アンドロイドは博物館にいる 作:ニーア
ㅤ初めに知覚したのは痛みだった。身体を締め付けられるような圧迫感と棘が刺さっているかのようなチクチクとした痛み。所々深く刺さっているのか脈打つ様なジクジクとした痛み。
ㅤ薄らと目を開けてみるとどうやら博物館のような場所であるということがわかった。それにしては少々薄暗く陰鬱な雰囲気であるが。それに壁にかけられている絵画も随分とまあ……個性的、と言えばいいのだろうか。人間の負を集めたような神秘的で残虐性に富んだ絵画。……少なくとも、私はこんな場所を知らない。
ㅤでは、何故こんな場所にいるのだろうか?ㅤ訴えるような痛みを遮断しながら、自分の記憶を遡ってみることにした。
☆
ㅤ――――私の名前は2E。正式名称、ヨルハ二号E型……の皮を被った、正真正銘のヨルハ二号B型。ややこしいがこれが私の肩書きだ。司令官からの命令でとあるアンドロイドの任務を偽装するために偽装された存在。……まあ、私のことなどどうでもいい。
ㅤたしか私は、アンドロイドがウイルスに感染して暴走を始めた時にデータをアップロードしていなかった為か偽称2Bや9Sと同じく生き延びたんだっけか。別行動を取っていたためか他に生き残ったアンドロイドがいたかは知らないが。……そう、それで生き延びて……あぁそうか。遊園地廃墟を歩きながら機械生命体を殲滅してる最中にウイルスに感染した9Sに後ろから刺されて殺されたんだっけか。最悪な事に9Sが傾倒していた偽称2Bと容姿が似通っていたのもあるんだろう。……いやはや、全くもって不運としか言いようが無い最期だ。
ㅤそう、“最期”だ。間違ってもこんな博物館のような場所で縛り付けられている要素など欠片も存在しない。……だというのに、今の現状はなんだというのか。論理的にも物理科学的にも可笑しな事だらけで不愉快だ。
ㅤ……不愉快ではあるが、現状こうして縛り付けられている時点で何かがあったと推測するべきだろう。例えば殺されたと思っていたが実は生きていて、現在機械生命体に囚われているとか――――は流石にないか。機会生命体なら私のようなアンドロイドを捉えるなんて野暮なことはせずそのまま息の根を止めるであろうし。特殊個体アダム、イブがどうするのかは定かではないが。それにそもそも私のブラックボックスを無慈悲なくらい正確に貫かれたのだ。生きている訳が無い。……なら、やはりどうして?ㅤ思考を重ねてみるがどうも答えに辿り着けそうもない。
ㅤ――――生命反応を確認。二名。……ヒトゲノムである事を確認。……接近中。
ㅤ脳内にポッドの音声が響き、私がいる所に来ていると言う。――――いや待て、ヒトゲノム?ㅤつまりそれは、人間ということか?ㅤそんなバカな、人間は我々アンドロイドが作り出される遥か昔に絶滅した筈ではなかったのか……?
ㅤあぁ、クソ。非科学的現象と予想外の出来事で思考が上手く纏まらない!ㅤそもそもポッド!ㅤ貴様は今どこにいる!ㅤ少なくとも私の視界内にはないぞ!
ㅤ――――肯定:そこに私の姿はない。
ㅤ――――推測:非科学的、また物理的に無理ではあるがヨルハ二号E型の脳内にいると判断。
ㅤ――――推奨:早急なシステムスキャンの実行。
ㅤ冷静に言っている場合か!ㅤそもそもこんな体勢でこんな状況じゃシステムスキャンなんて無理だろ!ㅤあぁ、もう……っ!ㅤこれだからポッドは嫌いなんだ……。
ㅤ――――報告:ヒトゲノム接近。距離半径3mを突破。視界内に入るまで
ㅤポッドのその言葉に徐々に冷静になっていく。視界内に入るまで、つまり人間と思われる二人は目の前にある曲がり角から現れるということだろう。……人間とアンドロイドの見た目に違いはない。アンドロイドが人間を精巧に模してるくられた存在であるのだから当たり前であるが。だが、微細な駆動音などは誤魔化し用がない。所詮アンドロイドは機械だ。だから……もし、やってきた二人にその駆動音が無ければ――――いや、淡い期待等持つなんて私らしくもない。人間がいる可能性より、ポッドが間違えている可能性の方が明らかに高いのだから。でも……それでも、少しだけ期待してしまうのは、居る筈もない人間を守る為に作られたアンドロイドの性なのだろうか。
ㅤらしくもない思考をしながら、本当に人間が来る可能性に期待している私がいる。
ㅤ――――そして――――
「あっ……」
ㅤ一目見ただけで分かった。理屈も根拠も無く、ただ感じてしまった。それが、アンドロイドではないことを。それが、人間、だということを――――。
ㅤそれが、三人の初めての出会い。そして――――これは、救われなかった一人の少女を救うための物語。
短い。続かない。