陰陽機関のとある部屋。そこにはナハトを始めとした様々な人が集まっていた。
「急な召集にも関わらずこの場に集まってもらって申し訳なく思う。でも、そろそろ顔合わせをした方がいいと我々の側で判断した」
会議室のような円形のテーブルの回りに十人の男女が座っている。中には当然、球子と杏もいる。
「えっと、ナハト様。顔合わせ、といいましたが私達はそれぞれに違う時代・違う時間から召喚されているように見受けられるのですが…」
「確かに。そういう場であるのは理解してはいますが、誰から自己紹介をするのですか?」
「なら、こっちから選ぶ?」
「その方が無難だと思います」
「じゃあ四国の『勇者』からお願い」
全員の目が自分達に向いたことがわかると球子と杏が立ち上がる。
「
「同じく『勇者』をしてました伊予島杏といいます」
「『勇者』ですか。戦える力を持っているということですか?」
着物姿の女性は『勇者』という言葉に馴染みがないのだろう。首を傾げている。
「その通りです。えっと、ここでは一番最初に召喚されたと聞いています」
「なるほど。彼女達が私よりも先達だったと。…せっかくですから私も名乗りましょうか。私の名前は
「そう、ですか。では、私も。私は
紹介された少女──阿久里は小さく頭を下げる。
そこで吉之は未だに黙している面々へと目を向けた。
「私達の自己紹介の間にも貴方達は喋ろうとしませんでしたね。何かしら思うことでもあるのでしょうか?」
黙っていた内の二人──その内の一人は『農業王』と書かれたTシャツを着ていて、もう一人は巫女服──はいやいやと軽く手を振る。
「別にそんなつもりはなかったんだけど、下手に口を挟んでもややこしくなるかなぁ、って思って」
「なら、自己紹介をしてくれるのかしら?」
「はいはい。私は
「私は
二人の自己紹介に球子と杏は驚いたように立ち上がっていた。
「もしかして、あの鍬の持ち主!?」
「あら?ということは諏訪の畑に埋めた手紙とかは見てくれてるってこと?」
「スゲー!手紙の本人にも会えるとかどんな偶然なんだよ。なぁ、杏!」
「そ、そうだね。とりあえず、球っち先輩、落ち着こう?」
「なるほど。貴女方があえて口を挟まなかったのは相手が自分達を知っているかわからなかったからなのですね」
「すみませんでした。本当ならすぐにでも話したかったんですが、わからなかったら混乱させるだけだと思って…」
「仕方のないことです。さて、あとは貴方達ですね?」
未だに黙している三人の女性。ただ、黙っているというよりは困惑していて話へ参加するタイミングを見失っているように見える。
「いえ、本当に自分達の知っている場所とは違うところに来たんだという実感を得られたところで…」
「なんていうのか、場違いな感じがしてね…」
「・・・」
仕方のないことではあるのだが、ナハトは全ての召喚者が戦える者だとは感じていない。先の七名は立場の違う者が多けれど戦いに知識を持つ者ばかりだった。
だが、こちらの三人はそういう感じがしない。実力を隠している可能性はあるが、無理に戦ってもらうわけにもいかない。喚び出したのはこちらの勝手なのだから。
「とりあえず、名前だけでもお願いしたい。今後のことはこちらでしっかりとケアはする」
「…わかりました。私は、
「…
「
「ありがとう。三人に関してはこちらで住む場所の提供をする。他の七名は当初に話した通り、戦ってもらえるの?」
ナハトの質問に対して──
「まあ、四国に居た頃よりだいぶ贅沢させてもらってるし、バーテックスは私達の専門だ。力貸すよ!」
「球っち先輩がこう言ってますし、バーテックスのことは放置できません。できる限り、微力ながらお手伝いさせてください」
四国の勇者たる球子と杏は乗り気。
「戦略としての知識は貸せますが現場で戦えるかはわかりませんよ。それでよければ、力を貸しましょう」
西郷吉之は消極的ながらも了承。
「私達に何ができるかはわかりませんが、使えるのであればこの内匠頭、および阿久里。微力なれどお手伝いいたします」
「よろしくお願いいたします」
戦うことはできないとはわかっていても、やれることはやろうと内匠頭と阿久里。
「まあ、バーテックスのことは勇者が頑張らないとダメでしょ。もちろん、力貸すわよ。ねぇ、みーちゃん?」
「うたちゃんの言う通り、バーテックスのことは勇者の責務。それを支える巫女も一緒です」
戦うことは勇者の責務。歌野と水都の意思は世界を越えても変わらない。
それぞれの言葉を聞いて、ナハトは頭を下げる。
「よろしくお願いする」
★
それぞれが会議室から出て、宛がわれている部屋へと向かう。
「──私達は、どうしますか?」
その道すがら、山南敬助は自分の同僚たる二人に聞く。
「どうするって言われてもね。刀もないのに私達がどうこうできることもないだろうし、あのナハトって人のことを信じて生活先を決めてもらうしかないんじゃない?」
「同感ね。ここは江戸でもなければ京都でもなかった。今更、私達が何ができるということもないわ。山南はそれをわかっているのでしょう?」
「わかってはいるのですが…」
それでも、とは思わずにはいられない。こうして再び得られたこの命。使うことなく無意味に腐らせていいものか…。
「まあ、山南さんの考えることもわからなくはないよ。でも、今はナハトって人に任せてみよう。戦えないのは事実だし、あの西郷って人みたいに戦略がわかるわけでもない。今の私達は、きっと役立たずだ」
「まあ、次の生活先も斡旋してくれるというのだから任せていいじゃない。私達に何ができるわけでもないのだし」
山南はただ一人、次の行く末に不安を感じていた。