勇者部部室。そこには勇者部五人と先ほど結界から出てきた際に一緒になったフーカとリンネもいた。
「つまり、さっきの奴らはバーテックスとかいうもので、結界を維持する神樹とやらを攻撃する敵だったと」
「はい。おおむねそれで間違いありません」
東郷美森主体で行われた四国の現状と先ほどの敵──バーテックスについての説明が行われた。
フーカとリンネは話をしっかりと聞き終え、唸るように天井を見上げていた。
「何やらややこしいことに巻き込まれたのは理解したが…。今の話を聞くかぎりじゃとワシやリンネが結界の中に居ったのはおかしいということになるんじゃよな?」
「それは…。はい、そうです」
「ふむ。どう思う、リンネ?」
「うん。とりあえずジルに連絡は取れたし、話についてはなんとも言えない、ね。私達が居たのがおかしいのはわかるけど、そもそもなんで居たのかがわからないんだから貴方達でも理解はできていない。ですよね?」
「そうです。風先輩の方でわかることってありますか?」
「私からは…無いわ。大赦の方にも一応連絡してみたけど返事が無いし」
「そうか。お前達の上がわからんことに答えは返せんわな。しかし、どうするかな?」
「ジルが迎えにくるのを待っておこう。と、言ってもさっきの話を聞くかぎりだと結界を越えられない可能性はあるけど」
どうやら四国内に来ているのはフーカとリンネだけらしく、ジルとの連絡こそは取れたが結界を越えられるかはわからないとの返答だった。
「そうか。…うん?となると、今日からの活動拠点はどうする?ジルさんが全部してくれとったってことは…」
「うん。衣食住、全部何も無い状態なんだよ、フーちゃん…」
リンネの返事にフーカは頭を抱える。四国内においては二人には生活基盤は存在しない。
「あの、私達の誰かの家にそれぞれが一時的に居候したらどうかな?」
「なるほど。樹、良いこと言った!」
「いや、しかし、いいのか?」
いくらなんでもそれは厚かましくはないか?とフーカは思う。しかし…。
「大丈夫でしょ、貴方達二人なら。少なくとも防衛に遅れた私達の分まで神樹様の防衛してくれた人達なんだし。それに──」
「ここで見捨てたら勇者部じゃないですよ、風先輩!」
「友奈の言う通り。困ってる人を助けるのは勇者部の仕事なんだから」
「おっ?夏凜もすっかり勇者の一員ですなぁ?」
「ちょっ、風?どういう意味よ!?」
「…すまない。世話になる」
「よろしくお願いします」
ありがたい好意に二人は頭を下げる。
「さて。では、誰の家に二人を住まわせるか、ですけど…」
「なら、一人は私が引き受けるわ。この中で私は一人暮らしだし」
「ほい。んじゃ、夏凜は決定。あとは、うちにするか?」
「はい!はい、風先輩!私が引き受けます!」
「友奈ちゃん?」
いつになく積極的な友奈にさすがの美森も少し驚いていた。困ってる人を助けるのは勇者の勤めとはいえ、ここまで積極的なのは珍しくもある。
「そうねぇ。やる気もあることだし、友奈にお願いしようかしら。あっ、ご両親には私からも話にいくわよ」
「はい。よろしくお願いします、風先輩」
「決まりね。じゃあ、二人には悪いけどどっちの家に行くのかだけは決めてくれる?」
★
「じゃあ、今日からしばらくよろしくね、フーカ」
「ああ、よろしく頼む夏凜」
夏凜のマンションに来たのはフーカ。というのも家事全般を過不足なくこなせるのはどちらかといえばフーカで、一人暮らしへ厄介になるのだからとフーカが言い出したことで決定した。
「とりあえずキッチンをかりて夕食を作ろうと思うがリクエストはあるだろうか?」
「冷蔵庫の中身で適当にお願い」
「うむ。なら、さっそく──」
冷蔵庫を開けて中の食材を確認する。いくつかを取り出すと材料を切り始める。
「フーカ。今日、バーテックスと戦ったのよね?」
「うん?ああ、戦ったな」
「どうだった?」
「…どうだった、か。強くはあった。だが、どう言えばわかりやすいのかわからないが、どこか単調には感じたな」
「単調…」
夏凜はストレッチを行いながらもフーカの答えに思考を巡らせる。
フーカとリンネの話を聞くかぎり今回の襲撃で出現したバーテックスは蠍座と射手座の二種類だ。この二体は友奈達が対応した時にもそろって出現している。
さらに言えば2年前の戦いにおいてもそうだと美森は言っていた。
(やっぱりバーテックスを使役してる親玉は神樹様の撃破を諦めてはいないってことか。おそらくその二体をわざわざ使ったってことは攻め込める確率が一番高いからとかそんな感じ…)
「夏凜、料理できたぞ!」
テーブルに並べられる料理の数々。予想よりも遥かに豪華な料理に夏凜は開いた口が塞がらない。
「えっと…。冷蔵庫の材料を使ったのよね?」
「うむ。なぜか煮干しが大量にあったからそれをベースに色々とアレンジしてみた。煮干しは良質な出汁も出るし、出汁に使った分も粉末状にして他の料理に使ってある。一部の無駄もなく仕上げたぞ!」
キッチンを見に行くが料理に使った鍋やフライパン以外の、いわゆる食材の残骸は一切見当たらない。
「野菜の皮とかって…」
「よく水洗いをすれば煮干しの出汁のきいている味噌汁の具材になるし、炒め物にも使える。皮というが一番栄養価の高い部分は皮に近いのだ。そもそも、今日から居候させてもらうというのに皮を捨てたりする贅沢なんかできん!」
フーカは孤児院出身ということもあり、こういう倹約家な一面はある。だからこそ、夏凜の方へと立候補したのだろう。
夏凜は改めてテーブルに並べられた料理を見て感嘆のため息をつくしかなかった。
「これは…。最高の掘り出し物じゃないかしらね…」
「食べないのか?」
「いいえ。いただきます!」
「うむ。いただきます!」
この日、夏凜は賑やかな晩御飯を過ごすことになった。