混沌重層世界-CHAOS REGION-   作:揺れる天秤

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第10話 変革のハジマリ

 ───それから数日後。

 

「えっと、安納塔子です。今日から占星術研究部に参加することになりました。よろしくお願いします」

 

 塔子は占星術研究部の部室にいた。どうやら、編集者との話し合いは神尾愛生という『悪魔』監修の元で話がついたらしく、今までの過剰なペースでの雑誌提載のペースを遅くする──具体的には学業に影響が出ないレベルにまで落とすことに成功したらしい。

 残念ながら『悪魔』の力を借りた以上、無利子とはいかなかったが──

 

「解決したんだから、空いた時間で占術研に所属してほしいって愛生ちゃんに頼まれたの」

「完全に脅しじゃないか…」

「持ちつ持たれつってやつだ、玲児」

「いや、でもだな…」

 

 玲児が納得いかない様子だったが、すでに安納塔子の所属が受理されている以上、言ってもしょうがないことなのだ。

 脅されたとは言うものの、塔子自身が納得できる理由を持ってもいるので、部長である映瑠も不満気にはしつつも、愛生相手にチクチクとつつくようなことは言うも。あまり大きくは反対しない。

 

「にしても、安納さんは小説家なんですね」

「ひゃい!?な、なんで部長さんも知ってるの?」

「先ほど剣くんが教えてくれました。本も帰りに買って帰ろうかと」

「ぎゃひぃ!?」

「塔子さんや。ちょっと驚き通り越してその悲鳴どうにかならん?」

「なんで広めてるの!?」

「部活動メンバーぐらいは知られてもいいだろ?」

「ううっ、恥ずかしいんだよ…。勘弁してよ…」

「大変そうですね」

「部長。本当にそう思って言ってる?」

 

 愛生の勘繰りに映瑠は眉を寄せるも反論はしなかった。無駄だと思ったようだ。

 

「それにな、塔子。たぶん、…いや、間違いなくお前の単行本はこれから爆発的に売れるだろうし、学院の中で広がるのは確定事項だぞ?」

「ど、どういうこと、です…?」

「では、まずはこちらをご覧いただきましょう。芙美香、先ほど説明したページ出してくれるか?」

「うん」

 

 ネットのとあるページをパソコンに表示してもらう。それを見て最初に気づいたのは愛生だった。

 

「あっ、これって確か陽子が高階ちゃんに教えてたサイト」

「これはどういうサイトなのですか?」

「いわゆる個人ブログのサイトなんですが、ここにはサイト開設者の読んだ多くの本の批評が載ってるんですよ。まあ、驚きなのはだいたい有名になった作品がまだ無名の頃にここで高評価を受けていることが多く、ネット民がオススメの本を探す時の良サイトになってるんですよ。で、これが最新の投稿ね」

 

 芙美香がページの最上部にあった『ソレ』を表示させる。そこに表示されたのは───

 

「あら?塔子さんの作品ね。初の単行本、ですよね?」

「うわっ、本当だ!しかも、発売日その日に批評されてるし☆10の中で☆9.5だって!すごい高評価じゃん!」

「というわけ。サイトの存在は学院の情報源が広めてるから学院中には少なくとも広がってるだろうな。女子はたぶんだけど、ここまで高評価な作品なら一度は見ようと買うやついるだろうし、買わなかったやつも買ったやつの評価聞いたら意識変わる確率は加速度的に上がるさ」

「なぜですか?」

「部長。女子がクラスの話題に置いていかれたくないって思ったらどうする?」

「それは当然、話題に上がるものを確認──ああ、なるほど…」

「塔子、大丈夫か?」

「あは、あはは、あははははは…」

 

 先ほど映瑠に言われた時以上に青ざめた顔のまま、壊れた笑顔で笑い続ける塔子。

 

「ありゃ、壊れてる…。塔子、しっかりしなって。いいことじゃない」

「そうですね。少なくとも、とても良い評価をされているのですからそこまで卑下することもないと思うのですけれど…」

「いや、映瑠部長。卑下してるわけじゃないんだと思うんだ。今後しばらくはクラスの話題に上がるのに恐怖してるんだと思う」

 

 というより、すでに話題になっている可能性の方が大だ。学院の情報源が握っている情報としてはこれほどホットにできる話題はないし、小説はおあつらえ向きに少女物だ。

 読めば確実に話題にできてすでに話題性が高いとなれば、あとは推して知るべしだろう。

 

(恐るべし、我が妹の慧眼…)

 

 

 

 ★

 

 

 

 夜闇を切り裂く一条の光。星空を切り裂くは長大な光の柱を振り回す人形の存在。

 対峙しているは靄のような不定形としかいえない存在。光を避け、靄からは針のようなものが次々と射ち出される。

 周囲の被害など知ったことかと二つの存在は攻撃を繰り返す。山が割け、川が蒸発し、大地に大穴が穿たれる。

 

