丸一日かけて行われたスパーリングはナカジマジム所属、フロンティアジム所属の選手達が全勝する形で幕を閉じる。
「本日はありがとうございました」
「いえ。こちらも貴重な経験をさせていただきました」
「また機会がありましたら。今度は私のジムにもお招きいたします」
「フロンティアジムから誘いを受ければ私としても鼻が高い。また、よろしくお願いいたします」
選手・コーチ合わせて全員が一礼して帰っていく。それを見送りながら、ノーヴェとジルは───
「かなり強いな…」
「ええ。むしろ、今までどうして彼等が無名のまま来ているのか不思議なほど」
スパーリングは全勝してはいるが、ほとんどが辛勝といった内容で、圧勝するなど不可能なほどだった。
「あれでセフィルさん曰く、試合に出られるほどに完成している選手は二人しかいないっていうんだから、目標設定がそもそも高いのかも…」
「だとしたら、強力なライバルの出現になるわね」
「だな。あいつらも今回は貴重な経験だと思ってくれているみたいだし」
☆
セフィルは選手を連れてジムに戻ると、早々に会長室に引っ込んだ。しばらくするとソルドと二人の男女が入室してきた。
「お呼びですか、セフィルさん?」
「今日の、反省、会…?」
「俺としてはリンネとの試合をもう少し考えるべきだとは思ってはいるぞ?」
「入ってくるなり反省会をしろとは言いませんよ。さて、アイン、エリア、ソルド。貴方達三人には折り入って相談があります」
「相談、ですか?」
「私達、だけ、に?」
少年──アイン・ブリュンヒルデは首を傾げる。
少女──エリア・ヘルムヴィーゲも同じ反応。
「カカッ!セフィル会長から相談とはな。内容も気にはなるが、どのような難題なのやら…!」
ソルドだけは愉快そうに笑っていた。
「相談、とは言いましたが実際のところ他六人には話すことは構いません。問題があるとはいえ、貴方達三人に行ってもらうのがいいと判断しているのはあくまで私だけなので」
「ずいぶんと訳のわからない相談のようですね」
「もったいぶられるのは、怖い…」
「そうですね。ですが、まずは貴方達と私の知識のレベルを同一にしましょう。管理外世界の『地球』と呼ばれる場所は知っていますか?」
「会長、俺が勉強嫌いなのわかってて聞いてんね?」
「確か、エース、オブ、エース、の故郷?」
「あとはハラオウン執務官や八神空佐の故郷だったと記憶していますが…」
「はい。エリアとアインの答えで間違いありません。有名な方々の名前を挙げるとするならその三人が真っ先に挙がります」
セフィルは選手の見識を素直に褒める。
「実はその地球からこんな通信が届いています」
セフィルは執務デスクのモニターを可視化すると画面を三人の方へと向ける。そこにはこう綴られている。
『汝等は選ばれた。選択する権利はある。ココより「人」は新たなステージへと昇るべく、闘争の火蓋は切って落とされる。我こそはと想う者よ。己が力を持って参加せよ。ココに始まるは「カミ」を討ちて「神」へと至る聖戦。多くの「人類」よ。参戦を期待する』
モニターの文面を見終わった三人はお互いの顔を見合い、数秒おいてセフィルへと向き直る。
「どう思いましたか?」
「そう、ですね。頭の悪い文面だとは感じました」
「勧誘、にしては、稚拙」
「まあ、率直に言えば興味深いものではあるな。行くかと問われると幾分悩むが…」
「おおよそ私の予測した回答をありがとうございます。そして、そう言いたくなる気持ちもわからないではあります」
弟子と言える選手達から呆れた表情を向けられることはわかっていた。むしろ、これを生真面目に受け取られたらそれはそれで悲しいものがある。
「さて、問題点に戻りますが…。実は現在の『地球』は管理局や地上本部の監察官が何らかの要因によって現在まで帰還出来ていないことが確認できています」
「帰還出来ていない?」
「遊んで、る?」
「詳しくはわからないのですが、最後の定時連絡によると『地球の様子がおかしい』ということ、だそうです。無論、どう『おかしい』かまではそれ以降の連絡が途絶えているために不明です」
セフィルの答えにソルドは頭をかきながら──
「それはまた。難儀な話ではあるな」
「ええ。そして、本題ですが…現在の『地球』は一種の『特異点』と呼ばれる場所になっていると推測されています」
「『特異点』?」
「『特異点』というのはわかりやすく答えると『本来であれば存在するはずのない可能性を持つ場所』です。これをふまえて思考する必要があります」
「ややこしそうじゃな」
ソルドは頭を抱える。セフィルもそうしたいが、セフィルはあくまで送り出す側だ。ここで問題を投げ出すわけにはいかないのだ。
「簡略的に言えば、この文面を送ってきた『地球』は先ほど挙げた三人の『故郷』ではないが、根本的に違う『地球』というわけではない場所、という答えになる」
「ますますもってわからん」
「極めて近い、でも、限りなく遠い、地球…。OK?」
「エリアの言い方がある意味正しいですね。そして、今繋がっているのはその『地球』なのです」
「なるほど。まあ、なんとなくではありますけど理解はできました。それで、自分達はその文面の通りに地球へ行く、と?」
「できれば、お願いいたします。文面の『聖戦』とやらも気にはなりますが、もっとも気にするべきことはこちらにどれほどの影響が出てくるのか。その一点に尽きます」
「特別、手当、欲しい、な…?」
「いいでしょう。調査、及び何らかの成果をあげていただけたら三人には特別報奨を出します」
いつものセフィルであれば報奨は出さない。だが、今回に限っては危険度はセフィルであっても未知数。
そもそも管理局や地上本部の監察官という一種のエリートでさえ帰還不能の『特異点』だ。本来であればセフィルは自身こそが赴くべきだと思っている。
だが、今はそれは許されない。ジムを経営する前ならいざ知らず。今は後身を育てる立場にある以上、フラフラと帰れるかわからない場所には出ていけない。
「わかりました。自分達でよければ、その地球へ向かいましょう」
「特別、手当。必ず、ゲット」
「ふむ。楽しそうだ!」
「よろしく頼みます。アイン、エリア、ソルド」
こうして、三人は行道が決まる。世界の『特異点』───混沌重層世界『地球』への道。