混沌重層世界-CHAOS REGION-   作:揺れる天秤

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第26話 異変

『───というわけで三人ほどそっちで預かってほしい』

「なーにが、というわけで、ですか」

 

 世間はGW。銀や若葉、以庵達を連れてあちこちを旅行に行って、なんだかんだと今日は最終日。

 家でみんなまったりとしていたところへ上司ことナハトから連絡が入った。『召喚した存在の数名を預かってほしい』と──

 

「勘弁してくださいよ。ウチ、なんだかんだと三人も増えてるんです。更に三人とか、さすがに部屋たりませんよ」

『それなら安心してくれていい。こちらで手筈を整えてその家の隣にある大きめの庭・道場付きの家は押さえた』

 

 それで急に引っ越し業者が来ていたのか。と昨日帰ってきた時に来ていた業者の存在を思い出す。

 

「というかですね。なんで俺のところに送ってくるんですか?手駒なら他にもごまんといるでしょうが」

『いきなり押しつけてもあまり文句言わない、剣なら』

「さすがに今回は文句言いたい気分です」

 

 今年に入ってから周囲の環境やら人間関係やら、剣の周りでは目まぐるしいほどの変化が続いている。

 自身で変えている部分もあるから周りのせいに出来ないところもあるが、それにしては一月足らずで代わり映えし過ぎではないか?

 

『そういうものだと諦めたら早い』

「他人の心を読むんじゃない」

『こちらでは役立てることはないがそちらならきっと役立てる。そんな気はする』

「体よく押しつける気満々ですね。───わかりました。あんたに恩を売っておいて損はありませんし」

『感謝』

「いつ頃来ます?」

『GW休み明けには行く。よろしく頼む』

「貸し一つですからね?」

『覚えておく』

 

 電話が切れたところで剣はため息をつきながらリビングへと戻る。テレビを見ていた全員がこちらへと振り向く。

 

「どうかしたのですか、兄さん?」

「上司からの直々のお願いでな。明日か明後日か、同居人が増えることになった。住む場所は隣の空き家だけどな」

「隣の空き家。といいますと、昨日引っ越しされておられたのは…」

「ああ。ウチの上司の仕込みだよ」

 

 ソファーに座ると以庵が冷たいお茶の入ったコップを前にあるテーブルに置いた。一息にお茶を飲み干す。

 

「というわけだから、以庵。もし俺達が学院に行ってる間に誰か訪ねてきたら応対頼むわ。誰が越してくるまでは聞いてないが三人組らしいから」

「はい。わかりました」

 

 そんなやり取りをした翌日。朝にもう一度だけ年押しをし、学院へと向かっている。

 

「大丈夫かねぇ…」

「以庵さんのことですからそつなくこなすでしょう。何かあったとしても若葉や銀がフォローしてくれることを願いましょう」

「──そうだな。任したのは俺なんだし…」

 

 そうして学院が見えてくれば学生も増えてくるのだが…

 

「…なんか、おかしいな」

「どうかしましたか?」

「いや。なんか、挙動不審なやつが目立つな…と思ってよ」

「はぁ…」

 

 確かにあいさつのために声をかけられて肩をすくめたり、中には小さな悲鳴をあげる生徒までいる。

 

「確かに…。何か、あったのでしょうか?」

「しかも、よく見れば全員男子だ。こいつら、何か共通点でもあるのか?」

 

 見回してみればけっこうな割合でそういった生徒が目についた。

 

「姫。俺はちょっと調べてから教室に行く。悪いが、一つ頼まれてくれるか?」

「ええ。構いませんよ」

「教室に着いたら神尾にこのネタ流してくれ。あいつならほいほい乗ってくるだろう。もし、部長とどっかで出会えたら昼休みに部室に集まるよう連絡回してもらえ」

「はい。わかりました。任せてください」

 

 姫玲の返事を聞くと剣は目についた挙動不審な生徒へとあいさつすべく突進していく。

 

 姫玲は靴を履き替えて教室に着くと、鞄を置いて教室を見渡す。目当ての人物はすぐに見つかった。

 

「神尾さん、速水さん、おはようございます」

「おはよう」

「おはよう、姫玲。あんたからあいさつされるなんて珍しいね」

「兄さんから神尾さんに伝言がありまして」

「神代から?」

「学院内で複数名、挙動不審な生徒がいる。全て男子。探りを入れてほしいそうです」

「挙動不審な生徒、ねぇ…。ちょっと、当たってみましょうか」

 

 愛生が離れていくのを二人は見送る。

 

「挙動不審な生徒ってそんなにいたか?」

「気にしていなければそうとはわかりませんでした。しかし、兄さんに言われてから見ていましたが確かに幾人か挙動不審とまではいかなくとも様子のおかしい生徒は私でもわかりましたね」

「何か起こってるのは間違いない、か」

「はい。しかし、兄さんの宛は一つ外れましたね」

「宛て?」

「はい。神尾さんが問題の渦中にいるかも、という宛です」

「──そうだな。それは確かに外れてくれて助かったよ」

 

 小さくため息をついた玲児だったが、そこでふと、その二人が視界に入った。

 二人は何かを話して教室から出ていく。普通に見れば別に問題のない二人だ。なのに、今はなぜか妙に目についた。

 

