混沌重層世界-CHAOS REGION-   作:揺れる天秤

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第20話 渡航者

 結界の外の調査から数日。勇者部の一同は部室で大赦からの進捗報告を行っていた。

 

「えっと。大赦からの総合的判断としては『現状を維持。結界の外には確かに別の世界が広がっていることは確認できてはいるが、彼らが友好的かどうかまでは推し量れておらず、勇者一同は不測の事態に備えよ』だってさ」

「大赦としては、あまり良い判断とは思えないのですが…」

「そうはいうけどさ、東郷。実際問題としてどうするかって話になってくるわけよ。私達が外に向かえば結界内が手薄になって神樹様が危険だし、かといって外が本当に危険の無い場所なのか現状ではまるでわからない。そんな状況で大赦が易々と外に戦力割くわけないわよ」

「風の話に付け加えるなら外の安全性が不確定なうちは結界内の防衛に戦力を置くのは理にかなってる。不用意に外に戦力割いたばっかりに神樹様がバーテックスに倒されましたなんて笑えないわ」

 

 風と夏凜の説明に美森はそれ以上の言葉を重ねることはしなかった。確かに実際問題として結界内の防衛が手薄になってしまっては本末転倒だ。

 

「でも、風先輩。そのことと今日は園子ちゃんが居ないのは何か理由があったりするんですか?」

 

 実は園子だけこの場に居なかった。風は肩をすくめると───

 

「この前の自分だけ勇者から除け者にされたのを根に持ってたみたいでね。大赦本部に殴り込みにいったみたいよ?」

「と、止めなかったんだね…お姉ちゃん…」

「まあ、気持ちはわからないでもないからね。あっ、あと《満開》について説明があるの」

「《満開》について、ですか?」

「あっ。そういえば満開のゲージが無くなってましたよね?」

「友奈はよく見てるみたいね。《満開》は勇者にとっての切札ではあるけど、いかんせん人体への負荷がでかすぎるからって今は調整中だって。使うにしても今よりは使い勝手を良くするらしいわ」

「使い勝手を良くするって…。そんな簡単に出来たりするんですか?」

「まあ、大赦はやるって言ってるんだし任せてみましょう?成功したら私達としては万歳なわけだし。さて、じゃあいつもの通り、勇者部の活動始めるわよ!」

 

 風の言葉に勇者部の面々は自分の担当している仕事へと動き始める。

 

 

 

 ★

 

 

 

 四国地方。そこは現在、神樹様の力により外界とは隔離されている場所。本来であれば何人たりとも四国へと入ることは出来ず、ましてや結界の中にまで人が降り立つことなどあり得ない──はずだった。

 

「のう、リンネ。ここはどの辺りじゃろうか?」

「…さあ。少なくとも地球って感じはしないけど…」

 

 見渡すかぎり一面の樹海のような場所。今いる場所さえわからなくなりそうなほどに広く、空は薄暗闇だが星などはない。

 

「結界の一種、とは思う。けど、ここまで大規模な結界がなんであるのか、って思うと…」

「そうじゃな。まあ、とりあえずはジルさんに合流することにせんか?二人でうろちょろしておっても何も解決しそうにないし」

「そうだね、フーちゃん。けど、本当にここってどこなんだろ?」

「わからん。わからんが──ウーラ、準備じゃ」

《にゃあ!》

「スクーデリア、セットアップ」

 

 二人はアイコンタクトだけで戦闘態勢に移行する。二人は結界の外壁のようになる方角へと目を向ける。

 

「何か来るようじゃな」

「なんだろう。念のためにセットアップしたけど…」

 

 二人の見つめる先には暗い空間が広がるばかり。見渡したところで今までと大きく変わる様子はない。

 しかし、ソレを二人は捉えていた。

 

「くる!」

「なんじゃ、あれは…」

 

 暗い空間に現れたのは無数の白い何か。ソレ等は迷わず二人に向かって突っ込んできていた。

 

「迎え討つぞ、リンネ!」

「うん、フーちゃん!」

 

 大口を開けて迫りくる白いソレを二人は次々と殴り飛ばす。蹴りあげ、叩き落とし、踏み潰す。

 時には魔法を駆使して撃ち抜き、大口をそのまま上下に引き千切る。

 二人の足下からその周辺に夥しいほどの白い骸が増えていき、ソレ等は徐々に光となって散っていく。

 

