混沌重層世界-CHAOS REGION-   作:揺れる天秤

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第22話 小悪魔の思惑

 週も明けて、月曜日。

 授業は滞りなく終わった学院の部室棟。占星術研究会の部室にはいつもの面々が集まっていた。

 

「それで、神代君。愛生の様子はどうですか?」

「どう…、というのは?」

「何かしら問題を起こしたりはしていませんか?」

 

 いつもの通りに表情の読みにくい顔で映瑠が剣に質問を投げかける。だが、話の張本人はというと…。

 

「ちょいちょい。部長、本人に聞こえるこの距離でなんでわざわざ神代に聞くわけ?」

「貴女に聞いたところでごまかすでしょう。速水君に聞くにもそちらで何か話をしていたようなので」

「うーん…。俺から見てるかぎりでは特に何も。玲児の方で問題ないなら何も起きてないんじゃないか?」

「今し方、神尾から訳のわからない話を振られた矢先に俺に矛先向けないでくれないか?」

「なんだよ、悪巧み中か?」

 

 玲児の言葉に映瑠が愛生の前に立つ。それに愛生は軽くため息をつくと───

 

「べつに塔子の時みたいな話じゃないですけど。ただ、そろそろクラスの管理が億劫になってきたから元の管理人に返そうか考えてただけです」

「貴女はまた訳のわからないことを言い出しますね…。クラスの管理とはどういうことですか?」

「うーん…。部長にわかりやすく説明するにはどうしたらいいかなぁ…」

 

 愛生が悩む姿に剣は思わず笑い声を漏らす。部室内の視線が剣に集まり、剣は息をつくと──

 

「部長。クラス内の意見をまとめようとする場合、部長ならどうしますか?」

「クラスで会議を開きます」

「なるほど。正道です。では、簡単には答えの出ないような議論の場合は?」

「できるかぎりの時間をかけてクラス内の妥協点を探します」

「ふむ、さすがは部長。清々しいまでの正道ですね。予想通りの答え」

「何を言っているんですか、神代君」

 

 軽く拍手をした剣に対して映瑠は避難がましい視線を向けてくる。

 

「じゃあ、神尾。お前ならどうする?」

「手段は?」

「選ばなくていい」

「だったら、クラスのグループトップを抱き込むわ」

「お前も予想通りの答えをありがとう」

 

 愛生の答えに剣は改めて拍手をした。対して、映瑠には今の会話はあまりピンときていないのか首を傾げる。

 

「いったいどういう…」

「部長。派閥(グループ)ってわかります?」

派閥(グループ)、ですか?」

「そう。まあ、友達関係といっても間違いではないけど…」

「ある程度、なら把握はしてますが…。それが何か?」

「神尾の言っているのはその派閥ごとに存在するリーダーの意見を取りまとめればクラス会議はする必要なく話し合いが終わるって言ってるんですよ」

「そんなバカなこと…。愛生、それは難しいのではなくて?」

「神代~、部長に説明してもわからないってば」

「そんなことないさ。部長、理解はしているが意味はわかりたくない、ってところでしょう?」

「──っ」

 

 噛みしめるように黙った映瑠に愛生は驚いている。

 

「部長自身、クラスの意見を取りまとめる際には神尾と一緒のことを無意識に行ってるはずだ。クラスの意見っていうのは派閥のリーダー間の妥協点。それがわからない部長じゃないよ」

「ですが…、愛生。今の話から察するかぎりでは貴女はクラスを掌握している、というのですか?」

「うーん、掌握はしてないかなぁ。確かにある程度はクラスの意向を操れる位置にはいるけど、それを許さない相手がクラス内にいるからね…」

「愛生でもそういう相手がいるのですね」

「あのね、部長。私をどういう人間だと思ってるわけ?」

 

 さすがに神尾愛生とて対峙するには荷が勝ちすぎる相手は存在する。考えてみれば当たり前の話ではあるのだが。

 

「まあ、話を戻そう。でだ、神尾はクラスの意向をある程度は操れる立場にあるわけだが、それを手放そうとする理由はなんなんだ?」

「べつに。純粋にうちみたいなクラスだと時間が足りなさすぎて大変なのよ」

「時間が足りない、ね。それは、話題作りって意味でか?」

「わかってるならわざわざ聞く必要なくない?」

「話題作り、ですか?」

 

 剣と愛生の会話に映瑠は納得がいかないのか不思議そうな顔で二人を眺める。

 

「部長にわかりやすく説明するとだな。うちのクラスって女子の話題って基本的には高階か神尾から提供される話をベースに盛り上がってるんだ。ただまあ、毎日のように同じ話題で盛り上がるかと言われればそうじゃない。となると───」

「基本的にはその日その日である程度話題作りをしなきゃいけなくなるの。ドラマだとか映画だとか、ね。でもこういうのって数日とかなら問題なくても毎日ってなるとね…」

「なるほど。見たくもないテレビを見たり、新聞を読み漁ったりとかが必要になってくる、と…」

「有り体に言ってしまえばそういうことだ」

「そういう生活って向かないなぁって。だから、クラスのコントロールはそろそろ元の持ち主に返そうかな、と」

 

 愛生は伸びをしてテーブルへと突っ伏する。相当に疲れているのか、そのまま垂れている。

 

「ですが、返すと言いますがその、高階さんですか?彼女がクラスをコントロールしていたとは限らないのでは?」

「いや?それは案外、神尾が言い当ててる節はあるな。意識的にか無意識的にかはしらんが」

 

 剣の補足にはさすがの映瑠でも不満そうに黙ってしまう。しかし、今まで傍観するように黙っていたクラスの二人が話に入る。

 

「だけど、剣。高階ってそんな感じはまったくしないんだが…」

「そう、だよね。確かに話の中心にはよくいるけれど…」

「二人がそう思うってことは、裏を返せばそれだけ周りに溶け込むほどの光景ってことだよ、速水、塔子」

「「あっ…!!」」

 

 愛生の指摘に今さら気づいたように驚く二人。

 

「まあ、そういうことだ。意識的にしてるなら大した狸だし、無意識的にしてるならこれ以上の神尾の介入は神尾自身がクラスでの孤立を生みかねない。そうなる前に主導権を返しておこうって魂胆だろ?」

「…こういうのを全部把握されてるから神代は厄介だよね…」

 

 垂れていた愛生はふてくされるように剣から顔をそらす。その様子を玲児と塔子は意外なものでも見たように驚き、映瑠は何か納得がいったような顔で頷いていた。

 

 

 ★

 

 

 

「私達、置いてきぼりだよねぇ」

「わからない、話には、加わらない…方が、いい」

 

 部室の端でゲームに興じる二人──響と芙美香は疎外感を感じながらも何も言わずにゲームへと思考を戻していた。

 

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