『いい加減、無為な争いはやめましょう?私と貴方が戦ったところで喜ぶ者などいませんでしょう?』

 

 靄は自分を殺そうとしているだろう人形に語りかけている。対する人形は意に介していないのか、上段から光の柱を振り下ろす。

 

『むっ?』

 

 靄が避けると光の柱は大地に深々と突き刺さり、凪ぎ払われる勢いで川が寸断された。

 

『まったく…。元の世界には影響が出ないとはいえ、よくもまあこれほどの破壊を行えるものですね…』

「うるさい。さっさと討たれれば話は終わる」

『おや?ようやくコンタクトが取れましたね。はじめまして。《人類の守護者(アラヤシキ)》様』

「貴様の話を聞く気は無い。さっさと討たれろ《混沌たる破壊者(ナイアルラトホテップ)》」

『うむうむ。名を知っていて頂けているとは光栄の至りでごさいますなぁ』

 

 靄──ナイアルラトホテップは人形に靄を集めて形作ると、真っ黒なスーツに道化師の仮面を付けた人形へと変わり、ぞんざいな手つきで空間に生み出した杭を投げる。

 

『アラヤシキ──いえ、ここは《阿頼耶識》と呼ぶべきでしょうか?』

「その名は呼ぶな、ナイアルラ!」

 

 杭を光の柱で消し飛ばし、射線上のナイアルラトホテップを凪ぎ払うが、空を蹴るナイアルラトホテップは易々と光の柱をかわしていく。

 

「私にはナハトという名前がある!」

『人類の記号で呼ぶのも甚だ嫌らしい話ですが、貴方と話を進めるにはそちらで呼ぶ必要がありそうですね。でしたら、私のことはナイアとでも呼んでください。一々長々と呼ぶのも面倒でしょうから』

「ふざけるな!」

 

 阿頼耶識──ナハトは柱を生み出す右手とは逆に左手から極大の砲撃を見舞う。しかし、ナイアの姿が消えて後ろの山々が消し飛ぶ。

 

『ふむ。何をそこまで怒る必要があるのでしょうか?私は多くは干渉してはおりますまいに』

「ならばなぜここに来た!?」

『私はちょっとした所用ですとだけ。あとは、神様の召喚、私の召喚、貴方の召喚の手番は一通り終わりましたし、再びの召喚はどなたから行うのかの確認をと思いまして』

「今はしない、させない!」

『おや?それはまたどういった意味合いで?』

「召喚された者達が世界に馴染むには相応の時間がかかる以上、超短期における召喚は世界に致命的な破綻を呼び込みかねない!」

『ふむ。それは確かに…』

 

 ナイアが再び光を避ける。顎に手を当てて空をクルクルと回りながら、しかし不意に手を打つ。

 

『しかし、私のした召喚は十年以上前。神様の召喚は半年ぐらいですか?貴方がつい先日といった具合に召喚におけるタイムラグはむしろ短期スパンに近づいている様子。だというのに何をそこまで焦っているのですか?』

「全世界線への影響を考えればこれ以上の短期召喚は危険を要する!」

『なるほど。しかし、神様達は最初の召喚以降は続々と高天原から降りてきている。召喚よりも自分達も物語への介入が必要と判断したが故の行動と見受けられる。そう、貴方のように!』

「だからなんだ!」

『だからですね。私の意見が貴方には受け入れがたいのであれば、私はこう提案しましょう!召喚なんてまどろっこしいことはせずに世界の境界を変えましょう!』

「な、にを…」

『任意の召喚なぞ生ぬるい。世界が必要と断じた時点で必要な要素を自動的に召喚するようにしてしまえばいい!そこには私や貴方の思惑も絡まなければ、世界中の組織が召喚に合わせて企てを起こすこともない!故に、取り払いましょう──世界の境界を!』

「ふざけるな!それは、すべての世界を否定することだ!」

『いいえ!我々の目指すは《因果律の運命(カミサマ)》を殺すことにある。一介の神様、一介の人間には不可能でも──因果に絡まぬ存在達であれば或いは、というのが本来のこの《混沌重層世界(CHAOS REGION)》であるはず!故に、立ち戻りましょう!原点へと!』

 

 瞬間、ナイアを中心として周囲の空間が歪んでいく。

 

「何をする!?」

『私は私という存在を利用して境界を崩しましょう。しばしのお別れと相成りますが、大丈夫。阿頼耶識たる貴方が居る以上、世界の崩壊は起きませんとも。さあさあさあ!世界様!ここで、お立ち会い!変わり行く世界を見つめ、我々は《因果律の運命》をコロシテみせましょう!故に世界よ!貴方はすべてを受け入れなさい!この混沌とした世界を──美しく儚く、それを愛でる強さを見せてください!』

 

 ───そして、世界は大きく変じていく。

 

 ───変わることは、因果に干渉すること。それは、大きな変革をもたらしていく。世界にも、人類にも、神様にも…。

 

 

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