「───以上が、概要になります」
樫ノ森学園では近頃頻発している『星屑』の襲撃事件に手を焼いていた。特に街の外まで行くと襲われる可能性が飛躍的に高くなるのだが、そこに更なる『問題』らしきものが現れた。
「『真っ赤な鬼』ですか。こいつはほぼ必ず現れるんですか?」
話を聞いていた総紫の質問に説明していた美佐は手元の資料に視線を落とす。
「そうですね。星屑に襲われた生徒の全員がこの『真っ赤な鬼』に救われているようです」
「なんで『真っ赤な鬼』なんだ?」
資料をめくっていた直は首を傾げている。
「えっと、『鬼』を見た生徒達の証言は一致していて、赤い装束に赤い瞳だからだということみたいです」
「体格的には生徒達と大差はなかったんでしたらそう見えているだけの可能性は…」
「あり得るだろうが、問題はこの『鬼』の目的だ。今のところはあの化物達と対峙してくれているから大きな問題にはなっていないが、これが生徒達を襲い始めたらと思うとな」
直の言い分もわかる。今のところ生徒に被害が出ていないだけで、このままでは遠からず被害が出てくるだろう。
「調査、するべきでしょうね」
「誰がするんだ?」
「いや、ここから行くんでしたら間違いなく俺でしょう」
「沖田さん、大丈夫なんですか?」
「いやまあ、万全とは言えませんけど…。でも、どうにかするのなら早いに越したことはないと思います」
実は最近妙に疲れやすくなっている。そのことを修理に伝えるとひどく怒られてしまった。
どうやら清光の使いすぎによる『魂の摩耗』とやらが再び進行してきている予兆であるらしい。このまま使い過ぎればまずは遠からず血を吐いて倒れることになる、と言われてしまった。
「とはいえ、先生方のお仕事の手を止めて調査に向かうわけにもいかないでしょう。俺はあくまでも臨時講師なのでこういう時はそっちに回りますよ」
「…すまない、沖田」
「いえいえ。それに、一人では行かせてもらえないでしょうし…」
絶対に修理や彦斎あたりはついていくと言い出す。それにもしかしたら千景も便乗してくるかもしれない。
★
「当たり前だ。ついていくに決まっている」
「ですよね」
部屋に戻ると考の用意した朝食を食べる修理と彦斎がいたので先ほどの話をしたところ、案の定の返事が返ってきた。
「しかし『真っ赤な鬼』か。あの星屑といい、この世界にはいろんなものが居すぎる」
「それは同感ですけど本当に修理も来るんですか?彦斎だけならまだしも」
「なんだ。私がついていったら何かまずいことでもあるのか」
「そういうわけではないんですが…」
真っ赤な鬼が現れるところには星屑もいる。戦闘に向いていない修理を護衛しながら対処できるのか。
「何を不安に思っているのか知らんが安心しろ。私には柚に頼んで作ってもらった『コレ』がある。そろそろ試してみたいとも思っていたんだ」
「『コレ』?」
修理が取り出したのは一対の銃。見た目だけはマグナム銃のようには見えるが───
「鬼瘴石によって肉体の強化が行われる性質を転化して銃弾と成す『鬼瘴銃』だ。導力器による導力の変換システムをベースに共同開発してみた。試運転では銃弾を成して撃つことはできた。あとはどれくらいの威力が出るのか試してみないとな」
「また奇っ怪なものを作りましたね…」
「まあ、彦斎や総紫ほどに強くなれるとは思っていないがさすがに元の世界で使っていた火縄銃程度の火力で戦えるとも思えないからな」
腰に備え付けたホルスターへと銃を差し込む。更に取り出すは一対の短剣。
「さて、これは千景用だ。今のうちに渡しておこう」
「私、ですか?」
部屋の隅、千景のパーソナルスペースとなっている布団に座っていた千景は短剣を受け取りながらも修理を見ながら首を傾げる。
「ああ。とはいえあくまでも護身用だ。勇者システムをほいほい使っていては総紫みたいになる可能性は否定できない。今回の『真っ赤な鬼』とやらがどのような存在かわからないが、千景にも手伝ってもらった方がいいだろう」
「…千景はいいんですか」
「私は…、別にいいけど…」
千景は短剣を弄びながら視線をそらしつつ答える。
「そういうわけだ、総紫。相手がどのような存在かはわからないが、今ある最大戦力で事に当たろうじゃないか!」
