第11話 四国内から見た世界
地球の日本という国は古くから神話などでも語られる神様達が息づく土地として有名だった。
そんな
しかし、それも先日のナイアルラトホテップによる境界の崩壊をもって終焉を迎える。
世界の外側より来る数多の存在へと対抗するためか、一部の神々は本来の自身の拠点としていた場所から離れ、それぞれが『国』を護るために行動を開始した。
───そして、日本の中で最も大きな変革を受けた大地。それは──四国地方。
☆
そこはとある学園の一室。集まるのはその部屋を部室として使っている六人の少女達だった。
「さて、急な召集だったにも関わらず全員が集まってくれたことは嬉しいわ」
「風先輩!今日って何をするのに集まったんですか?」
六人の中で、一人黒板の前に立つのは
質問をしたのは片手におはぎ、反対にはお茶を持ち、桜の髪飾りをつける
そして、実はその隣で友奈を世話する少女、大和撫子と表現できる黒髪の少女──
「友奈、良い質問ね!本当なら今日は何もなかったのよ。ええ、朝早くに『大赦』から連絡が来なかったら、だけど…」
「大赦からって…。なんでいまさら?」
疑問に首を傾げるのは
「お姉ちゃん。いったい何があったの?」
「もしかして~、何かまずいことでも起きたのかなぁ~」
風を『お姉ちゃん』と呼ぶは
その隣でのほほんとした様子で(実は半分寝ている)しゃべる
「ああ、うん…。私としても大赦に説明されたことに関してはいまいち飲み込みきれてなかったりするの。正直な話、信じられなかったから」
「なによ。ずいぶんともったいぶるわね」
「相当にまずい事態なんでしょうか?」
「じゃあ、あんた達にまず聞くけど…今日は何月何日?」
「えっ?今日、ですか?」
「今日は…この前、勇者部で演劇の出し物を終えたので、確か10月の初頭では?」
「そうよね。東郷、あんたの答えは正しい。…正しい、はずなのよね…」
「はず?」
「実は、大赦の観測によると四国は4月の月末辺りに巻き戻ってるらしいわ。ちなみに、原因は不明」
風の言葉に4人──園子は夢の中へダイブ──が顔を見合わせる。
「風先輩。どういったことで大赦はそう結論付けたんでしょうか?」
「いろいろな要件があるそうだから一概にどれが信憑性が高いとか判断し難いらしいんだけど、一番の決め手は『気温』らしいわ」
「気温?」
「10月の初頭にしては暑すぎる。あと、調べてみるといつの間にやらすべてのカレンダーが4月に巻き戻ってたそうよ。私も大赦に言われるまで気づかなかった」
そう言われて4人も初めて部室内にあるカレンダーに目を向ける。そこには『4月』という文字。
「な、なんで…」
「風先輩。大赦はいったいこのことをなんて言っているんですか?」
「目下調査中、とだけ。あと、園子以外の私達には『勇者システム』の使用を命じてきたわ。はい、それぞれの端末」
風が配る携帯には、『神樹様』と呼ぶ四国を護っている存在から力を借りる『勇者システム』というものが入っている。
「また、私達に戦えと、大赦は言ってきたわけですか」
「東郷、言いたいことはわかる。でも、残念だけど今回はちょっと違うみたいなのよ」
「違う?」
「どういうことよ?」
「大赦からの命令は『結界の外の確認』。できれば複数箇所での確認を頼まれてる」
「結界の外の確認って。風先輩、結界の外ってバーテックスの群れがいるじゃないですか」
「友奈のいう通りよ。私も確認するまでもないはずだって言ったんだけど…」
「確認してこい、と」
「ええ。そう言われた」
「ったく。大赦はいったい何考えてそんなこと…」
「ねえ~。なんで私だけ端末無いの?」
一人、端末をもらえなかった園子は羨ましそうに身体を揺らしている。
「それは、私にもよくわからない。でも、何かしら理由はあるとは思う」
「端末返したら真っ先に大赦に突っ込んでくる筆頭だからじゃない?」
「夏凜ちゃん、ひどいなぁ…。私でもさすがに問答無用で突っ込んだりはしないよ~」
逆を言えば問答無用にしてから突っ込んでくる可能性があるのでもらえなかったとも言える。
乃木園子はこの勇者部の中でも実力は別格と言ってもいい。数年近く『勇者』をしていて『勇者システム』における切り札、『満開』を数十回に渡って使ったことのあるベテランだ。
今さらだとは思うが大赦が乃木園子という存在を警戒している可能性はある。
「まあ、結界の確認程度なら園子に頼らないといけないこともないでしょうし、大丈夫」
「私も調査したいな~」
「諦めなさいよ。あんたに武器持たせるのが恐いってことでしょう」
「では、結界の確認は二手に分けますか?」
「そうね。大橋の方は友奈、東郷、夏凜でお願い。樹は私と一緒に最寄りの結界の確認」
「はぁい!」
「それじゃ、大赦のお勤め、行きましょうか」
