───七人御先。
その存在は千景の精霊として存在しており、基本的には千景から離れては存在ができないはずだった。それは神樹様という神様の集合体の一部であるためでもあった。
しかし、その神樹様から切り離され、千景の内にいることで存在することになってしまった今の世界に来てからは有り様が大きく変わったとも言える。
──一つは、精霊としての扱いである。
本来であれば精霊である七人御先は千景の求めに応じて力を貸し与え、その代償に感情という力を受け取るはずだった。
しかし、この世界に来てからは千景よりもむしろ「考」という少女に日常の手伝いを請われることの方が多くなった。もちろん、頼られれば精霊としては否やなどない。積極的に手伝い、その分の代価は千景よりいただくつもりで当初の七人御先は考えていた。
しかし、考の手伝いをすると「人間の菓子を手渡される」ようになった。それはいわば精霊にとっては『
とはいえ、もらえるものはもらいたい。精霊としても供物という形でもらえるのであればありがたくいただく所存だった──だったのだが…。
──二つに、「考」という人間から見た精霊について。
どうやら「考」という人間の少女にとって自分達精霊というものは『お手伝いをしてもらったらちゃんと供物を与えるべき相手』と見てくれているようだ。精霊としてはこれはとても嬉しいことである。
しかし、同時に『千景の家族』のような存在としても見られているようだ。というのも、仕事を手伝い、供物をいただいた時点で精霊の中では全てのやり取りは完結している。これ以上もらうことは本来は無いのだ。
しかし、毎日三食+間食のおやつ付。ちゃんと精霊である自分達の分まで「考」は用意してくれる。最初こそ『なんと献身的な人間がいたものか』と感心しきりであった。
──そう、『毎日三食+間食のおやつ付』である。何もしていない精霊たる七人御先に対して。
ある時から「考」に対して自分達の食事の準備を断った。あまりにも『貰いすぎている』からだ。しかし、その意思表示をしたらとても落ち込んでしまった。どうやら『不味いものを食べさせていた』と勘違いされたらしい。
必死にアピールし、そんなことはないと伝わった結果として『家族の食事は用意させてほしい』という返答がきた。
まあ、もらえるものはもらっておこうと決めた。
──なんて、悪どいことを思える精霊であればもっと楽だっただろう。
日に日に七人御先の中には「考」に対する罪悪感が膨らんでいった。力を貸す代価以上のものを毎日のように受け取っているのは七人御先にとっては初めての経験だ。
彼らの上位存在ともいえる国津神や天津神であればそこまで悩まなかっただろう。七人御先は精霊であって神ではない。奉られることはあれどここまで丁寧なものは初めてであった。
──故に、七人御先は悩んでいた。
毎日のように積み上がっていく「考」という少女からの感謝の念と有り余るほどに渡される供物の数々。
この返礼をどうするべきかと悩みを深めていた頃、「考」にとって涙を流し、強い想いを向ける相手「沖田総紫」が力を使いすぎたことで倒れるという事態が起きた。
幸いにも大事には至らなかったよう。さらにその際に知り合いと呼べる精霊、一目連と酒呑童子の二体が仲間となった。別の勇者に力を与えている精霊である。
二体が目を覚ましてからは「考」について相談することが多くなった。なにせ、精霊が増えたところで考のやることは変わらない。むしろ二体+新たな勇者の分まで食事などの用意をするようになっている始末。
重なる「負債」とも呼べる多くの想いを昇華する方法を精霊達は日々議論する。
──そして、酒呑童子から提案された。
精霊の力にはいくつか種類がある。例えば「戦う力」──これは勇者に力を貸し与えるものがほとんどである。
他にも使い道のある力はあるが酒呑童子が提案するのは人の「命」に関わる力。こちらは本来、精霊だけで行使することは許されていない。必ず上位存在である神樹様の許可が必要となる。
しかし、今の自分達は神樹様の管理下にはなく、またこの力の使い道には七人御先にも心当たりがある。それも日々自分達すら世話をしてくれている「考」を喜ばせることのできる使い道。
七人御先は酒呑童子の提案に乗る。一目連も否やは無いようだ。この日、精霊達はその力を少しずつ行使していく。日々、「考」から与えられるだけに足る「生命の力」を。
☆
-総紫視点-
保健室から開放されること3日。修理の提案を聞き、決断すること4日。死の淵に再び立ってから十日あまり。総紫は首を捻ることばかりである。
「修理、あの処置は俺の命を伸ばすとは聞きましたがこんな短期間、しかもまだ一度しか行っていないというのにこれだけ劇的に回復するものなのですか?」
「いや。さすがにそんなことはない、はずなんだが…」
修理曰く、回復が早すぎるというのだ。しかし、実際に今はこの世界に来た頃並に、下手をすれば元の世界で清光を得る前くらいの身体の軽さである。
「普通にこの世界に来た頃よりも身体が軽い気がする…」
「元気になってるんならそれでいいじゃない。ねえ、考」
「千景のいう通りですよ、総紫様」
「いえ、俺自身…不都合があるわけではないんですが…。なんで急にこんな回復をしたのか──」
『───』
ふと、千景が総紫の脇に座る酒呑童子に目がいく。酒呑童子は何をするわけでもなく、総紫に寄りかかるように座っているだけだ。
しかし、その様子が千景には妙に気になった。酒呑童子は五分もその場にはいることなく、すぐに離れていってしまったが。
一度気になってしまうと目についてしまうもの。よくよく見ていると総紫の食事時には精霊三体のうちのどれかは必ず姿を見せ、お茶を飲んで一息ついている総紫に寄りかかること数分。
そのあとはいつものルーチンのごとく考の方へと近づいていき、手伝いの内容を聞いて仕事を始める。
「…修理さん」
「うん?どうした、千景」
「確か、総紫さんの命を伸ばすのはそういった特殊な力みたいなものを総紫さんの身体に入れるんですよね」
「まあ…、すごーく大雑把に言えば、な」
「それって、精霊達の力でも可能だったりはしませんか」
「うん?あー、どうだろうな。確かに自然に近い精霊の力であれば生命力を伸ばすような力には溢れていそうだが…」
「最近、精霊達は総紫さんに引っ付いていることが多いんです」
「精霊が?」
「はい。ご飯後の休憩を取っている時や寝る前といったタイミングでは必ず」
「……あり得なくはないのかもしれないが、精霊が力を行使すると千景に影響が出てもおかしくないはずだ。あともう一人の方にも」
「そう、ですよね」
「とはいえ、千景のその目撃情報も気になるな。ちょっと精霊を捕まえて話ができるか試してみるよ」
「わかりました」
この日以降に修理は考を通じて精霊のやっていることを知ることになり、大層驚かせることになるのだった……。