「まあ、確かに俺一人で対応するよりはいいのかもしれませんけど…」
それぞれに準備を済ませ、学外へと出る。調査書類を基に総紫達は街外れまで歩いてきた。
「…この近辺で目撃情報が一番多いようですけど」
「…特に変わったことはなさそうだが」
街外れとはいえまったく人通りが無いわけでもない。通りかかった人へ聞き込みもしてみるが───
「今のところ目撃情報は無し。出現条件が不明である以上は仕方ないのかもしれないが…」
「そういえばあの星屑達は何の目的があって人を襲うんでしょうか。食べるため、という感じでもなさそうですし…」
「千景は知っているのか?」
「元の世界のままなら、あいつらの目的は『人類の殲滅』よ」
千景の言葉に総紫達が千景の方へと向く。
「人類の殲滅…?」
「あの星屑──『バーテックス』は私達の世界の天の神が人類に遣わした人類を殲滅するための尖兵、ということらしいわ。詳しいことまでは私達のような現場の勇者にまで情報は下りてきてないけど」
千景の説明に修理は腕を組んで空を見上げる。
「なるほど。で、あれば奴等が人の多くいる街に現れるのも理解できるな」
「人類の殲滅…。ですが、それにしては散発的な気がしますけど」
「尖兵というくらいだ。あくまでも様子見なんだろう。本格的に動きがある前になんとか対策を取るべきだろうが…」
「難しいと思う。あいつらは、そう簡単には減らないから」
「確かに…。これだけ倒しても減っている気配が無い以上、何らか対策を個人で立てる意味はなさそうですし」
「そうだな。私達みたいなのが個人的に考えてどうにかなる相手じゃないのは確かだろうな」
「──…総紫、修理、囲まれたようだ」
彦斎が構えると、先ほどまではいなかったはずの場所から星屑が次々と姿を現す。
「相変わらず唐突に現れますね」
「まあ、いいじゃないか。我等が負けることはない、そうだろご両人」
「私も、戦います」
「そうだな。──くるぞっ!」
千景は勇者に、修理は銃を、総紫は刀を構えると星屑が一斉に詰めてくる。
「──遅いっ!」
総紫が詰めてくる星屑へ向かって駆ける。その背を守るように千景が大鎌を構えて走る。
総紫が斬り、千景が薙ぐ。二人の討ち漏らしを修理が撃ち、そのトドメを彦斎が決める。必然的に役割を分担し、四人はたちまち星屑を屠っていく。
「思ったより簡単に倒しきれそうじゃないか?」
「修理、気を抜くな。まだまだ現れて──いるぞっ!」
修理の背後に落ちた星屑を彦斎が真っ二つに斬り裂く。
「私には優秀な護衛がいるから安心して戦える。背中を気にするだけ野暮ってものだろう?」
「少しは戦場に慣れた方がありがたいがな」
彦斎が視線で前を示す。そこでは勇者と人斬りが躍っていた。
総紫が斬り、突き、払う。千景が薙ぎ、突き、叩き落とす。一糸乱れぬ二人はもはや長年お互いに背中を預けてきたように息が合っている。
「あそこまで成れ、とは言わんが」
「あの二人、本当にこの世界で初顔合わせなんだよな?」
総紫が体勢を崩せば千景がフォローのために前に出る。千景が呼吸を入れるタイミングで総紫と前後が入れ替わる。
二人はお互いを見ていない。その状態でもお互いの動きを理解し、的確にフォローし合う二人は──
「ダンスを躍る男女だな」
「普通にすごい動きでしかないんだよな」
戦端を開いてから数分、星屑の動きが鈍り始める。顎を流れ落ちる汗を手で払う千景、総紫はそんな千景を隠すように刀を構えて立つ。
「思ったより攻勢が鈍い。わりに数が多い…」
「おかしい…。星屑だけならもっと物量で圧してきてもおかしくないのに…」
「まるで何かを待っているような──」
その時──天を揺るがすほどの咆哮が響く。
「なっ…」
「何の声…っ」
───それは星屑達の向こうへと落着する。
砂煙の中、ゆらゆらと赤い光が二つ、揺れている。
「…お出ましのようだな」
「あれが、『真っ赤な鬼』か」
砂煙の晴れた先、そこには確かに『鬼』がいた。
真っ赤な装束に額から伸びる二本の角。たくましい両腕を揺らしながらその顔があがる。
「…たか、しま…さん?」
「千景?」
『鬼』が
───その『鬼』の名は──高嶋友奈。