混沌重層世界-CHAOS REGION-   作:揺れる天秤

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第4話 スパーリングの相手

 そこは、剣達の住む地球からは遠く離れた次元に存在する世界。

 『魔法』が一般に浸透し、『魔法』によって文明が発展してきた世界。

 

 ───そんな世界の一都市『クラナガン』。そこには夢を持った少年少女達がその世界のスポーツ競技に凌ぎを削っていた。

 

 

 

 ☆

 

 

 

「よーし、今日はここまでにしときます」

「コーチ、いつにもまして、ようしゃ、無さすぎ…」

「しぬ…、しぬ…、しぬ…」

「なぁにアホなこと言ってやがる。これで死んでたら大会で勝てるわきゃあないだろ。アホ言ってないで、とっととシャワー浴びてこい!」

 

 一喝入れて先にスパーリング用の部屋から出ていく『コーチ』。

 それを仰向けに倒れたまま見送る一組の男女。

 

「勝てるわきゃあないだろ、か。まあ、確かにな、っと!」

 

 少年の方は起き上がると軽く伸びをして身体をほぐす。

 

「…だね。夢は大きく、世界最強。私達は、ようやく、スタートライン」

 

 少女も少年にならって身体をほぐすべくストレッチ。

 

「じゃあ、行くか!」

「うん」

 

 楽しそうに笑って歩いていく少年の後ろを、少女は小走りについていく。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 『コーチ』は事務所の事務机に座るとモニターを立ち上げる。すると、仕事を始めようとしたところでどこかから通信が入る。

 

「はい。こちら『FW(フライトウイング)』ですが?」

『えっと、はじめまして。ナカジマジムのノーヴェ・ナカジマです。そちらFWの会長のセフィル・セフィラメントでお間違いないでしょうか?』

「えぇ。間違いありませんよ。それにしても、ナカジマジムですか。また有名なジムがうちのような弱小ジムにご連絡ありがとうございます。で、どのようなご用件で?」

 

 『たはは…』と苦笑するノーヴェだが仕方ないことでもある。現在のナカジマジムは有名選手が複数名登録されており、対してFWは有名な選手は一人としていない。

 そんな無名のジムに、有名なジムがわざわざ連絡してくる理由がセフィルにはわからない。

 

『急なお話ではあるのですが、そちらの選手とスパーリングを組むことはできませんか?』

「──うちと、ですか?」

 

 ノーヴェ・ナカジマからの申し出にセフィルは頭を傾げる。有名なジムが弱小ジムにスパーリングをお願いする理由とは?

 

『正直な話、この辺りのジムのほとんどにスパーリングを断られてしまって…』

「ああ、なるほど。災難なことですね」

 

 今、近々大きな大会がある。そのためのスパーリングの相手を探して連絡をしているのだろう。しかし、ジムが有名になれば当然、他のジムは手の内を明かさぬためにも大会前には他所のジムとのスパーリングは試合に出ない選手を保有していないかぎりは難しい。

 しかも今大会は大規模であるため、ナカジマジムの選手のほぼ全てが参加することは周知の事実。

 彼等の情報を得る以上に、こちらの情報を与えたくないというジムが多いのだろう。だから、普通なら声のかからない自分達のようなジムに連絡がきたのだろう。

 

「こちらとしては構いませんよ。ただ、そちらの選手の練習相手になるかは甚だ疑問が残りますが…」

『えっと、自分の選手の評価がえらく辛いですね…』

「辛くならざるをえません。しかし、それでもよいと言われるのでしたら構いませんよ。大会前に大会上位の選手とスパーリングができるのはうちとしてはプラスが大きい」

『本当ですか!ありがとうございます!』

「では、日程のほうですが──」

 

 スパーリングの詳細を詰める。試合を行う場所はナカジマジムのリングを使うことで落ち着いたため、時間指定をいただく。

 

「わかりました。では、その日程の時刻にそちらに行かせていただきます」

『はい!よろしくお願いします!』

 

 通信が切れたところでセフィルはジムの名簿を画面に表示する。今大会に参加する選手含みで何名連れていくかをピックアップする必要がある。

 

「うちからとりあえず確定なのは、この子とこの子と──」

 

 選択していたセフィルだったが、二、三人選んでから思考を切り替える。

 

「いや、せっかくの機会なのだし。うちの主要メンバー全員を連れて行きましょうか」

 

 改めて画面に選手の情報を表示し直す。

 

「戦闘技術が全員違うのだし、わざわざピックアップせずとも全員連れていき経験を積んで帰ることにしましょう。よし、そうしましょう」

 

 楽しそうに笑って画面に映る選手の情報を確認しているセフィルの様子を、選手達が見ていたら逃げていたかもしれない。

 それほどまでに悪どい笑みをセフィルは浮かべていた。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 シャワーを浴びて清潔なシャツに着替えた二人は、不意に悪寒に襲われた。

 

「なんだ…、今の…?」

「背筋が、凍るような、感覚…、?」

「まさかとは思うが、うちのコーチがなんか悪巧みしてるとかねぇよなぁ?」

「大丈夫、だと、思いたい」

「なんでわかんだよ?」

「今までの、経験からの、推測」

「んなもんがあのコーチに通じると思わんが…」

「そう…?」

 

 選手にとって『コーチ』とは。

 敬われたり、頼りがいがあったりといろいろといるのだが、恐れられる存在でもある。

 

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