神代剣。生まれは地球の日本の片田舎。今は高校二年で国立『月鳴館学院』に通う高校生。
本来の世界では名を馳せた傭兵で、今の生活に至るまでの間に肉体を限界まで鍛え上げることで、まだ高校生ながらにその辺のヤクザ者程度ならばたやすく倒せる戦闘スペックを有している。
神代姫玲。剣の双子の妹で同じく月鳴館学院の二年生。中性的な見た目をしているが女性。
彼女は本来の世界では剣によって救われた幼き少女。当時の最終年齢は今よりも若かった。
戦闘スペックとしては高校生としては異様。暗殺術も会得しているが、日常としては家事スペックをフルに使って兄である剣の女房役。
この二人、端から見ていると双子というよりは夫婦に近いというのは両親の談。ちなみにその両親は現在において海外出張のために二人そろって日本には居ない。
「しかし、なんだかんだでもう高校二年。年月ってのは経つの早いわ」
「兄さんは今の生活にはなれましたか?」
「ぼちぼち、かな。傭兵暮らしの記憶が無ければもっと馴染んでるんだろうが…。そうなったらなったで姫のこと、忘れてるわけだしな。どっちもどっちだな」
「剣兄さんのおかげで私も転生したわけですしね」
「言うなよ。まさかこうなるなんざ、思ってもみなかったんだ」
本来の世界に未練が無いわけではない。だが、この世界は元いた世界以上に混沌とした世界なのだと成長してから知ることとなった。
「まずは、御伽話には付き物の『魔法』ってのが存在すること」
《魔法》───世界の法則とは違う異質な力の総称とされているもの。具体例は幅広く、いわゆる『奇蹟』の類いはこの《魔法》に分類される。
だが、魔法には技術体系が存在しており、ある程度の才能さえあれば誰にでも習得できる。
「次に、人間以外の種族が居るってこと」
こちらの世界では人間以外の種族が存在している。が、全ての種族を明確に区分けする言葉とは存在せず、ただ《吸血姫》だの《エルフ》だのといった単語が多数存在している。
「あとは、《魔法》以外にも生まれによっては様々な力を宿している可能性を人間は持っているということ」
その名は《異能》。《魔法》とは違い、人間の血に宿るとされており、こちらは完全に才能の有無が存在している。《異能》も広く区分けされており、有名な力の名は『魔眼』・『導力』・『
「この世界はとても生きやすいように見えて、実際にはとてつもないほどに難しい」
「ですね。学生は学業に専念できるけれど、選ぶ学校によっては特色豊かですし」
「月鳴館も大概だがな」
笑いながら、今日も今日とて学院へと到着する。
教室に到着するとそれぞれの席に座り、本日の授業の準備を行いつつ、クラス内を見渡す。
「よう、玲児」
「ああ、おはよう。剣」
真後ろの席に座る
「安納は、もう寝てるのか…」
「最近、何かやってるみたいなんだけどな」
玲児の隣の席に座り、マヌケな顔で寝息を立てているのは
玲児の幼馴染で、けっこう──というより休み時間はほぼ確実に寝ている。
「うちの委員長様は、相変わらずみたいだな」
教室の後ろの方には女子の集まる人だかりがあり、その中心にいるのは
クラスのムードメーカー兼まとめ役。知りたいことがあるなら彼女に聞けば大抵はわかると言わしめるほどの情報通。
「まあ、基本的にはこの辺りって平和だよなぁ。都会に近いとはいっても東京や大阪とかの大都会ってわけでもないし」
「今の日本で穏やかな日々ってけっこう貴重だからな」
「ですけど、速水さん。占術研は平和というべきですか?貴方、最近階段から転げ落ちたり、響が突発的に泣き出したりと話題には事欠かなくなりつつあるようですけど…」
「前者はともかくとして後者は今初めて知ったぞ?!」
