略式下衣ブラック
②向坂 桔梗(女主人公)
ヘアスタイル⇒19(原作より長髪+テールのウェーブ無し)
ヘアカラー⇒14
フェイス⇒1
スキン⇒1
ボイス(イメージ)⇒1
トップス⇒F強襲上衣ブラック
ボトムス⇒F強襲下衣ブラック