とある休日。剣と姫玲、以庵は新しい居候の二人に世界の説明をしていた。
「──と、いうのがこの世界の現状だ」
「質問、ある人?」
手を上げる二人にまずはと手の平を向けて一人を指名する。
「バーテックスがこの世界にも居るのはなぜなんだ?」
「そうだな。では、
乃木若葉と呼ばれたアップテールの少女は口元に手を当ててわずかに黙考する。
「可能性の域は出ないが…、四国に神樹様がいるからではないかと思う」
「なるほど。俺とおおよそ同じか。銀はどう思う?」
もう一人──
「うーん。そもそもとしてこの世界って神樹様がある場所とは異なった世界なんですよね?」
「そうだな。銀が俺達に語ってくれた神世紀という世界とは似て非なる世界ってことになる。若葉も似たような話をしてくれたからわかると思うが、おそらくバーテックスが世界に出現するか否かがターニングポイントになってるんだろうな」
「だけど、この世界にもバーテックスは現れ始めた」
「まあな。今のところ人類はバーテックスにも負けてはいないが、いかんせんあいつらは底無しに現れているって話だからな。通常兵器はお前達のいた世界同様に役に立たないし」
「だが、ならばなぜこの世界はバーテックスに押されていないんだ?」
「その説明、する?」
「そうだな。以庵も気になってるようだし…」
一人楽しそうに話を聞いているのは以庵。銀や若葉を、以庵を預かることになった神様のところから連れてきて早数日。
世界のことを教えれば教えるだけ、銀と若葉は困惑を深め、対して以庵は素直さからかすぐにその知識を吸収している。
「そうだな。要因はいろいろあるんだろうが…おそらく最たる原因、『異能』について説明しよう」
「異能?」
「って、なんだ?」
「『異能』。読んで字の如し、異なる能力を発現できる、現在の通説としては人類に初めから備わっていた力とされるもの。まあ、もちろん素質とかも必要な異能もあるけどな」
「剣様。具体的にはどのような力があるのでしょう?」
「そうだな。まずはわかりやすいところからでいくなら、
「
名前だけではわからないのだろう。銀と若葉も興味深そうにしている。
「『
「超能力!はい、はーい!それってアタシ達も使えたりするの!?」
『超能力』という単語に銀が目を輝かせる。それに対して剣は肩をすくめる。
「どうだろうな。実際のところ、この『具現化』には最初だけは発動条件というものを満たさないと発現しない。あとは…」
「第二次性徴期を迎えてから、ですね。女性なら初経が来てからになります」
「初経…?」
銀にはまだ馴染みのない答えだったのか首を傾げる。そして、目線が姫玲から剣の方へと向くが…。
「うん。その説明は後から聞いてくれ。俺の前で生々し過ぎる説明は無しで」
銀を除く他の女性達はやや顔が赤い。仕方ないことだが…。
「あと、発動条件を満たして具現化を使えるようになったとしても、だ。具現化にはメリット・デメリットが存在する」
「そうなんですか?」
「例えを出そう。俺の具現化だが『
「100%の能力開放?」
「人間というのはどれだけ全力を出してもせいぜいが80%が限界だ。身体が耐えきれないからな。だが、俺の具現化は100%を出しても身体が壊れることなく力を使えるようになる」
「っ!それならば、強いどころではないじゃないか!」
「まあ、年間で30分しか使えないけどな」
「「…は?」」
剣の説明を聞いていた若葉は目を丸くしていたが、補足説明を聞いた途端に銀とともにマヌケな声が出る。
「俺の具現化『制限限界負荷領域』のメリットは身体を壊すことなく100%の力を発揮できる。デメリットは一年間の間に使える時間は合算30分だけだ」
「それは…、いや、ものは考えようか?」
「扱いそのものは俺の肉体に依存してるから一概に使えるかは判断しにくいが、時間をしっかりと把握出来れば十分に使える異能だ」
「剣様。姫玲様の具現化は?」
「私の具現化は『
「智識の共有、といったところか。こちらもかなり強力な具現化といえる。二人は兄妹でしたよね?やはり、その辺りにも関係があるんですか?」
「わからん。遺伝子性の力ではあるがどこまでが影響下にある力かは未だ研究途上の異能だからな。他の異能と違ってわからないことはまだまだ多い」
「でもさ、智識の共有ってことは今の授業、必要ないんじゃ…」
「銀ちゃん。残念ながらそこまで便利な力じゃないの。私の具現化は『私の有する智識』を【他者】に与えること。つまり、私の主観的智識を相手に与えることになるの」
その説明に銀は首を傾げる。しかし、若葉は得心したようで…。
「なるほど。辞書等にある『客観性』のある智識を与えることはできないということか。デメリットが明確なんだな」
「そう。だから、ある意味では兄さんの力よりも使い方は限定的」
「なるほど。便利な力とはいえ不便なのですね…」
以庵は頬に手を当ててため息をつく。
銀はそれでもうらやましいようではある。
「他の異能というのは何があるんだろうか?少なくとも『具現化』だけで人類がバーテックスに対処しているというわけではないんだよな?」
「そうだな。じゃあ、次は『魔眼』と『導力』について説明しよう。まずは『魔眼』だが、こちらは読んで字のごとく『眼に魔法を宿す』力だ。だが、この異能はとにかく魔法適性と呼ばれる魔法に対する適性値が一定値以上無いと発現しない稀少なものだ」
「えっと、たとえばどんなことができるんですか?」
「わかりやすくいうなら見ただけで物を燃やす『灼眼』とか同じように見ただけで物を凍らせる『凍眼』とかだな。あと、魔眼には直接干渉型と間接干渉型の二つがあり、前者二つは直接干渉型だ。間接干渉型については有名なのは未来を視る『未来視』とかになる」
「どれも強力な力。デメリットは無いのか?」
「明確にあるのかは不明だ。ただ、魔眼は基本的に常時発動状態といって力のON・OFFが無い。したがって特殊なレンズ『魔眼殺し』と呼ばれる魔術礼装が必須になる。そういう意味ではデメリットになるかな」
「魔眼殺しは高いから」
「あの、具体的には…?」
銀の素朴な質問に対して姫玲は電卓に数字を打ち込んで渡す。それを見て悲鳴を上げる銀。
「まあ、一般人には辛い金額なんだよ。ただ、適性が無いと発現しない力だからな。持ってるやつがそもそも稀だ」
「そうか…。となると『導力』という力も適性があるのか?」
「勘がいいな。そうだ。導力も適性があり、こちらは適性値が明確に決まっている。下はCランク。上は
「異能っていってもいろいろあるんだなぁ」
「他にもあるが、あとの異能は明確な適性とかがあるかすらわからない、いわゆる伝説上の代物も混じるから今回は説明しない。正直なところ、存在すら怪しい力もあるんでな」
説明を終えた剣は軽く伸びをする。
「まあ、いきなりいろいろとややこしい世界に来て混乱はしてるとは思う。ただ、ゆっくりで構わないから慣れてくれ」
「明日以降、それぞれの能力を見て家事の再分担するからそのつもりで。新人二人」