「まあ、仕方ないんじゃないか?階段から転げ落ちた理由って響が原因なんだろ?」
「いやまぁ、そうなんだが…」
つい先日のことだが、階段付近でいつものようにじゃれあっていた玲児と響はふとしたことで響が玲児をついたところ、階段から転げ落ちた。
コレによって頭をしこたま打った玲児は、幻聴が聴こえるようになったらしい。
「なんか変なフレーズ入れなかったか?」
「気のせいだ、気のせい。それより、幻聴って本当に大丈夫なのか?」
「医者曰く幻聴だけ現れる事例はかなり特殊らしくて確かなことは言えないそうだ。とりあえず定期的に通院してくれ、とだけ言われてる」
「そうか。ヤバそうなら医者の紹介もしてやるぞ?」
「ああ。本当にヤバそうなら頼むよ」
チャイムが鳴り、このクラスの担任教師──
───見たことのない女生徒を連れて。
「はーい、みんな。席に着いて」
「カコちゃん、その子は?」
こういう時に真っ先に声を上げるのはやはり高階になる。
「はいはい。わかっているから静かにして。それじゃ、神尾さん。自己紹介をお願いできる?」
「はい。はじめまして──」
自己紹介を始めた女生徒の名前は
自己紹介を聞きながらも、剣はその女生徒の持つ雰囲気に警戒心を持っていた。
☆
時間は過ぎて昼休み。休み時間ごとに神尾愛生の周りには人だかりができて、いろいろなことを聞こうと男女問わず次々に集まってくる。
その横を剣、姫玲、玲児、直緒の四人は神尾愛生について話しながら食堂へと移動していた。
「いやぁ、朝から盛り上がりっぱなしだねぇ」
「そうだな。あれ、神尾のやつ疲れないのか?」
「大丈夫だろうよ。あいつ自身の話はほとんど出てないようだしな」
「は?えっ、それってどういうこと?」
それぞれが注文した食事のトレイを席に置いて座ったところで剣は説明に入る。
「話をしばらく離れて聞いていたが、神尾に関する質問からいつの間にか周囲の人間のことを神尾が聞いている話にすり変わっていた。おそらくだが、神尾自身はそういう話題の切り替えとやらが得意なのかもしれん」
「へぇー。それってかなり凄いんじゃないの?」
「まあ、そうだな。あれだけ違和感なく話題の切り替えができるってことはそれぞれの反応を恣意的に動かす必要がある。もちろん、これは人数が増えれば増えるだけ難易度は上がるだろうが…」
「彼女はそれをこなしている、ということですか?」
「そうだな。そして、さすがに昼休みにもなれば神尾自身への質問は『終わった』空気になっているはず。こうなったらわざわざ転校生たる本人が切り替えをする必要性は薄くなる」
「しかし、なんでそんなことしてるんだ?」
玲児からの質問に剣は即決せずにしばし黙考する。それぞれが食事を進めていき、ほとんど食べ終わり──
「可能性の域を出ないが、考えられる可能性は2つ。1つは探られたくない過去がある。もう1つはこの学院で何かやることがある」
「やることがある?」
「前者はなんとなくわかるけど、後者はなんで?」
「後者の可能性についてだが、あいつが聞き出しているのはもっぱらクラス内の交友関係についてだった。誰と誰が仲が良く、誰と誰が付き合っているとかな」
「なるほど、ね。人間関係を気にしているってことは干渉する相手を探っているって可能性があるんだ」
「そういうことだな。ただ、これらはあくまでも憶測に基づく推測だからな。正直、どこまで当たっているかはわからん」
「ふーん。私もちょっと気にしてみるかなぁ」
「するのはいいが、相手は相当に勘がいいだろうから安易に踏み込むとあっという間に絡めとられるぞ?」
「なんのなんの!そうじゃなきゃ、情報通の名が泣くってね!」
おどけて笑う直緒に、剣も肩をすくめて苦笑を返すしかなかった。