☆
大橋。そこは四国と外の世界を繋いでいた大きな橋があり、今は朽ちた姿を晒している──はずなのだ。少なくとも、確認に来た三人の記憶では、だが。
「どう見ても大橋が使える状態にあるわよね…?」
「そう、ですね。こうやって見上げるかぎりでは…」
大橋の根元から橋を見上げる友奈達は目の前の光景の意味がわからない。なぜ、橋が直っているのか。
その理由に対する明確な答えを三人は持ち合わせていない。
「とりあえずさ、結界の確認に行こうよ」
「友奈の言う通りね。私達の仕事はそっちなんだし、目の前の事態は大赦に任せよう」
「そう、ね…」
勇者システムによって三人は神樹様の造る結界の中へと移動する。結界の内部は大きな変化はなく、見渡すかぎりはバーテックスの姿も見えない。
「バーテックスが一匹も入ってきてない、か。良いことのはずなんだけど不気味に感じるのはなんでなんだか…」
結界の際を三人は並んで歩いている。調査は結界の外の確認なのだが、結界は基本的に出入りが出来るような穴は無い。そんな穴があればバーテックスが自由に行来できてしまう。
そのため、結界の外の確認とはいえ結界に少なからず小さな穴を開けなければいけないため、不用意な場所に穴を開けるわけにもいかないのだ。
状態の良い結界に穴を開けて三人は出る。そこにはバーテックスが蹂躙した世界が存在する、はずだった。
「なん、なのよ、これ…」
「────っ…」
そこにあるのは紅く灼けた世界、ではなかった。
青い空、青い海。存在するはずの無い世界が目の前に広がっていた。
「…東郷、友奈。あんた達には、どう見えてる?」
「…何も、起きていない世界。バーテックスは…?」
「東郷にも見えてるってことは私の目がおかしくなったわけでもない、か。友奈は───…友奈?」
「えっ、友奈ちゃん?」
夏凜と美森、二人の後ろにいたはずの友奈の姿がどこにもない。
「ちょっ、いつから居なかった!?」
「わ、わからないわ…。結界を抜ける前までは確かにいたはずなのに…」
「まさかと思うけど、まだ出てきてないとか無いわよね?」
結界の中へと戻るがそこにも友奈の姿は無い。二人は周囲を見渡すが──
「あっ!東郷さん、夏凜ちゃん!ようやく見つけたよ!」
声に気づいて振り返ると結界の中へと戻ってくる笑顔の友奈の姿。その様子に夏凜の眉間に青筋がたつ。
「あ、ん、た、こそ!どこ行ってたのよ!!」
「痛いっ?!」
近づく勢いそのままに友奈の頭へと拳骨を落とす。涙目に膝をつく友奈は上目遣いに恨みがましく夏凜を見返す。
「何するのさ~…」
「あのね…、あんたはどこ行ってたのよ?」
「結界の外だよ…。バーテックスがいっぱいいたからとりあえず何体か倒してから振り向いたら二人共居なかったから…」
「はぁ?居なかったって…。居なくなったのは友奈の方でしょうが」
「えっ?」
「んっ?」
夏凜と友奈の噛み合わない話。端で聞いていた美森は友奈の話に気づいたことがあった。
「友奈ちゃん。友奈ちゃんが見たのは前に見たバーテックスの世界だったの?」
「えっ?うん、そうだけど…」
友奈の答えに夏凜と美森はお互いに顔を見合わせる。そして結界の穴へと目を向ける。
「私と東郷が出た場所と友奈の出た場所に違いがある…?」
「そう、なると思うのだけど…」
「じゃあ、もう一回通ってみるしかない、わよね?」
「そう、ね。もう一回、通ってみましょう」
友奈を立ち上がらせて改めて結界の穴へと入る。通り抜けた先は先ほどと同じく青い世界。
「やっぱり、ここに出るのね」
「うわー!東郷さん!ここってどこ?!結界の外なのかな?」
「今度は友奈ちゃんがいて、夏凜さんがいない、と…」
振り返った先には目の前の景色に目を輝かせている友奈。しかし、今度は夏凜の姿がどこにもない。
「どういうことなのかしら?」
「…って、あれ?夏凜ちゃんは?」
「来ていない、ってことはないはず…。となると…」
友奈と美森が結界の中へと戻ってくると憮然とした表情で夏凜が仁王立ちしていた。
「…おかえり」
「やっぱり夏凜さんはバーテックスの方へ?」
「ええ。とりあえず数体倒してから戻ってきたの。振り向いたら二人共居なかったから」
「わーい。さっきの私と一緒だ~」
「そんなことを嬉しがらない」
「でも、どういうことなんでしょうか?あの、青い世界とバーテックスの世界…。結界の外には『二つの世界が広がっている』ことになるのでしょうか?」
「うーん…。とりあえずこのことは私から大赦に報告しとくわ。結界の外の状態がよくわからないことになってるのは事実だし、現状をありのままに報告して後は大赦からの連絡待ちにするしかない」
結界の外の変容。その意味を彼女達が知るには暫しの時を要することになるのを、この時点では知るよしもない。