食事も終わって、残りの時間もサイトのことで話している女子陣をほったらかして、剣は玲児と屋上に来ていた。
「やっぱ、食後はのんびりするにかぎる…!」
「そうだな~…」
おもむろにストレッチを始めた剣と近くで仰向けに寝転がる玲児。
「なぁ、玲児」
「なんだ?」
「塔子のやつ、何隠してると思う?」
「なんだよ、藪から棒に…?」
「いや。食堂行く前にも話したが、教師の間で問題になるのも時間の問題だぜ?そうなる前にあいつの状況を改善しないと、本人の望まない状況にもなりかねない」
「そうなるよなぁ」
「あと、カコちゃんがうるさい」
「確実にお前、そっちが本音だろ!?」
空を見上げて悩む玲児の横、剣はふと──屋上の扉が小さく開いているのを見つける。
ほどなくして玲児が寝息を立てたのを確認したようにその少女は姿を現した。
「芙美香か」
「・・・」
現れたのは
喋ることが苦手らしく、部活でも切れ切れに喋っており、なにやら玲児になついている様子。
「玲児なら寝てるぞ?」
「うん。それを、確認してた」
そう言うと玲児の胸元辺りに頭を置いて芙美香も昼寝モードに入る。静かな寝息が聞こえてきたので早くも寝入ったようだ。
「猫だな…」
ストレッチを終えた剣は二人を放置して教室へと戻る。五限目を告げるチャイムが鳴る中、眠る二人をほったらかして。
☆
授業が終わり部室に寄るも、本日は所属メンツ全員が何かしら忙しいのだろう。顧問であるカコちゃんがすでに施錠していた。
「あら?今日は無いそうよ」
「そういうのは事前に伝えろよな、あの人は…」
ぶつくさ文句を言いながら家路へとつく。しかし、いつもより早い時間でもあり、このまま帰るのも釈然としない。
(いつもと違う道で帰ってみるか…)
部活が無かったり、早く終わった日は少し遠回りするように散歩して帰る。それが剣の日課だ。
何もないことがほとんどで、あってもせいぜいが猫の集会を見つけたりする程度だ。
「まあ、たまにはこういう時間も欲しくなるもんだ」
誰とはなしに独りごちる。いつもと違う道で帰っているので中々に新鮮なもので、それを見つけたのは新しい発見だった。
「神社、か?」
見えてきたのはかなりの長い石段。上の方には赤い鳥居が見えているのでおそらく神社なのだろう。
「──まあ、せっかくの縁だしな」
石段を登っていく。最上段の鳥居をくぐると清廉な空気とこじんまりとした社。
『おや。珍しいの…。参拝客かえ?』
───そして、真っ白な頭髪をなびかせて狐の尻尾を揺らす女性。手にもつ紅色の扇子と黒を基調とした桜の模様が印象的な着物を着ているので、堂に入った立ち振舞いがある。
「──何者だ?」
『ふむ?我が見えて聞こえておるのか、童よ』
「これでもちょっとばかし特殊な眼をもっていてな。あんたみたいなのは見分けられる」
『そうかえ。珍しい客とやらは珍しい力をもっておることが多いが…。いやはや、2日続けてというのも驚きよの』
扇子で口元を隠して笑う女性に剣は力を抜いて社へと近づく。
「悪霊の類じゃなさそうだな」
『ふん。その辺の小さきものと同列に語るでないわ。こう見えても長く生きておるのだからな!』
「そうだな。守り神ってところか?」
社を中心にしてこの女性から清らかな空気が流れている。かなり高位の神様の連なるものだろう。
『まあ、そのようなもんじゃ。『姫将石』を祀る祠での。アレの守護を任されておるのじゃ』
社を指差しながらその場でくるくると回っている。
「『姫将石』?」
『その昔、
「へぇー。そんなものがあるんだな」
そんな便利なものがあるのなら世界はもっと混沌としていてもおかしくはないのだが…。
『便利なものがあると思うておるようじゃが姫将石はその性質から数が希少での。そもそも、『竜脈の力を得る石』なんじゃ。適応できる女子がそもそも希少じゃしな』
「ああ。だから聞いたことなかったのか」
もとより数が少なく、一部の女性しか使えないとなれば『万能なもの』ではない。
歴史の中でだんだんと使われなくなり(正確には使える女性がいなくなった)、こんな感じで魔除けの結界の要石のような扱いを受けているのだろう。
『ところで童。せっかくの縁。ちと頼まれ事をされてくれぬか?』
「──ものによる」
『そう難しいことでもないのじゃ。先ほどの我の言葉を覚えておるか?』
「どれだよ?」
『2日続けて、と言ったじゃろう』
「あぁ。確かに言ってたな。それで?」
『実はな。昨日来た女子なんじゃが、社の裏っ側で死にかけておっての。傷の手当てなどは我が姫将石を通じて行ったんじゃが、明らかに衰弱しておる。せっかくの縁じゃし助けてやってくれぬか?』
「はあ!?」
社へと駆け寄ると確かに社に背中を預けて寝ている一人の女性。顔は青白く、唇も紫色で見た目からまずい状態なのがわかる。
「なんでこんなになってるやつがいるのを言わなかった?!」
『今言うたじゃろう?』
「そりゃそうだな。とにかく、このままじゃ下手したら肺炎になる。連れて帰るしかないな」
『すまぬな、童よ』
「神代剣、だ」
瀕死の女性を背中に載せると名を名乗る。それに狐の女性は少し驚き──すぐに破顔する。
『我はハクアと呼ばれておる。基本的にはここに居るゆえ、何かあれば顔を出しにこい』
「よろしく。じゃあ、悪いが俺は帰るな?」
『その娘をよろしく頼む』
「ああ。じゃあ、またなハクア!」
石段を駆け下りる剣をハクアは手を振って見送る。鳥居から見下ろして、剣の姿が見えなくなると小さく息をつく。
『良い縁を得たものよな。あの童──剣と言いよったか。また会えたら酒でも酌み交わしたいものよ』
『───一人で何を言っているのですか?』
不意に聞こえた声にハクアは隣に現れた女性を見やる。
『あなた様がわざわざ我のところに顔を出すとは思わんかったわ』
『誰か来ていたようですね』
『利発そうな童と《系譜》の娘が2日続けて現れただけじゃよ。主こそ、急にどうしたんじゃ?』
『ええ。実は、世界に数多の『石』の反応が現れたので、ここには異変が無いか調べにきたんです。結果は、なんとも言えませんね…』
『『石』の反応が、のぉ…』
ハクアは扇子を開いたり閉じたりを繰り返す。だが再び破顔すると───
『まあ、気にするだけ無駄というものよ。『石』は意志の元に集うもの。いずれ、いずかに集まる』
『そういうもの、なのですか?』
『そういうものじゃよ。ゆえに気にしすぎるな──』
風が吹く。流れる黒髪と白髪をそれぞれが押さえながら、ハクアは女性の名を呼ぶ。
『───