「速水さん。どうかしましたか?」

「いや…。順哉と水城がなんか話してたから気になってさ」

「兵藤さんと広瀬さん、ですか?」

 

 振り返ってクラス内を見渡すが二人はすでにいない。

 

「サッカー部のエースとマネージャーですからサッカー部関連では?」

「そうだとは思う。だけど──」

 

 玲児にはなぜかそうは見えなかった。二人の顔は真剣なものだったが、順哉の方はどちらかといえば──

 

「速水さん」

「えっ?」

 

 ボーッとしていた。声をかけられて顔を上げると優しそうな笑顔を浮かべた姫玲。

 

「速水さんが何を心配しているのかは二人を見ていない私には何をとは言えませんが。兵藤さんは速水さんの親友なのですよね?」

「あ、ああ…」

「でしたら、きっと頼ってもらえます。その時に力になってあげればよろしいのですよ。頼られて、それを無下にする速水さんではないでしょう?」

「──そうだな。その通りだ」

 

 今は気に止めておくだけでいいはずだ。頼られた時にしっかりと手を貸してやればいいのだから。

 

 

 

 ★

 

 

 

 昼休み。部長経由で部活メンバー全員が昼食持参で部室へと集まってきた。

 

「朝の裏付けが取れたのか?」

「うーん、正直なところ速水も知っておいた方がいいと思う。これは、けっこうヤバいかも」

 

 ヤバい案件など神尾愛生が学院に来てからは事欠かないが、本人の口から言われると真剣味が増すというものだ。

 

「申し訳ありません。呼集をかけた私が遅れてしまって…」

「いや、部長。気にすんな。頼んだのは俺なんだし」

「それでそれで。集まった理由ってなに?」

 

 なぜかすでに弁当を食べ終わっている響が話を催促する。剣はイスに座り、持参したお茶を飲む。

 

「神尾と手分けして調べたからあらかた裏付けも終わっている状態なんだが…。正直な話、何が起こっているのかまではまだ把握できていないのが現状だ」

「愛生と剣の二人がかりでか?」

「そんなことってあるの、愛生ちゃん」

「具体的なことがわからないのは本当。ただ、今朝から挙動不審だった男子達は全員が『サッカー部所属』だったってこと」

「「───っ!?」」

 

 愛生の言葉に反応したのは玲児と姫玲。二人そろって腰を浮かしかけて──周りのみんなが驚いた表情で見ているのに気がついて腰を下ろした。

 

「悪い…」

「申し訳ありません」

「か、構わないけど。二人は何か心当たりあるの?」

 

 愛生の質問に姫玲は玲児の方を見る。話すべきかは玲児に一任している。そんな玲児は──

 

「今朝、神尾が教室から出ていったあと、深刻そうな表情で二人が連れだって教室から出ていくのを見かけた」

 

 玲児の答えに剣は嘆息し、腕を組む。

 

「──となると、サッカー部でほぼ確定か」

「で、でもさ。サッカー部って確か今度の地方大会で優勝狙えるかもって言われてなかった?」

「そうですね。響の言う通りです。そのような部活がこの時期に何かあったというのは考えにくくはありますが…」

「とりあえず調べる必要があるのは『何があったのか』だ。内容によっては外から手を出すのは危険を要することもあるし、内部で片付く問題なら藪をつつくようなもんだ」

「そうですね。わかりましたか、愛生」

「なぁんで名指しで言いますかね」

「今回は関わってないとはいえ学院的にはデリケートな問題かもしれないからだよ。とりあえず、明日の放課後にまた集まるぞ。1日あればある程度情報集まるだろ」

 

 以降は昼食を取りつつ、情報の整理を芙美香に頼み、暎瑠と剣は複数の状況予測。

 愛生はスマホをポチポチと弄り、玲児はただ昼食に集中していた。

 

「あれ、そういえば直緒は来てないのか?」

「いや、連絡はしたはずだよ」

 

 しばらく経つと扉を開けて直緒が入ってきた。

 

「ごめんごめん。すっかり忘れてたわ!」

「まあ、構わんけどな。お前の場合、クラス内での付き合いも多いだろ」

「うーん、実は水城が食事中に吐いちゃってさ。食堂の一角で大騒ぎにしちゃって」

「はあ!?」

「水城が、吐いた…?」

「原因は!?」

「え、ちょっ、ちょっと…。なんでこんな話題にみんな食い付きいいわけ…?」

「剣君と愛生、速水君も落ち着いてください。高階さん、実は──」

 

 響と塔子が剣達を宥める隣で直緒は暎瑠から先ほどまで話されていた話を聞く。

 

「なるほど。そりゃ、ホットな話題を提供すれば食い付きいいわけよね…」

「だが、そうなると問題の中心には『広瀬水城』がいるってことになるのか?」

「どうなんだろ…。少なくとも関係はありそうではあるけど…」

「剣君、愛生、二人が情報を集められるのなら広瀬さんとサッカー部を関連付けて集めてもらえますか?」

「できなくはないが…」

「どこまで集まるやら…」

「今回のこと、どうやら根が深いものと感じます。私達にできることがあるかはわかりませんが、まずは情報を集めてみましょう」

 

 暎瑠の言葉に全員が頷く。どうにも、予測されているよりは幾分か良くない方向へと事態は動いているようだと部室の全員は感じていた。

 

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