「いったい何匹おるんじゃ…」

「数えるのも嫌になるね…」

 

 倒せども倒せども数は減る気配がない。二人は疲労している様子はなく、むしろ飽きてきている。

 というのも、ソレ等の基本的な行動は大口を開けてただ突っ込んでくるのみ。格闘技の選手である二人からすれば、同じ攻めに対して色々な対応で迎撃を試す機会にはなったが、そんなものは最初の数十まで。あとは機械的にただただ倒していくだけだ。

 飽きてこないはずがなかった。

 

「少しはなんかの練習にでもなるかと思ってはみたが、拍子抜けした…」

「これなら、フーちゃんとスパーリングした方がいい、のにっ!」

 

 荒々しく吼えたリンネは魔法砲撃によって射線上のソレ等を消しとばす。

 そこで打ち止めだったのか、ソレ等が急に現れなくなる。

 

「結局、なんだったのか、あいつらは…」

「わからない。でも、まだ来るみたいだよ」

 

 リンネが指さす先には先程までとは違う巨大な物体がゆっくりと近づいてきている。

 

「さっきの奴らとは気色の違うやつが来たな。だが──」

「──行こう、フーちゃん」

「遅れるなよ、リンネ!」

「なめないでよ、フーカ!」

 

 二人は走り出す。ソレに向かって。

 巨大な物体が口のようなものを開けたように見えた。同時に、空を覆い尽くさんばかりに光のような針が降り注いでくる。

 

「なめる、なぁ!」

「シッ!」

 

 二人は針の雨をものともせずに凪ぎ払いながら一瞬たりとも止まることなく突っ切っていく。

 

「──っ、リンネ!新手が来たぞ!」

「フーちゃん、そっちは任せて!」

「おう!任せる!」

 

 側面から現れた巨大な物体にリンネが方向を変えて突っ込む。蠍の尾のようなものがリンネに向かって振り下ろされる。

 尾の先が、リンネに触れる瞬間──リンネの足元が爆発するようにへこむ。

 

「一点、集中…!」

 

 リンネの振るう拳が尾の先を捉えて叩く。普通であれば質量差でリンネの腕が肩から無くなるだろう。

 だが、鍛え抜かれた肉体とそこから放たれた完成された技術の粋でもある一撃は物体の予測すら簡単に否定してみせた。

 尾が先から半ばまで弾けるように破砕された。更に、破砕を免れた箇所から尾が千切れる。

 

「──っ!」

 

 だが、リンネはそこで止まらない。拳を振り抜いた勢いを殺すことなく再度加速。

 巨大な物体の真下にたどり着くと魔力を集束させる。

 

「貫けっ!」

 

 一閃。その一撃は物体をまっすぐに貫通。物体は光となって消滅する。

 

 対してフーカは密度の増した針の雨に足を止めていた。

 

「ムッ。…だが、ようやく、読めてきたぞ!」

 

 針を弾いていたフーカだったが、次第にまた近づいていく。そして──

 

「悪いが、練習にはもってこいの攻撃だったのでな。くらうがいい。覇王流、旋衝破!」

 

 弾き飛ばされていた針のいくつかが跳ね返されて物体に突き刺さる。だが、針の雨は止まらず、跳ね返される数は次第に増えていく。

 

「おおおおおおっ!」

 

 最早、フーカに届くはずの針の雨はそのことごとくが物体の表面に突き刺さっていく。

 そして、針の雨は止み、巨体が落着する。そこにはすでに拳を構えるフーカがいた。

 

「覇王、断空拳!」

 

 振り抜かれた一撃は物体を微塵に砕いた。衝撃に乗って光が散っていく。

 

「…さて、なんだかんだと倒してはみたが、なんじゃったのか、あいつらは」

 

 すると、結界の中を花弁が舞う。花弁は数を増していき───

 

 フーカとリンネはどこかの学校の屋上にいた。二人以外に勇者部の五人も居たが。

 

「…お前達は、誰だ?」

「えっと、それはこっちが聞きたいんですが…」

 

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